2000年4月24日


東京都知事
石原慎太郎 様
 
 

「不法滞在」外国人を危険視する石原発言の撤回を求める研究者の共同声明

石原慎太郎東京都知事は、さる4月9日に「不法入国した多くの三国人」による災害時の騒擾事件の可能性を指摘する発言をして以来、「不法滞在」外国人の存在が、治安にもたらす悪影響を繰り返し強調しています。私たちは外国人問題を専門的に研究してきた立場から、以下の2点について抗議します。

まず、「三国人」の使用についてです。石原知事は『大辞林』によれば、当事国以外の国民を指す一般的用法と、戦後に朝鮮人・中国人を指した俗称としての歴史的用法の2つがあり、前者の意味で使用したと弁解しました。しかし、知事の発言の文脈で当事国とはどの国を指し、「不法入国」外国人が当事国以外の国民とはどういう意味なのか、まったく理解できません。したがって、後者の意味で使用したとしか受け取れません。そこで知事は再び『大辞林』に頼って、俗称であって蔑称ではなかったと弁解しましたが、これは戦後の一時期、「三国人」が朝鮮人・中国人に対して差別的に用いられた事実を無視するものです。「不法入国した多くの」という限定を「三国人」の前につけようがつけまいが、東京都知事のような公人が、公の場でそのような語を使用すべきでないのは当然のことです。知事は、4月19日の都議会民主党への回答で、「三国人」が「差別的に使われていた」ことを初めて認めましたが、それまでの10日間、たびたび国内外のマスメディアに登場し、「三国人」の使用を正当化し、繰り返し在日外国人を侮辱してきました。一政党への文書で非を認めるのではなく、公の場で在日外国人に謝罪すべきであると考えます。

次に、「不法滞在」の多くの外国人が凶悪犯罪を犯し、もし大きな災害が起こった時には大きな騒擾事件すら想定されると、4月9日の発言以来、強調していることに抗議します。石原知事は、「不法入国者」「不法滞在者」など、「不法」という語を多用しています。しかし、この場合の「不法」は、入管法に違反するという意味であり、刑法犯や、ましてや凶悪犯罪と、同列に扱うべきものではありません。『警察白書 平成11年版』は、「国境を越える犯罪との闘い」と題して、国際犯罪組織等の暗躍に焦点をあて、「大量の不法滞在者の存在は来日外国人による犯罪の温床となっている」ことを指摘しています。知事も同様の認識に立ち、「不法滞在」外国人が、治安維持の大きな障害であることを、繰り返し述べています。しかし、その『警察白書』によれば、1998年の来日外国人凶悪犯251名のうち、「不法滞在者」は137名となっており、これは日本人も含めた凶悪犯全体の中では2%に過ぎません。1998年の凶悪犯数は、5年前と比べた場合、日本全体では3割も増加したのに対して、「不法滞在者」については大きな変化がみられません。確かに東京都の「不法滞在者」凶悪犯は過去2年増えていますが、日本人凶悪犯も増加しており、前者が突出しているとは言えません。なお、マスメディアの多くは、石原知事による「外国人による犯罪の増加」の指摘を、無批判に報道しています。特にテレビ報道にその傾向が顕著です。本来、マスメディアは「不法滞在」問題に対して多様な側面から報道を行い、「不法滞在」外国人への偏ったイメージの固定化を防ぐ責任があるはずです。石原発言に対する賛否両論を公平な立場から報道し、市民に正確な判断材料を提供すべきです。

「不法滞在者」の中で多くの比率を占めるとされる超過滞在者(「不法残留者」)は、1980年代後半の好況期の労働力不足を背景に急増を始め、1993年に約30万人でピークに達した後、漸減傾向にあります。これらの外国人の多くは、日本人が働くことを避けるような厳しい労働環境のなかで勤勉に働き、地域社会に定着していることが、多くの研究によって明らかにされています。1990年頃から、そうした超過滞在者と日本人が婚姻するケースが増え、法務大臣は、日本社会に生活基盤を築いていることを理由に、例外的措置とはいえ、これらの超過滞在者に正規の在留資格(在留特別許可)を与えてきました。また、今年2月には、外国人のみで構成された家族に対しても、子どもが日本の学校に通っていることを理由に、正規の在留資格を与えました。これは、当該外国人が入管法違反者であるにもかかわらず、人道的配慮、人権保障の観点に立ち、総合的な判断を下した結果であり、一定の条件下で「不法滞在者」に正規の在留資格を付与することは、すでに多くの国々で行われています。「不法滞在者」をむやみに危険視するだけでは、「不法滞在」問題の解決をはかることはできません。

石原知事が東京都の最高責任者として、東京都の治安維持に強い関心を持つのは当然であり、私たちも警察当局による国際組織犯罪等の取締りの重要性を認めています。しかし、その一方で、「外国人に開かれた地域社会づくり」をめざす東京都の最高責任者が、「不法滞在」外国人が犯罪者であると一方的に決めつけ、東京都民に外国人に対する恐怖心をいたずらに植えつけるのは、決してあってはならないことと考えます。知事発言は、「国又は地方の公の当局又は機関が人種差別を助長し又は扇動すること」を禁じた人種差別撤廃条約違反の疑いがあります。今回の知事発言の結果、ただでさえ弱い立場にある「不法滞在者」の多くは、ますます社会の周辺に追いやられ、災害時には孤立する可能性が強くなるでしょう。関東大震災時の朝鮮人・中国人虐殺という過去を背負った日本人には、災害時の外国人の安全に配慮する歴史的責任があり、都知事には外国籍都民の安全を守り、人権を擁護する責務があることは言うまでもありません。

日本社会の少子高齢化とグローバリゼーションの進展のなか、外国籍住民は今後、大きく増えていくことが予想されます。外国人と共生する社会づくりは、21世紀の日本にとって最大の課題の一つと言えます。東京都は1995年度から、共生社会をめざして、市民団体と提携しながら、さまざまな国際化施策を実施してきました。また、1997年に発足した「外国人都民会議」は、都政に外国籍都民の声を反映させる仕組みであり、都政への提言をまとめてきています。知事発言は、東京都をはじめ全国で展開されてきた、このような努力を踏みにじるものです。

以上の観点から、石原知事に対して、今回の一連の発言のすみやかな撤回と、在日外国人、なかんずく外国籍都民への謝罪を強く求めます。 

石井由香(立命館アジア太平洋大学)、池上重弘(静岡県立大学)、イシカワ・エウニセ・アケミ(鹿児島国際大学)、石田雄、伊藤るり(お茶の水女子大学)、稲葉奈々子(茨城大学)、伊豫谷登士翁(一橋大学)、江橋崇(法政大学)、岡崎勝彦(島根大学)、柏崎千佳子(上智大学)、梶田孝道(一橋大学)、川村千鶴子(多文化教育研究所)、ウェイン・コーネリアス(カリフォルニア大学、米国)、駒井洋(筑波大学)、近藤敦(九州産業大学)、佐久間孝正(東京女子大学)、定松文(広島国際学院大学)、戴エイカ(ノースカロライナ州立大学、米国)、滝田祥子(横浜市立大学)、田中宏(龍谷大学)、千葉立也(都留文科大学)、中澤秀雄 (札幌学院大学)、萩野芳夫(関東学院大学)、萩原重夫(社会基盤研究所)、初瀬龍平(神戸大学)、樋口直人(徳島大学)、樋口里華(九州国際大学)、平野(小原)裕子(九州大学)、福岡安則(埼玉大学)、水野直樹(京都大学)、宮島喬(立教大学)、山本薫子(東京都立大学)、山脇啓造(明治大学)、グレンダ・ロバーツ(早稲田大学)、渡戸一郎(明星大学)

[声明提出後の賛同者]寥赤陽(武蔵野美術大学)、高畑幸(大坂市立大学)、町村敬志(一橋大学)、阿部浩己(神奈川大学)、アンジェロ・イシ(武蔵大学)、スティーブン・カースルズ(ウォロンゴン大学、オーストラリア)、トーマス・ハンマー(ストックホルム大学、スウェーデン)

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