内閣総理大臣 小渕恵三

衆議院議員保坂展人君提出
国際世論の注視を集める入管行政に関する質問に対する答弁書

(質問:1999年12月15日、答弁:2000年1月28日)


(1)11月11日に、国内外の大学教員を中心とする研究者が「超過滞在外国人に『在留特別許可』を求める研究者の共同声明 」を法務大臣に提出した。外国人問題の専門家が集まって共同声明を作成するのは、おそらく初めてのことと思われるが、国内の主要な学者が署名している今回の共同声明の内容について、法務省内では検討したのか。また、検討したのであれば声明に付記された外国人・移民問題の世界的権威であるトーマス・ハンマー名誉教授(ストックホルム大学)、ウェイン・コーネリアス教授(カリフォルニア大学サンディエゴ校)、スティーブン・カースルズ教授(ウォロンゴン大学アジア太平洋社会変容研究所所長)の参考意見をどう受けとめたのか。

ご指摘の共同声明については、法務省において、イラン人等21名の不法残留者が昨年9月1日に東京入国管理局に集団で出頭した事実に関して寄せられた他の意見とも併せて検討した。

また、御指摘の3名の者の参考意見についても、西欧諸国及びオーストラリアを例として言及している部分については、これらの国と我が国とでは出入国管理行政を取り巻く諸情勢が異なっており、そのまま我が国に当てはめることはできないと考えるが、前記21名の者に在留特別許可を与えるか否かを検討するに当たり、有識者の意見の1つとして参考にしている。
 

(2)日本の学校で長く教育を受け、外国籍の親の出身国の言葉を習得していない子どもが非正規滞在者の中にみられるが、そうした子どもたちが退去強制となる場合は、言葉や習慣の問題など特別に大きな困難と不利益が予想される。こうした場合に、行政当局は児童の権利条約第三条にある「児童の最善の利益」を考慮することが必要と思われるが、どのように考えるか。フランスでは児童の権利条約第三条を第一に適用して退去強制を違法とする判例もある。この種の退去強制は児童の権利条約違反となり、国際的に大きな批判を受けるのではないか。

出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号。以下「入管法」という。)第24条に規定する退去強制事由に該当する児童につき退去強制手続きを執るに当たっても、児童の権利に関する条約(平成6年条約第2号)第3条1の規定により、「児童の最善の利益が主として考慮される」必要がある。

退去強制事由に該当する児童については、我が国の学校で長期にわたって教育を受け、親の出身国の言葉を習得していない場合であっても、当該児童の在留を特別に許可すべき事情があると認められないときにはその退去を強制しているが、当該児童の退去強制手続においても、「児童の最善の利益が主として考慮され」ているので、当該児童の退去を強制することが同条約に違反することはなく、国際的な批判を受けることはないと考える。
 

(3)戦後、韓国からの非正規入国者の多くが在留特別許可を得ている。これらの韓国人は「昭和三十年代までは、戦前我が国に居住していた者が家族ぐるみで再渡航するケース、親子兄弟ら離散家族の呼び寄せ、あるいは親を頼って入国するケース等人道的配慮を要する事案が大半を占めていたが、昭和四十年代に入ってからは、我が国に職場を求めるいわゆる出かせぎケースが主流となってきている」(『出入国管理 昭和51年版』120頁)という。これらの出稼ぎ目的の韓国人に対しても、日本社会への定着を理由に在留特別許可が認められてきたようだが、そうしたケースはこれまで、おおよそどのくらいあるのか。具体的にどのような条件で、何名の在留特別許可を認めてきたのか。こうした実績は、9月1日東京入国管理局への21名の出頭者に代表される約27万人の超過滞在者等の非正規滞在者の正規化の問題を考える上で、重要な前例となるのではないか。

お尋ねの出稼ぎ目的の韓国人の在留を特別に許可した件数については、統計がなく、記録が既に廃棄されているなどの事情により回答できないが、これらの韓国人でその在留を特別に許可されたのは、我が国において同国人の永住者や日本人等と婚姻した場合又は不法入国者同士の夫婦がいずれも十数年以上という長期にわたり我が国に在留していた場合等である。

昨年9月1日に東京入国管理局に出頭した21名の者はもちろん、約27万人の不法残留者の多くは、我が国において、そのような家族を形成した者でも長期間在留している者でもないので、この種の事案と同列に扱うことはできないと考える。
 

(4)労働災害により治療中である非正規滞在者を退去強制することは、人道上問題があると思われるが、どのように考えるか。ドイツやフランスをはじめ多くの国で、労働災害に基づく在留特別許可のような類似の事例があると聞くが、この点も、人権後進国としての批判を受けないように配慮すべきと考えるがどうか。

労働災害による傷病を治療中の不法残留者等については、本国における医療事情から見て我が国における治療が不可欠な場合には、退去を強制することに人道上問題があると考えるが、労働災害に対する補償のための手続きが終了していて、しかも、本国においても治療が可能である場合には、退去を強制することに人道上問題があるとは思われない。なお、我が国では、退去強制令書が発布された者であっても、傷病のために送還に支障が生じると認められる場合には、我が国で必要な治療が終了した後に送還するなどの措置を執っており、人権保障の観点にも十分配慮している。
 

(5)1997年10月に中国人の許攀桂(きょ・はんけい)さん一家五名が東京入管に出頭したが、99年10月22日に長女以外が不許可となり、17歳と10歳の子どもを含む一家4名が入管内の収容所に収容された。支援グループの幾度にもわたる働きかけにより、11月30日にようやく、2人の子どもと母親に仮放免許可が認められ、自宅に戻ることができたが、子どもたちまでをも収容してしまったのは、重大な人権侵害ではないのか。次女は収容されている間、ストレスからか顔面が赤く腫れ上がり、不眠などの体調不良を訴えたが、入管側は専門医に診察をさせることなく放置し、ぜんそくの持病をもち、たびたび発作を起こす長男も、男女別が原則である収容所では母親と引き離されたまま、母親の看護を受けることもできずに、心身共に不安定な生活を強いられたという。高校生の次女は、自ら超過滞在者となることを選んだわけではないのに、犯罪者のように処遇されたことに納得がいかないと抗議している。

在留特別許可を認めるべきかどうかという問題とは別に、このような待遇のあり方そのものについて、改善すべきではないか。

退去強制手続きは身柄を収容して進めることとされているところ、これは子供であっても例外ではなく、お尋ねの中国人一家の次女及び長男については、退去強制令書の執行により収容場に収容したものであって、そのこと自体をもって人権侵害というのは当たらない。ただし、子供を収容した場合には特別な配慮をしており、さらに、被収容者の年齢、健康状態にかんがみ身柄の拘束をいったん拘束をいったん解く必要が生じたときには仮放免を許可することとしているところ、本件については、昨年11月30日に次女及び長男に加えその母親の合計3名の者を仮放免したところである。

なお、収容中、次女及び長男については、いずれも医師に所要の診療を受けさせており、また、長男については、収容中に気管支ぜん息の発作を起こすようなことはなかった上、父親と同室に収容したものの、土曜日及び日曜日を除くほぼ毎日、日中母親と同室させるなど、人権に配慮した処遇を心がけてきたところである。
 

(6)「国際社会において、名誉ある地位を占めたい」という憲法の理念や、「出入国の公正な管理」をうたった入管法の目的に照らし、外国人の人権保障に関する国際基準に合致するよう、出入国に関する処分がなされるべきと考えるが、この点、在留特別許可に関する諸外国の基準と日本のそれとの検討は十分になされているのだろうか。

政府としては、各国が、その歴史、政治、社会、不法に滞在する外国人の状況、周辺諸国との経済を含めた諸関係等、出入国管理行政を取り巻くそれぞれに異なった諸情勢をふまえ、それぞれの国の実情に合った出入国管理制度を採用し、これを運用しているものと理解しており、その意味で、諸外国の制度およびその運用を直ちに我が国に当てはめることはできないと考えているものの、我が国の出入国管理行政をより適切ならしめる上で参考になるという視点から、これらの実情の把握に努めているところであり、在留特別許可の運用に当たっては、諸般の事情を総合的に考慮し、人権に関する各種の国際法規の趣旨をも踏まえつつ検討し、適正な判断に努めているところである。
 

(7)第二次出入国管理基本計画に関する意見募集を行い、広く市民の入管政策に関する意見を聞くのは画期的なことと評価しているが、今回の超過滞在者の在留特別許可の問題についても、よりオープンに議論することが重要ではないか。また、「永住」を含む様々な在留資格や「帰化」に関しても、その許可の基準が不明確で、恣意的に決定されているという批判が強いが、その基準を明確化したり、具体的な統計を公表するなど、入管行政全般について、法務省は、より積極的に説明責任を果たすべきではないか。また、今後、入管行政のあり方について、学者や市民団体等と、定期的に意見交換をする機会を設けてはどうか。

在留特別許可を与えるか否かについては、法務大臣が、個々の事案ごとに、本邦に在留を希望する理由、家族の状況、素行、内外の諸情勢等を総合的に考慮して判断しているところ、個々の事案について御指摘のようなオープンな議論を行うことは、関係者のプライバシーを侵害するおそれ等があり、適当ではないと考えているが、在留特別許可制度そのものの在り方に関しては、法務省に寄せられる意見等をも参考にしつつ、在留特別許可制度の適正な運用に努めている。

本邦に在留する外国人は、原則として、上陸許可若しくは取得に係る在留資格又はそれらの変更に係る在留資格をもって在留するものとされている。この在留資格は、本邦に上陸又は在留する外国人が本邦において行うことができる活動又は特定の身分若しくは地位を有する者として行うことができる活動を類型化したものであり、入管法別表の上欄に在留資格、下欄にそれぞれの在留資格に該当する活動を掲げているが、同別表の下欄に掲げる活動のいずれかを行うものでなければ、本邦に上陸又は在留することができないことから、同別表上陸又は在留が許される条件を明示したものである。

上陸許可については、同別表の明示に加えて、同別表第1の2の表及び4の表の上欄に掲げる在留資格に関し、出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令(平成2年法務省例第16号)において許可の条件となる基準を定めており、外国人の上陸に関しては、これら在留資格に係る条件を含めた入管法第7条第1項に掲げる上陸のための条件を満たすことによってその上陸が許可されることとなっており、基準は明確に示されている。

一方、在留資格の変更の許可、在留期間の更新の許可、永住許可、在留資格の取得の許可及び資格外活動の許可については、過去の在留状況など広範な事情を総合的に考慮する必要があり、画一的な基準のみにより拒否を決することは適当ではない。ただし、資格外活動の許可以外の許可については、在留資格に該当する活動を行うことが許可の基本的な条件となるほか、在留資格の変更の許可については、一部の在留資格に関してその取扱いの指針を告示しており、永住許可については、入管法第22条第2項に一定の条件を定め、更にその運用方針を公に示しており、資格外活動の許可については、入管法第19条第2項で一定の条件を定めている。

永住許可者の数等については、法務省が毎年発行している「出入国管理統計年報」において公表している。

帰化の問題については、出入国行政と直接は関係しないが、その拒否の決定は、国籍法(昭和25年法律第147号)に定められている帰化条件の充足の有無を中心としつつ、個別の事実における具体的な事情を踏まえた上での総合的な判断に基づいて行っているものであり、画一的な基準を示すことはできない。

帰化許可者の数については、法務省が毎年発行している「法務年鑑」において公表している。

出入国管理全般の在り方については、法務大臣が出入国管理基本計画を定めてこれを明らかにしており、また、これまでも、法務省において、平成2年以降会合を重ねてきた出入国管理政策懇談会及び平成3年以降の全国各地における出入国管理行政関係意見聴取会の開催等を通じて、学者や関係団体等からの意見聴取及びこれらの人々との意見交換を行っており、今後もこうした機会を活用し、社会の各方面の意見を参考にしてまいりたい。