国民の健康と栄養

細谷憲政(東京大学名誉教授)

 臨床栄養ということよりも、human nutrition(人間栄養)ということで、国民の栄養に関する課題、サイエンスと政策との絡みの問題も含めて、現在の日本はどのような状態にあって、どう見られているか、それゆえにどうすべきかということから、話させていただきます。はっきり申し上げますと、日本の栄養に関する研究・教育・政策は世界最低ではないかと思われます。

1,栄養問題の基本的な取り組み

 栄養の問題は、私たち人間が食べ物を摂るということになりますが、日本では食物栄養という取り組みです。しかし、食物栄養で栄養問題を諭じているのは、文明国では日本だけです。食物・栄養(food and nutrition)というのは欠乏症解消時代の考え方、取り組み方です。現在は、どの国でも、nutrition and dietetics一栄養、食生活という取り組みをしております。180度回転しています。これに関連して「糖尿病食事療法のための食品交換表」のあり方の是非についても『Diabetes Frontier』1O巻1号、1992年2月号に特集してありますので、ご参照ください。食物・栄養(food and nutrition)は過去のものであり、現在ではnutrition and dieteticsです。食品の中には栄養素だけではなく色々なものが入っています。栄養素は他の栄養素、あるいは食品中の他の含有成分などと、相殺、相加、相乗の現象を示しています。これは加工・調理の過程だけでなく、身体内の処理の段階でもみられます。日本では、これを無視して、マスコミが毎日のように、何が入っているから体によいとか悪いとか言っていますが、あれはほとんど眉ツバものです。このような変化の結果どうなっているかを考えなければなりません。ですから、身体側面からみることになります。現在、FA0とWH0は1962年からthe Joint FA0/WHO Food Standards Programme(食品規格計画)の作業に取り組んでいます。この規格政策について、日本は国際協力ゼロに等しいとも言えます。日本はどの部会、委員会も分担しておりません。またここで決められた規約を1つの例外を除いて承認していないという状況です。FA0とWH0では、口から摂り入れるものについて、食品(food)、食べ物(diet)、食事(meal)、食べること(eating)を区分けしています。これらの評価は、人体側面から、栄養の観点からみることにしています。これを、栄養の質的評価(nutrition guality)として取り扱っています。ところでfoodの情報は食品成分表に、dietの情報は栄養成分表示として示していくことを、国際的に申し合わせています。

2,Nutritional quality

 ところで、nutritional qualityについては、1995年に、FA0/WHO Codex委員会は、その定義を示しています。これには、bioavailability(利用効率)とproportion、三大栄養素の比率、すなわちPFCの比が大きく関与しているとしています。現在、protein、fat、carbohydrateの比率によって、体内の代謝の状態状況が悪化してくることは、人間栄養学の立場からは常識になっています。しかしながらは日本では生化学=栄養学という考え方のもとに、細胞をつぶして得られた酵素標本で描かれた代謝経路の通りに、そのまま利用されていく。今でも、考えているのは日本だけです。ある大学ではこうした面から、栄養学に関する研究は絶ったとして栄養学の講座名も変更し、栄養に関する研究も教育も放棄した医科系の大学もあります。日本の栄養活動が、世界の流れからかけ離れて遅れてしまった理由はここにもあると思われます。食べ物の有効性に関する評価はnutritional qualityとして、安全性の問題は、以前はfood safetyといわれてきましたが、現在では、food quality食品の質的評価という国際的な取り扱いも行われています。

 現在、国際的に問題となっているものに、日本の食べ物と薬の区分の問題があります。日本の食薬区分は、何でも薬ということで隔たっています。食べ物と薬との区分については、人体で、健康一半健康(poor heaIth)一半病気(pre-disorder)一病気(disorder、disease)という移行があるように、あるいはこれに対比して、食べ物と薬の問にも移行過程があることは考えられます。一方、薬を使う医療に対して、薬を使わない医療の必要性が注目されています。こうした観点から、食べ物で痴呆を予防し、治療することが重要になってきています。この場合、nutritional qualityの問題が重要になってきます。

3,栄養に関連する研究

 私も大学に在籍しましたから、学術研究をしてきました。日本では、研究イコール学術研究と考えられていますが、実際には、行政研究、企業研究もあると言われています。私は現在、茨城県の健康科学センターのセンター長も併任していますが、ここでは行政研究をしています。学術研究の成果を実際に地域などで実施してみて、行政領域で活用できるかどうか検討しています。有効であれば、それをもとにして、指導マニュアルなどを作っています。企業研究については、財団法人、日本健康・栄養食品協会の理事長として、現在、この研究の育成、強化に努力しております。特定保健用食品とか、特別用途食品などについて許可をとるために、保健の用途に適するということを科学的に証明することです。このためには人体を使ってdinical trial、あるいはcohort研究などを実施して証明することになります。これはアメリカが提唱しているhealth claim(健康強調表示)の日本版とも言えます。翻って考えてみると、学術研究には、決定論と確率論があると言われています。私は、生化学から栄養学、保健学と進んできましたから、最初は決定論を学んできたと言えます。しかし、人間を取り扱って栄養の問題や保健の問題を論ずる場合に、疫学的手法も必要とするようになり、確立論を用いて論議することにもしております。これに関連して、現在、国際的に問題になっているものに機能性食品があります。特定保健栄養食品との違いです。機能性食品は、生化学者たちが、in vitroの研究でfunction体に依存しています。これに対して、特定保健栄養食品は、人体を使ってcohort研究、あるいはclinical trialで証明したものです。現在、evidence-based medicineが言われていますが、栄養問題についてもevidence-based nutirition careが必要とされています。そうすると、栄養の場合のevidenceとは一体何なのかということです。あるいは、在来の栄養領域においては、きちんとした証拠に立脚して、物事が諭じられていたかどうかということも検証する必要があるもしれません。

 糖尿病の場合も、同じことが言われています。極端な糖質制限からインスリンが発見されてからは、40%ぐらいは差し支えたいとされました。1970年代になると、高糖食などは、60%ぐらいは摂った方がよいというように変わってきています。糖尿病と食事との関係には、このevidence based medicineが確立されておりません。これは、food and nutritionという取り組みだからです。そこで日本以外では、nutrition and dieteticsと考え方に変わっています。

4,施策のための科学としての栄養問題

 1992年に、WHOはローマに政府関係者を集めて栄養に関する国際会議を開催しています。ここで討議されたことが、日本には全然入ってきていません。その面からいっても1O年は遅れています。ところで、日本では栄養学と栄養活動、実際活動などを混同してもいます。実践栄養学ともいわれていますが、栄養学で実践でないものはありません、栄養学そのものがapplied scienceですから。今国際的に問題になっていることに、scienceからpolicy、ということが論議されています。これは、”American Journal of Public Health”に出ています。疫学調査で求められた結果から疾病誘発の危険要因リスクを決めていくことになります。このリスクをどのように設定するかということは、これはpolicyだと言っています。日本においては、このscienceとpolicyとがごちゃごちゃにされています。栄養所要量の策定も、食品成分表の編纂もこれはscienceの一部ですが、Policyの一環のものだということです。食べ物教育、栄養・食生活指導のためのものです。ですから、概略の値が示されています。そのため、測定法も独特のものです。糖質は、いわゆる素係数、蛋白質の差額として求められています。蛋白質は、窒素を測定し、これに蛋白質・Nの含有は16%ということを、係数として算出しています。現在、問題になってきたことに、リン脂質などがあります。水溶性の窒素化合物は蛋白質だけではありません。レシチンも、核酸も蛋白質として取り扱われてしまっているということです。カロリー計算をする上からも、蛋白質に核酸やレシチンを入れたままでよいのかどうかということです。そこで現在、国際的に、これらに関連する栄養の問題がすべて見直しされています。

5,摂取基準

 日本では、”"栄養素栄養学”はダメで、”食物栄養学”であるべきとする人もいます。しかしながら、国際的には食品に基盤を置いた食事指針、food-based dietary guidelineは、これは半定量的なもので素人向きのものとされています。栄養を専門の業とする人が摂取基準とするものは、nutrient-based dietary reference intake(栄養素に基盤を置いた食事参考摂取量、DRI)としています。米国は、カナダ、メキシコなど中米を含めて、これを数年かけて策定しようとしています。食品成分表は、1つの成分値しか掲載されていません。また、偏差値がどうなのかも示されていませんから、これは欠乏症を解消するための集団給食の献立・調理の1つの基準に過ぎません。しかもこれは主材料としての食品(food)についての数値です。そこで、食べ物(diet)、食事(meal)については、栄養成分表示として取り組むことにしています。さらに、これらを用いても適正に食事摂取ができるように、在来の栄養所要量(RDA)に替えて、食事参考摂取量(Dietary Reference Intake、DRI)を策定することにしています。このDRIとしては、次の4つを決めることになります。そこで、まず、推定平均摂取量(estimated average requirment、EAR)を求めます。この+2SDを所要量とします。十分なデータのないときは適当摂取量を算出します。それから、許容安上限摂取量(Tolarable Safety Upper Limits、UL)を算出します。RDAとこのULの問は、個々人に対応して取り組むことになります。在来のような、栄養素欠乏症の解消、健康の維持だけではなく、生活習慣病の一次予防に取り組めるようになります。国際的には、慢性の非感染症の一次予防は、健康増進(health promotion)とこれらの慢性の非感染症の誘発する危険要因の軽減・除去(risk reduction)ということになっています。それゆえ、第6次改定の栄養所要量は、この意味を込めた「食事摂取基準」として策定されることになります。ですから、欠乏からも遠ざかり、過剰からも遠ざかって、よりよい健康状態を維持・増進してリスクを軽減・除去して生活習慣病の一次予防に取り組むことになります。これが、新しい栄養問題の取り組みの新しい方法です。

 


生活習慣病と栄養

近藤和雄(国立栄養健康研究所臨床栄養指導研究室長)

 動脈硬化の危険因子としまして、高脂血症、高血圧、煙草、糖尿病などが挙げられると思いますが、こういったことが生活習慣病、昔、成人病と呼ばれていたのが、いろいろな生活習慣で起こるから生活習慣病と呼ばれるようになったと、単純に考えても間違いではないかと思います。ただ、これらがどのような影響を及ぽしているかということを実際問題として考えていただく時には、われわれの死因のトップが今は癌で2番目が脳血管疾患、3番目が心疾患ですが、この脳血管疾患と心疾患は動脈硬化をもとにして起こる病気で、実際は癌より多い状態なわけです。生活習慣病を含めて、そのようなことへの対策をすることが、われわれの死因の動脈硬化性疾患を予防することにつながりますので、そのようなことから「生活習慣病」と呼ばれているのか出てくるわけです。さて中性脂肪、燐脂質、遊離脂肪酸が高いのを高脂血症と呼び、臨床的にはコレステロール、中性脂肪が高いのを一般にはそのように呼んでいるわけです。その中で「コレステロールには善玉と悪玉があって、悪玉が動脈硬化を起こす」という話が以前はされていたわけですが、現在ではもう少し先に進んでいるというのが、1つのテーマになります。

 糖尿病などを考える時に、正常の糖代謝のパターンから耐糖能障害になり、糖尿病になり、一般的には糖尿病の病歴を見ると、発症してから10年ぐらい経つと腎障害を起こすというような経過があるわけですが、実際には、耐糖能障害の段階からインスリンの感受性の問題があって動脈硬化の疾患を実際に起こしてきます。したがってこの生活習慣病などは、ある意味で、すべて裏はつながっているというように考える必要が出てくるわけです。

 心臓疾患を考えますと、インスリン抵抗性、高インスリンが1つの引き金になって脂質代謝異常を及ぼし、いろいろな動脈硬化に関係してくるということを考えなければなりませんし、それらはある意味では無症状に起こり無症状で進行していきますので、それらへの対策が非常に必要になってくるという認識がまず必要になるわけです。もう、1つは、高コレステロール、高血圧、煙草というリスクを考えてみますと、コレステロールだけが高い時は6倍なのが、煙草と一緒にやると1O倍になりますし、高血圧があると27倍になる。要するに、すべてを全部ひっくるめて考えなければいけないということが非常に重要になってくるわけです。例えば、動脈硬化が進行しても、3/4詰まるまでは、血流は100%流れるために症状が出てきませんが、3/4を過ぎたとたんに症状が出てくる。そのようなことも我々も知らなければなりませんし、患者さんにも知っておいて頂かないと、なかなかこういった生活習慣病に対する対応ができないという認識を改めてもつ必要があるのではないかと思います。

 実際問題、そういったことを含めて、どのような対策ができるかということを考えますと、やはり「食事」が非常に大切になってきます。食事成分を考えてみた時に、三大栄養素として炭水化物と脂質と蛋白質がまず挙げられるわけですが、これらは要するにわれわれの身体の構成成分とエネルギーを供給してくれますので、栄養素として常に大事にされた。そして、それらとともに、その代謝を助けるという意味でピタミンとミネラルが入って五大栄養素と言われているわけです。

 ところが、これまでは非栄養素と言われてきた食物繊維が、コレステロールを低下させる役割ー主に胆汁酸のリサイクルを防ぐということであったり、大腸癌を予防するということから、第6の栄養素として考えられるようになってきたことに加え、抗酸化物も非常に重要な栄養素として考える必要が出てきたのではないかと思います。

 栄養素の中で最も典型的なのが脂肪の摂取量です。脂肪の摂取量1946年の7%から、現在では26.5%になっています。これが要するに過栄養の段階でどのような影響を及ぼしているかというのが、今非常に話題になっております。一般的には「25%以下」ということを、第5次の栄養所要量の改正などでも話をしていまして、第6次の改正のところでどういう段階にするのかというのを、今討議中です。そのへんのところで、先ほどのevidence based medidneの証拠としてのデータがなかなかないので、苦慮しているわけです。

 脂肪の摂取量一イギリスからのデータでみますと、外国では40%近くが脂肪摂取量ですが、日本の摂取量は、増えたといっても、まだ25%程度で、このへんに大きな差があるわけです。この差がどのように影響を及ぼしているのかというのが、データ的にはなかなか出できません。最近の新しい知見を見ますと、27%のところまではデータが出るわけですが、25%とか、27%のところの証拠などは今出ていない。そのへんをどのように考えようかということになってくるわけですが、これで、量的な問題とともに、どのようにすれば血清コレステロール値を下げられるかということも1つの問題になってくるわけです。

 もう1つ、脂肪の問題については、量的な問題と質的な問題がありまして、諸外国では、飽和脂肪酸、パルミチン酸、ステアリン酸、これがコレステロールを上げるタイプで、リノール酸その他の多価不飽和脂肪酸はコレステロールを下げるということで、一時期、こちらの方を重要視しようという話が出てきました。ただ、今現在は、リノール酸がコレステロールを下げるといっても、リポの二重結合のために酸化しやすいというために、リノール酸を勧めるのはやめようという話から、一価のオレイン酸のボディボイドなどが非常に推奨されてきています。今、脂肪酸の中では、ミシン酸、パルミチン酸はコレステロールを上げて、飽和脂肪酸の中でもステアリン酸はあまり上げない。オレイン酸とリノール酸がコレステロールを下げる。EPA、DHAというのは中性脂肪の合成を抑えるということが言われています。それをまとめたのが、高脂血症の食事療法になるわけです。一般的にはエネルギー制限と脂質エネルギー比が一応今の段階では25%以下、そして、多価不飽和脂肪酸と一価の不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸1:1.5:1、あるいはn-3系とn-6系、EPA、DHAと、リノール酸が1:4の比率であるのが現段階ではふさわしいのではないかというのが、第5次改正のデータになっています。コレステロールの摂取量は一応300mg以下にしておき、蛋白質では、大豆蛋白がコレステロールを下げるといういくつかのデータがありますので、大豆蛋白の摂取をする。あるいは食物繊維としてはできれば25g以上を摂りたい。特に水溶性のペクチン、マンナン、ディグニーといったものを摂りたいという食事指導になっていて、これはある意味では、糖尿病などでも共通の話になってくるわけです。それとともに、抗酸化物の話が出てきます。これまでの話は、一般的に「コレステロールの発生が、悪玉と善玉で、悪玉は動脈硬化を起こして、善玉は動脈硬化を防ぐ」というラインの話だったわけですが、1989年のスタインバークの論文が出てから、LDLはただ循環しているだけではなくて、恐らく血管の内皮の間から中に入り込んで出入りをしている。中に入った時に酸化ストレスを受けるために酸化変性のLDLになって、それが単球を呼び寄せて自分白身を処理していく。ところが、この酸化LDLがあるとマクロファージ自身が際限なく取り込むために泡沫細胞になってしまって、これが動脈硬化のもとになるという理論が出てきたわけです。そうすると、このLDLが酸化変性LDLにならないようにすることも非常に重要なことだと認識されるようにたってきたわけです。それを受けて、第5次の改正でも、抗酸化物の摂取に関して「多価不飽和脂肪酸は過酸化物を生成し、健康障害を起こす恐れがあるので過酸化物の生成抑制のために抗酸化作用をもつビタミンE、ビタミンC、βカロチンなどを摂取するように」と付記されたわけです。一般的には、そのことを考え合わせますと、悪玉を下げるということが非常に重要なことになるわけですが、悪玉が本当の悪玉=酸化変性LDLにならないようにすることが非常に重要になってきます。要するに、動脈硬化は本当の悪玉=酸化変性LDLによって動脈硬化を起こし、善玉のHDLが防ぐ。それとともに、LDLが酸化変性LDLにならないために抗酸化物、今いったピタミンE、ビタミンC、βカロチンが非常に重要であるということとともに、ポリフェノールという抗酸化物も非常に重要だということがわかってきたわけです。

 この根拠として、たとえば赤ワインを飲んだ時のデータ:10名の方に協力して頂いて主に純粋なエタノールを2週間飲んでいただく、あるいは食事制限、食事を全部一定に揃えるという意味で2週間経過して、その後、赤ワインを同じアルコールの量で変えたのを2週間続け、この赤ワインの前後でLDLが酸化しやすいか、しにくいかという測定をしたわけです。その結果、赤ワインを飲む前に対して飲んだ後では10%以上が「酸化しにくい」というデータが出ました。したがって、赤ワインの中の抗酸化物というのはLDLの酸化を防いでいるといってもいいのではないかという結論が得られたわけです。次に、お茶を5g飲んでもらい、1時間後、2時間後,、4時間後、6時間後でみたデータでは、1時間後、2時間後では、飲む前に比べて有意にLDLの酸化が遅れています。それとともお茶の中の成分のエピカテキンガレートの量を測ると、血中でも有意に伸びているということで、お茶に含まれている成分がLDLの酸化を防ぐということも同時にわかってきました。

 さらに、ココアを35g、これは脂肪を抜いたようだ形で飲んでもらいました。その結果同じように、2時間でLDLが酸化しにくいというようなデータが得られました。こういう話をすると、あくまでもbeverageの話だけのようになってくるわけですが、これから考えているのは、ピタミンE、ピタミンC、あるいはカロテノイドといった御三家といってもいい抗酸化物は、あくまでも抗酸化物としてやはり重要であって、それとともに、たとえばフラボノイドの中のフェルセチン、あるいは大豆に含まれているイソフラボン、カテニン、それからコーヒーにはフドノゲンサンが含まれていますし、あとはゴマのセサミノールといった、こういう抗酸化物を過不足なくとることも、ある意味では重要なことではないかということがわかってきたわけです。考えてみると、われわれ日本人は醤油をべ一スに料理を作っておりますし、あるいは味噌汁などを飲んでいるわけです。この味噌と醤油というのは、大豆からできておりますので、イソフラボンが含まれているわけです。さらにポリフェノール含量を測ると、醤油あるいは味噌汁にはかなり含まれておりますし、ある意味では、このような日本食というものをもう一度見直してもいいのではないかという話が今されています。

 こういった抗酸化物、特にフラボノイドを摂取して本当に動脈硬化が防げるかどうかというデータを探してみますと、オランダのズッフェンというところでなされた、ズッフェン・エルダイ・スタディというのがあって、10年間follow-upした結果、フラボノイドの摂取量が1日19mg以下のグループと29.9、30mg以上のグループを比較すると、後者では心筋梗塞を起こす危険因子がO.49と有意に低くなっているデータが出てきて、このフラボノイドをきっちりと摂取することの重要性が認識されてきているわけです。

 次に、これは食べ物だけの話で、生活習慣病の中に入るかどうかわかりませんが、煙草の話です。禁煙すると、約12週間後には、煙草を吸っている時と比べてはるかにLDLの酸化しにくい状態になっているということがわかりまして、色々な食事とともに、こういった煙草などのライフスタイルの中を修正することも必要だという話になってきているわけです。去年の『AERA』に、おじいさんが赤ワインを飲みおばあさんがお茶を飲んでいるところを見て、息子夫婦が「2人ともまだまだ長生きする」と嘆いているという漫画が載りましたが、ある意味で、抗酸化物というのは、ただ単にコレステロールを下げるだけではなくて、コレステロールの酸化を防ぐという意味での食事療法が、今後必要なのではないかと私は思っています。

 


外科と栄養

小越章平(高知医科大学副学長)

 21世紀の臨床栄養ということですが、外科の場合は割合大ざっぱな人間が多いので、「切った貼った」でずっとやってきたわけですが、要するに患者さんをどうすれば手術に耐えられるようにできるか、あるいは手術後の合併症をなくして患者さんを無事に帰すことができるかという動機でやってきているわけです。「外科と栄養」という主題は、これは「全世界的に臨床栄養というのが盛んになったのは、外科医のためだ」というふうに自負している主題なわけです。というわけで、この研究会も、岡田先生たちが始められたわけで、200回ということは20年続いているわけですから、よく続いたものだなと思いました。

 「外科と栄養」といっても、高カロリー輸液(静脈栄養)と経腸栄養です。これは大きく2つに分けられますが、ご紹介がございましたように、私は成分栄養剤がアメリカで宇宙食として発達していたのを日本で組み立てただけですので、大したことはないんですけれども、これが契機で、その後、経腸栄養剤が日本でも30-40種類くらいできました。そういうことで、ある程度は影響を与えたのではないかと思います。21世紀を考える前に、われわれがこの30年間、どのように進んできたかというお話をさせていただきます。ダドリックが発表した、ボトルをぶら下げた犬の写真は非常に有名ですが、つまりそれは静脈栄養だけでもドッグフードを食べさせた場合と同じように生育を遂げることができるということですね。去年の11月の初めに,岡田先生がInternational GUT symposiumを主宰された時に来たウイルモアは一番年長だったと思いますが、私たまたま同じ時期に、1967-8年にペンシルバニア大学に留学していましたので、彼がこの静脈栄養施行中の犬とよく散歩をしている姿を見ました。栄養治療を行いますと、栄養障害の患者が別人のようになります。これには私、本当にカルチャーショックを受けまして、これはやっぱり栄養というのが患者の状態を全く変えてしまうのだということをその時感じたわけです。

 当時私は千葉大学におりまして、食道を専門にやっておられた中山恒明先生は本当に苦労されて、食道癌患者に対して食道をとってしまった後、外でパイプでつないで、いったん家へ帰してしまうんです。それで再発のなかった人に対してだけ胃をもっていってつなぐ、いわゆる3期手術をやっていたわけです。そういうことで、食道と胃管をつないで、胸の中で縫合不全を起こして、以前でしたらだいたい死んでしまったんですが、中山先生は、こういう写真を外へ持っていくと非常に怒って、「わしがやった手術でこんなことが起こるはずがない」と怒るわけです。ですが、実際にはそういうことが起こっていたんです。それが今度は治りますから、出しても怒らないんです,「いやあ、大したもんだね」ということになりました。そういうことで、縫合不全が非常によく治った、このことが、外科医の間に高カロリー輸液が広まる契機になったわけです。この頃は面白かったです。1976年、ちょうど高カロリー輸液が保険採用になった頃に『図解高カロリー輸液』という本を出しました。これは現在でも第3版で売れています。静脈カテーテルはどこへ入れてもいいのですが、われわれは食道の手術をやりますので腕から入れて・・今アメリカでは腕から入れるのがまた流行ってきましたけれども、普通ならば鎖骨下静脈から入れるわけです。これも皆さんご承知の通りです。内科の先生もやるようにたりまして、腕からやるのがまた今出てきています。そしてそれに適したチューブも出てきております。今では、前胸部にポートを埋め込んで、家へ帰して、在宅の静脈栄養もできるようになりました。これも岡田先生の大きな仕事であったわけです。言葉というのは非常に重要だなと思ったんですが、1978年に、elemental dietを成分栄養剤と訳したのです。すると、厚生省が保険薬として認可しまして、私が出した時の翌年にもう医師の国家試験に、この成分栄養剤という名前が出てきたわけです。これはもう大丈夫だなと思いました。次にはロシア支援で、去年とその前の年とロシアに5回ぐらい行って、研究会を作って啓蒙活動に努めました。またED用のチューブを鼻から入れて十二指腸まで、あるいは空腸まで通す。胃の中に入れるというのは以前からありましたが、これを米国で初めて見た時は、かなりカルチャーショックを受けて帰ってきたことを覚えています。また、今はself intubation、自分で入れて、引き抜いたりする方法ですが、これがやりやすいようなチューブも発売されています。このような方法で在宅経腸栄養がかなりやられていて、クローン病などを中心に、内科の先生が非常に精力的にやっている方法になっているわけです。静脈栄養の場合には、いろいろなビタミンの欠乏、特にビタミンB1の欠乏だとが社会問題になっていて、すでに30年近く経過するのにまだ起こっている。亜鉛の欠乏に関しては、これは岡田先生の大きな業績がありまして、ご承知のように、日本医師会医学賞を最近獲得されたわけです。こういうことで、色々な栄養素、微量元素、ビタミンの欠乏、その他必須脂肪酸の欠乏だとが非常にクローズアップされてきて、われわれは単に外科との結びつきでやってきましたが、臨床栄養に対してもかなり影響を与えたのではないかと自負しているわけです。

 次に栄養アセスメントについてお話しします。米国のブラックバーンが、1977年、ハーバード大学の助教授の時に、栄養アセスメントをSystematicに研究して発表し、一躍これで有名になりました。いずれにしても、この栄養アセスメントが日本に入ってきたことで、特に栄養士さんがかなり興味を持ってくれるようになり、私もこの後すぐうちの弟子をハーバード大学に送り、食道癌でのいろいろな指数を作ったりしました。その後、間接的な熱量測定法が日本に入ってきて、特に体育会系でですね、バッグを背中に背負ってマスクをしながら走り回って、いろいろな測定をするということをやっていますが、これは非常に簡便な方法です。外科の領域では、食道癌を中心に研究を行いましたが、脂肪が非常に燃えやすいということがよくわかりました。これももちろん、入れた脂肪ではなく内因性の脂肪が燃えるわけですが、ご承知の通り、体育生理学というのは「ジョギングはいけない」、「fast walkingはいい」、「脂肪をとるにはfast walkingがいい」と。それがこのおかげであるということですし、食道癌などでは、術後はちょうどfast walkingをやっているようなものだと思います。これから21世紀に入るのですが、われわれは今、免疫学的な栄養としてのimmuno-nutrition、それから薬理学的な栄養治療としてのpharmacological nutritionなどと直面しています。薬理学的栄養のはしりが分岐鎖アミノ酸であるといえます。フィッシャーが、アミノ酸の組合せ、特に必須アミノ酸、中でも分岐鎖アミノ酸を多く入れたものが、薬理的な作用があるということで、これはもちろんいろいろな製品になっておりますので、これは皆さんもご承知の通りです。「食物には、そういう薬理作用的なものはあまりない」と細谷先生がおっしゃいましたが、われわれは臨床家ですから、どうしてもアミノ酸などを使って薬理効果を狙うようなものを探してきていたわけです。機能性食品という名前が一時流行りまして、あまりふさわしくないということで今では使われていないのですが、21世紀に向かって、アミノ酸を中心とした薬理学的な効果を狙ったようなnutritionというのが、ますます盛んになると私は思います。その中では、分岐鎖アミノ酸から始まって、グルタミン、アルギニン、核酸、脂肪など、いろいろな形で栄養素が研究されています。特にわれわれは成分を投与しますので、静脈栄養,成分栄養剤というのは、投与する個々のnutritonが明確になっているのでやりやすいということです。アルギニンについては、今最も盛んに討議されていると思います。もちろん、核酸などもあります。機能性食品で、アルギニンはご承知のように朝鮮人参の成分がアルギニンです。ニンニクもそうです。結局、アルギニンの作用機序というのはN0であり、アルギニンの研究は、これからも盛んになると思います。

 最後に、われわれは外科医ですから、先ほども申し上げましたように、いかに患者さんの状態をよくして手術をし、そして、早く経口摂取ができるようにして帰すかというのが目的です。「静脈栄養というのは感染症の時にやってはいけない」という時期もありましたが、今ではどんどんやります。それから、pharmacological nutritionで薬理的な効果を狙った方法も進んでいくだろうと思います。これでざっと30年間を振り返って、まあ21世紀の話は少なかったんですけれども、いずれにしても最近はあまり面白くないですね。どんどん細かいところへいってしまって、学会へ行って若い人の発表を聞くと、私自身でもよくわからないんです。医局員が学会の練習に私のところへ来るんですけれども、細かいデータを出してきて非常にわかりにくいんです。本当に世代が変わったなと思います。岡田先生たちとやっていた頃に、「縫合不全がよく治る」とか言っていた頃が懐かしいたと思いますが、しようがない。もう21世紀になるんですから。21世紀はさらに発展するだろうと思います。

 


栄養サポートチームと栄養士

中村丁次(聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院栄養部長)

 一昨年、アメリカの西海岸の5ヵ所の病院で、NSTのようなチームを持っているところで、臨床研修をやってきました。一緒に病棟を回ってくれたのはNSTに参画しているclinical dieticianです。私がショックを受けましたのは、彼女はペンライトを持っていて、患者さんの口腔内を観察したり、皮膚を観察して、ビタミンやミネラルの欠乏状態を診断しているわけです。お土産にそのペンライトをもらって帰ったんですが、日本では「なぜ栄養士がペンライトを持っているんだ。コンサートでも行くのか」と冷やかされました。彼女と話している時に、日本でTPNによるビタミンB1欠乏症が起こっていて、死者まで出たことが話題になりました。日本では医師への栄養教育が足りないという分析だったのですが、彼女が一番最初にいったことは、「その時clinical dieticianは何をしていたのだ」ということでした。「ビタミンB1欠乏症は、死に至る前に初期症状が出るはずで、それを発見するのは栄養士の役目である」というのです。日本の栄養土は何をしていたんだと聞かれたので、私は「恐らく厨房でタマネギを切っていたんではないでしょうか」と冗談をいいましたら、「日本の栄養士制度というのは一体どうなっているんだ」と驚かれました。NSTについては、岡田先生が『医学の進歩』にずいぶん前に紹介されて、私はその論文を読んで大変感銘を受けました。それからこの方面へのめり込んだわけです。

 NSTの目的というのは、最少のコストで質の高い栄養管理をすることです。そして、hospital malnutritionを防ぎ、合併症を減らして無駄をなくすことが、NSTの役目です。日本でなぜNSTができないのかということが、先日、千葉で行われた日本静脈経腸栄養学会で問題になったのですが、私が思いますには、1つは、日本ではフォーマルなNSTを最初から求めすぎるのではないかという感じがします。アメリカにもフォーマルなNSTとインフォーマルなNSTとがあります。フォーマルなNSTというのは、私どもがイメージに持っているような、完全なメンバーを作るために、参画している人達がフルタイムで働いているチームのことです。もう1つ、インフォーマルなNSTというのもあります。これは、正規のメンバーではなく興味のある人たちだけが集まって、パートタイムで働いてチームを作っているということです。わが国の場合は、ひょっとしたらこのインフォーマルなNSTから、肩の凝らない程度に出発するのがいい方法なのではないかと感じています。また一方では、国の医療政策の一環として、トップタウンである病院にモデルを作り、普及させていくというのも有効な方法だと思います。Clinical dieticianの役割についてですが、NSTにおける役割は、栄養スクリーニングと評価、ケアのプランニング、経腸栄養の選択、そして、栄養教育があります。

 NSTを組織化することによって色々な効果が出るということについては、たくさんの論文が出ています。これはアメリカのある施設での例ですが、NST前の1990年とNST後の1992年・1993年では栄養補給の不適切なものが24.7%から0.8%に減少しています。これは過度にTPNを使っていたということです。アメリカでは、NSTが栄養補給を積極的にすすめるチームであったのですが、最近,ある病院では大きな権限を持った役割に発展してきています。というのは、TPNをしたいと主治医が考えたら、それをまずNSTのチームに報告して、NSTのチームからO.K.が出ないとTPNができないというのです。「NSTにより血糖のコントロールがよくなった」とか、「電解質のコントロールもよくなってくる」ということになっているのです。

 このようなNSTができたために栄養士の世界にどのような変化が起こってきたのでしょうか。恐らくNSTが出現する前には、栄養士の仕事は、フードサービスのマネジメント、いわゆる給食管理だったわけです。foodとdietの栄養管理をしていたのです。それがNST後には、nutritional care and cureのマネジメント、すなわち人の栄養状態をコントロールするという観点に立たなければならないということになったのです。岡田先生がHIT研究会を主催されておられるわけですが、そこで、チームの役割分担をアンケート調査された報告がありますが、それによりますと、経口摂取に関しての管理のみならず、経管経腸栄養の選択や調合も栄養士の役目ということになっています。栄養アセスメントも一部栄養士が担当します。そして、個人の栄養必要量についても栄養士が算定していいのではないかという意見を頂いています。これは医師がほとんどを占めているアンケートであります。回答者が25名と非常に少ないのですが、この領域に関心を持っているスタッフによるアンケートです。そう考えると、アメリカでのNSTにおける栄養士の役割とだいたい同じレベルになってくるわけです。

 栄養士が現在のレベルでできる栄養アセスメントにはどういうものがあるのかについて検討してみます。臨床検査、食事栄養調査、身体計測、生理検査などに関して、少し再教育をすれば栄養士でもできることは多く存在すると思います。21世紀の栄養管理のあり方というのは、これまでのように病院、学校、福祉という集団で括り、その集団の栄養状態をよくするということではなく、集団の中の個々の栄養状態は異なるわけですから、その個人ごとの栄養管理をしていくという制度に作り直さなければなりません。残念ながら、わが国の病院給食というのは、個人ごとに栄養管理をやっていくシステムにはなっておりません。病院に入院しているという患者さんの集団特性に合った食事管理をしている制度になっているわけです。今後は、病院の栄養部門の業務内容は、フードサービスとメディカルサービス、あるいはクリニカルサービスに分極化していく必然性があると思います。クリニカルサービスに関しては、わが国では皆無に等しいのです。これをどうやって制度化して、これを担う栄養士をいかに育てていくかということがこれからの問題だと思います。

 現在の栄養指導や給食管理は、特別治療会に関しては医師が、病気の状態をよくするために指示栄養量を決めて、一般食では栄養所要量という集団で決めた値をもとに栄養量を設定し、これを満足させる食品の選択と献立の作成をして、食事を提供したり、指導をしているのです。これからの栄養指導や給食は、まず病気の状態、栄養の状態一いわゆる人間側の情報を集約、分析し、その中で問題点を発見し、それに影響を及ぼしている食事や栄養の評価をし、その他の要因を分析し、栄養状態や病態が改善されるように指示するというやり方にしなければならないのではないかと考えています。

 私どもはそういうことに気がついて、いくつかの試みを行っているのです。たとえば、栄養指導をやっている全患者に身体計測をし、身体の栄養状態を知るパラメーターにしています。また、細谷式の簡易安静時エネルギー代謝量を求め、外来の栄養指導に活用しています。ある肝硬変の症例では、上腕筋囲とREE(安静時エネルギー消費量)が正相関しています。肝癌や肝硬変でかなり栄養状態が悪くなっている愚者さんでも、筋肉量と消費エネルギーが相関していくということがわかります。また、肥満の栄養指導をするのですが、今までですと、こういう食事療法をやったら、血糖やコレステロールが下がった、つまり病気がよくなったという話だったわけです。しかし、ここに栄養状態の評価を入れると、少し面白いことがわかってくるのです。たとえば、この患者さんは、栄養指導により体重や体脂肪率が落ちてきたのですが、ある時期からreboundを起こし始めています。このreboundを起こし始めている時に上腕筋囲も急激に減少しているのです。しかも、west/hipも少し上がり始めてきているのです。体重がreboundする前に体構成成分が少し変化し姶めていることが、前もってわかってくるわけです。

 私ども、実は正式なNSTはないんですが、将来NSTを作りたいということで、周辺の状況を整理しているわけです。たとえば、現在、どの病院でも食事基準というのがあると思いますが、これを栄養基準と改めて、食事の基準だけではなく、経腸栄養やTPNも一緒にした基準にしたのです。この栄養基準は3枚折でポケットサイズになっていて、表紙には、人間の栄養を管理するには3つのルートがあり、それでgood nutritionをしてくださいというシンボリックなイラストを描いているわけです。

 これからの栄養管理を前提とし、それを実施する専門家としての栄養士に育てていくには、教育すべき項目は11ぐらいあると思います。たとえば、病態と栄養との相互関係が理解できる。もっといえば、臨床データがある程度読めるということなのです。特に、臨床検査のデータを医師は病気の決断や治療効果を判定するのに利用しますが、栄養士は主として栄養状態をみるのに、どのように理解できるのかということがテーマになります。その他、栄養のスクリーニングとアセスメント、栄養管理計画の設定、個人の適正栄養量の算定、栄養補給法の検討、変更、モニタリング、そして、特別用途食品、経腸栄養剤の選択,栄養と薬物の相互関係、インタビューやカウンセリング技法を記録や報告、そして、研究活動への参画等です。最初に断っておきますが、栄養状態の判定や栄養補給法の最終的た決定は医師です。栄養士は医師が決定するのに情報を提供する、あるいはrecommendationをするということであって、decision makerではないと思っています。

 最後にこれからの問題になると思いますが、それではどういう教育システムを作っていかなければいけないかということです。今、世界の栄養士というのは、アメリカの栄養士制度を追いかけています。したがって、アメリカにおける教育制度を見習うことがべ一スになると思います。アメリカではすべて4年制大学卒業者で、これに900時間のインターンを行って試験を通ったらregistered dietician:RD(登録栄養士)になります。日本の管理栄養士は、これに近いのではないかと思いますが、RDと管理栄養士が違うのは、日本にはインターン制度がないということと、すべて4年制ではないこと、さらにRDは5年間に75単位取得することが義務づげられていることです。国家試験は日本にも同様にあります。この上にcertified nutrition support dietician(CNSD)というのがあります。これはRDに2年間の臨床経験があれば試験が受けられます。これはASPEN(American Sociaty of Parenteral and Enteral Nutrition)が認定になっています。したがって、日本では管理栄養士をRDのように国際的に通用する教育制度にすること。そして、JSPEN(日本静脈経腸栄養学会)CNSDを誕生させるということが具体的な目標になると思います。

 2年前にアメリカ栄養士会は、ASPENに対抗して、さらに6,000時間の臨床実習をやって試験を受けるというboard certified in metabolic nutrition(BCMN)というのを誕生させました。これはマスター、ドクターコースの話になっています。日本における栄養士の教育制度も、これに乗った形で追いかけていくのがよいと思います。物が国際基準化している時代ですから、人の資格制度も国際的な方向性に準じていくことは時代の流れだと思います。わが国独自の道を進むとしても、それは、国際社会には通用しません。

 


総合討論

 日本がアメリカにかなり遅れているというか、21世紀に栄養学でわれわれはどうしたらいいかということについて、先ほどポイントだけお話しいただきましたが、もう少し具体的た話をしていただきたいと思います。

<細谷>

 研究活動に関して、学術研究と行政研究と企業研究たどがあると申し上げましたが、日本では学術研究だけがエレガントであり、研究者の研究すべき対象という考えがあります。しかし企業研究も必要で、特定保健用食品、特別用途食品などの物について厚生省の許可をとるためには、その有用性(有効性)や安全性を科学的に証明することが求められています。この場合には、オリジナリティー(独創性)は必要ありません。行政研究の場合には、いかに政策の遂行に寄与して,国民のために貢献できるかということです。現在の日本で、問題になっていることに、評価の問題があります。予算の執行が単年度制で、事務系が握っていて、予算が執行されればそれでいいわけです。企画されて実施したことに対して、医療・保健・福祉の面からみて、どのような効果がもたらされ、それは良かったのか、悪かったのかという評価は、日本の場合にはないんです。これが21世紀に向けて大きな課題になると思います。これがないために、コ・メディカルの人たちの存在理由もその価値も認識されないものと考えています。これからは、保健所が半減し、在来の保健所の業務の大半は市町村に移っていきます。生活習慣病の対策として、一次予防、二次予防、三次予防とありますが、市町村はどう取り組んでいくのか。早期発見、早期治療の二次予防は医療保険でカバーされます。リハビリテーションや社会復帰などの三次予防は介護保険で、福祉の一環として取り組まれます。そうすると、一次予防は、自分の健康は自分で守るということになるのでしょうか。この場合に、どのような健康教育が効果的であるのか、広い視野のもとに、経済効果などの観点からも検証することが必要ではないかと思います。医療のあり方について、医療の本質を考えて医療費をいかに削減していくかということは必要なことです。一方では、薬を用いないで、栄養問題を考えて、楽しみ以外のもの、食べ物で病気の治療、予防をどのようにしていくかということになります。

 ところで、日本の現状を見ますと、誰のための、何のための研究なのかが理解し難い調査研究も行われています。その1つに日本人についての正常値、基準値の問題があります。コレステロールについての正常値ですが、ある学会が新しく示した値は低すぎるのではないかと思います。茨城県の老人保健法の成人病検診で、毎年、約20万人ぐらい調べてみたら(5年間)更年期を過ぎた女性の半分が異常値を示すという結果になっていました。本人達は、何の異常も示さず、元気に働いているというのにです。そこで、こういうことでいいのかどうか、考えてみることが必要になります。アメリカでは、自分の健康は自分で守るということの1つの基準として示されています。しかし、日本では、それがお医者さんが薬を患者に与える1つの目安として利用されているのではないかとも言われています。検診そのものにも疑問が持たれて、生活習慣の一次予防も存在しなくなると思います。一方、これの対応に取り組むべき栄養問題も未熟ですので、どうしようもないのかもしれません。

<岡田>

 細谷先生が評価機構がないとおっしゃいましたが、それは本当にその通りです。ただ,細谷先生と視点は違いますが、ここ数年間、いろいろな形でわれわれの医療の面でも、外部評価,評価委員会等を作ったりして、病院などの機能というものを、最近、外部団体に委託して評価してもらうようになりました、そういう形がどんどん増えているので、これはやはり反省はしているんでしょうね。

<細谷>

 病院運営の問題、あるいは医療のあり方については、いろいろと検討されています。しかし、栄養の領域、あるいは、患者をめぐる食事の問題については、経済効率、cost effectiveness、cost benefitというような考え方が日本にはなかったものですから、敢えて栄養関係の問題として、はっきり述べさせて頂きました。

<松沢>

 21世紀の栄養学がどういう方向にいくかというのは、われわれ医学でやっていますと、疾病構造との関連で、どういう栄養学が一番理想的かということを考えるわけです。われわれのやっている病気というのは、かなりの部分が過剰栄養というか、摂り過ぎの栄養である。アメリカは、もちろんわれわれの先を行っているわけですが、そのアメリカが非常に栄養学が進んでいる、システムが進んでいるというお話が中村先生からもありましたが、ただ、アメリカの大衆がそういうことによる恩恵を浴しているかどうかについては、私はアメリカヘ行く度にいつも疑問に思います。過剰の栄養学が向こうとしては非常に大事だといいながら、マクドナルドを含めてステーキの量などは日本の数倍もあるというのが一般的な状況でありますが、アメリカのわれわれと同じ分野の学者はダイエットして、自分だけはいい子になってやっています。一般大衆があのようなfoodを食べさせられているという部分の問題点について、日本と比べて、先生はどう感じられているか、そこらあたりの感想をお聞きしたいと思います。

<細谷>

 移民がヨーロッバからアメリカにやっとたどり着いて、そこでどのように働いてお金を稼ぐかということになります。病気にもならないで元気に働くために、一番効果的た食事は何かということで栄養の問題に関心が持たれたと思います。日本でも、アメリカと同じように、外来者が持ってきた簡便で合理的た料理が普及しています。ハンバーグ、ピザ、シューマイ、ギョウザ、マントー等・・。ところで、21世紀の方向ということですが、医学と医療、栄養学と栄養活動の違いがはっきりされて消費者、国民が恩恵をより多く受けるものが求められるようになると思います。単たるアカデミックな学問としての学術研究ではなく、行政関係、企業関係を通して、直接的に、消費者、国民のためになる研究が望まれると思います。これに最も関連しているものの1つに、企業区分の問題があります。日本は何でも薬をというわけです。薬を用いたい医療の確立のためには、特別用途食品病者用あるいは、特定保健用食品の存在は必要です。そのためには、健康強調表示(health daim)に関連する調査・研究は絶対に必要です。これに関しては、日本は20年遅れていると言えると思います。一方、外国では食べ物として取り扱われているものが日本では薬というようなことがないようにしたいと思います。科学に裏付けされた正しい知識のもとに、正しい使われ方が一般的になることが必要だと思います。

<原納>

 細谷先生、糖尿病の指導で食品交換表を使うのはナンセンスだとおっしゃいましたが、ただ、あの内容は、たとえばS3、S6、ミネラル、フラボノイド等、そういうevidenceに基づいたデータがあまりないということもありまして、あまり詳しいことを入れるなということですが。私は委員会に入っているので、ちょっと聞いておかないといけないのですが、今後改定もしますので、どういうふうにすれば一番いいか、具体的に示唆していただければと思います。

<細谷>

 日本の交換表は食品中の栄養成分、あるいは食品それ自身をエネルギーで交換しています。エネルギーというのは体の中に入って利用されるときに生成されるものです。そのエネルギーを基準にして、nutritional qualityを考慮していないので、その科学的根拠はどうなのかと申し上げているのです。ですから、身体側面から、毛等の状況、あるいはglycemic indexなどを考慮して組み換えるべきだと思います。アメリカでは、carbohydrate counting dietといったようたものを使用しているとのことです。一方、日本は細かすぎます。アメリカでは、Kelloggのフレークを2 serving sizeにヨーグルト1個といような、簡単で解りやすい指導をしています。IDDMの人の食事でも血糖値を上げないような食事を指導しています。日本で事細かに、しかも本人だけでたく奥様まで呼んで、食事の交換表の使い方を教え込む。これが時と場合によっては離婚の原因にもなったりしています。糖尿病の食事指導の本はあふれるほど出ていますが、理解されて実行しているのかどうか、途中で面倒くさくなって中断してしまう人が多いと思います。栄養成分表示を活用して、加工食品、調理済食品でも実施できる食事療法を確立すべきと思います。あれをきちっとやったらおかしくなってしまうんじゃないですか。もう少し大ざっぱにやればよいんですね。私はもう少し改良する余地があるのではないかと思います。これは中村先生も書いていますが、そういう意味で、糖尿病の交換表のあり方というのは見直しているのではないかと思います。外国人は、日本のはエネルギーで交換するところがおかしいといっているんですよ。

<松沢>

 最近話題になっている抗酸化という問題を食生活にフォーカスを当てて主に動脈硬化を防ぐということなんですけれども、それ以外にも多くの疾患が、酸化ストレスと関係するということがわかっているわけですが、いかがでしょうか。恐らく皆さんご存じの赤ワインというのは、もともとフレンチパラドックスといって、フランス人がコレステロールをたくさんとっていて、血中のコレステロールが高いのに動脈硬化が少ないという疫学的なデータをべ一スとして起こって、赤ワインの故郷というのはフランスですから、そういうところからスタートした問題なんですが、これは近藤先生、ブドウの皮か何かということですが、ワインであるという必然性は少しはあるんですか。

<近藤>

 要するに赤ワインの色と苦みの成分ですね。赤の色がアンドシアニンで、苦みの成分がカテキンというふうな、それ以外にもさまざまな抗酸化物が、実は赤ワインに含まれているというのはわかっているわけです。ただ、赤ワインがよいからといって赤ワインばかり飲むという話ではなくて、あくまでもそこからいかに抗酸化物をうまくわれわれの食生活に取り入れるかということが、今後大事なのではないかと思っています。少なくとも赤ワインだけという話ではないのです。

<松沢>

 お酒好きというか、われわれには嗜好としてはワインというのが非常に重要な感じがするんですけれども、それに含まれた何かメッセージである可能性はあるんですか。お酒は、たとえばHDLを上げるとか、私自身は必ずしもお酒で上げるHDLというのはそんなによくないと思っているんですが、そのような考え方というのはいかがですか。

<近藤>

 赤ワインのフレンチパラドックスの話は、一番最初に出ました時に、私自信が1980年の時に、フレンチパラドックスはワインのせいではないかという話を聞いたわけです。ただ、その時は赤ワインではなくて普通のワインで、シャブリなどを頭に描いていたんです。ちょうどその頃、HDLコレステロールが一般的に測れるようになってきて、アルコール成分がHDLコレステロールを上げるのではないかということが、当時言われていたかと思います。ただ、よくよく考えてみますと、疫学的データでワインをたくさん飲んでいるのは、摂取量で見ますと、フランスだけではなくて、ドイツなどはワインとビールをかなり飲みますので、アルコール飲料のintakeということに関するはっきりしたevidenceは出なかったというのが、多分1980年代の話なんだろうと思います。1990年代になって、赤ワインの成分に抗酸化物が含まれているということから話をすると、ある意味で話が合ってくるというふうに考えていただいていいかなと思います。ただ、赤ワインの成分を抗酸化の能力で調べてみると、他のいろいろなものと比べると赤ワインは非常に強いですね。これがある意味で、そうした疫学的データが出てくる1つの根拠になったかなと思いますが、ただ、あくまでもアルコール飲料ですので、ある程度以上の量をとってしまうと、今度はアルコールの害が出てくるということは、やはり考えておく必要があると思います。

<岡田>

 antioxidantというのは最近の栄養の大きたトピックスとしてあるわけです。先ほどのスライドを見ていますと、ずいぶんたくさんのものがあるわけですが、ビタミンC、E、ああいうのは、どうなんですか、evidence basedというのがある程度証明されているのか、これからの問題も多いのか、いかがでしょうか。

<近藤>

 1つの問題点は、たとえば、赤ワインの中の話でいきますと、フラボノイド量、あるいはポリフェノール量というふうに言い換えてもいいと思いますが、食品の中に今どれだけポリフェノールの含量があるかという点できちんとした統一見解が出ていません。できれば、やはり交換表や成分表などできちっとした食品中のポリフェノール含量を調べた上での疫学的調査が1つは必要なのかなと思います。もう1つは、ビタミンE、ビタミンCですと、いろいろ条件が出でいいのではないかと思いますが、ご存じのように、ビタミンEでは、良いというデータと悪いというデータが出てまいりまして、一番の根拠は、たとえば脂溶性の抗酸化物と水溶性の抗酸化物が相互作用の結果、良さを示しているらしい。そうすると、今までのビタミンEのいろいろなデータというのは、ビタミンEだけを投与していろいろな話をしておりますので、たとえばビタミンCの投与量などのことははっきりしていない。そういうことをきちっとしたうえでの話が出てくると、今の根拠からするとビタミンEで十分な話が出てくるのですが、ビタミンCなどの投与があまりきちっとしていないデータでは、きれいな結果は出ていないかもしれない。あと、ビタミンCの問題は、投与量がもしかすると少ないのではないかと,私自身は思っています。

<岡田>

 今ビタミンの話をされましたが、わが国にビタミン学会という、ずいぶん伝統、歴史のある学会があって、私も会員なんですが、ビタミン学会で今そういうことはディスカッションされているのでしょうか。

<近藤>

 私自身は会員でないので一、LDLの抗酸化という面からみると、あくまでもビタミンEだけを単独で見るのではなくて、ビタミンEというのはLDLの、要するに壁の方にあるわけです。ビタミンCはその周りのところにあって、それが相互作用で動いていますので、そういったことをきちっとべ一スにしたリサーチでいわないと何ともいえないと思います。

<小越>

 私は食道癌をやっていて、最近の1O年ぐらいは発癌、特にパピロマウイルスとの関連でずっと基礎的研究に取り組んでやってきたんですけれども、日本だと食道癌というのは必ず酒、煙草というのが関係づけて出てきます。フランスは、あれだけワインを飲むのに食道癌が最も少ない国なんです。何かそういう関連でのデータはあるんですか。

<近藤>

 抗酸化の話は、要するに動脈硬化だけの話で、癌などの発症のことを考えると、確かにワインで抗酸化が癌を抑えたデータは、''Science"に2年前に載っております。ただ、量的に見ると、赤ワインの普通に飲んでいる量ではちょっと足りないんですね。要するに、抗酸化物をある程度とっておくことが癌の発生を防ぐ可能性があるかもしれないなというふうな想像はしているんです。ただ、私は専門家ではありませんので、それは癌の専門家に発言をしていただきたいと思っています。

<小越>

 食道癌では、喉頭の食物がぶつかるところに多いんです。まずは喉頭です。それから飲み込んで、一番下の方で胃に入る狭いところです。食道の組織というのは全く同じわけなんですが、そういうところ、とにかく食物が当たるところにできやすいんです。それを考えてみると、酒とはあまり関係ないということがだいたいわかります。ただ、お燗をして粘膜がふやけるのはあまりよくないのではないかという気がします。というのは、子宮頸部癌との関連で話しますと、子宮頸部癌というのは、今はほとんどウイルスなんです。感染症として扱っています。われわれはそこに目をつけて、今感染症との関連、ウイルスとの関連でやっています。ですから、お酒も冷やの方がいいかなという気がするんです。

<松沢>

 われわれの愚者でも、酔っぱらって、酒は嫌いなんだけど、飲んでふらふらですと。それは適当にメッセージを出していただくようにしていただきたいと思います。

<岡田>

 まず小越先生のお話、非常にわかりやすい話だったと思います。私、どういう具合にまとめられるか、非常に楽しみにしていたんですが、うまく過去の話から始まって現在、未来へとまとめられましたが、そうすると、われわれも高カロリー輸液、あるいは経腸栄養を一番適応と考えていたのは、術前術後の割合短期間の患者が多かったように思います。ああいう問題は、もうだいたい片がついているというか、術後合併症の治療に至るまで、どこの施設でもだいたい似たようなやり方をやっているかなと思いますが、いかがです。

<小越>

 結局、後の患者さんのケアというのは、退院してからが長いんですよね。それは誰がやっているかというと、一般に医者はやっていないし、たまに外来へ来て、データが悪ければそれは指導するでしょうけれども、あとは家族任せ、患者さん任せです。そこに入っていただきたいのがコメデイカル、特に栄養士さんの人たちです。NSTの必要性というのはそこから出ていると思います。ヨーロッパの学会へ行きますとkitchen dieticianという言葉がありますが、これはなかなかキッチンから出てこないという意味です。それはもう全世界共通の悩みのようです。ですから、先ほどの中村先生のお話のように、それをオーソライズした形で何とか作って、そして、栄養治療に積極的に加わっていただく。そういう人を、今回学会で始める・・学会も古くから研究会としてやっていたんですけれども、日本はシステム作りが各国にちょっと遅れをとったんです。それを各国と同じような形で、やっぱりコ・メディカルの人の、岡田先生もおっしゃいましたが、教育です。教育というのは、繰り返し繰り返しやることです。これをいかにして全国的に展開するかというのが、私に与えられた使命ではないかと思います。

<岡田>

 今の話をお伺いしますと、術後長期の管理というのは意外に盲点で、小越先生がおっしゃったのは、多分、胃の全摘などをやった患者のケアがどれぐらいされているか。一時期osteroprosisが起こるとか、貧血が起こるとか、ありましたね。中村先生のところでは、術後の長期の患者さんで、そういう栄養の相談というのはありますでしょうか。

<中村>

 あります。消化器や心臓の手術の場合、術後安定したら、退院に向けて栄養指導を受けることはルーチン化されていて、外科からの依頼は多いのです。

<岡田>

 皆そういう状態になればくるのか、それよりも一歩早い状態できているのか、そのへんはずいぶん差があるかなと思いますが、栄養士さんで、そういう術後の栄養などに関わっておられる方・・、宮沢さん、何か発言はありませんか。

<宮沢>

 うちは全症例の消化器疾患で長期管理を

<岡田>

 栄養士がやっているわけですね。

<宮沢>

 そうです。

<岡田>

 すばらしいですね。

<宮沢>

 チームということで、栄養士だけでなくて、薬剤師さんも……。

<岡田>

 それで、やっぱりやり甲斐のあったという患者さんはいますか。

<宮沢>

 8割ほどはやり甲斐があったと思っています。それは、医師の診断で余命6ヵ月といわれたのが1年に延びたとか、そういう愚者さんがありました。

<岡田>

 それはすばらしい。ありがとうございました。

<小越>

 われわれも含めて、大学病院の医者となると、手術を終わってある程度のところになると、公立病院とか、あるいは紹介してくれたお医者さんに返してしまうんですね。そこへもう任せっきりで、後の状態にうといということは、これは当然起こるわけです。宮沢さんのように、アメリカへ行って、NSTの実際のチームに加わって勉強してきた。そういう人がどんどん育って、外科医、あるいは内科医と連携しながらやっていけるだけの実力のある人が、ぜひ将来は日本でも育ってほしいと思います。学会でも、そういう問題をまず第1に取り上げて、どういうふうにしたらいいかというのを検討して成果を出していきたいというふうに考えています。

<岡田>

 ありがとうございました。その問題はそのぐらいにして、21世紀の外科栄養ということになるんですが、先生の触れられたのは、immunonutrition、pharmacological nutritionだと。それだけでしょうか。

<小越>

 どうでしょうか、何か先生言いたいようですが、追加してください。

<岡田>

 たとえば、癌のインバランスとか一。

<小越>

 あれはもう長くやっていてだめですね。結局、動物実験をやると確かに効くんです。だけど、その動物実験で使った癌に対しては、こういうインバランスが効くという、それだけで、なかなかこれを人間にもってくるとなると、今は厚生省がうるさいですからね、細谷先生を含めまして。なかなか許可してくれないんですね。ですから、このインバランスというのは、できそうでできない。本当に難しいです。

<岡田>

 わかりました。アミノ酸インバランスに関しては、そういう小越先生の評価ですが、何か反論はございますか。そうすると、そういうものですかね。その他にどうですか。1つは在宅栄養というのが最近ずいぶん普及してきましたが、その辺に関して小越先生、いかがでしょうか。

<小越>

 在宅静脈栄養研究会ですか、これは岡田先生がトップにたって苦労されて、保険の点数もとって、今日本では広がって登録制でやって進んできているわけです。一方、在宅経腸栄養研究会というのがあります。これも先ほど示しましたいろいろな方法で,病院に置いておかなくても在宅でもできる。しかも、経腸でできる。そのエレンタールを使うのを中心として、新潟大学前学長で外科医の武藤先生が中心にたって進めてこられました。その後,私が代表を引き継ぎましたが、いずれは在宅の静脈栄養,経腸栄養というものを合わせて、岡田先生と話し合って、同じ時期に、全部合併するのは難しいかもしれないですけれども、時期だけは同じ時期に同じ地方でやらないかという話がついています。それもぜひ、コ・メディカルの方々に参加していただきたいと思います。これは先ほどのDRGですか、その真似みたいなものがだんだん広がるとすると、愚者さんをなるべく早く退院させるという傾向はありますから、盛んになる分野ではないかと思います。

<岡田>

 ありがとうございました。今ちょっと触れられたように、学会、研究会が無数にあるんです。実はこれで幾つかは整理したと考えているんですが、21世紀は、この数限りなくある、しかも、横で何をやっているかみんなわからないという研究会・学会を少なくして、良いものを・・皆そこで発表しなくても、聞きにいくだけでいいというような学会、研究会が増えたらいいかなと思っています。それでは次に、NSTはもうすでに話題になりましたが、中村先生、これはぜひ言っておきたいということがありましたら、せっかくの機会でもありますので……。

<中村>

 ここ2-3年の間に栄養活動は大きな変化をし、NSTの問題もそのこととリンクしていると思っています。たとえば、栄養に関する検討委員会が、厚生省を中心にたくさんできていて、その委員長はほとんど細谷先生がなさっているのですが、まず「21世紀の栄養・食生活のあり方」、「栄養士等のあり方」、「国民栄養調査のあり方」、そして現在、栄養所要量が検討されています。これが今年の6月ぐらいにはできると思います。管理栄養士等のあり方検討委員会の報告書をもとにして、栄養士制度改正が今年中に行われる予定です。それに合わせてカリキュラムの改正も行われ、今度は食物栄養ではなく、人間栄養や臨床栄養の色彩が強く出てくると思います。つまり、NSTに参画できる資質を持った管理栄養士が育っていくと思います。これらの動きで、21世紀体制の準備期間はほば終了すると思います。

<細谷>

 薬と食べ物……。

<中村>

 そうですね。薬と食べ物の区分や関係がまだ未解決だそうです。つまり、この2-3年間、何を一生懸命検討してきたかというと、21世紀には、人間側に立った栄養が必要とされているのであり、その領域を確立して、その領域で働く人たちは一体どういう方向性を目指せばいいのかということを検討してきたわけです。そして、いよいよそれをべ一スにした新しい方法論や、システムを作って、人材の再教育をしていこうということだろうと思います。

<岡田>

 ありがとうございました。教育が非常に重要であるということが、われわれ長年やっていてわかってきたのですが、これまた本当にそういう方が育ってくる随分前に種を蒔いて育てる努力が必要で、ずいぶん時間がかかるんですね。といって、次の時代はよくなってくるだろうということで、その間のんびりやっていると、全然進歩はありません。そういうことで、これらを根づかせて、長期間にわたってゆっくり見ていくということが大事なのではないかと思います。もう時間も詰まってきましたが、細谷先生、どうぞ。

<細谷>

 小越先生が言われたimmuno-nutrition、pharmacological nutritionは、大事なことです。栄養問題に取り組んでいる人たちは、このことに関心を持っていただきたいと思います。先ほど申し上げましたが、効能・効果を謳うと薬というのは、どういうことなのか。その根拠は何なのかということを考えていただきたいわけです。Physiological effectとpharmacological effectは、誰が何を基準にして、あるいは何を根拠にして決めているのか。栄養の教科書には、たとえば、ビタミンCが欠乏したら壊血病になり、ビタミンCを摂れば壊血病は防げるし治療することも予防することもできると、どの教科書にも書いてあります。それなのに、ビタミンCについて、こうした効能・効果を謳うと薬扱いされて、薬事法違反になります。一体これは誰のための規制なのか考えていただきたいわけです。欠乏症に対しては、ビタミンもミネラルも、あるいは、三大栄養素もphamacoiogical effectはあります。過剰の場合には、逆の効果もあるわけです。そこで、immuno-nutrition、pharmacological nutritionは、どこに線を引くかということが非常に重要になってきます。欠乏症に対して、栄養補給すれば、その効果は出てきます。そこに医学と医療の問題、栄養学と栄養の実際活動の問題ということで、21世紀はそれをどのようにしていくかという課題があります。一方、摂取基準の問題もあります。今一番問題を投げかけているのは、基礎代謝です。これは一体何なのかということです。基礎代謝という概念は1920年代の初め頃に出されたものです。その時に、basal metabolismと同じようにbasal blood pressureというものも提案されますが、basal blood pressureというのはおかしいということで、立ち消えになっております。それにもかかわらず、基礎代謝は現在でも使用されています。基礎代謝は、生きていくための最小のエネルギー代謝と言いながら、睡眠中は基礎代謝が一10%となるとしています。すると、睡眠中は生きていない状態ということになってしまいます。そこで欧米では、基礎代謝を基準にしてエネルギー代謝を求めないで、安静時エネルギー代謝(resting energy expanditure、REE)を測定しています。これを携帯用簡易熱量計で実際にみますと、±25%の標準偏差のあることが解ってきました。糖尿病患者に指示カロリーを示す場合に、このことは重要なことだと思います。ですから、安静時エネルギー代謝量を測って、それに見合ったエネルギー補給をしないと、何をしているのかわからないことになります。このことは外科の先生方は術前術後の問題として取り組まれています。このことに対する取り組みの見直しも、21世紀の栄養学の一番基本的な問題だと思っています。

<岡田>

 非常にinformativeなお話をありがとうございました。だいたい時間もまいりましたが、松沢先生のまとめに入っていただく前に、本学の栄養学の宮崎教授が来られていますので、一言ご発言をお願いします。

<宮崎>

 第200回記念のCNCの特別企画「21世紀の臨床栄養」ということで参加させていただきまして、どうもありがとうございました。歴史的なことから現在の問題点、離婚問題もありましたが、それから、未来の栄養学について、非常に広い視野からお話をいただきまして大変勉強になりました。もともと栄養学というのは、栄養素の欠乏、あるいは広い色々な栄養素の全体的な欠乏ということの研究から始まったものと思いますが、幸いに日本は確かにそういう問題が非常に少ない時代になってきていますげれども、人間あるいは生物に対するインプットということから考えて、栄養というのは一番メジャーなもので、今後重要性が減っていくことは全くないと思います。今日のお話を伺って、まさにその意を強くしたわけです。われわれは基礎研究をやっておりますので、そういうものをどういうふうに生かしていくかという観点から拝聴させていただきましたが、最近、糖質代謝、脂質代謝、食欲調節について、非常にいろいろなことが、分子レベル、遺伝子レベルでわかってきておりまして、今日のお話を伺いだから、それを21世紀の臨床栄養に何らかの形で生かしていかなければいけないし、そういうことに参加できれば非常に幸いだなという思いをいたしました。正月早々、21世紀に対して明るい夢を聞かせていただいたのではないかと思います。どうもありがとうございました。

<岡田>

 宮崎先生、どうもありがとうございました。それでは松沢教授からお願いします。

<松沢>

 まとめるといいましても、大先生ばかりのお話を私のようたものがまとめるというのは、まことに僭越ですが、今日は非常に基本的た栄養学のあり方について、特に細谷先生にはevidence based nutritionというのをこれからやっていかなければならない。だから、food basedであるというよなたメッセージもいただきましたし、近藤先生は、それをもとにやっていらっしゃるというか、われわれ内科系の栄養学と、岡田先生、小越先生の外科系の栄養学では若干フォーカスが違いますが、基本的にはべ一スは同じで、evidence basedでやっていくということで、小越先生のお話は、われわれは岡田先生が始めた頃からのことも一緒に経験してきたし、TPNというか、われわれのジャンルの高脂血症の治療に応用されて,非常にいいデータが出たこともあったことを思い出しながら聞いておりました。中村先生からは、そのチームの話、nutritional supporting team(NST)ですか、これは非常に大事な、アメリカのような進んだところあたりで使うわけですが、それを早く導入しなければならないというメッセージをいただきました。最後に岡田先生もいわれたように、immunological nutritionとかいうことも含めて、今われわれのところでも炎症性腸疾患などというのは食べれば絶対悪くなり、食べなければ確実によくなるというような、そういう問題点ですら、まだ分子メカニズムがわかっていない。そういうことを日頃患者をみながらいつも思っているわけです。宮崎先生が最後におっしゃいましたように、21世紀にかけては、いわゆるpureなmolecular biologyというか、何か1つのもので1つの病気が起こるというのではなく、組み合せで色々な病態が起こるとか、あるいはetiologicalに色々組み合せが作用するということで、そういう中で栄養学というのは非常に重要なpositionである。その栄養学を通じて、多くの生体現象などが解明されていくのではないかということを考えながら、このパネルディスカッションを終わりたいと思います。、