第五章 コンセプトの情報化と具現化

 

 。 現代における「オピニオンリーダー

 

「オピニオンリーダー」の分類と変遷 

 

 「オピニオンリーダー」とは、一般に、商品やサービスの売れ行きや市場の動向を左右する生活者やビジネスマン、つまり特定の知識をもったリーダー的階層のことです。
 商品やサービスは、オピニオンリダーの良い評価を得ることによって、ボリュームゾーンである追随的階層を顧客に取り込むことができると考えられています。
 ここでは、企業や役所、NPO、地域社会や家族といったすべての人が構成する組織において、場のパラダイムを規定して知識創造を維持発展させる知的リーダーのことをすべて指すことにします。

 「オピニオンリーダー」は、必ずある情報について精通している階層であります。
 ならばすでに確認したように情報には4つの領域があるのですから、1つの精通した情報領域をベースにして他の3つの情報領域を判断する「4つのタイプのオピニオンリーダー」が存在することになります。

 そして、「高度成長期」「豊熟消費期」「堅実生活期」と価値形成ダイナミズムが変遷してきたのですから、じつはその時代時代に本当に有効な「オピニオンリーダー」が変遷してきているのです。

 

 


 概念図60に示すように、

 オイルショックまでの「高度成長期」には、
モノについての知識啓蒙の情報に精通す「モノづくりリーダー」が有効でした。
 
 バブル崩壊までの「豊熟消費期」には、
モノについての行動誘導の情報に精通する「モノ売りリーダー」「モノ買いリーダー」
コトについての知識啓蒙の情報に精通する「生活報告リーダー」「ビジネス報告リーダー」が有効でした。

 現在の「堅実生活期」には、
コトについての行動誘導の情報に精通する「生活創造リーダー」「ビジネス創造リーダー」が有効です。


 「生活創造リーダー」「ビジネス創造リーダー」とは、「生活創造者」「ビジネス創造者」に他なりません。
 自分の価値観で自分流の生活やビジネスを創造して、画一的で即物的な「送り手側のモノ提供の論理」にコントロールされない人々です。

 そして現在のメーカーや小売りの知識創造組織としての本質的問題は、「送り手側のモノ提供の論理」のパラダイムにあって、かつて有効だった社内の「モノづくりリーダー」や「モノ売りリーダー」に、いまだに商品や商売や店舗の戦略づくりの主導権を与えていることにあります。
 彼らは、相変わらず主要なターゲットとして「モノ買いリーダー」というモノの顧客(個人の顔のない消費者=コンシューマー)を想定した販売チャネル戦術ばかりを行い、「生活報告リーダー」というモノ情報の学習者(一般論を知ればすむ消費者=コンシューマー)に向けた販促情報戦術ばかりを行っています。それは「豊熟消費期」に最善のノウハウでしたが、現在の「堅実生活期」には必要な戦術ではありますが充分な戦略性を発揮するものではありません。
 今や私たちは、「生活創造リーダー」「ビジネス創造リーダー」というコトの顧客(個人の顔のある顧客=カストマー)でありかつコトの学習者(自分流を知ろうとする顧客=カストマー)を、主要なターゲットと想定しなければなりません。そして、いわゆるCRM(顧客との関係づくり)を、彼らとの有意義な共生関係であり学習関係を築く形で創意工夫する戦略が求められています。

カストマー=顧客コンシューマー=消費者の概念の違いを正確に知りたい方は、研修資料サイトから「カストマー概説」をダウンロードしてください。)

 

「生産空間」「消費空間」から「知識創造ネットワーク」へ



 社会における価値形成のダイナミズムの変遷の、目に見えて分かりやすい象徴的な現象について触れておきましょう。

 「高度成長期」までの「モノづくりリーダー」の時代、社会の発展を支える空間は、太平洋ベルト地帯といった「生産空間」で捉えることができました。
 そして現在は、単純な製造過程だけを担う「生産空間」は、海外移転が激化し国内では空洞化が進んでいます。

 「豊熟消費期」の「モノ売りリーダー」「モノ買いリーダー」と「生活報告リーダー」「ビジネス報告リーダー」の時代には、社会の発展を支える空間は、東京都心の渋谷や新宿や銀座、地方都市のそれらにあたる市心商業集積地という「消費空間」で捉えることができました。この時期に発展した観光地やリゾートも客がお金を落とす所ですから、同じですね。
 そして現在は、単純な消費過程だけを担う「消費空間」は、コンビニに象徴されるように、都市化および郊外化した日本全国の津々浦々にネットワーク化しています。その市場競争は空間的にも激しくなり、モノ余りとサービスに満ちあふれた時代に生まれてきた若い世代は単純な消費過程にはお金を惜しみますから、デフレ圧力にさらされます。

 現在、「堅実生活期」の「生活創造リーダー」「ビジネス創造リーダー」の時代、社会の発展を支える空間は、特定テーマの生活創造情報やビジネス創造情報が交流する「知識創造の場」です。それはもはや目に見える物理的な空間に集約されない「知識創造ネットワーク」に他なりません。
 単純な生産過程だけの「生産空間」が凋落する一方で、高度な知識集約型の開発工場や金型工場のような希少価値ある「生産空間」は安定しています。
 単純な消費過程だけの「消費空間」が凋落する一方で、高度な知識集約型のカテゴリーキラーと呼ばれるオンリーワンの「消費空間」は安定しています。
 ともに「知識創造の場」であり、ある生活テーマのカストマーライフにとって必須の「知識創造ネットワーク」の媒体、端末となっているからです。


 今や企業は、個人や企業のカストマーライフに必須の「知識創造ネットワーク」の端末として、「ニーズ主導型の知識創造」の集約的成果である品態/業態/店態を発信することで安定し、また成長することがはじめて可能になっています。
 今や企業のオフィスは、カストマーライフに必須の「知識創造ネットワーク」の媒体として、「ニーズ主導型の知識創造」の集約的成果である「生活創造情報」「ビジネス創造情報」を受発信して、はじめて有効に機能するようになっています。
 これは、品種/業種/店種を計数的に管理するばかりのITの導入と利用では、企業が安定し成長する訳ではないことの本質的な理由です。




 誰もが同じように使いどこのメーカーが作ろうとも画一的なモノを「コモディティ」と言います。
 コモディティ=品種を扱う業種店種を効率的に展開運営するためには、「データ創造の情報システム」が必要です。

 ここで「データ創造」とは、コンビニのPOSシステムで天候予測データを入力すると推奨仕入れデータが割り出され自動的に本部に発注がなされる、といった類いのデータ過程のことを指します。
 いわゆるナレッジ・マネジメントで「知識創造」と言う場合、このような人の思考の働きを機械化したデータ処理活用の過程をも含むことがあり、不要な議論の混乱を招いています。
 小生は、
 人の思考の働きを機械化したデータ処理活用の過程を「データ創造」
 人の思考の働きを生に交流させて知恵を創発する過程を「知識創造」
と言って峻別することにしています。

 そしてコモディティではないライフスタイル創造商品=品態を扱う業態店態を効率的に展開運営するためには、「知識創造の場」必要です。


 SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)やCRM(カストマー・リレーショシップ・マネジメント)に代表される、いかにしたらより効率よく在庫を抑えたり販売したりすることができるかといったデータは、とても重要です。
 しかし、それを割り出す「データ創造のシステム」は、既存の商品や商売や店舗を確定した前提条件とした上で機能するモノです。もっと言えば、パラダイム転換をしないで「戦術創出」をするのが課題なのです。競合企業も導入して活用しているから我が社も導入活用しなければならないが、さりとてそれで勝てる訳ではないのです。
 「データ創造のシステム」で安定したり成長できるのは1位の企業だけです。自動車業界の看板方式を極めたトヨタ、コンビニ業界のPOSの単品管理を極めたセブンイレブンなどが典型です。
 2位以下の企業は、日々新たな品態/業態/店態を創造していかなければならない。もっと言えば、既存の商品やサービスの一つ一つについてパラダイム転換をする「戦略創出」をするのが課題なのです。トヨタやセブンイレブンのように1位の企業が、効率的に上げた収益を開発投資や戦略投資に回しますから、なおさらです。社長がゴーン氏になってからの日産や40代の三菱商事出身の若手社長になってからのローソンの動きは、まさにこの課題への集中的な対応でした。
 ここで必要とされる「知識創造の場」では、現状のパラダイムの客観視と新たなパラダイムへの転換が求められます。
 誤解されている方が多いので敢えて繰り返しますが、知識創造は手段であって目的ではありません。目的は、現状のパラダイムの客観視と新たなパラダイムへの転換というコトなのです。お金を出せば誰でも買えるITシステムではなく、リーダーとそのブレインに「知識創造をいかに戦略的に進めるか」についての知恵が何より必要です。


 これからの日本社会の発展を支えていくのは、企業にしても役所、NPOにしても、地域社会にしても家族にしても、「知識創造の場」とそのネットワークです。
 この現実を踏まえると、さまざまに個性的な「ビジネス創造リーダー」という特定ビジネステーマの先行的実践者を育成したり、その協力を求めて指導に従うことの重要性が何より大きくなってきている、と言わざるを得ません。
 また、さまざまに個性的な「生活創造リーダー」という特定生活テーマの先行的実践者を支援したり、その知恵を学習して「ビジネス創造リーダー」がパラダイム転換をする「戦略創出」に活かすことの重要性が何より大きくなってきている、と言わざるを得ません。

 しかし、この重要性に気づいて実際に方向転換をしている企業は実に少ない。

 企業が方向転換をしていると言えるには、まず少なくとも「マーケティング」という基本概念を、単なる「モノを売るための販促手段」という狭義の枠組ではなくて、「新しい需要を創造して新しい顧客を創造するパラダイム転換の戦略」という広義の枠組で捉えていなければならないりません。
 それができている企業が少ないのです。
 そして具体的には、ソニーのように有望新規事業を従来のパラダイム下にない本体の外で外部人材を活用して立ち上げる。
 トヨタのように先鋭的なデザイン開発体制を従来のパラダイム下にない本流以外で立ち上げる。
 そんなオープンマインドで革新的な経営戦略が求められます。
 しかし、多くの企業でそうした経営戦略が採用されないのが現実です。
 強固な<無意識のパラダイム>がそれを許さないのです。
 日産はゴーン社長になって、ルノーのパラダイムにおいてスズキのデザイン部長を抜擢できました。そのようなことは日本ではまだまだ例外中の例外です。「なんで日産の人間をリストラしている時に、スズキから人を連れてこなければならないのだ」というのが普通の人々の本音です。

 画期的な新規事業開発も本体内部の生え抜き人材でできる。個性的なデザイン開発も本流の精鋭人材でできる、しかも「それが最善だ」と根拠なく信じているのが、普通の人々の常識です。しかし、もしそうだったら、どうして会社が傾いたのでしょうか?問題あるパラダイムの渦中に今いる人は、まずそうした単純な疑問すら抱かないのです。むしろ、社内の改革を唱える非主流派や外部から改革について客観的な提案をするコンサルタントに対してネガティブな対応をすることが一般的です。小生は、そういう状況を「北朝鮮国営放送状況」と口には出さずに呼んでいます。
 幸い私どもは、オープンマインドで柔軟な姿勢のトップやプロジェクト幹部のクライアントに恵まれています。実際、私どものような無名の個人事務所には、口コミで私どもを知って前向きに実利だけを求めるタイプの方しかご依頼がありません。必要な情報をすべてもらい互いに忌憚のない議論をさせて戴ける。そして私どもが提出した成果については、自分たちにはない発想や思考だとフェアに評価して戴いています。
 こうした経験から小生は、経営戦略の核心とは、企業全体にはびこる内向き、後ろ向き、上向きのネガティブな<無意識のパラダイム>の呪縛を断つことにあると実感しています。