6月の日記1
12月前半 12月後半 1月前半 1月中旬 1月下旬 2月 3月その1 3月その2 3月その3 3月その4 4月その1 4月その2 4月その3 4月その4 5月その1 5月その2 5月その3 5月その4 けいじばん
私のことを直接知っている人向きです。ご不快な点があれば削除など検討しますのでご指摘下さい。
2003.6.13
統計遺伝学コースのおわりに、蛍を見る
昼にラボにいないと、それなりにひずみが出る。連絡が不備で実験室の使い方など行き違いが出る。ボスとある程度実験の話をしておいた。新しいデータの話をしたら、統計遺伝学コース中に実験するとは思わなかったと言われた。ということは、しなくてもラボ的に問題はなかったのだろうが、自分が困る。ただ、3週間全部とるのはあまり誰も薦めていなかったので、その背景には少しは研究したほうがいいというのもあったのかも知れない。なんにしろ、学ぶなら、実験を本格的に始める前の方が、長期的に合理的だ。
Linkage disequilibriumってちゃんと発音できますか? デンマーク人の講師が、2回言い損なって、結局LDと略して話を続けてギャグをとっていたので、日本人でなくても言いにくいということがよく分かった。
統計の間違いの有名な例の話をまた聞いた。サンフランシスコでの調査で、特定のMHCタイプ(ニアイコール移植拒絶のタイプ)と、箸を使う能力の間に、高い相関が見られた。では、箸を使う能力に遺伝的な要因があり、それはMHCタイプで決まっているのか? 前にセミナーで話したことがあるから聞いたことのある人も多いと思うが、集団構造を無視して相関をとるからこういうことになる。アジア系には特定のMHCタイプが多く、そしてアジア系は当然箸を使うのがうまい。因果関係は何もない。こういう例をつくることは、本質的にサイエンスと関係あるわけではないけれど、センスが出るところで、いいものは教科書で語り継がれる。
講義のコンピュータ実習では、講師たちのサイトを使った。アニメーションは遊べる。コンピュータで系図を書かせているだけでは、生物学ではなく情報科学だが、理解は助けてくれる。
終わって夜からは実験をはじめる。暗くなって建物の外に出たら、緑の点滅が見えた。大学内に蛍が住んでいたのである。ゆっくりした周期で、一度消えると見失ったかとおもうくらいだ。アメリカのホタルは、ウィスコンシンにこの季節に学会に行ったときに見たことがあった。そのときと同じく、水辺ではなく芝生にいるのが、異国に来たのだなあと感じさせる。他の掲示板にもコメントしたので簡略にするが、こういうものを鑑賞できるのは、平安以来の1000年の文化を背負っているからだと思う。
2003.6.12
いたし
講義は8時30分からなのだが、起きられず大学に着いたのが40分ころ。今日のは難しいので、初めを聞き落とすときびしい。その上、駐車場から講義室までが、走っても5分はかかる。講義室を外から見ると、ちょうど前の席が一つだけあいていたのですべり込んだ。
が、ふと前を見ると、黒板に見慣れぬ内容、講師は知らない人。部屋間違えた・・・。部屋中大爆笑。慌てて出ていったが、廊下を歩いている間に、さらに笑い声が大きくなるのが聞こえる。そんなにいつまでも笑っていなくても・・・世に笑いを提供したということにしておこう。自分でも信じられん。
正しい講義室に入ったら、昨日の残りを補足していただけで、ちょうど新しい話にはいるところだった。ラッキー。
昨日の午後からの講義は、coalescent theory。急速に進展している分野で、多分日本語訳がない。今回ばかりは、講義についていけないことが危惧された。講師が非常に話がわかりにくいと釘を指されていて、ラボの大学院生に至っては、去年全く何を言っているか分からなかったので再挑戦という。そして、自分自身でも予備知識が非常に少なく、Futuymaにちょろっと書いてあったのと、短い総説くらいしか知らない。
話に聞いたとおり、講義がむちゃくちゃ下手。統計学者にはわかるのかもしれないが、生物学者が聞いているということを忘れている。説明なしで新しい記号(notation)を使い、前の日にちょろっと導いた式を、断りもなくinplicitに使っている。!!の意味、たしかに昔聞いたことはあったが、remindを兼ねて説明すべきだ。部屋の半数の生物学者は絶対分かっていない。イギリス人とデンマーク人がやっているのだが、英語にアクセントがある上、アメリカと違って大学で下手な講義をしてもくびにならないのだろう、わかってもらおうという工夫がない。あまりのいい加減さにだんだん頭にきたので、はしから順に止めて質問してやった。あとで上記の大学院生に、止めてくれて助かったと言われたから、無意味ではなかったと思う(思いたい)。
内容自体は面白い。いろいろなことを納得した。例えば、小魚くんとUさんが持っている血液型の遺伝子のアリルは、Nを集団の有効サイズとして、平均で2N世代さかのぼれば共通祖先にたどりつく、という。なんでそんなにきれいな数になるのか昔から気になっていたのだが、geometric distribution幾何分布の平均というだけで出てくる値だった。(集団の有効サイズというのは、少々ややこしい概念なので、気になる人は自分で調べてくださいませ)。
coalescent theoryは、歴史的に見た構造としては、木村資生の分子進化の中立説の拡張になっているようだ。ただし、ものの見方が、きわめて直感的にグラフで表されるようになった。木村らは、解析的に「美しく」解いたのだが、解けるための簡略化というのが必要で、生物学的事実に近づくと手に負えなくなる。たとえば、AさんとBさんがまず共通祖先をもち、そこで組換えが起こってしばらくでCさんにくっついて、などと系図が少々複雑になったら解きようがないのだ。そこで、全部の場合を網羅的に計算するような手法としてcoalescent theoryが出てきたようだ。
ガリレオなどの物理学者は世界は数学の言葉で書かれていると思っていたらしいが、生物の世界はその期待には添わないらしい。この3週間の印象としては、最近の生物統計学はparametricな分布にこだわらず、ひたすら場合分けをして網羅することで、真実に近づいてきたと思われる。それでも、生物学に「法則」を見いだすことは可能だし面白いと思うけれど、それは論理的ではあっても、数式で書かれるようなものではないでしょう。これは言い出すと長いからここまで。
最近の物理学ってどうなっているのでしょう? やはり数値計算で真実に近づこうとしているのだろうか? 読んでいる人で誰か知っていたら教えてください(あまり物理関係者はいないのかな?)
雑用をする時間がないので、講義の合間に学会の手配をしたりしている。アメリカの飛行機は3週間前をすぎると急激に高くなるらしく、ラボに負担かけてまずいところだったが、運良く安い券が見つかってほっとした。さすがに忙しい。
2003.6.11
夢
ビルの窓のところで、ウルトラクイズのFアナウンサーらしき人に、飛び降りて向こう側の木の上に着地しろ言われる。高さは3階くらい、それを見るとその木までは届かなさそう。無理だと判断したが、それでも飛び降りることになる。飛んでみると、うまく風に乗って、木の上に着地した。
寝覚めがよくない。原因として考えられるのは、プレステでウルトラクイズを見てしまったことと、ライト兄弟の記念地に行ったことだろう。
また夕食会になった。ドイツから来ているラボのお客さんの接待。ボスが忙しくて行けないので、ラボの人々で食事に連れて行くことになる。食費はボス持ち。Lucky 32という店、行ってみたら自分の家の目の前を通ってすぐだった。しかも、去年下見に来たときに連れて行ってもらったのだった。全然気付いていなかった・・・この店は、確かに非常においしい。
理論寄りの人で、なかなか面白かった。仕事上、コンペティターと言えるくらい近いことをやっているのだが、それはそれで別の話だ。二人の大学院生は、けっこう高いものをひょいひょい頼んでいた。デザートも、Why not?といって、でっかいケーキ二ついった。でも、大学院生としては普通らしい。大学院入試はみな複数受けるので、リクルートの名目で、相当豪勢なレストランに連れて行ってもらったそうだ。一人100ドル以上のレストランに行ったらしい。入ったら餌はやらないというわけでもないので、別にだましてないし、いいんだろう。
統計の威力をQTLマッピングに見た。初期に生物学者がやっていたころと比べ、統計学者が入ってきて、格段に改善したという話を聞いていたが、なるほどと思った。古い手法から順に話してくれたので、手法の進展がよく分かった。初期には、ないはずのQTLが見えていたりする。
統計学者の仕事は、美しい式をつくることではないようだ。出来る限りの要素を入れてuglyといわれるような確率モデルをつくって、数値計算で、というのが仕事だと思われる。ある意味、時代が下るほど、生物学としてみて直感的に分かりやすいモデルになっている。たとえば、QTL間のエピスタシスはそんなに大きくないので、初期には無視していたが、入れると汚い式になる変わりに結果は真実に近づく。計算のテクニックとして、生物学的にありえない場合をneglectする、ということも多く、誰でもちゃんと考えたら思いつきそうな話であった。
現在、統計学者は、マイクロアレイの解析をきちんとしようとしているらしい。生物学者のマイクロアレイの扱い方、それでいいのか?というのが時々ある。マイクロアレイの講義を取ろうかと思ったが、ラボの人たちに、一日ごとに手法が変わるから聞いても仕方ない、と言われた。それは大げさにしても、いまのところ手法はかたまっていない。
2003.6.10
夕食会
統計遺伝学コースに参加していたNさん(区別が難しいな・・・)が明日帰られるということで、N夫妻と、統計学者として参加しているIさんと4人で、ダウンタウンに魚を食べに出かけた。日本人の参加者はもう一人、もう帰ってしまったNさんがいた。
Oyster barという、ラボの人たちも薦める店に行ってみた。4人でシェアするといろいろ取れて楽しい。カキにいろいろなソースをかけたのが(名前忘れたけど)とてもおいしかった。カキのグラタンもシェアした。そしてNC名物のナマズ。
Nさんとは、境遇から行動パターンまで何かと似ているらしい。どこか出かけたら、行きと帰りでは別の道を通りたいよねーーーとか。世界の狭さというのもいろいろあって、N夫人とIさんは同時期にアメリカの同じ大学にいて、どうも直接会っているらしい。私とNさんに、いかに共通の知り合いが多いかというのは前に書いたので省略。生物学の世界が狭いというわけではなく、Nさんの奥さんは心理学の人である。
N夫妻は、2週間ほどでだいぶあちこち回ったようで、この町のことをいろいろ教えてもらってしまった。この3ヶ月っていったい・・・と思うが、車があるのとないとでは、生活する場所が補集合をなすほどに違うのだ。
デザートでは、アップルタルトがまずまず。そしてFrench silk pieというのが、チョコレートムースみたいな感じなのだが、ほのかな甘みで大当たりだった。両方私が取ったわけではない。念のため。N夫人には、パウンドケーキをいただいて餌付けされているのだ(桃太郎印のきびだんご)。夫婦でマーマレードを作ったり、ブラックベリーを摘んだりときくと、カリフォルニアをエンジョイしている姿が目に浮かんだ。
かなり近い分野なので、この先もきっと会うことがあるでしょう。
講義では、暑いって言って、そのせいにしても仕方ないが、聞いていて疲れた。QTLマッピングはかなり詳しくなった。何とか自分でもできそうなところまで来た(すぐには予定はないけれど)。
2003.6.9
染色体地図のつくりかたって知ってますか?
知っているべきだったと思うのだが、今日QTLの講義のイントロダクションで聞くまで知らなかった。3点の並び方まではよく本で見る。それ以上に数を増やすと、何となく直感的にはトリビアルでなさそうだと思いつつ、突き詰めて考えていなかった。いろいろなアルゴリズムがあって、組換えの数を最小にする最大節約法が一つ。系統樹の書き方のいろいろとある程度対応していて、講師の一人は、NJ法に対応する方法を開発した本人だった。系統の人とコーヒーを飲みながら話していて、この手法で計算時間を大幅に短縮できると気付いたというエピソード付き。この大学は、統計の人と生物の人が一緒にいる機会が多く、その具体的な成果の一つだ。ここまで2週間統計の話を聞いたおかげで、だいたいアナロジーで内容が掴めた。それなりに役に立っている。
染色体地図は、自分で作る必要はまずないものの、普段からよく使うものだ。どこかの教科書か総説ででも見ていて良さそうなものだが、すっぽり抜けていた。こういうこともあるので、気をつけないといけない。
中国系の講師(この分野では大御所)と話していたら、こっちにきて3ヶ月にしてはずいぶん英語がうまいと言ってもらえて、ちょっとうれしかった。外国人としての苦労というのが通じるのだ。ちなみにいうと、本人の英語はかなり聞き取りにくい。話すタイプの研究者ではなくて、統計の理論的な解析をつきつめて大きな仕事をした人なのだ。
車のオイルを変えたところだが、今度は冷房が効かなくなった。この車のフロンはタイプが古くてもう売っていないので、タンクをそっくり替えて200ドルらしい。でも、暑いから直すしかないだろう。
信号の横の電光掲示板がついていて、Do not turn left TRAINと書いてあるのを初めて見た。すぐに左手の線路に電車が来た。電車の頻度が低いから、こうでもしないと気がつかない人がいるのだろう。アメリカでは踏切の一時停止はしない。
2003.6.8
ゆっくりするつもりが休めず
博物館で見きれなかった分が気になったので大学の行きがけにまた行ってみた。蝶のケージがすばらしい。dry tropical forestの生き物が集められている。今まで3回とも、もう閉まっていて見られなかったので気になっていたのだ。
久しぶりに、土日とも遠出をしないで体を休めることにした。大学へ行って実験。土日くらいしかまとまって時間がとれないのだ。なかなか見つからなかった植物が見つかったのはいいが、栽培室は机も椅子もなくて、何時間もいたら体が痛くなってきた。全然休めず。雑用も持ち越し。
2003.6.7
NCの自然環境の分類
NCは海から山まであるので、勾配にそって多様な自然が見られる。博物館では6パターンほどに分けて展示していたが、3ヶ月ですでに5つに行ったことがあったとは、自分でも少々びっくり。NCの自然の全体像がつかめてきた。最近統計づけなので、3ヶ月に遠出は10回ほどで、6型のうち5つにあたる確率は・・・などと考えそうになる。実際は、東西南北を順番に、State Parkに行くようにしていたので、幅広く回れたのだと思われる(例えば、この前の日曜は、その前が山だから今度は海にしようと思ったので、independentでない)
まず、次の3つの地域に明確に分かれる。境界は非常にはっきりしていて、境目の州立公園にいくと面白いそうだ。
A. Mountains アパラチア山脈のことで、標高は高いところで2000mくらい(6000 feetと言われてもよくわからん)。
MountainsとCoastal Plainはそれぞれ、3つと2つずつに分けていた(それぞれ以下の1-3と5-6)。
3. Where the mountains arises. Stone Mountains State Parkなどで見たが、急な断崖で地層が見えるのが印象的。
4. Piedmont forest. オリエンテーリングをやっているUmstead State Parkなど。マツ(loblolly pine)、トチノキbuckeye、フウsweet gum(日本では化石しかでない)、スイカズラhoneysuckleなど。ちなみに、英語名はなかなか覚えるのが大変だ。学名をかいておいてほしい。
5. Savanna. サバンナと言ってもアフリカの草原だけではない。NCのサバンナは、雷の火事で維持されている草原である。食虫植物の宝庫。Green Swampがまさにこの代表である。ハエトリソウ、サラセニア、ラン(grass pink)など、見てきた植物たちが展示されていた。NCで花の最も美しい場所だと思う。
今日はたまった用事を端から順に片づけている。
2003.6.6
量的遺伝学再考
朝、信号待ちをしていたら、隣のドライバーがこっちの車を指さし、flat tireといわれた。見てみると、後ろのタイヤがぺしゃんこだ。びっくりした。高速道路に入る前に気づいて良かった。親切な人がいるもので助かる(スペイン系のように見えた)。すぐ近くのjeffy lubeという修理工場にとりあえず行ってみると、空気を入れてくれて、多分パンクしていない、と言われた。何でこんな急に空気が抜けたのか謎だ。だいたい、昨日オイル交換をしたところだから、見てくれていても良さそうなものだ。しかし、車も難しいものだ。講義にだいぶ遅れてしまった。
昨日書いたような量的遺伝学の問題点について、講義の終わりに質問してみた。講義前半では多数の小効果の遺伝子座を仮定していながら、QTLになるとmajor geneが出てくるのは矛盾しているのではないかと。専門家の機嫌を悪くさせるかと思ったが、まともに答えてくれた。誤解の元は、Major geneの定義が分野によって違うという点にあった。QTLの分野の人々は、マッピングするとすぐにmajor geneが見つかったと言いたがる(意味としては、二つの親の違いの大半を説明する遺伝子座)。しかし、量的遺伝学での定義は、標準偏差3つ分以上ずれたアリル(偏差値80以上か30以下)のことだそうだ。これがあると量的遺伝学の理論体系に問題が出るが、この定義のmajor geneは未だ一つも見つかっていないと言う。納得してしまった。
分野の未解決の問題として、量的形質の多型が維持されている機構が、drift, various selections, migrationなどどれを入れてもうまく説明しきれない、というのがあるという。分子レベルでは中立でだいたい説明がついているが、量的形質はもっと複雑らしい。たしかにこの観点から進化について分かることは少なくないのも確かだ。でも、本当に知りたいことに届きそうな気はあまりしない。趣味の問題だ。
最後の時間はQTLマッピングの応用の専門的な話で、この大学の統計の教授が開発した新しいアルゴリズムを、講師が実際に使ってみた話が出てきた。自分ですぐに使えそうなことに気づいた。3週間実験止めているが、一つこういうものがあれば講義をきいていた甲斐があるというものだ(と自己完結する)。こういうのって、研究やっていて幸せなときだ。講師と終わった後にその話をしたら、向こうも興味を示してくれた。上の階にいるから、これから相談にも行けそうだ。
今週もCSHのKさんを空港まで送りに行った。ついでにLa Farm Bekeryに行った。ついでというには、あまり方向が同じでなく遠かったけれど。いままで来るたびに閉まっていたのだ。このパン屋はまともだ。フランス人が経営しているかららしく、日本人に人気だという。Apple turnoverおいしかった。
第一金曜日でMuseum of Natural Scienceが夜間開館しているので行ってみた。はじめてきたのは2ヶ月前の第一金曜日に、ラボの人々とだった。あのころから考えると、ずいぶん思ったように生活できるようになった。そして、各地の自然を見たから見直すことで、NCの自然の全体像が掴めてきた。暗くなると危ないから早く帰ろうと思いつつ、閉館時間にまでなった。しかし、周辺を明るいうちに少し歩いてみて、安全な場所と危ない場所がほぼ見極められるようになったという感覚がある。博物館で見た内容は、明日にでもまた書きます。
2003.6.5
量的遺伝学の気に入らないところ
朝7時前に起きて、Nさんを空港にお送りに行った。起きられて良かった。ちゃんと乗り換えられるといいけれど。
昨日の午後からquantitative geneticsの講義である。Trudy Mackay(女性)の講義はすばらしい。ラボのポスドクたちも一押しの講義だ。ここに来る前からハエの量的変異の論文を読んだことがあったが、実際は研究にもまして、Introduction to Quantitative Genetics (Falconer and Mackay)という教科書の著者として有名であることが分かった。本の内容は非常にわかりやすく、講義もきわめてクリア。頭の中が整理されているのだろうなと思わせる。
量的遺伝学は基本的に完成されている学問で、もう道具であって、学問としてはdeadとも言われる。だから、教科書にあることを身につければいい。しかし、きわめて主観的な感想だが、考えるピントがずれていると思う。昔から、どうも腑に落ちず、そんな考え方でいいのかと納得いかない点が多い。分子生物学によって遺伝子の実体が分かってみると、不自然な仮定が多い。別に間違ってはいないのだけど、まわりくどい説明をした挙げ句に面白い現象を見過ごしていると感じられる。適切な比喩かどうか微妙だけれど、天動説で惑星の動きを説明しようとして苦労しているような感じ。地球を原点にしても別に間違いではないなので、地球が動いているという可能性に思い当たらなかった時代には意味のある理論だったと思うが、明らかに説明がややこしい。こういうことを言って面倒なことになることも多いのだが、自分の理解が足りないだけという可能性も棚に上げてしばらく続けてみる。
不自然だと感じる例。遺伝子の間に相互作用がある場合はViの項を付け加える。しかし、分子遺伝学の成果によれば、ある現象を研究していると、相互作用がある方が普通だ。相互作用を「その他」のViとして扱っているようでは(別に間違ってはいないが)面白いところを見逃している。
ほかにも、量的遺伝学ではヘテロの表現型は、両ホモの中間を基準にしているが、実際の観察では、たいていヘテロ表現型は中間でなく、優性ホモと同じだ。中間からのずれをdと定義して、式をいじった挙げ句に、dが正の時に近親交配の害が見られる、と導いているが、そんなこと当たり前である。DNAの言葉で言えばこう。遺伝子は基本的に2コピーずつあるが、1コピーはときどき壊れている(数万遺伝子のうち数個)。1つあれば足りているので別に害はない。ただし、近親交配したときのみ、壊れた遺伝子のホモが出やすく、そうすると有害、ということである。別に極端な還元論者になる気もないが、少なくともこの場合、物質としての遺伝子から説明するのがよい科学的説明だと思う。
大多数の効果の小さい遺伝子によるという仮定(理想化)によって正規分布で扱えるのだが、この仮定が正しい場合は少ないことがわかってきた。数十年前は体重など正規分布する形質しか研究できなかったのだろうが。
でも、こういう不満があるからこそ学ぼうという気になる。そもそも、完成された学問を学ぶというのは、私はそんなに好きではない。練習問題の答えが分かっていると、わざわざ自分でやらなくてもいいのではないかと思ってしまう。分かっていないことだらけのことを学ぶときこそ、夢があって面白い。そう感じる人には、物理や数学はやっていられないのだろうとも思うけれど。好き嫌いでしょうね。過去の成果を鑑賞するのに大手をふるって数年費やせるというのは、それはそれで楽しいと思うが、自分で何かを生み出すまで何年もかかるというのも大変だ。
大多数の効果の小さい遺伝子によるという仮定を乗り越える道が、QTLマッピングであって、量的遺伝学からはみだしているが、その発展型ともいえる。量的遺伝学は、歴史的に見たら分散分析を生み出すなど統計学の基礎でもあり、現在でも農業的な品種改良では有用である。
量的遺伝学は体系的に学んでいなかったので、この機会に長年の疑問のいくつかが分かった。フツイマの教科書で、分散をコンポーネントに分けている (Vp = Vg + Ve = Va + Vd + Vi + Ve)。しかし、分散は、P = G + Eのような式を二乗してつくっているのに、二乗しても足し算でいいのだろうかと気になっていた。ちゃんと勉強してみると、たしかに共分散Cov の項(a+bの二乗の2abみたいな項)は存在するのだが、大部分の共分散はないまたは小さいと信じられるそうで、またCov(A, D)は0になるように初めからつくってるということだ。例えば、遺伝と環境の共分散Cov (G, E) とは、例えば首の長いキリンは高いところのエサを食べられるために、成長が良くなってさらに首が長くなる、というような現象だが、そういうのは稀なので0にしておこう、と言うことである。こういうことって、疑問に思う人はすでに勉強して知っていて、疑問に思わない人は興味ないかも知れないので、書くのに意味があるかどうか気になるが。
でもなあ、趣味の問題なのだけれど、進化で面白いのは、体が大きくなったなどの量的形質ではなく、手ができたとか花ができたとか、noveltyが生まれるところだと思うのだけれどな。恐竜くらい大きくなると面白いと思うが、それは不連続な突然変異が効いていそうな気がする。
コースで日本人4人目発見。日本人だろうと思いつつ声をかけようか迷っていたら、向こうもそうだったようだ。統計の人だということだが、講義の感じ方が全然違うのが面白い。講師でも、生物と統計の人がお互いに教えあってくれ、と無責任なことを言っていた人もいた。私やKさんなど生物から来ている人は、結論は分かっていて、その定式化を学ぼうとしているのだ。統計学者から見ると、数学のところは分かっても、概念のところになると次から次へいろいろ出てきて全然分からないと言う。生物学者の頭の使い方としては、多数の概念を扱って複雑な現象に道筋をつけるような、総合的なものの判断が大切なのだと思うが、それは一点に集中して論理をつきつめる学問とは頭の使い方が全然違うのだろう。
2003.6.4
あやしい日本文化
Nさんが明日日本に帰るので、講義が終わってから、大亞洲超商など、行き残した場所をまわった。Nさんは好奇心旺盛で、新しいものを見るたびに喜んでいるので、こちらとしてもあちこち連れて行き甲斐がある。どうでしょうのDVDまで持っているそうで、旅行が好きなのだろう。夕食には、一度見たら面白いJapanese HIBACHIに行ってみた。前にラボで来たときに日記にも書いたが、これは日本料理ではない。カリフォルニアあたりで日本、中国、アメリカ文化が混じってできたものだと思われる。料理人が出てきて、大きな鉄板を使って、大道芸みたいなことをしたり、調理用具で音を立てたりしながら、濃い味のステーキとチャーハンを作ってくれる。料理の鉄人の流行とも関係があるのかも知れない。Nさんはデジカメで数分間録画していた。ただ、イネの研究者として米にはこだわりがあるのか、ここの米は食べられないようだった。
隣のアメリカ人たちに、箸の使い方を教えてくれと話しかけられた。料理人一人に8人の客だったが、何となく連帯感みたいなものがあってお互い話しやすい。日本食としておいしいのかと聞かれたときは、少し言葉に詰まってしまったが。Nさんは話しかけられやすい体質らしく、町中で2回道を聞かれたらしい。明らかに外国人に見えると思うのだが、なんかオーラがあるのだろう。ちょっとうらやましい。
お客さんが来ていると、自分の見過ごしているものに気づかされる。いつも行く場所のすぐ近くにいいスーパーマーケットがあったりとか、信号が赤だけ大きい、とか、信号が綱にぶら下がっているとか。
2003.6.2, 6.3
Molecular Phylogenetics
ひたすら講義だ。この講義はボスから強く薦められていた。同じ学科のT教授が話しているのだが、きわめて話がクリア。ML法の原理を知りたいと前から思っていたのが分かって良かった。コンピュータの実習もある。
面白かったのは、all the models are wrongと強調していたこと。初期には全サイトで同じ率で変化すると仮定していたが、それを補正すると結果がきれいになる。しかし、それでも、biologicalには、数塩基がまとめてうごいたり、複雑なことはいくらでも起きている。結局我々にできるのは、モデルである以上どれも正しくないのだから、一番便利なものを選べばよいのだ、と。また、現在の最大の未解決問題はアライメントである、というのはもっともだ。どの手法もアライメントが正しい前提で作られていて、最適化が図られているが、土台が危ない。アライメントも含めた最尤推定も、そう遠くないうちに作れる可能性があるようだ。
この分野、日本人の貢献が大きく、よく日本人が出てくる。T教授、この講義のアシスタントをしているフランス人のポスドクのSも日本に来たことがあり、もう一人韓国人のポスドクのSは、日本で学位を取っている。
B. Piedmont 訳すと、丘陵地帯、ピードモント。リーダースにも出ている単語だ。米国大西洋岸の海岸平野とアパラチア山脈との間の高原のこと。私が住んでいるのはここ。日本で言う高原とは全く違い、まったく山がない。
C. Coastal Plain 海岸平野 前二者が削られて、その堆積物が積み重なった土地。白亜紀以降。
1. Mountains Cove. 山の谷間とでも訳すのだろう。草原になってエンレイソウ(写真)などの花が美しいようだ。この前行ったGreat Smoky Mountains National Parkにもあるそうだが、前回は見てくることができなかった。近いうちに行く。ただし全く見たことがないわけでもなく、Grandfather mountainでみた保護区は、エンレイソウも多く生えていたので、これに近いと思う(日記を書きそびれている部分)。
2. Spruce-Fir Forest. この前行ったときの写真が現像できた。Great Smoky Mountains National Parkの上部など。日本の針葉樹林と非常に似ている。優占種はトウヒ属のPicea rubens (Red Spruce)と, モミ属のAbies fraseri (Fraser fir)。植物の世界の写真もNCで撮影されていた。
6. Bottom Land. まさに日曜に行ったMerchant Mill Pond State Parkが代表。池で全然見当つかなかった木がヌマミズキ属のNyssa aquatica(Water tupelo)だとわかり、博物館に来た甲斐があったというものだ。Su研の目の前で、ヌマミズキ科のカンレンボクは見たことがあったが、全然思い出せなかった。幹の水に近い下部がふくらんでいるのが印象的。もう一種の代表が裸子植物のヌマスギTaxodium distichum(bald cypress)。気根も出すようだが、先週は増水のためか気づかなかった。サルオガセと思ったのは、実は地衣類ではなく、被子植物パイナップル科のサルオガセモドキTillandsia usneoides(Spanish moss)であった。写真でぶら下がっているのが見える。