「シュリ」鄭石華・姜帝圭著、金重明訳、文春文庫、本体五六二円

 史上最大のヒット作となった韓国映画の小説化。「シュリ」は、三十八度線を越えて南北を自由に行き来するという幻の魚。そして、ひそかにソウルに潜入し、要人暗殺を図る北朝鮮特殊部隊の作戦名でもある。
 一九九二年九月、李芳姫は特命を受け南に潜入する。そして九七年、韓国諜報機関は、謎の女スナイパーによる要人暗殺に振り回されていた。主人公の柳重遠はその責任者。彼女を追い詰めながら、いつもあと一歩のところで取り逃がしていた。柳には、カフェテリアで偶然出会った恋人がいる。熱帯魚店で働く李明顕。砂を噛むような日常の中で、彼女と過ごす時だけが人間的な時間だった。二人の女性が同一人物であることを主人公が知るのは、ラストシーン。彼女は、恋人の前で壮絶な死を遂げる。
 北のスパイと南の諜報員が恋人同士になるなど、ありそうにないことのように思えるが、そこには同じ民族に対する熱い思いが込められている。軍事的には緊張しながら、その一方で同じ民族の血に引かれている。激しい銃撃戦とラブロマンスを、どちらもありうることとして描いたのが、映画を成功させた要因だろう。
 クライマックスは、二〇〇二年ワールドカップ単一チーム結成のための南北サッカー試合が行われる蚕室メーンスタジアム。南北の首脳をはじめ、政府要人が列席する。南北首脳を銃殺して大混乱を起こし、戦争に引き込むのが特殊部隊の狙い。さらに、精鋭がこの日のために侵入していた。大観衆の中で、行き詰まるようなアクションが繰り広げられる。
 映画では画面の面白さに目を奪われて、そこに込められているメッセージを見落としかねない。北の特殊部隊は、真摯に民族のために命を捧げようとした。しかし、作戦が失敗した後、彼らは一部の跳ね上がりとして処刑される。日本でいえば、二・二六事件のような時代を連想させる。(T)【文春文庫、本体五六二円】

 



 

「孫正義大いに語る!」竹村健一著、PHP研究所、本体九五二円

 インターネット関連企業に集中的に投資し、日本中が不況で苦しむ中、「勝ち組」の先頭にいるのがソフトバンクの孫正義だ。現在、米国二百社、日本二十社を傘下に収めている。ヨーロッパやアジアにも進出し、世界で七百八十社を所有するのが目標だという。成功例のポータル会社ヤフーは、設立半年後、従業員が五、六人の時に二億円を投資したのが始まり。今年、額面五万円の株が一億円を突破し、莫大な富をもたらした。その孫の躍進を支えているのが株式市場である。
 孫は、会社の価値を決めるのは株式時価総額だという。それは、周囲の専門家から見て、将来どれだけの収益をあげられるかの評価。今は赤字で資産がなくても、将来は確実に儲けることがはっきりしていれば、株価は上がる。つまり、期待値によって市場から資金を得ることができるのである。この米国式のやり方が、孫の性格にフィットした。孫自身が“インターネットの宣教師”として、情報を発信し続けている。
 インターネット関連株はバブルではないかという懸念もあるが、もちろん、孫はこれを明快に否定する。むしろ、今はまだその入り口にいると。Eコマース(電子商取引)の世界を見ても、確かに始まったばかりで、あらゆる事業のインフラになる可能性を持っている。
 面白いのは、孫が「自己進化モデル」の会社を目指していることだ。生物のように、突然変異で進化する能力があれば、事業のどれかは生き延び、次の時代にも栄えることができる。その突然変異を促すために、積極的にM&A(企業の合併・買収)をし、異なった遺伝子を取り込もうとしている。
 リーダーにとって必要なのは、理念と志、そしてビジョンと戦略だと孫は語る。ソフトバンクにおいては、「技術によって人類の知恵と知識を共有し、幸せで創造的な社会を実現する」ために、「あらゆるシーンをインターネットにつなげ」、「デジタル情報サービス産業で世界一になる」こと。IT革命の先を予見させる、刺激的な内容である。(T)【PHP研究所、本体九五二円】


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