卒業研究の紹介

2003.9.1更新

● 講義での宿題 ●
与えられたアウトラインを参考にして自分の研究を見直し、誰にでも理解できるよう書き直してみる。

以前掲載していた文章(卒研の概要文章)はこちらのページです




 過去の研究について(今回は2002年度の卒業研究について)「9段階知識構造化」に基づき、まとめてみました。9段階の構造にできるだけ従うことで、研究をわかりやすく紹介できたのではないかと思います。
 ここでは便宜的に、卒業論文の章立てではなくて、講義で配られたプリントにそった番号をふっています。



学術的研究論文のための9段階知識構造化

1.リファレンス

 1.1 大問題設定
 1.2 中期背景
 1.3 小前提

2 リサーチ

<2.1 仮説
 2.2 検証
 2.3 考察> のループ

3.プロフェッション

3.1 小結論
3.2 中期課題
3.3 大提言、大予測



2002年度卒業研究
「環境情報ネットワークのモデルと特性評価」
工学部システム創成学科 生体情報システムコース 山口 涼


1.リファレンス
(序論)

1.1 大問題設定
「インターネットとネットワーク容量の拡大」

 全世界のユーザー数が1億人を突破し、なお急成長し続けているインターネットは、現在急増するネットワークのトラフィックに加えて、新しく立ち上がるインターネット・ビジネスによる大幅な利用拡大に対応するため、バックボーン・ネットワークの拡大化が開始されている。テラビット技術やFTTH技術などの進歩により潜在通信容量が拡大したネットワークの実現がそこまで迫っており、これを有効活用する道を見つけることが一つの大きな課題となっている。

1.2 中期背景
「ネットワークの構造変化」

 今後、これまでのネットワーク利用の主役であった大企業のサービスの提供という利益の追求を目的とする利用方法はもとより、個人が趣味や娯楽の延長として利用するネットワークの発展が予想される。
 また一方で、ネットワークが製造現場や家庭、更に将来コミュニティや自然環境へと浸透し、各種の情報発信源がネットワークに取り込まれ万人が自由に利用できる時代へと進む、いわば「環境情報ネットワーク」とも呼ぶべきシステムの実現が、莫大な通信容量を有効活用する有力候補であると考えられている。

1.3 小前提
「環境情報ネットワーク」

 「環境情報」とは、街中の建物や家庭内の家具などの人工物、さらに自然などの環境が発する情報のことを言う。これらの情報が様々な場所で収集されてデータベース化され、利用したい時にすぐに取り出せるネットワークが整備されれば、利用者は様々な有益な情報を得ることができるようになるだろう。(図1)
 このような「環境情報ネットワーク」の構築により、製造現場では作業の効率化、家庭ではセキュリティ問題改善などのメリットが期待される。家庭や生産現場、更に、道路システムから街中にいたる、あらゆる人工環境の発信する情報を有効利用することにより、社会システムの効率化のみならず、住みやすい環境作りへの貢献が期待できるのである。さらに、ネットワークエッジが自然環境へと浸透することにより、自然環境情報の取得による環境保護とエコロジーへのより深い理解も期待できる。

 環境情報ネットワークについて、基盤ソフトウェアや、情報発信端末の研究はこれまでにいくつか行われてきたが、環境情報ネットワークの全体を包括する議論に発展する研究は現在までにほとんど行われてきていない。
 そこで本研究では、環境情報ネットワークをマクロな視点から評価し、その特性について議論することにする。環境情報ネットワークのマクロな特性を明らかにすることができれば、将来のネットワークの発達についての予測をすることができ、より効率的な環境情報ネットワーク構築法の議論へと飛躍することが期待できる。そうすることで、環境情報ネットワークのより早い発展を促し、その普及に貢献することが本研究の目的である。


 図1 環境情報ネットワークの概念図


2A.リサーチ(その1)
「環境情報発信モデルケースにおける特性の評価」

2A.1 仮説

 環境情報ネットワークの特性を論じる上で、第一に注目したことは、その情報の量が、どれくらいの規模のネットワークになるか、ということである。ネットワークに流れる環境情報量の概算を行うことで、将来の環境情報ネットワークの規模を予測することができる。また、その情報の大きさや特性を、インターネットなどの既存のネットワークと比較することで、環境情報ネットワークがどのような形で発展していくかを予測する指針とすることができる。
 そこで、環境情報発信の具体的なモデルケースを想定し、近い将来実現すると予想される、日本全体での環境情報ネットワークに流れる情報量の概算とその評価を行う。

2A.2 検証

2A.2.1 環境情報の分類とそれぞれの性質の評価

 環境情報の持つ属性として「原子的データ量の大きさ」「送信間隔」「IDの大きさ」「利用方法の種類」の4つに注目して、環境情報の分類を行った。この様な分類を行うことで、既存の情報との性質の違いを明確にすると共に、次節で行う情報量の概算を簡潔なものにすることが可能になった。

2A.2.2 モデルケースにおける環境情報量の概算

 一般的な住居環境、工業環境、商業環境でのモデルケースを想定。それぞれのケースについて、将来考えられうる環境情報を挙げ、前節で行った環境情報の分類を元に、それぞれから発生する環境情報の情報量の概算を行った。その結果、住居環境からは約29Kbyte/日、工業環境からは約540Kbyte/日、商業環境からは約1.6Mbyte/日の情報量が発生するという概算結果が得られた。

2A.2.3 日本全体での環境情報量とその評価

 前節で得られた結果を元に、情報量概算を拡張し、日本全体での情報量の概算を行った。その結果、環境情報ネットワークの情報量は16,900Tbyte/日 = 6,170,000Tbyte/年程度である結果が得られた。これは、現在のインターネットのトラフィック転送量に比べて数十倍程度の大きな値であり、環境情報ネットワークが将来インターネットを凌ぐ巨大なネットワークになる可能性を示すことができた。

2A.3 考察

 環境情報の分類を行うことで、環境情報の特性を明確にし、既存の情報発信形態との違いを述べた。
 また、モデルケースを用いて環境情報量の概算を行い、日本全体で一年間に600万TByteという環境情報の転送量が予想されるという結果を得た。この結果は、現在のインターネットのトラフィック転送量と比較しても大きな量であり、将来の環境情報ネットワークがインターネットを超える大規模なネットワークになる可能性を示した。


2B.リサーチ(その2)
「ネットワーク構造の解析 」

2B.1 仮説

 環境情報ネットワークの情報発信のパターンの大きな特徴として、非常に小さなデータが、莫大な数の端末から発生する、ということが挙げられる。今後環境情報端末数が爆発的に増加してくると、各地域において数億個の端末から情報が発信されることとなり、その莫大な数の情報を処理する必要性が出てくる。この際、情報処理を分散させて行うことが各端末のリソースを利用する上で有利であると一見思われるが、端末数が数億個と莫大な数になった場合に、その転送遅延時間やデータの結合処理時間などを考えると必ずしも完全な分散処理が有利であるとは言えなくなってくる。

 そこで、環境情報ネットワークを単純化したモデルを用意し、その分散処理の優位性を論ずる。また、既存のネットワーク並列分散処理の例として、暗号解読型モデルを挙げ、環境情報ネットワークモデルとの比較を行う。さらに、シミュレーションを用いてその妥当性を示す。


2B.2 検証

2B.2.1 ネットワーク並列分散処理との比較

 環境情報ネットワークは、小さな量の情報が莫大な数の端末から発生する形態のネットワークである。これらの情報の処理を行う場合に、各端末において分散処理を行う方法がよいか、一度ホストにデータのみを集めて集中処理を行う方法がよいかは、ネットワーク全体の負荷を減らす上で最も重要な内容の一つである。そこで、既存のネットワークモデルの中で、集中処理と分散処理とを使い分けている例として「ネットワーク並列分散処理」を挙げ、環境情報ネットワークモデルとの特性の比較を行った。その結果が図2である。
 この結果から、既存のネットワークモデルに比べ、環境情報ネットワークモデルは分散処理が優位な端末数の領域が大きいことが示せた。また、端末数の増加に伴って分散処理の優位性が高くなっていくが、端末数が非常に多くなると、データの結合処理やネットワークの遅延などの影響でその優位性が失われていくという特性も示している。環境情報ネットワークでは、端末数は爆発的に増加することが予想されるので、端末数の非常に多い範囲での処理能力を向上させることが課題になってくる。そのための方法として、分散処理端末のブロック化の手法を提案した。


 図2 分散処理の優位性の評価


2B.2.2 シミュレーションによる解析

 3.1で検討したモデルについて、OPNET Modelerというシミュレーションソフトを用いて、シミュレーションによる解析を行った。シミュレーションによる解析の結果も理論計算の結果と同じ傾向を示し、理論計算の妥当性を示すことができた。
 また、3.1で提案した分散処理のブロック化の手法についてシミュレーションを用いた解析を行い、処理時間短縮の結果が得られ、その有効性を示すことができた。


2B.3 考察

 環境情報ネットワークの単純なモデルを作成し、既存のネットワーク並列分散処理の例である暗号解読型モデルと比較することで、環境情報ネットワークモデルにおいて分散処理が優位であることを示した。また、端末数が非常に多くなる領域において、分散処理の優位性が薄れることを示し、その解決法の一つとして、分散処理のブロック化を提案した。
 さらに、OPNET Modelerを用いたシミュレーションを行い、理論モデルの妥当性を示した。また、端末数が非常に多い領域での分散処理のブロック化の有効性を、シミュレーションにより示した。

 今回の研究では、完全な分散処理と完全な中央処理との比較を主に行い、分散処理と中央処理の特徴を合わせ持った中間モデルとしては、「分散処理端末のブロック化」について検討したのみにとどまった。しかし、実際のネットワークは、これらのモデルが重なりあったより複雑な形で発展していくだろう。それには、ただ単に処理時間の効率だけではなく、ネットワークの構成コストや構成の容易さなども深く関わってくると考えられる。将来の環境情報ネットワークの構造について、より詳細な提案をするならば、それらについても検討しなければならない。


2C.リサーチ(その3)
「環境情報ネットワークの展望」

2C.1 仮説

 前章までに、将来の環境情報ネットワークに流れる情報量の概算と、環境情報ネットワークモデルにおける分散処理の優位性についての議論を行ってきた。しかし、このような形のネットワークが実際に構築されるためには、解決しなければならない様々な問題点がある。

 この章では、環境情報ネットワークの実現に向けての問題点を明らかにすることで、解決のための指針を示すことをめざす。

2C.2 検証

2C.2.1 環境情報ネットワークの展望

 インターネットの発展の例を参考にして、環境情報ネットワークの展望について述べ、環境情報ネットワークの発展に必要とされる条件について論じた。環境情報ネットワークの必要条件として「優れた拡張性」と「構成が容易で柔軟なネットワーク」をあげ、それぞれの実現のための課題を述べた。

2C.2.2 環境情報ネットワーク整備のための課題

 環境情報ネットワークの整備の際に問題になるさまざま課題を列挙し、解決に向けての指針を示した。
 環境情報端末の課題として、給電・発電・設置の利便性・対環境性・環境に負荷を及ぼさない端末、ネットワークの課題として、通信方法・情報フォーマット・標準化・インフラの整備、その他の課題として、収集する情報の選択・端末の位置設定問題、を挙げ、それぞれについて解決のための問題点等を示した。


2C.3 考察

 前章までの結果に基づき、環境情報ネットワークの発展のための様々な課題をあげ、その解決への指針を示した。しかし、個々の課題はそれ自身が非常に難しい問題でである上、複雑に関係しあっているため、実際の環境ネットワークの発展には、ここに挙げた以外にも多くの解決しなければならない問題点があると予想される。


3.プロフェッション

3.1 小結論

 環境情報ネットワークをマクロな視点から論じ、環境情報の特性の評価とネットワーク構造の解析を行うことで、環境情報ネットワークの発展のための様々な課題とその解決への指針をあげ、将来の環境情報ネットワークの発展を予測する指針とすることができた。

3.2 中期課題

 今回の研究では、ごく初期段階での情報量評価のみを行ってきたが、環境情報ネットワークの発展に伴って、情報量の大きさや環境情報の性質がどのように変化していくかを議論することは、環境情報ネットワークの特性を理解するうえで重要なことであり、今後検討しなければならない課題である。また、今回作成した環境情報ネットワークのモデルはごく単純なもので、実際にはより複雑な用件が絡み合ってくる。より実際に近いシミュレーションを行うためには、それらについての理解を深め、考慮する必要がある。

3.3 大提言、大予測

 環境情報ネットワークの実際の構築にあたる課題は数多く積まれている。これらの課題を大きくわけると、「情報発信端末の問題」と「ネットワークのモデルの問題」、そして「それらの相互リンクの問題」があげられるだろう。今後、個々の問題について理解を深め、ひとつずつ着実に研究・開発を行っていくことで、インターネットの次の世代のネットワークの中の一つになると思われる「環境情報ネットワーク」の整備が進んでいくことが期待される。





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