連載1_米国最新栄養学と栄養教育の現状日米の栄養教育の比較(川喜田昭雄)
●米国の栄養士(Nutritionist)の役割は広範囲
アメリカでも最近までは、栄養は食べ物から摂れば良い、摂れる、という考え方が行政機関、そして全米医師会(AMA)、そして全米Dietitian協会(ADA)によって強調されていました。
これは現在の日本でも同じことが言えます。ここでいうDietitianとは日本でいう食品管理栄養士のことで、Nutritionistと違うことを知っていてください。アメリカでは栄養士はNutritionistと呼ばれ、臨床栄養、すなわち病気の予防と治療に直結した栄養学を学んだ人のことです。残念ですが日本では本当のNutritionistを育てる教育機関はありませんので、資格も学位ももっている人はほとんどいません。
日本の栄養士の場合には食事指導が主で、その就職先もほとんどが病院、学校をはじめ給食設備のある設備に限られているのが現状です。アメリカのNutritionistは医師のサポートをしたり、独立して栄養/健康カウンセラー、またはコンサルタントとして働いています。もちろんDietitianも大切な存在ですが、Nutritionistは食事のメニュー作り以外にも非常に広範囲、すなわちホリスティック的な考え方で市民への健康栄養教育指導を行います。日本の栄養士の場合には”栄養は食事から摂れる”ということが大原則ですから、栄養補助食品や健康食品については 一切触れたがりません。また教育も受けていません。アメリカでも医師や薬剤師も、学校では栄養についての教育は、ほんの僅かしか受けていません。ですから日本と同じようにこれらの人は栄養補助食品や健康食品についてはむしろ否定的な考えをもっています。
このような考え方を全く逆転させたのか消費者の力であり、また今回制定された法案です。現在アメリカ国民の50%以上の人が日常なんらかの栄養補助食品を実際に摂取しているのです。そしてこれらの人は自分たちが健康で長生きする方法として、栄養補助食品についての正しい知識を要求しているのです。自分は何をどのくらい必要とするか、またどのように作られた製品が良いのかなどについてもっと多くのことを知りたいのです。従って現在の我々のアメリカの栄養学には栄養補助食品に関する勉強がかなりのウェイトを占めています。
前号でアメリカの栄養教育には栄養補助食品に関する勉強が大きなウェイトを占めていると申し上げましたが、現在アメリカ人の50%以上の人が栄養補助食品を日常摂取していることから考えれば当然のことと言えます。
この”栄養補助食品、健康、教育法案”にある新しいことの一つに、栄養補助食品のラベルに関する大統領によって任命された7人の委員による新しい機関が設けられましたが、このメンバーには栄養補助食品に関して偏見をもつものは任命されず、また消費者、製造業者、栄養学者、そして代替療法に関する知識や経験のある人のみが選ばれています。従来、FDA(食品医薬品局)や全米医師会、そして全米Dietitian協会が、栄養補助食晶を否定していた理由は、”栄養は食品から取るもの”という考え方があったことと、その栄養補助食品に対する反対理由として、病気になった場含の治療が手遅れになる、また血液検査などの判定を狂わせるという自分たちに都合のいいことばかりをあげていました。いうなればプラスの面を見ようとせず、マイナスの面ばかりを見ていたのです。
しかし、本来栄養補助食品の摂取の目的は病気の予防で、最適な健康を維持するためのものであり、また病気になった場合の特定の栄養素の不足、特に薬による栄養素の破壊に対する補充が目的であり、症状を抑えるための薬品と併用すれば良いことなのです。
我々の新しい栄養学に基づく生物学的医療法は、現代医学の病気に対する考え方である病原菌原因説でなく、その第一の原因は、人間の健康は肉体的、また感情的なストレスによる抵抗力、自然治癒力が弱まっていくことによるものと考えています。ですから健康維持や病気の回復には病気の原因を取り除き、最良の栄養状態への適切な助言と支援、特別な食事療法、体内を清浄化するための方法、補助食品やハーブの投与などの自然な方法によって自然治癒力を回復させるのです。またアメリカの栄養学は連作などによる栄養素の低下した食品、加工精製、保存により栄養素の低下した食品、食習償の変化、生活習慣の変化、環境の変化、すなわち空気、水、食品への化学有毒物質の混入に対して、今なぜ栄養補助食品が必要であるかを特に人々に認識させています。食品に含まれる栄養素が計算できない現在、確実に栄養素を安く、しかも簡易に取れる栄養補助食品が重要視されているのです。
●大切なのは栄養素が体内でどれだけ吸収されるか
日米の栄養教育の違い3
日本の栄養学の主なものは食品栄養科学であると申し上げましたが、このような学問はかなり古くから行われたものですが、あまり.進歩していないようです。
我々の食卓にあがる、特に都会に住んでいる者にとっての食品は、昔の形と大きく変わってきています。近郊の農家からの野菜や果物の供給や、近くの海からの魚、牛乳、そして肉などを食べていた時代と異なり、現代は世界中のいろいろなところから野菜、果物、魚、肉が輸入されて我々の食卓に上がっています。当然収穫されてから時間が経ったものばかりですし、その保存方去にも栄養学的に見た場合にはかなり舞問があります。また栽培方法も大きく変化しています。野菜の場合には昔から露地栽培、水に人工肥料を入れて栽培する方法、ビニールハウス栽培などがありますが、これらをすべて同じように100g中にビタミンCがいくら含まれている、鉄かがいくら含まれていると計算してメ二ューを作っても、まったく机上の計算にしか過ぎません。例えぱオレンジを収獲して1時間後にビタミンCの含有量を計った場合には、100g中に180mg含まれ、スーパーマーケットで買ったオレンジにはほとくんどビタミンCはなくなっているという研究結果も発表されています。皆さんも野菜が長く置かれたら栄養素が消失してしまうことはご存じのことと思います。しかしこのような現実を無視してなぜそのような数値を使って教えているのでしょうか。またカロリー計算にしても生の食品と料理した場合の計算は当然違ってきます。アメリカの栄養学ではあまり栄養素の計算もしません。数値が当てにならないからです。またカロリー計算もやめろと 言っています。難しい計算などしていたら、かえってストレスがたまってしまうといいます。また食品中に含まれている栄養素が、そのまま体内に吸収されて利用されるという考え方も全く古い考え方なのてす。 栄養素は単一では働かずいろいろなファクターが複雑に噛み合って働くものなのです。大切なことは、食品中にどれだけ栄養素が含まれているかでなく、どれだけ体内で利用されやすくなっているかが間題なのです。例えぱ骨粗しょう症の話がでるたびに、小魚やホウレソ草を摂れ、牛乳を飲めと言っているのが、日本の栄養士です。ホ ウレン草にはカルシウムの吸収を邪魔する蓚酸が一番多く含まれていることをご存じないようです。牛乳も殺菌消毒されたものは、酵素がなくなっているので消化が悪くカルシウムの吸収には役に立たないのです。
それではどうしたら良いのでしょうか?動物で一番力が強く骨が太い象は何を食べているか考えてください。
●栄養学は非常なスピードで進歩している
日米の栄養教育の違い4
実はアメリカでも20年ほど前までは食品栄養科学が主流でした。皆さんがご存じの「ビタミンCと風邪」「ビタミンCと癌」などの研究著書でおなじみのライナス・ポーリング博士の書いた「健康で長生きする法」の一節をご紹介しましょう。
「私は科学者であり、化学者、物理学者、分子生物学者、ぞして医学研究者である。20年程前にビタミンに興味を持ち、栄養科学の発展が滞っているのを知った。50年前、この科学を発展させた古い栄養学者達は、彼らの偉業に満足し、 生化学、分子生物学、医学、ビタミンや他の栄養素も含む新しい発見を無視した。新栄養科学も発展したが、この古ぼけた学者達がなおも古い考えを教え続けた。それらのほとんどが、一般に健康な人はピタミンの補充は必要ないとか、十分な栄養をとるには、毎日4種類の食物をとることであるとかの誤りである」
「この愚かな教育の結果として、今日の栄養学者や栄養士は、この古い栄養学を実践し、アメリカの人々は、その結果健康であるべき状態までに至っていない。医学者にもこの責任の一端はある。ほとんどの医者は、医学校で栄養学の指導をあまり受けていないし(勿論そのほとんどが、もう時代遅れである)、その後もビタミンや新しい栄養素の発見に追随することなく、患者の世話で多忙にしている」
日本の栄養教育も似たようなものではないでしょうか。どちらかというと自分たちの利益確保のために団結し、権威を高めようとして管理栄養士になるための試験を難しくして、新しい人材やアイディアが入りにくくさせています。保守的というか閉鎖的というか、時代遅れにも気がついていないようです。栄養学は歴史が浅いせいか非常なスピードで進歩しています。我々の大学の教科書も毎年その半分が変わっています。 教える立場としては休む暇のないぐらい新しいものの勉強に明け暮れています。
前号で骨租しょう症とカルシウムについて述べましたが、栄養補助食品のラベルやカタログにこの関係を書いたり話をして売ってよい物がもう一つあります。”葉酸と先天性の神経管障害(異常児出産)”の関係です。残念ですが日本の栄 養士は葉酸の働きについては知っていても、神経管障害との関係を知らないどころか、その名前すらも知らない人が多いのには驚かされました。栄養士の知識がこの程度では、一般の人が知らないのは当然です。ですから教育などできるわけがありません。そして相変わらず古い栄養学を話しているのです。
●米国では正式な栄養教育を受けた販売員が対応
日本とアメリカの大学における栄養学の内容の比較についてしぱらく述ベてみましょう。
まず内容ですが、日本の栄養短期大学、そして4年生の家政学部での栄養学の勉強は、食品栄養学を主とし、その他公衆衛生、解剖生理学などが主体のようですが、健康をホリスティック(全体的)に考えたカリキュラムはほとんどありません。そのような勉強も確かに大切ですが、体中の60兆といわれる細胞の健康を考えた栄養補給に関して、すなわちホリスティックな考え方に基づく栄養学がありません。例えぱ、私どものAHCN大学の、日本での通信教育で勉強するために入学する日本の経験豊富な栄養士の方々が、まず非常に驚くことは、自然健康食品を始め、栄養補助食品に関する勉強が多いことです。アメリカでは現在、食品に含まれる栄養素の低下と、加工食品を多く食ぺることによる弊害、そして汚染化学物質の体内への侵入に対する栄養素の必要性の増加に対するための唯一の方法(薬はありません)として、普通の食品以外に、確実に栄養素を補給する方法として、自然健康食品や栄養補助食品についての勉強が大きな課題になっているのです。勿論、病気の予防のためのこれらの製品の使用と、病気の治癒に関するこれらの製品の使用法の勉強です。残念ながら日本の栄養学では、これらの自然健康食品や、栄養補助食品には一切ふれていないようです。そして相変わらず栄養は食べ物からとれる、そのような製品は要らないという考えが変わっていません。しかし日本でも、消費者はこれらの製品に関心を寄せています。デパートを始め、薬局、そして最近ではコンビニエンス・ストアーでさえもこれらの製品が置かれていますが、これらの製品について、正式に教える教育がないために、売る人たちの栄養に関する知識は断片的なもので、総含的な一知識を持っている人がほとんどいないのです。栄養士の方々だけでなく、薬局の薬剤師の方でも、大学でこのような製品に関する勉強は一切していないと言っています。
皆さんがアメリカに旅行して、ドラッグ・ストアーやビタミンショップ、ヌートリションセソターなどを覗けば、必ずといってよいほど資格を持った販売員が側に来て、選択のための助けをしてくれます。また独立開業している栄養コソサルタントや健康カウンセラーの人たちは、個人個人にあったこれらの製品の取り方を指導してくれます。これらの人のほとんどが正式な教育を受けているのです。食品栄養学も確かに大切ですが、今の時代に果たしてそれだけで良いのでしょうか?日本だけが栄養学に関して時代遅れになっていることを痛感しています。
●日本は依然「栄養学の鎖国状態」が続いている
日米の栄養教育の比較6
前号では、日本の大学における栄養学は、自然健康食品、栄養補助食晶については一切触れていないことを申しあげましたが、アメリカでは、栄養学の内容のほぼ三分の一はこれらのことについて学びます。もちろんその他にハーブ学や生理学、解剖学、地球の生態学などについても学びます。大学の教授にも医学と栄養学の両方の学位を持っている人が多く、栄養学は完全にホリスティック的な視野から勉強することができます。
残念ですが、日本の大学の栄養学を教えている方に、自然健康食品や栄養補給食品について学び、そして学生に教えられる人が何人いるでしょうか?
学校制度の違いかもしれませんが、アメリカの大学は、何歳の人でも、勉強したいという意欲のある人は入学でき ます。また通信制の大学も発達していて、そのほとんどは正規の全日制の大学とその資格は全く同じです。社会的にはむしろ通信制、すなわち独学による学位所得者には、その努力に対してより評価が高いのです。私も60歳の定年後に、最新の栄養学を学びたくて、アラバマのAHCN大学の通信制で学びましたが、私以上の年齢の人が多く勉強しているのには大変驚きました。ほとんどすべてが社会人で、医師の学位をもっている人、薬剤師、看護婦、食品管理栄養士、食品会社の研究員など、広範囲の職業の人が勉強しています。アメリカも日本と同じように学歴社会です。そして資格が重視されます。ですから一つの資格だけでは満足せずに、常にほかのものに挑戦しているのです。日本でほ、生涯教育という言葉は多く聞かれますが、本当に学びたい人が、年齢に関係なく、自由に勉強できる大学がどのくらいあるでしょうか。栄養学に関してはほとんど皆無といって良いでしょう。その理由は、学校の先生も、一度資格を取ってしまうと、まず定年迄は資格がほとんど無条件で推持できるからではないでしょうか。アメリカの場合には、大学教授でさえも定期的に試験があり、常に勉強していなければ解雇されてしまいます。栄養学の進歩は速いので、常に教材も新しいものに変えられるので、教授も生徒と一緒、またはそれ以上に勉強しなければならないのです。日本の場合には従来の栄養学の教育内容が長年続いているようです。新しいものを取り入れるのを怖がっているのかもしれません。いうなれば非常に保守的になっているのです。この現象を私は「栄養学の鎖国状態」と呼んでいます。若い、本当に人々に役立つ栄養学を学ぶ人が出るのを恐れているのかもしれません。
●米国の栄養学は病気予防、回復が目的
日米の栄養教育の比較7
あるとき、日本の栄養短期大学の人が私を訪ねてきて、私たちの大学ではどのような研究「実習」をしているのかと聞いたことがあります。アメリカの栄養学には実習などはありませんので、逆にあなたたちはどのような研究実習をしているのかと聞きました。正規の授業が終わってから、食事の実際の準備をして、皆でそれを食べ、評価し、そして論文を提出するので大変だと言っていました。確かに日本の栄養士の方々の多くは産業栄養士で、病院や、給食設備のある所でメニューを作成するのがほとんどの仕事のようです。そのような実習も無駄だとは言いませんが。実際の職場では、長靴を履いて調理の手伝いもしているというのには驚きました。所詮包丁を持たせたら、専門の調理師にかなうわけはありません。ですからそのようなことをするのは、自らの地位と尊厳を落とすことになります。もちろん我々は健康のためのメニュー作りの指導をするだけで、実際の料理などは教えません。
また私たちは生化学研究者ではないので、フラスコやビーカーで、またバクテリアの培養による研究などは一切しません。そのようなことは、その方面の専門家に任せ、我々はその結果を参考にするのです。我々は過去数十年のいろいろなデータや論文、書籍から学びます。その多くはケーススタディです。ですから実際の事例が多いので、大変興味を持つことができます。また通信制の場合には、教科書を何回も読んで、良く理解しなければ答案が書けませんから、本当に頭に入ります。その代わり教科書を見ながら回答を書くことができます。そして単位ごとに、教科書以外の栄養と健康に関する自分で選んだ本からの小論文を書きます。日本の管理栄養士の試験問題の多くは、暗記に頼るような試験問題ですから、自分が自由に研究したことが評価されるのではないので、試験のための勉強になってしまいます。ですから試験が終わればほとんどを忘れてしまいます。これは日本の学校のほとんどの試験制度にも同じようなことが言えるでしょう。どちらが卒業後の実社会で役に立つでしょうか。
アメリカの栄養学の特徴の一つは、一般的な基礎栄養学をはじめ、専門的な子供のための栄養学とその教え方、女性のため、老人のための栄養学などを学びます。また栄養の必要量は個人個人によって違うのだということが前提になっています。もちろん病気予防のため、病気の回復のための栄養学が主になっています。日本のように栄養と料理を一緒にしたような内容ではありません。
●米国では栄養摂取の“価値”を教える
日米の栄養教育の比較8
アメリカでの栄養学と、日本での栄養学の基本的に大きな違いとして私が感じているのは、なぜ今以上の栄養を確実に摂取しなければいけないのか、ということです。ご存じのように、我々の家庭内、そして環境中には毒物、すなわち化学物質が充満し、その量はどんどん増えています。そして我々人間のエゴによって地球のみならず、宇宙が毒されています。我々が食べるもの、着るもの、吸う空気、飲む水などへの化学物質の使用はだれでもその存在を認めるところです。栄養素の必要性は、現代の食べ物に含まれる栄養素が、連作、栽培方法の変化、輸送、保存、加工などによって少なくなっていることによるものであることは、皆さんもお気づきでしょう。無農薬野菜といっても、空気中に農薬が飛んでいれば絶対に農薬がつかないという保証はありません。これらの毒物を体内から排除するためにはどうしたら良いか。また我々がそれらの毒物に接触する機会を少なくするためにはどうしたら良いか、ということに関しては、単に食品のみについて考えるだけでは解決になりません。我々は人間の体の進化の過程についても考えなければなりません。病気の原因は 勿論、その治療のための薬の弊害についても学ばなければなりません。我々の栄養学の基本では、植物の生態、動物の生態を始め、宇宙と地球の生態系についても学びます。そのためには生態系を変える環境破壊についても学ばなければなりません。栄養素の不足による免疫力の低下は勿論ですが、知能指数の低下の問題、栄養素の不足がどのように知性の面、精神的な面に影響を及ぼすか、犯罪の増加や青少年の非行の問題などと栄養とのつながり、人間関係を良くするにはどうしたら良いか、良い考え方、態度がどのように健康に影響するかなども学ぶ必要があります。また日本の学生が最初に驚くことは、酵素の働きについてです。人間の寿命は酵素次第です。ビタミンやミネラルは“補酵素”とも呼ばれるように、酵素の働きを助けるものですから、酵素のほうが健康のためには主役になります。腸や胃などの消化器官の清潔さも健康維持に不可欠なことですから、かなり強調されます。清潔さを保つためにはどうしたら良いかなど、長生きするために大切なことが多くあります。病気に対する栄養補助食品の使い方、過剰摂取による問題点も必要な知識とされています。
長野市民病院の管理栄養士 宮沢靖さんは約四年前、アメリカ・ジョージア州アトランタのエモリー大医学部で臨床栄養士の研修を受けた。
「聴診器を忘れた。君のを貸してくれないか」。一緒に病棟を回診した指導教官にこう頼まれ、驚いて「自分は栄 養士なので持ってない」と答えた。「臨床栄養士なのになんで聴診器を持たないのか」。今度は教官が驚いたという。
「聴診器、薬と栄養の関係を書いたマニュアル、患者の皮脂の厚さを測る器具が、臨床栄養士の三種の神器なんです」と宮沢さん。
聴診器は患者の腸の動きを観察する時に使う。静脈に入れた管を通し、長期に点滴で栄養を補給すると、腸の動きが鈍くなる。日本なら経管栄養は医師の領域だが、アメリカでは、臨床栄養士が腸の動きを探り、脂肪の厚さや血液検査の数値などから患者の状態を見て、栄養補給法は患者に合っているかを検討する。治療薬が患者の栄養状態に影響を与えるため、薬のマニュアルは欠かせない。
宮沢さんは直ちに聴診器を買いに走った。「日本の栄養士の神器は、食品栄養成分表、カロリー計算用の電卓、そして鉛筆。カルチャーショックを感じました」
渡米前の六年間、総合病院の管理栄養士として働いた。医師が書いた食事の指示に従い、自分は献立を立てるだけ。高齢者だからおかゆ、糖尿病だからと一律に千八百キロ・カロリーなどと指示するのを「おかしい」と感じていたが、異議申し立てをする場がなかった。「人の体は栄養でできている。栄養のプロとして栄養士はもっと治療に携われるはず」と悔しい思いをしたこともある。
米国の大学病院では、患者の栄養ケア計画を練るのは、臨床栄養士を中心に、医師や薬剤師、看護婦ら複数の専門職が参加した栄養サポートチームの仕事だ。主治医にアドバイスをし、ケアを実行に移す。患者の状態を定期的に観察して、ケアが適切だったかどうかを評価し、練り直す。
二年間の米国研修では、検査数値の読み方から、薬の知識、脂肪の測定法など人の体と栄養とのかかわりを徹底的にたたき込まれた。「日本が食べ物の栄養学とするなら、アメリカは人間の栄養学。すぐ治療に役立つよう、即戦力を育てている」と、宮沢さんは日米の違いを痛感した。
細谷憲政東大名誉教授(保健栄養学)も「日本の栄養士は、体に入ってからの栄養の作用や効果を考えないで、食品に含まれる栄養素のバランスばかりを計算している。それで栄養管理と言えるのだろうか」と手厳しい。
栄養素は調理の過程で損なわれる上、薬との相殺効果や老化などによって、消化・吸収具合が違う。患者が病院食を食べて、どのぐらい必要な栄養を取っているかはカロリー計算だけの病院食では分からない。患者の栄養状態に合わせた治療が抜け落ちているのが、今の医療の現状だ。
帰国した宮沢さんは、新設の長野市民病院に勤め、医師、薬剤師らと協力して栄養サポートチームを作った。消化器の手術後や食べ物がうまく飲み込めない摂食・嚥下(えんげ)障害の患者など、栄養補給法を工夫しなければならない患者の栄養ケアを担当している。
「専門職が話し合うことで、治療効果があがっている。在院日数が短くなり、チューブ栄養から早く口で食べられるようになって、合併症も減った」と、宮沢さんは効果を分析する。
厚生省も、アメリカの臨床栄養士に匹敵する人材を育てようと、栄養士の養成課程などを見直す検討会を今年夏、設置している。