なぜ、栄養アセスメントが必要か


栄養アセスメントと栄養士業務

聖マリアンナ医科大学病院栄養部長 中村丁次

1, 栄養アセスメントの歴史
 
栄養アセスメントとは食事調査、身体計測、臨床検査、さらに臨床診査等から得た主観的・客観的情報により、個人やある特定集団の栄養状態を総合的に判定することである。つまり、栄養の介入をする対象者の栄養状態を評価、判定することであり、栄養指導や栄養補給にはまず必要なプロセスだといえる。栄養アセスメントの議論は、第二次世界大戦後、アメリカが食料援助を行う相手国の栄養状態を知るために行われたのが最初だといわれている。つまり、栄養アセスメントは公衆栄養学的観点から出発したことになる。しかし、1960年以降は、医療における栄養補給法の進歩に伴い、ハイリスクな患者の栄養状態の評価方法として体系化され、臨床分野で活発に議論されるようになる。ところで、1970年代、アメリカの栄養士は国民から大きな問題を突きつけられたことがある。最新の医療技術を有する大病院の入院患者の多くが、栄養不良であることが報告されたからである。しかも、このことにより治療効果が低下し、入院期間を延長していることが分かったのである(表1)。

 当時、hospital malnutritionと呼ばれた。学会での報告は一般雑誌にも紹介されて社会間題化した。世界一豊かな食生活を自負し、最高の医療技術と優秀な栄養士を有するアメリカの大病院において、入院患者が発展途上国の国民と同じように栄養失調で悩んでいたのである。この現実にアメリカ国民は大きな衝撃を受けた。その後、アメリカの栄養士たちは、病院や福祉施設での食事の改善に取り組むと同時に、臨床栄養分野の研究と実践に大きな力を注ぐことになった。中でも特記すべきことは、@栄養状態の評価法、A経口摂取できない場合の栄養補給法の開発と体系化、B栄養士のベッドサイドヘの進出と臨床栄養業務の確立、C臨床栄養士の養成、チーム医療の展開、D栄養補給チーム(NST)の形成等に多くの努力を費やし、成果を上げていったのである。

 

表1 医療・介護における栄養障害の問題点
1) 摂取量の低下はより、エネルギー・たんぱく質欠乏症、あるいはビタミンやミネラルの欠乏症等の栄養欠乏症が現れること。
2) 栄養欠乏症になれば免疫力は低下し、病気の回復が遅れたり、合併症を起こしやすくなること。
3) 栄養状態の悪化により、病気の回復が遅れたり、合併症を起ごせば全身の抵抗力が低下し、薬物使用が増大、入院日数が長くなり、結局、医療費が増大すること。

 

2,わが国の現状世界中の栄養士や栄養学者が共通に信じている大原則がある。それは、「人の栄養状態を良くすれば、健康の維持・増進、疾病の予防や治療、さらに再発防止に貢献できる」ということである。したがって、人の栄養状態を良くすることは、栄養関係者の最終目標であるといってよい。栄養士は、このために栄養指導や給食管理を行っていることになる。では、現在、私たちが行っている業務の中で、人の栄養状態を見ていることがあるだろうか。もし、栄養士自身が見ていないとしたら、医師や看護婦等、他の職種が代わりに栄養状態を評価しているのであろうか。すべてとは言わないが、答えはほぼ「ノー」である。

 わが国の栄養介入の方法は、健康人に対しては、栄養所要量を満足させるための食品構成が作られ、これに沿って栄養士が献立を作り給食管理が展開され、栄養所要量を満足する食品選択が対象者自身でできるように栄養指導を行ってきた。一方、傷病者については、医師が病状を改善するための指示栄養量を示し、それを満足させる献立を提供すべき給食管理が行われ、このことを患者自らが実践できるように栄養指導が行われてきた。残念ながら、これらの過程にはいずれも対象者の栄養状態を評価、判定する作業は含まれていない。いわば、今までわが国で行われてきた給食管理や栄養指導といった栄養の介入業務には、栄養アセスメントという過程が欠落していたのである。栄養士業務の最終目標が、「対象者の栄養状態を改善すること」にありながら、栄養士は栄養状態を評価、判定する意義や具体的方法を十分修得していなかったといえる。管理栄養士・栄養士とは、いったい何をする人なのか、何の専門家なのか、何をすることによって社会に貢献できるのか。料理、献立、食、これらを良くする知識や技術を修得することは必要である。しかし、これらだけで国民の栄養状態や健康状態を良くすることができるのだろうか。食品選択や食事内容の提供が良くても、核となる栄養状態の改善は未解決のまま残存するケースが存在するのである。栄養アセスメントの問題は、栄養士にこのような基本的課題を提起している。20-30年前、アメリカの栄養士が、給食管理に努力しても栄養失調患者が出現する現実に直面し、栄養管理体制を抜本的に改正していったように、栄養アセスメントの問題は、今後、わが国の栄養管理体制や栄養士業務の基本的なあり方に発展することは間違いない。

 

3,栄養アセスメントの方法
 栄養状態を知る方法には、以前からいくつかのことが検討され、実際に行われている。例えば、食欲の有無や体重変化がある。食欲があれば摂取量は多く、体重が多げれば十分食べられているので、いずれも栄養状態はよいだろうと評価する。ところが、
食欲の有無は単に食物の摂取意欲を見ているに過きず、たとえ、摂取量が多くても消費量や利用効率に影響を受けるので、このことだけで栄養状態を判定することもできない体重の増減も、骨格、筋肉、体脂肪、水分の合計した変化を見ているので、これらの内容がどのように変化しているか分からないのであり、体重の変化だけでは、どのような栄養素の過不足が生じているのかを判定することは困難となる。一方、以前から食事調査によって対象者の栄養状態が分かると考える人も多い。食物摂取状況調査を行い、摂取栄養量を食品成分表の値を参考に計算し、栄養所要量や医師の指示栄養量と比較し、その充足率を求めて評価する方法である。簡易方法やコンピューターを用いた多くの種類が開発されている。しかし、この方法はどのように精度を高くしたとしても、結局は食物の成分が体内へ取り込まれる前の食物における栄養素含有状態を評価しているにすぎず、体の栄養状態を見ているわけではない。しかも、@食物摂取の実態把握が極めて困難であること、A同一食品でも、食品成分表値が種や季節、地域、さらに調理法により誤差が生ずること、B基準値としている栄養所要量が必ずしも個人の適正量ではないこと、C栄養状態は、摂取量だけでは判定できず、個人の持つ消化・吸収率、代謝率、さらに利用効率等(表2)により異なること等から、この方法だけで栄養状態を評価することは不十分だということになる。

 

表2 栄養状態の悪化をもたらす要因
1)不適当な栄養素の摂取
2)不適当な栄養素の消化、吸収
3)栄養素の利用効率の低下
4)栄養索の損失の増大
5)栄養素の必要量の増大

 

 一方、臨床の場では臨床検査により人の栄養状態が評価できると広く考えられている。しかし、臨床検査は微量の血液や尿の成分で栄養状態を評価しようとする試みであり、これらのパラメーターだけで全身の栄養状態が評価できるわけでもない。例えば、血液の成分値は臓器や組織からの栄養素の導入により恒常性が維持されていることが多く、組織、臓器さらに細胞内の栄養状態が変化していることは多い。 以上のことから、現在、栄養状態を評価、判定する方法として、栄養アセスメントが体系化されてきた。栄養アセスメントは食事、身体計測、臨床検査、さらに臨床診査を主たるパラメーターとし、これらの英語の頭文字を並べるとABCDということになる

1.身体計測(Anthmpometricmethods)
2.生理・生化学検査(BiMhemical methods)
3.臨床診査(Cinical methods)
4.食事調査(Dietay methods)

 これら個々のパラメーターは、測定個所や観察内容が異なっているので、把握している栄養状態の内容が異なっている。つまり、人の栄養状態とは栄養素の摂取、消化、吸収、代謝、貯蔵、排泄等の変化を抱括的にみているのであり、これらのパラメーターが、それぞれどの状態を表現しているのかをよく理解して評価する必要がある(表3)。

 

表3 各測定項目が示す栄養状態
A 身体計測:体構成成分、各組織における栄養索の貯蔵状態
B 生理・生化学検査:各組織・臓器の栄養状態および機能状態、栄養素が臓器間を移動している状態
C 臨床診査:栄養障害による自他党症状の調査,観察、既往歴、原病歴、体重歴
D 食事調査:エネルギーおよび栄養索の摂取状態

 

4,栄養アセスメントと栄養士業務
 医師は病気を診断する、看護婦は看護診断をする、そして、
管理栄養士は栄養アセスメントにより栄養状態を評価、判定する。このように役割分担ができようとしている。栄養士が栄養アセスメントを勉強しなければならないことは容易に理解できる。今回、栄養士法改正により管理栄養士の業務が「複雑困難な業務」から明確に3つの領域に定義された。

*傷病者の栄養指導

*生活習慣病の予防としての保健指導

*給食管理

 これら3領域は、病人へ食事療法の指導、保健所や事業所、さらに学校での健康人や半健康人への指導、そして給食管理と、一見、今までの業務と何も変化していないように思える。ところが、管理栄養士の定義に強調されていることは、どの領域においても、これらを進めるに当たっては、対象者の健康状態と栄養状態を評価しながら実行する点である対象者の栄養状態を評価するには、当然身体の構成内容や栄養素の代謝を理解する必要があり、その業務は対人業務となる。つまり、業務の最終目標は人の栄養状態を改善することに設定されているのであるこのことを考慮し、第六次改定日本人の栄養所要量では、許容上限摂取量との幅で設定され、栄養状態を評価しながら個人の適正量を設定する方法がとられた。給食においても、従来のように利用者の加重平均栄養所要量を算出し、これを満足させる食事の提供だけではなく、この量の対象から外れた者に対しては、栄養状態を評価しながら、個々に栄養管理をすることが提起されたのである。ところで、わが国を除きほとんどの国の病院や福祉施設にはクリニカルダイエティシャン(Clinical Dietitian;CD)と呼ばれる栄養士が常駐し、患者の臨床的な栄養管理を担っている。傷病者が入院や入所すると、CDは24時間以内に面接し、嗜好、摂食能力、食習慣、簡単な栄養状態を調べ栄養のスクリーニングを行う。そして、リスクの高い患者に栄養アセスメントを行い、栄養管理プランニングを立て、積極的に栄養管理に参画しているのである。実は、わが国では、このCDに相当する専門家を養成していないし、総合的な栄養管理システムも構築されていない。栄養管理システムの構築、CDの養成、さらにこれらを支える医療保険制度の見直し等は、私たちが取り組まなければならない、今世紀初頭の最大の課題だといってもよい。

 


栄養アセスメシト その意義、方法、そして課題 

独立行政法人国立健康・栄養研究所臨床栄養管理研究室長 杉山みち子

 

1,定業
 
栄養アセスメントは、臨床診査、臨床検査、身体計測、食事調査などから得た情報によって、個人あるいは特定集団の栄養状態を評価・判定することである。

 

2,意義
(1)低栄養状態(あるいは過剰状態)を評価・判定する。
 通常、正常な栄養状態が、欠乏状態あるいは、過剰状態へと移行する過程には、潜在性の栄養素欠乏状態あるいは潜在性の栄養素過剰状態が存在する。このような栄養状態の移行過程においては、まず生化学的な変化が起こり、ついで、生理学的な変化が起こる。この段階は可逆的であるので、薬物治療に依存しなくても、適正な栄養ケアによってよりよい栄養状態の維持、あるいは回復ができる。栄養アセスメントによって、このような栄養状態の移行過程を、評価・判定する。

(2)適正なプラン策定のための情報を提供する。
 適正な栄養ケアプランを策定するための情報を提供する。これは、集団を対象とした栄養施策を策定する場合も同様である。

(3)再アセスメントによって効果評価をする。
 栄養ケアプランの実施後には、再アセスメント(モニタリング)を行い、その効果を評価する。設定された目標値までの改善がみられなければプランや施策を修正する。栄養状態が改善されれば、関係者で協議し介入計画は終了する。また、適応状態や代謝性合併症などの問題のチェックも行う。再アセスメント期間は、各栄養指標によって異なる。血液生化学的指標では、その半減期以上の日数が必要である。なお、個人を対象にした場合にはモニタリング、集団を対象とした場合にはサーベイランスという。

(4)アウトカムを予測する
 栄養リスクとは、不十分な栄養状態のために生じる不適切な栄養状態や不健康状態のリスクをいう。単独あるいは複数の指標が用いられる。栄養ケアとマネジメント(Nutrition Care and Magement;NCM)では、栄養スクリーニングによって描出された栄養リスク者個々人に栄養アセスメントが実施される。
栄養スクリーニング指標は、合併症死亡率、ケア必要度、平均在院日数などのヘルスアウトカムを予測できるかどうかが、各疾患別に検討されている。高齢患者では、総タンパク質、血清アルブミン、リンパ球数は、術後合併症併発の特異的、高感度な予測指標とされ、内科患者では、アルブミンとヘマトクリットは、平均在院日数の長期化を予測する指標で、老人病棟患者では、血清アルブミン値3.5g/dl以下、および腎・肺疾患が、合併症併発率と強く関連し、急性期病院の平均在院日数の短い患者では、プレアルブミン値が、栄養ケアプランの適正性の指標とみなされている。一方、体重減少率は、老人病棟患者の再入院率、退院1年以内の死亡率に関して極めて高感度の予測指標である。さらに、複数の栄養指標や、栄養指標に免疫指標を加えた包括的指標も作成され、その有効性が検討されてきている。

(5)食品の質の評価を行う
 FA0/WHO Codex AlimentariusC ommission(1995年)合同食品規格委員会では、食品のnutritional quality(栄養の質的評価)を定義し、これには、利用効率bioavailabilityとたんぱく質、脂肪、炭水化物の摂取比率(PFC比)が大きく関与している。
利用効率、体内代謝を考慮した食品の質の評価は、食品の有効性を「ひと」側面から、栄養アセスメントを用いて評価することである

 

3,方法
 
臨床診査、臨床検査、身体計測などによる直接的な栄養状態の評価・判定の成果は、食事調査のような間接的な栄養状態の評価・判定の成果よりも優先的に検討される

(1)臨床診査(clinical methods)
 
低栄養状態と関連した症状や主訴を、病歴聴取やフィジカル・アセスメント(physical assessment)の手法を用いて評価・判定すること医師の診断ではないため「診査」という。兆候や症状には、ときには非特異的ではあるが、欠乏状態が進行すると出現してくるものもあり、見落とさないように栄養の視点から、臨床症状が出現する前の身体兆候や、訴えなどを把握することが必要になる。米国では、現在、栄養に関する身体状況やバイタルサインなどを観察する、フィジカル・アセスメント技術が、栄養士の研修課題として取り組まれている

(2)身体計測
 身体各部の計測や体組成を観察すること。人体の構成成分は栄養状態によって変化するので、
身体計測値から、たんぱく質とエネルギーの貯蔵状態を知ることができる身長、体重、上腕周囲長、下腿周囲長、上腕三頭節皮脂厚、肩甲骨下部皮脂厚などを計測する。非侵襲的で安価に簡便に実施できるので、体重、脂肪厚、筋タンパク質の指標である上腕筋面積などを定期的に、経時的に測定し、栄養状態の変化を評価・判定していく。しかし、計測方法の基準化、誤差の標準化を行い計測の精度を高めることが必要である。1996年から、厚生省老人保健事業推進等補助金研究「高齢者の栄養管理サービスに関する研究」(主任研究者:松田朗)において、米国Ross研究所の手法を取り入れてケア高齢者の身体計測手法が検証され、全国のケア対象ならびに自立高齢者2550名の身体計測が実施された。これが契機となって、従来よりも簡便な皮下脂肪計(アディポメーター)、メジャーテープ、身体計測マニュアルなどが実用化され、ケア現場での利用が推進されている。さらに、2001年には日本栄養アセスメント研究会において、森脇らによって当手法を用いた身体計測基準値策定が行われた。

(3)臨床検査
 
生理学的、生化学的検査法を用いて、栄養状態を反映する血液や尿中の成分、さらに生理機能を評価する方法である。臨床症状が出現する以前の潜在的な栄養素欠乏状態、あるいは潜在性の栄養素過剰状態を評価・判定できる。また、特定の栄養素欠乏や代謝異常を検出することができる。たとえば、ケア現場において高齢者のたんぱく質・エネルギー低栄養状態(Protein-EnergyMalnutrition;PEM)を評価・判定する栄養指標としては、急性期ケア現場で利用される半減期の短いタンパク質指標ではなく、むしろ半減期の長い血清アルブミン値が適切である。また、評価・判定のカット・オフ値も、臨床診断の段階ではなく、経口的な栄養補給(食事、栄養食品の利用)による栄養改善が期待できる段階(PEMの中等度リスク:血清アルブミン値3.5g/dl以下)で評価・判定される必要がある。また、個々人のエネルギー消費量に見合ったエネルギー補給量を算出するために、1996年、携帯用簡易熱量計が実用化され、安静時エネルギー消費量の実測がケア現場に普及してきた。

(4)食事調査
 栄養素欠乏状態(あるいは過剰状態)の最初の段階は、食事調査によって推定される。この段階では、1つあるいはいくつかの栄養素の食事からの供給が不十分であったり、また、基本的に欠乏したりしている。しかし、この場合の摂取栄養素の欠乏状態には、たとえ、食事から栄養成分摂取量が、生体側の栄養素必要量に見合っていたとしても、
関連する要因(ある種の薬剤、食事成分、疾病状況など)が栄養素の消化・吸収、利用、排泄を障害していることもある。そこで、食事調査は、間接的な栄養状態の評価方法とみなされている。食事調査には、いくつかの方法があり、それぞれに特徴があるので、目的に応じて使い分ける。個人の習慣的摂取を聴取するためには、食物摂取頻度調査が使われる。また、ケア現場で、簡便に食事摂取状況を評価・判定するには、「簡易喫食率調査表」、「簡易食物摂取状況調査」も利用することができる。

 

4,今後の課題
(1)栄養アセスメント手法の開発
 栄養アセスメント手法には、簡便に利用可能(available)、費用がかからず(affordable)、しかも、正確(aMurate)で、精度が高い(prMise)ことが求められる。前述の「高齢者の栄養管理サービスに関する研究」においても、安価で簡便な栄養スクリーニング指標の検討や、身体計測機器、携帯用簡易熱量計、食事調査法など、専門職の誰も活用できる手法の開発に取り組んできた。しかし、栄養アセスメントのための簡便で安価な機器や調査表、検査手法の開発がさらに求められている。また、血液採取の困難なケア現場も多いことから、自己採血法、唾液、尿などを用いた非侵襲的な検査方法の開発が期待される。そして、これらの栄養アセスメント手法については、妥当性,再現性の検証が必要である。

(2)評価・判定のためのエビデンス
 栄養アセスメントに基づいて、どのように栄養状態を評価・判定したらよいのか、その基準値、境界値に関する科学的根拠は十分とはいえない。従来は、標準となる集団に対して十2SD以上、あるいは90%パーセンタイル以上の測定値を異常値とみなし、これを下回る値を正常値としてきた。しかし、この値は、あくまでも分布による相対的な線引きでもあった。すなわち、正常値内の者がすべて正常者ではなく、異常者と判定された者すべてが真の異常者でもない。そこで、その後、
正常値を基準値として、測定値から生理的あるいは臨床的な異常の有無を判定する値、カット・オフ値を感度(真の陽性を検出できる力)、特異度(真の陰性を検出できる力)などを導入して設定することが必要になっている。また、臨床医に臨床検査からの診断にevidence based medicine(EBM)の知識・技術が求められていると同様に、栄養アセスメントの評価・判定においてもEBMの導入が必要である。栄養アセスメントの各指標の、カット・オフ値設定には、身体的機能低下、臨床症状や兆候の出現、合併症、死亡率、日常生活動作度の低下、要介護度の増大、平均在院日数の延伸などの出現が予測できるかどうか、栄養ケアによって改善できるかどうかの両者から検証される。この場合の栄養ケアは、静脈栄養よりは経腸栄養、経腸栄養よりは経口栄養、流動食よりは通常の食事が優先的選択順位である。すなわち、できるだけ早期に効率的栄養ケアを実施し改善できることが重要である。たとえば、術後の合併症が発症してから、あるいは、褥瘡や浮腫が発症する段階で、初めて栄養ケアが実施されたのでは遅いといえる。さらに、栄養アセスメントの評価・判定は、性、年齢、日常生活活動度(日常生活自立度、要介護度)、疾患、閉経有無別などに検討される必要がある。このような対象者特性によって、検証されるべきヘルス・アウトカム項目は異なり、出現までの期間も異なる。さらに、栄養アセスメント情報をもとにした栄養ケアブランの策定では、個々の症例別に改善目標が設定されるが、この場合、傷病者は、健康な成人男女の基準値を目標値に設定することはできない場合が多いので、傷病者でのエビデンスの収集が必要となる。また、患者と栄養の専門家が短期的・長期的に達成、維持可能と判断した適正(adequate)な目標を設定していくことが必要になる。この適正な目標値は、個人の身体状況や栄養状態によっても変動するものである。

(3)データ・べ一スとガイドライン作成
 栄養アセスメントの評価・判定とその後の栄養ケアプランの作成のためには、対象者の特性別(性、年齢、日常生活活動度(日常生活自立度,要介護度)、疾患など)に各ケア現場毎に、さらに、これを収集して全国規模のデータ・べ一スを作成し、これに基づいたガイドラインの作成が求められる。

(4)普及のためのシステム化
 (3)の推進のためには、まず、個々のケア現場において栄養ケアとマネジメント(Nutrition Care and Mamgement;NCM)がシステム化されており、栄養アセスメントが実施されることである。また、そのための知識・技術、マネジメント手法の取得が必要である。また、すでに実施されている栄養アセスメントについては、その精度、対象者のニ一ズに適正か、ムリ、ムラ、ムダが生じていないかどうかなど、継続的な質の改善(Continue Quality Impmvement;CQI)を実施していくためのシステム構築も必要になる。たとえば、栄養アセスメントに関するスーパー・ハイザーの育成も必要となる。また、米国医療提供組織認定合同委員会JCAH0は、栄養アセスメントの実施を病院評価の基準に加えたが、ヘルスケアの現場が実施する栄養アセスメントに関して、質の評価・監視機構も必要である。

5,おわりに
 わが国のケア現場でも、
クリティカルパスの作成に取り組まれるようになった。しかし食事・栄養の項目に、栄養アセスメントや、その項目が記入されていることはほとんどないのが現状である。本来栄養アセスメントに基づかない栄養ケア計画もその実施もないはずである。クリティカルパスは、栄養アセスメントをその一部として構成するNCMを導入して作成していくことが必要である。米国において、近年行われた医療経済学者による全国規模の栄養ケアに関する平均在院日数の検証から、急性期病院において入院3日以内にPEMの栄養リスク者に栄養ケアを導入することによって、平均在院日数は2.1目減少し、これを1年間行うと、1床当たり$8294削減されることを明らかにしている。それゆえ、早期に栄養スクリーニング、栄養アセスメントを実施し、効率的な栄養ケアに取り組むことの医療経済的意義は極めて大きい。

 


検査値に基づく栄養アセスメント

せんば東京高輪病院栄養管理室長 足立番代子

 

1,はじめに
 栄養管理とは、患者の栄養状態を的確に評価・判断してよりよい栄養状態を維持していくことであり、それにはまず、個々人の情報を的確に集めて、観察し、健康を増進・回復・治療するために栄養状態がどうなっているかの評価を行わなければならない。ここでは検査値を読むための留意点と、よく利用する検査項目の見方を記述する。

2,化学的検査を読むための留意点
1)
重症度とは一致しない基準値・異常値
 基準値内でも疾病である場合もあれば、肝不全では、基準値を若干上回る程度でも重症なことがある一方で、脂肪肝やアルコール多飲で異常な高値を示しても、重症度を示さない。

2)検査値の信頼性を確認
 検査値は、患者の体調、検査ミス、脱水、見掛け上の数値あるいは高値、飲食後、運動後などによって数値に変化が出現する。そのため、経時的に観察して異常な変動・空腹時の測定・検査前の極端な水分制限・下痢や嘔吐はなかったかなどを確認する必要がある。

3)生理的要因による変動をみる
 高齢者では、脱水と腎機能の低下から尿素窒素(BUN)が高めになりやすいし、クレアチニンクリアライス(Ccr)も低めになる一方、血清総タンパク質(TP)・アルブミン(Alb)は、若干低くなる。また、高齢の女性では、骨粗鬆症気味になるとアルカリフォスファターゼ(ALP)が高めになるほか、血清鉄(Fe)が減少するためHbが低めになるので、年齢・性をみて評価する。

4)見かけ上の異常を見抜く
 AlbはC反応性タンパク質(CRP)が高値で低く現れ、脱水では高めになる。また、血清ナトリウム(Na)は、高血糖や高脂血症・高タンパク血症、浮腫などで低めになるが食塩不足ではならない。糖尿病では、ビタミンC服用後に血糖値を測定すると低めになり、グリコヘモグロビン(HbA1c)は、ヘモグロビン(Hb)が低値のときに低めに現れるので、血糖コントロール指標にならない。

5)脱水で変化する検査
 TP・Alb・BUN/クレアチニン(Cr)・ヘマトクリット(Ht)/Hbは、脱水により高くなりやすい。脱水を判断するには、高血糖あるいは飲水不足や利尿薬投与過剰、発汗や下痢、熱傷や風邪があるかの順に考える。特に高齢者では脱水が生じやすいので、Albの観察には十分留意する。

6)検査値は「性別・年代別」に時系列で確認
 基準値内でも、性別・年代別に基準値上限あるいは下限かを経時的にみると、飲食の関係がみえてくる。血清総コレステロール(TC)は、「基準値内だが年齢のわりに高い」とか、「閉経後の女性だからこの程度でよい」とかなどを考えながら観察する。

7)検査値に影響する飲食を知る
 ガンマーグルタミルトランスペプチダーゼ(γ一GTP)・アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)・アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)・中性脂肪(TG)・アミラーゼ・Hb・尿酸値(UA)、ときに乳酸脱水素酵素(LDH)などは、飲酒の影響を受けて上昇しやすいが、個人差もある。中でも飲酒の影響が多いことで知られるγGTPは、個々には飲酒量と並行して増減するが、飲酒量とは必ずしも一致しない。また、TGも飲酒量が多いと増加しやすいが、γ一GTPが高くなっても上昇するとは限らないので、関連する複数の検査値を組み合わせて判断するようにする。

8)異常値でも活用しない検査値は除く
 異常値でも活用しない検査を見分けるには、関連する検査項目が複数異常値であるかをみたのち、症状の出現があるか、過去・未来を経時的に確認し、意味のない検査値は除いてみる。

9)薬物の副作用と効果をみる
 薬物は、市販の風邪薬・座薬・歯科での鎮痛薬などでも副作用が生じることがあるので、聞き漏らさないようにする。副作用をみつけるには、経時的な摂取栄養素量に変化がなければ、検査値の変動が薬物変更・追加に影響しているかを、前後の値でみていくと分かる。

3,血清タンパク質と総リンパ球数(TLC)
 栄養指標とする血清タンパク質には、Alb・トランスフェリン(Tf)・プレアルブミン・レチノール結合タンパク質がある。このうちAlbは半減期が20日前後と長いので内臓タンパク質を必ずしも正確には示さないが、長期間の低栄養や病態評価に使えるのが利点である。Alb値が2.8-3.5g/dlでは軽度の低栄養、2.1-2.7g/dlでは中等度低栄養、2.1g/dl以下では重度低栄養と評価する。ただし、低Alb血症は肝疾患・ネフローゼ症候群など疾患によるものか感染症・術後・代謝ストレスのかかる病態・たんぱく質摂取の低下によるたんぱく質エネルギー不良状態あるいは吸収不良病態などの疾患を、丁寧に観察して栄養評価・計画を行う。Tfは、低栄養の評価にはアルブミンより感度が良いが、一般病院ではあまり測定されないので、Tf(mg/dl)=O.8xTIBC(総鉄結合能)(mg/dl)一43TIBCからの予測値を出すこともある。エネルギーとたんぱく質不足のマラスムスでは、Alb・Tfが正常であることが多いが、たんぱく質不足のクワシオルゴールでは、Alb・Tfが似値になる。免疫指標であるTLCは、アルブミンの低下に伴い低下するが、白血球数(WBC)が増加する疾患やがん・代謝ストレス・ステロイド投与・術後では、栄養指標として利用できない。低栄養状態の指標値であるTLC1500mm3未満から注意深く観察する。

4,肝機能の検査
 AST・ALTは、ともに細胞が変性・破壊すると逸脱して上昇するが、値の大きさと重症度とは一致しないので、疾患別に個人の経時的変化をみていく。AST・ALTはアルコール・過栄養・夕食過食・油脂の過剰・肥満などによる脂肪肝でも上昇するが、肥満程度では3桁になることはない。ALTは分子量がASTより大きいので、検査直前の飲酒制限では、AST・γ一GTPが低下してもALTは下がらない。そのため、AST/ALTでみるが、O.87よりはるかに低い場合は、検査直前の飲食制限が分かる。γ一GTPは膜結合酵素であり、各種肝疾患・アルコール・肥満・薬物の副作用で上昇する他、夕食過食でも上昇することがある。飲酒習慣がないのにγGTP・AST・ALTが高い人は、BMI28以上の相当な肥満体質か夕食や夜食の過食であることが多い。

5,血清脂質の検査
 TCをみる時には、低比重リポタンパク質(LDL)の値が重要であり、LDLはTG400mg/dl未満であればTC-HDL-TG×O.2で計算し、45歳男性・閉経後女性・高血圧・糖尿病では120mg/dl未満、冠動脈疾患があれば100mg/dl未満を目標にコントロールする。TCが高値の場合は、遺伝・妊婦・ネフローゼ症候群・糖尿病・甲状腺機能低下症などの疾患、薬物の副作用がなければ、肥満・食事内容の順に確認する。食事は、「肉・卵・乳製品・洋菓子が多い一方で、大豆類・脂肪魚・緑黄色野菜や海草が450g以下と少ない」など、摂取量の過不足から「飽和脂肪酸・コレステロールの過剰」、「大豆たんぱく質、食物繊維20g以下の不足」を探っていく。TCが似値の場合は、低栄養がありうるので、血清タンパク質・TLCなどを併せて判断する。TGは、エネルギー過剰分が脂肪組織に貯蔵され、肥満・夕食過食・アルコール・糖質(砂糖・果糖・砂糖入り飲料など)・油脂過剰の影響を受けやすい。TGは短期間の飲食の影響で変動し、γ一GTP以上に前日の飲酒の影響が出るので、肥満がなくTG・γ一GTP・ALTがともに高値であれば、飲酒習慣が推測できる。なお、高血糖・ネフローゼ症候群などが多くの疾患で高値になるので、複数の検査値を関連させてみる。HDL(高比重リポタンパク質)は、末梢から肝臓ヘコレステロールを逆転送する作用があり、脳血管障害予防のためには50mg/dl以上が望ましい。HDLが似値の場合の見方は、疾患による影響がなければ、「肥満」、「動物性たんぱく質の不足」、「リノール酸偏重」、「急激なアルコール制限」、「喫煙」、「運動不足」などの順に患者に確認する。

6,糖尿病の検査
 血糖値は夕食過食・夕食が遅い・検査直前の飲食過剰などで影響するが、HbA1cは、直前の節食の影響は受けず、過去1-2ヶ月間の血糖レベルを推測するので、Hbが低値でなければ血糖コントロールのよき指標になる。HbA1cの高値は、「夕食過食」、「日によるエネルギー摂取量のムラの頻度」、「糖質偏重の食事」などが多いことを意味する。1,5AG(アンヒドログルシトール)は、糖の排泄が多いと尿中に排泄されるので、食後過血糖をよく反映する一方で、採血の10日前くらいからの血糖値を反映する。直前の飲食に影響されず,特にHbA1cが6-9%の範囲では、鋭敏に威力を発揮する。1,5AGが低値を示している場合は、HbA1c・FPGが良好な値でも、食後過血糖の頻度が多いことになる。すなわち、「1食のエネルギーが多い」、「果物・ジュースが多い」、「穀物のみの食事」、「毎食、食物繊維が摂れていない」などを確認する。わずかな上昇を見逃さないので、HbA1cより食事療法の評価がしやすい。IRI(血中インスリン濃度)、インスリン分泌量であり、CPR(C一ペプチド濃度)は、インスリン分泌の変動をみるものであり、インスリン注射を行わねば血糖値が下がらないことが分かる。微量アルブミン尿は、糖尿病性腎症の早期発見に役立つ。

7,UA
 UAは、核酸・プリン・ヌクレオチド代謝の最終産物であり、尿細管で再吸収されるので、慢性腎不全があると上昇する。UAが高値の場合は、まず腎機能障害を確認したのち、薬物の副作用・肥満・飲酒やプリン体の過剰・急激な減量・激しい筋運動・水分不足・薬物の副作用の順に原因を見つける。UAが高く、γ一GTP・TGのいずれか、あるいは双方が高値の場合は、飲酒過剰が原因であることが推測でき、UA・TCが高い場合は、プリン体と動物性脂肪をともに含有する肉類の過食を確認する。

8,腎機能の検査
 BUN(尿素窒素)は、たんぱく質の最終代謝産物である窒素化合物であり、糸球体濾過率が低下する腎機能障害のときに上昇するが、他の要因でも変化する。BUNが高値を示している場合は、薬物の副作用・消化管出血・術後・発熱・慢性心不全・タンパク質異化亢進であるかを観察する。これらがなけれぱ、検査時の飲水制限・風邪・高血糖・下痢・嘔吐・利尿薬使用時などによる脱水を疑ってみる。病的な脱水ではBUN/Crの乖離とCrの極端な増減がみられるが、経時的に確認し、腎機能障害と区別する。Crは、98%が筋肉内に存在しており、大部分が糸球体から排泄され、腎機能が障害されると上昇する。なお、糖尿病性腎症では、Crの数値以上に腎機能が進んでおり腎機能とCrは一致しない。よって、尿中微量アルブミンの持続出現を丁寧に観察し、たんぱく質制限が必要か否かを評価する。筋肉質の男性では上限値になるなど心得て観察する。Kは代謝性アシドーシス・脱水・腎不全の乏尿時・タンパク質異化先進・発熱・薬物の副作用などでも高値になる。Kが高値の場合は、腎機能の低下・「たんぱく質過剰」、「カタボリズム」、「野菜・海草・果物・種実類の過剰」の順にカリウム過剰摂取がないかを確認する。Pは、腎から排泄されるため、腎機能障害があると高くなるので、慢性腎不全で高リン血症・低カルシウム血症がみられた場合は、リンの多いたんぱく質源の過剰摂取が考えられる。他に甲状腺機能低下症・異化冗進・化学療法などでも高値になるので確認しておく。腎機能障害がある場合は、Cr・Hb・TC・血清カリウム(K)・血清リン(P)・血清カルシウム(Ca)・UA・クレアチニンクリアランス(Ccr)・尿タンパク・尿潜血・血圧をみて、たんぱく質・カリウム・リン・ナトリウム制限がどの程度必要かあるいは制限されているかなどを評価する。

9,赤血球の検査
 Hbは、赤血球内にある酸素を運搬する役割を担っており、貧血・低栄養状態と体構成との関係が深い。低栄養状態ではHb・TIBCが低下しやすいが、Feには変化がない。貧血の鑑別には、平均赤血球容積(MCV)をHt(%)÷(RBC(106μl)×10)で計算し、鉄欠乏性貧血ではHb・MCV・Feが似値に加え、TIBCが高くなるので分かる。腎疾患による貧血ではHbが似値でもMCVは基準値内になるので、よく観察して栄養補給を行う。

 


食事調査から何をアセスメントするか

女子栄養大学助教授 石田裕美

 

1,栄養アセスメントにおける食事調査の位置付け
 エネルギーおよび栄養素摂取の量の過不足あるいはアミノ酸や脂肪酸などの栄養素の質的な適不適は、栄養状態に反映することから、食事調査によるエネルギーおよび栄養素摂取量の把握は、栄養状態の評価の1指標として位置付く。したがって、食事調査は食事の適正さを評価することで、栄養状態を評価することになる。また、不適切な食生活が長期にわたり持続することは、多くの疾病の発症、進行にかかわることから、特定の食物やエネルギー、栄養素の摂取から起こりうる疾病のリスクや程度を予測することも可能である。このように、栄養・食事管理をする上で、あるいは栄養教育を行う上での栄養アセスメントの1つとして、食事調査は欠くことのできない側面である。食事の適正さを評価するには、次の3つの課題がある。まず第1に、個人のエネルギーや栄養素の必要量が分からなければならない。そして第2に、個人のエネルギーや栄養素の日常的な摂取量を知らなければならない。第3に、摂取した栄養素を身体がどの程度利用できているかを知らなければならない。ここではまず第2の課題から取り上げる。

 

2,食裏調査の方法
 栄養アセスメントにおける食事調査の目的は、個人の日常的な摂取状況を把握することである。日常の摂取は、知りたい時期および期間の摂取量の平均として決定することができる。しかし、個人の日常的な摂取量を決定するためには、正確な食物の成分の情報に基づいた知りたい時期および期間の食事記録や思い出しのデータが必要になる。そこで適切な方法を選択することがかぎになる。一般的に用いられる方法として。1日に摂取した食物を思い出してもらう方法(24時間思い出し法)や、摂取した食物を記録する方法(食事記録法)がある。これは1日から数日間に摂取した食物の種類や量の情報を、直接収集する方法である。しかし、個人ごとの食事は日による変動が大きく、1日分のみの思い出しや食事記録から得られた情報で、個人レベルの栄養状態を評価することは難しい。少なくとも個人レベルの栄養状態の評価に用いる場合には、不連続であったとしても、1日分の思い出し法や食事記録を何回か繰り返して行うことが必要となる。それでは、何日間の思い出しや記録をとれば日常的な摂取水準が把握できるのかとなると、これも一定の結論を得ることはできない。しかし、私たちの生活は社会的な環境、例えば、職業などによって一定のパターンを持っている。食事摂取はこの生活のパターンの影響を受けながら、日によって変動していると考えられるので、この生活パターンに合わせて食物摂取を把握することで、その人の日常的な摂取状況を評価することができると考えられている。したがって、最低でも3日間から7日間のサイクルで把握することが必要となる。3日間である場合は、休日と平日の組み合わせについて考慮する必要がある。また、これらの方法は、思い出しや記録からの摂取食物の脱落に対する注意が必要である。面接者の熟練度や摂取量を把握するための目安になる食物やポーションモデルの使用などにより、精度が異なることにも注意しなければならない。

 これらと異なる方法として食物摂取頻度調査法(Food Frequency Questiomaire;FFQ)、食事暦法などがある。24時間思い出し法や食事記録法が、1日あるいは数日の情報であるのに対し、食物摂取頻度調査法は日常的な情報を得ることができるとともに、記入の簡便性やデータ処理の簡便性などから広く用いられている。特に、半定量食物摂取頻度調査法は食物の摂取頻度と同時に、その摂取量を平均的な量で示し、そこから栄養素の定量的な把握ができることから、最も広く用いられている方法である。しかし、個人の評価に用いるには十分な精度が得られないという限界もある。第1に利用可能な食品をすべて網羅できない限界である。特定の集団の平均的な摂取の実態や、特定の栄養素の摂取に寄与する食品に限定されている場合が考えられる。また、限られた食品リストと実際摂取した食品の食い違いによる栄養成分の違いがある。第2に、これは個人の摂取量を直接評価していることにはならない。平均的な摂取量の示し方、すなわちポーションサイズの設定や、少し、ふつう、多いなどの尺度に限られてしまう。また、摂取頻度の尺度数(一般には5-7段階:月に1回、週に3回、1日に1回など)に制限される。したがって、これらをどのように設定するかが調査の信頼性に大きく影響する。以上のように、それぞれの方法には長所と短所があり、目的によって方法を選ぶことが大切になる。場合によっては、複数の方法を併用し、それぞれの方法の限界を補うことが必要になる。食物摂取頻度調査法により、日常の摂取状況すなわち比較的近い過去の摂取状況を把握した上で、食事記録法により現在の摂取状況を詳しく把握する。この両者を合わせてアセスメントすることも1つの方法である。

 

3,個人の摂取量がその人の必要量に見合っているかをどのようにアセスメントするか
 個人のエネルギーや栄養素摂取量を把握できたとした場合、それがその人の必要量に見合っているかどうかの評価は、その人の必要量と摂取したものが、どのくらい身体に利用されているかが分からなければできない。最初に挙げた第1・第3の課題である。必要量についての1つの評価基準が食事摂取基準である。多くの場合、必要量、所要量、許容上限摂取量の範囲の中に、対象とする人の必要量がある可能性は高いが、直接的にそれを知ることは不可能に近い。例えば、鉄の栄養状態を取り上げてみよう。成人女性の鉄の所要量は1日当たり12mgである。食事調査の結果、日常的な摂取量が8mgであったとする。このことから鉄の栄養状態が低下している可能性が高いと推察できるが、簡単には判断できない。対象となったその個人の必要量が8mgであれば、特に問題はないはずである。そこで他の指標と合わせた総合的な評価が必要になる。貧血の症状はないか、あるいは鉄欠乏性貧血を判定する血液検査値の異常はないかということと合わせて評価することになる。貧血の判定基準となるヘモグロビン濃度が低下していなくても、潜在的な鉄欠乏状態を示す血清フェリチン濃度が低下していれば、鉄摂取量8mgでは不足と判断できる。この状態が今後持続することで、「潜在的な欠乏状態」が「欠乏状態」に移行することが予想されるわけである。一方、8mgの摂取水準で何ら他の指標に問題がなければ、所要量は充足していなくとも、この人にとっては適正な鉄摂取であると評価できるということである。一方、鉄の摂取量が低水準であるとしたときに、他の栄養素の不足も十分予想される。鉄摂取量は多くの場合、エネルギーやたんぱく質摂取量と正の相関関係を示す。エネルギー摂取量そのものの不足も予想できる。また、たんぱく質が不足していることが重なって貧血症状を呈している可能性もある。エネルギー量の過不足は身体計測によっても判断することができる。例えば、身長と体重と両者から算出される体格指数などで評価できる。体重に問題がなければ、エネルギー摂取量に応じた鉄摂取がなされていない、すなわち、食物選択の問題点が予想されることになる。十分な食物摂取がされていながらも、鉄が不足する食物摂取であることの方が問題である。次に、鉄摂取量が12mgであったとする。可能性としては鉄栄養状態の低下は少ないと考えられる。しかし、貧血の症状が認められているとする。この場合は、この人の鉄の必要量はもっと高い水準にあることが予想される一方で、十分な摂取にもかかわらず、十分な利用がされていない可能性も否定できない。体内での吸収利用の過程で何か問題があるのかもしれない。あるいは、他の栄養素や薬剤などとの相互作用が吸収利用を妨げているかもしれない。栄養素のサプリメントや薬剤の摂取の把握も食事調査では重要である。

 

4,再び食裏調査を考える
 栄養アセスメントにおける食事調査は、エネルギーや栄養素摂取量を把握する目的で用いられる。しかし,必ずしもこれだけの情報では十分ではないことが鉄の例から分かる。エネルギー摂取量や栄養素摂取量は食物に由来する。したがって、エネルギーおよび栄養素摂取量の情報だけではなく、これらを規定する食品の選択、欠食の有無、外食の頻度など食生活全般を評価することも、栄養・食事管理や栄養教育を目的としたアセスメントには必要である。そのためにも、目的に応じた適切な方法の選択と、より精度を高める十分な注意が必要である。管理栄養士・栄養士の専門性を十分に発揮し、絶えず技術の向上に努力することが大切である。今回は、個人の栄養評価としての食事調査を中心に整理したが、集団の栄養評価においても同様の課題を持つと考える。