本日7月20日、朝鮮民主主義人民共和国のIOF正式加盟が、IOF理事会の満場一致で承認された。この結果、 今年日本で開催される、2005年世界オリエンテーリング選手権大会(WOC2005)へ選手を派遣することが既に決定している 大韓民国と共に朝鮮民主主義人民共和国の選手も今年から世界選手権へ出場することが可能になった。  この結果、僕自身、朝鮮民主主義人民共和国の代表選手として、WOC2005への出場が決定した。 その為、この場で世界選手権の出場報告を行いたいと思う。  始めに、今回の出場報告を書くにあたって、現在、日本に残存している在日朝鮮人問題及び朝鮮半島問題に関する事項及び表現 が登場するが、この報告を読んでいただいている方々に、現在の在日朝鮮人の置かれている立場や問題理解の一助になれば と思い、出来る限り表記することにした。その為、一部にやや難解な表現があることをご容赦願いたい。    【ジュニア世界選手権オリエンテーリングを経験して】    僕が、世界選手権出場を目標に設定したのは、今から4年前の2001年にハンガリーで開催されたJWOC (ジュニア世界オリエンテーリング選手権大会)の終了後であった。この時、多くの方々のサポートによって、 韓国代表として出場させていただき、多くの経験をさせてもらった。  この大会で海外選手と同じ舞台で競い合う中で、海外選手の圧倒的な競技力に驚愕した。 しかし、将来、彼らと対等に渡り合い、勝ちたいという気持ちが沸々と沸き起こった。  この大会終了後、自分の心の中に、「将来、必ず世界選手権に出場する」という気持ちが芽生えた。    この時が、世界選手権出場に向けての出発点となった。   【国籍変更】  今回、WOC2005に出場するためにクリアしなければならない問題が二つあった。その一つは僕自身の国籍に関する問題であった。  WOC・JWOC・WC(ワールドカップ)に出場する競技者の国籍を決定するのはパスポートである。このことは、IOFの競技規則の第6条第2項に記載され ている。  2004年5月下旬に、韓国領事館から、国民登録の手続きをしないでの臨時パスポートの発給が今後一切認められなくなり、 朝鮮民主主義人民共和国のパスポートを取得した時点で、共和国の代表として世界選手権に出場する道を模索し始めることになった。  この時点で、朝鮮民主主義人民共和国のパスポートは取得していたため、IOFの定める規定はクリアしていたのだが、さらにクリア しなければならない問題があった。それは、外国人登録証明書の国籍欄の記載国籍に関する問題である。  日本に在住する外国人は全員、外国人登録証明書を所有しなければならない。これは、法務省が在日外国人を管理するために制定した外国人登録 法に基づく政策の一つである。その外国人登録証明書の国籍欄には、その人の国籍が記載されている。例えば、アメリカ人であれば「米国」、中国人 や台湾人であれば「中国」、ドイツであれば、昔の東西関係無く「ドイツ」という形で記載されているのである。  在日朝鮮人ももちろん例外ではなく、国籍欄に国籍が記載されている。しかし、在日朝鮮人の国籍欄の表記には二種類ある。それは、「韓国」と「朝鮮 」である。(この「韓国」と「朝鮮」表記の意味については、次のURLを参照していただきたい。→http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Labo/6434/ zainichi3.htm)  この外国人登録証明書の記載国籍の件に関して、在日朝鮮人のスポーツ選手が、朝鮮民主主義人民共和国の代表選手として出場する際に、 必ず満たさなければならない条件がある。それは、外国人登録証明書の国籍が「朝鮮」表記でなければならない、という条件である。 これは、朝鮮民主主義人民共和国の方針として一貫して貫かれている条件であり、過去に在日朝鮮人が朝鮮民主主義人民共和国の代表選手として オリンピックや世界選手権に出場しようとした際に、この条件が満たされていない、つまり、朝鮮民主主義人民共和国のパスポートを所有しているが、 外国人登録証明書の国籍が「韓国」表記であった為、出場することが出来なかった例は数多く存在しており、そのことで涙を飲んだ選手が後を絶たなかった。  外国人登録証明書の国籍欄が「韓国」表記であった僕も、今回の世界選手権に出場するために当然この条件はクリアされなければならない問題、 (つまり、外国人登録証明書の国籍欄の「韓国」表記を「朝鮮」表記に変更するという問題)は大きな壁となっていた。  では、なぜ「大きな壁」であったのだろうか?それは現在、外国人登録業務を取り仕切っている日本の法務省が、外国人登録証明書の国籍欄の「韓国」表記を 「朝鮮」表記に変更することを、定められた条件を満たしていない限り、原則的に認めていない為である。 その為、現在においても「韓国」表記である在日朝鮮人が朝鮮民主主義人民共和国の代表選手として国際大会に出場することが非常に困難な状況が存在しているのである。  僕もまさに上記の状況に置かれている一人であった。つまり、朝鮮民主主義人民共和国のパスポートを所有しているが、外国人登録証明書の国籍は 「韓国」表記であった。このため、「韓国」表記を「朝鮮」表記へ変更すること、これが世界選手権に出場するための僕自身にとっての最大の問題であっ た。  この問題の解決のために今年に入って動き出すことになる。外国人登録関係の業務は地方自治体が基本的に国から独立した形で行っているため、 浜松市役所の外国人登録担当窓口を何度も訪問して、申請手続きを行った。 その後、手続きや書類確認の為に申請受理までの時間が長くなったが、2005年4月8日に浜松市役所から「韓国」表記から「朝鮮」表記への変更の申請が認められた。 この結果、世界選手権に出場する際の「大きな壁」の一つをクリアすることとなった。 【朝鮮民主主義人民共和国のIOF正式加盟】  WOC2005に朝鮮民主主義人民共和国の代表選手として出場するためのもう一つの問題は、朝鮮民主主義人民共和国がIOFへ正式加盟することであった。   各国の代表選手が、世界選手権へ出場するために、その国の唯一のオリエンテーリング連盟がIOFへ正式加盟をしなければならない。 (少なくとも日本国内ではあまり知られていないかもしれないが、)朝鮮民主主義人民共和国にも、日本で言うJOA(日本オリエンテーリング連盟)と同様の 機能を持つオリエンテーリング連盟がある。名前は、朝鮮民主主義人民共和国アマチェアオリエンテーリング連盟(Amateur Orienteering Association of the Democratic People's Republic of Korea )である。  今年の7月まで、共和国の連盟はIOF準加盟であり、国際大会にはほとんど選手を派遣していない。(しかし、実は、ハンガリーで開催されたJWOC2001 にはエントリーしており、選手派遣の準備がなされていた。JWOCはIOF準加盟でもエントリーすることが可能である。)  この朝鮮民主主義人民共和国のIOF正式加盟の為の交渉は、約1年前に始まった。最初の時点では、直接共和国の連盟と連絡をする手段が無かった。 その為、共和国の体育関係の機関との連絡の窓口である在日本朝鮮人体育連合会を訪れ、この体育連合会を通じて、WOC2005に出場できるよう、 共和国のオリエンテーリング連盟にIOF正式加盟をしてもらう為の交渉を行うことになった。  共和国がIOF正式加盟をするためには一つの問題があった。それは、IOF加盟費の問題である。IOFに正式加盟をした場合、年間700ユーロ(日本円 で約95000円)を毎年払う必要がある。この加盟費の問題で、交渉が一時難航したが、最終的には、2005年から3年間分のIOF加盟費2100ユーロを僕が全額負担 することでこの問題は解決することになった。  そして、今年の7月上旬にに、共和国のオリエンテーリング連盟からIOF理事会に正式加盟の申請書類が出された。そして7月20日、朝鮮民主主義人民共和国 のIOF正式加盟が承認されたのである。   【競技者にとって最高の舞台を迎えるにあたって】  まもなく、世界選手権が始まる。この世界選手権を迎えるにあたって、一つ目標を設定して取り組みを行ってきた。  それは、「ミドル予選通過」という目標である。ミドルは、他の種目の中でも特にテクニカル(技術的)な要素が 問われる競技である。現在の僕の実力を考えると、このミドルで結果を残せる可能性が一番高いと考えている。  この目標をを設定してから、ミドル競技で問われるテクニカルな要素を鍛えるために、昨年の4月からの全てのオリエンテーリングのレース及び練習を No Compassで行ってきた。特に世界選手権のトレーニングテレインでは約100時間、特に最も難解なテレインである 黒坂では、36時間以上No Compassでトレーニングを行ってきた。WOC本番でも、2001のWOCミドルで優勝したフィンランドの Pasi IkonenのようにNo Compassで走る。  先日、日本代表のミドルの選考会が黒坂で開催され、そのコースを前走として走らせていただいたのだが、その結果を受けて、 ミドル予選本番のレースでミス率3%以内に抑えることが出来れば、予選通過という目標の可能性が出てくると感じた。これは、 現在の自分の実力を考えても十分達成できる目標であるので、まずは残り三週間、このことを念頭において調整を行いたいと思う。  また、今回の世界選手権本戦へは、リレーを除く全ての種目に出場予定である。現在以下の種目に出場予定である。 8月7日  ミドル予選 8月8日  ロング予選 8月10日 スプリント予選・決勝 8月11日 ミドルA決勝 もしくは B決勝 8月12日 ロングA決勝 もしくは B決勝 上記の通り、本戦には計5レースに出場予定である。全種目においてアグレッシブに上を目指して行きたいと思う。   【最後に】  今回WOC2005へ出場するにあたって、本当に多くの方々にサポートをして頂きました。本当にありがとうございます。 近日中に何かしらの形で個別にお礼の挨拶をしたいと思いますが、この場では以下の人たちに対して感謝の気持ちを書きたいと思います。  【アボジ、オモニへ】  今まで、24年間、僕を育ててきてくれてありがとう。  そして、いろんな形で支えてくれてありがとう。  僕は、生きている限り、ずっと、アボジとオモニの子です。  だから、過去現在未来、ずっと、その生き方・信念を尊敬し続けます。  【落合公也さんへ】   2001年春に「JWOCに韓国代表として出場してみないか?」という公也さんからの誘いが無ければ、今回のWOC2005出場はありませんでした。  また、普段、仕事で忙しい合間を縫って、東京、愛知へ交渉の為に一緒に東奔西走していただけたこと、WOC2005に出場するにあたって、  様々な形でアドバイスや相談に乗っていただいたこと、そして、朝鮮半島におけるオリエンテーリング界の発展の為の契機を作っていただいたことに  大変感謝いたします。これからもよろしくお願い致します。  最後に今の自分の心境を書きたいと思う。  世界選手権出場を目標にし始めてから4年。とうとう夢が現実のものになった。最高の舞台で競技することの出来る喜びは何物にも変えがたい。  しかし、逆に自分はその舞台でどれだけ結果を残すことが出来、海外選手と渡り合うことが出来るのか、という不安もある。  2001年のJWOCでは、海外選手との圧倒的な競技力の差を見せつけられた。それから4年。僕自身の競技力はその当時と比較して比べ物に成らないほど向上した。  しかし、昨年愛知で開催されたWOCトレーニングキャンプで、世界のトップクラスの選手と一緒にトレーニングをしたり、同じコースを走ったりして、  競技力の差はとてつもなく大きい、ということを感じずにはいられなかった。  しかし、僕が常に上を目指して成長し続けることを止めない限り、どこまでも成長する  ことは間違いない。WOC2005は、成長という名の道程の第一歩である。  たくさん経験しよう。たくさん感じよう。そして、たくさん成長してこよう。