第三話
今回は私の散歩コースをご紹介いたしましょう。
散歩なんてえらそうにいっていますが、私は生後三ヶ月くらいから、毎夕ごはんのあとに庭でトイレをすませてから、ワイフと散歩に出かけています。でも、はじめの頃は散歩になりませんでした。道で人とかほかの犬に会うたびに、おしっこをちびったり、その場で動かなくなったりしていたので、ワイフをまたもやイラだたせてしまい、その場で抱き上げられて家につれて帰られていたからです。
せやけど、いまはちゃうで!まわりからみれば、若奥さんが愛犬と散歩をしている黄昏どき・・・に見えるはず! でも、みんな日本語わからないから、優雅に見えるのであって、実際はいろいろ起こられながら歩いているんです、これでも。
「アロハ、何回ゆうたらわかんのん。他の人に飛びついたらあかんって」
「もう、ちゃんとうんこは庭で全部出しきらなあかん。こんど途中でうんこしたら、ほんましらんで」
「まっすぐ歩く!よそ見なんかせんでよろしい」
おおこわ。でも、私はワイフ同様、怒られてもすぐに忘れてしまうので、気にしていません。それにうまれつき、「笑っている顔」なんだそうです。
それはさておき、散歩コースその一をご紹介いたしましょう。
このコースは一番ベーシックなコースで、ここからいろんなバリエーションをその日の気分や天候、体調に合わせて組んでいきます。
まず、ジュークス・ストリーチのデグチ邸(本人たちにとっては城かもしれませんが、築三十五年、レンガ造りの超一般的な家ですわ。ワイフがなまけているので、庭はジャングル状態。)を出て、マックスウェル・ドライブへ。「ドライブ」っていうのは、単なる道の名前ですが、ちょっと曲がりくねった道のことが多いですね。
マックスウェル・ドライブには、年配のご夫婦で、犬を飼っているところも多いんです。
この入り組んだ道からは、ホプキンス・リバーが海に流れ込むサンダー・ポイントが丸見えなので、この通りの家はかならず川と海が見下ろせます。
マックスウェル・ドライブが終わると、小さな白い橋を渡ります。橋の下は川ではなくて、ウェスト・コースト鉄道の線路が走っています。この列車はもちろん単線で、日に三度、メルボルンーウォーナンブル間を結んでいます。週末には汽車が走るので、この橋の上に見物客が集まります。その人たちの足元で、私は跳んだりはねたりせずにはいられないので、ワイフがまた不機嫌になります。
橋を渡ると、ウォーナンブルの墓地が広がっています。その墓地沿いの坂道を、ホプキンス・リバーに向かって下っていきます。
ワイフは新聞の死亡記事を見るのを日課にしているせいか、墓地に来ても私のことそっちのけで、ときどき墓石の見学をしています。墓石には名前と生年月日、死亡日時、父母の名、夫もしくは妻の名、子供の名、長生きした人になると孫の名前まで刻まれています。さらに詳しくなると、死亡原因まで記してあります。
「うわ―、この女の子、十八歳で事故死やて。かわいそう」とか
「このおばあさん百二歳?すごいわあ」などと、まわりに日本人がいないのをいいことにけっこう大きな声で言います。
墓地の角を曲がると、右手にホプキンス・リバーを眺めながら、坂をあがります。不来坂の家は、どこもきれいなバラを植えていて、ロマンチックこの上ないです。ワイフはそのなかの一軒の家に「紅茶が飲みたくなる家」、もう一軒には「コーヒーのにおいがしそうな家」とニックネームをつけています。「紅茶の家」は真っ白の外壁で大きな観音開きの窓に、二重のレースが白い羽のようにかかっています。「コーヒーの家」はずっしりとした色の濃いレンガ造りの家で、前庭には一面の芝、そのまわりにたくさんのバラが植えられているのです。ワイフいわく、ウォーナンブルは「家だけはメルボルンに勝っている」んだそうです。
坂を上りきると、ジュークス・ストリートの角にきます。この角にデグチ夫妻が「かえる御殿」と名づけた家があります。ここの庭の芝生は常に短く刈り込まれ、鼻も雑草も一切ありません。シンプル・イズ・ザ・ベスト!しかし、芝生のまんなかに池があり、その池のそばにプラスチックのかえるのお着物があるのです。このかえるの存在感は絶大で、強烈なお庭のアクセントです。なお、ウォーナンブルに来られた際、デグチ邸は「かえる御殿」の七軒向こう、と覚えておくと良いでしょう。
ジュークス・ストリートの16番地が我が家です。この通りには、エマニュエル・カレッジの日本語教師、エッジ先生も住んでいます。エッジ先生のダンナさまのスティーブンが庭仕事に熱心なので、お庭はとてもとてもビューティフルです。
エッジ先生の家からデグチ邸まで四軒しかありません。このへんになると、私もワイフも疲れているので、あまりおしゃべりしません。
これが基本コースです。次回は海辺の散歩道をご紹介いたしましょう。
アロハ・ザ・バイリンガル・ドッグ
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