超過滞在外国人に「在留特別許可」を求める研究者の共同声明

 

 去る9月1日、超過滞在の外国人5家族19名と単身者2名の計21名が、「在留特別許可」を求めて、東京入国管理局に集団出頭しました。これらの出頭者は全員、日本での生活の継続を強く望んでいますが、「不法滞在者」として無権利状態に置かれたままでは、将来的に正常な生活を確保できる展望をみいだせないことから、熟慮の末、意を決して、日本における合法的な在留が認められることを求めたものです。

 今回の出頭者の成人たちは「出入国管理及び難民認定法」違反の超過滞在者ですが、その他の犯罪歴は一切ありません。また、職場で勤勉に働き、納税義務を果たしてきました。こうした人々を強制的に退去させることは、日本にとって大きな損失といえます。何より彼らが日本社会に適応し、すでに生活基盤を形成するとともに、善良な「市民」として日本社会との絆を築き、職場や地域社会の実質的な構成員となっている事実は、きわめて重く受けとめる必要があります。さらに、今回の出頭者には、日本で労災に遭い、退去強制されると、治療の継続が困難になる人も含まれています。

 また、出頭者のなかには、保育園児から高校まで8名の子どもたちが含まれています。子どもの権利はいかなる場合にも優先的に擁護されなければなりません。子どもたちは自らの意思で超過滞在者になったわけではなく、日本政府が批准している「子どもの権利条約」を踏まえた措置が必要です。とくに子どもたちの場合、日本の保育園や学校で学び、日本語しか話せず、また日本人の子どもたちと親しい友人関係を築いているという意味で、日本社会に実質的に統合されており、それだけに日本での教育や生活の継続を強く望んでいます。こうした子どもたちが退去強制になれば、人権上の問題がきわめて大きいことは、明らかです。例えばフランスでは、国内で学校教育を受けている未成年の子どもに対して、退去強制が行われることはありません。これは学校教育をつうじて、フランス社会と確固たる絆を築いているという事実が重んじられるためです。また、これらの子どもの親が非正規滞在の場合にも、子どもが親とともに生活する権利が優先されるため、親の退去強制が行われることもありません。

 日本の場合は、日本人の配偶者か日本人の実子の養育者以外には、超過滞在外国人の「在留特別許可」は認められていないのが現状です。確かに、今回の出頭者たちはこの枠組みから外れています。しかし、歴史的にみれば日本政府には、「不法入国」してきた韓国・朝鮮人に対して、彼らの日本社会への定着を根拠に、人道的な見地から、在留特別許可を認めてきた多くの前例があります。とくに、出稼ぎ目的の人々に対しても、その生活実績を認め、在留特別許可を与えてきたことは、重要な前例であり、今回の出頭者たちに対しても同様の措置をとることが強く望まれます。

 私たち研究者は、以上の観点に立ち、今回の集団出頭者たちが日本での健全な生活を送ることができるよう、日本政府が一日も早く、「在留特別許可」を与えることを強く訴えます。

                   1999年11月11日

    法務大臣

     臼井 日出男 殿

           代表:駒井 洋(筑波大学) 副代表:渡戸 一郎(明星大学)


賛同者(代表者及び副代表者を含む、593名)


フランスの事例

 フランスは1990年に批准した「子供の権利条約」違反であるとして、いくつかの退去強制命令を無効にしています。そのうち1996年7月10日と1997年1月29日のコンセイユ・デタ(最高行政裁判所)の判決は、非正規滞在の両親に対する退去強制命令に関するものですが、「子供の権利条約」違反であるとして無効にされています。

 以下の例は、1995年9月4日にパリ市警察がエドガルド・トレス氏とその妻アミィ・カパティ氏に対する国外退去強制命令に関するものです。トレス夫妻は退去強制命令の取り消しを申し立てましたが、パリ市の司法裁判所は1995年9月7日にその申し立てを却下しています。コンセイユ・デタは、この判決を1997年1月29日の判決で無効としています(CE4SS173470C、TORRES)。

 トレス夫妻は1986年にフランスに入国し、以来非正規に滞在してきました。トレス夫妻の2人の子供は、それぞれ1989年と1991年にフランスで生まれています。コンセイユ・デタは、「18歳以下の子供が退去強制の対象とならないことは、その両親の退去強制を妨げるものではない」としながらも、両親の退去強制が「家族的つながりを侵害するものである」こと、「子供が成人に達したときにフランス国籍を選択する可能性がある」こと、「トレス夫妻が1986年以来就労し、子供がフランスで教育を受け、家族が完全にフランスに統合していることを証明している」ことなどをあげて、退去強制命令が「明らかに判断を誤っている可能性がある」ことを指摘しています。

 コンセイユ・デタはこれらの判断をするにあたって、この退去強制命令が、1990年1月26日にフランスが批准した「子供の権利条約」の3条1項に違反していることをあげています。


海外の専門家の参考意見

 この「共同声明」に対して、以下のように、3名の海外の権威ある専門家から、賛同とともに意見が寄せられているので、参考までに付す。

 

1.トーマス・ハンマー名誉教授(ストックホルム大学)

 私はここに在留特別許可を求める21人の超過滞在者のための共同声明を、全面的に支持するものである。長期の滞在は、新たな愛着を生み、滞在国との社会的、経済的な絆をもたらす。そうした滞在国からの退去強制は、あらゆる関係を絶つことを意味するため、当事者には悲惨な大事件となることがとても多い。大半のヨーロッパ諸国は、ある種の居住実績に基づいた規則を当てはめ、不法入国・滞在の外国人で長期滞在している者に対して、正規化を行い、在留許可を認めている。居住期間の基準は国によって異なるが、不法外国人の滞在が5年ないし10年以上になると、まるで新参者であるかのように退去強制することは許されなくなる。今回の当事者が日本の学校に通っている子どもを含んだ家族である以上、子どもの権利条約との抵触を検討することは不可欠である。[1999年10月29日]

  *トーマス・ハンマー (Tomas Hammar)

   ストックホルム大学移民・民族研究所元所長、名誉教授(政治学)。ヨーロッパを代表する移民政策研究の世界的権威。主著に、

   European Immigration Policy, Cambridge University Press, 1985

   Democracy and the Nation State, Avebury, 1990(邦訳書:『永住市民と国民国家』、明石書店、1999年)

   International Migration : Immobility and Development, Berg, 1997

   Mechanism of Immigration Control, Berg, 1999等。

 

2.ウェイン・コーネリアス教授(カリフォルニア大学サンディエゴ校)

 現在、日本にいる超過滞在者の相当部分は、日本に永久に留まるであろうというのが、私の見解である。彼・彼女らを合法化することが最善の政策である。なぜなら、そうすることによって、彼・彼女らを差別や雇用者による搾取から守り、日本社会への統合を一層、推進することができるからである。(日本生まれの子ども達が抱える問題の解決にも寄与する。)[1999年10月5日]

  *ウェイン・コーネリアス(Wayne A. Cornelius)

   カリフォルニア大学サン・ディエゴ校・比較移民研究所所長、政治学教授。日本の問題にも詳しいアメリカの移民政策研究の第1人者。

   主著に、America's New Immigration Law, Center for U.S.-Mexican Studies, 1983

   Controlling Immigration : A Global Perspective, Stanford University Press, 1995

   The Role of Immigrant Labor in the U.S. and Japanese Economies, Center for

   U.S.-Mexican Studies in University of California San Diego, 1998等。

 

3.スティーブン・カースルズ教授(ウォロンゴン大学アジア太平洋社会変容研究所所長)

 私は日本の著名な学者による共同声明を強く支持する。在留許可を求めるという勇気ある行為をとった21人の超過滞在者の勇気に敬服する。日本における居住と労働への実績から判断して、彼・彼女らは社会の重要な構成員であると思われるので、在留許可が認められるべきである。さらに、日本において一定の期間居住し、就労したすべての不法移民に対して正規の資格を認めるように、日本政府はそのルールを見直すべきであると私は考える。

 オーストラリアでは、超過滞在者を正規化する公式の手続きはない。そのような決定は、移民・多文化問題担当大臣の裁量に委ねられている。しかしながら、超過滞在者の社会参加が明確な場合は、しばしば肯定的な決定が下されている。

 今回の場合、子どもの退去強制は子どもの権利条約に違反するという見解に賛成する。                           [1999年10月29日]

  *スティーブン・カースルズ (Stephen Castles)

   ウォロンゴン大学アジア太平洋社会変容研究所所長、社会学教授。アジア太平洋の移民研究をリードする世界的に著名な社会学者。

   Immigrant Workers and Class Structure inWestern Europe, Oxford University Press,1973

   Here for Good: WesternEurope's New Ethnic Minorities, Pluto Press, 1984

   The Age of Migration, Guilford Press, 1993 (邦訳書:『国際移民の時代』、名古屋大学出版会、1996年)

   Immigration and Australia, Allen and Unwin, 1998

 

海外の専門家の参考意見(原文)

1.Tomas Hammar

  professor emeritus(political science), Stockholm University

  October 29, 1999

 I hereby express my full support to the appeal to the Japanese Government for the 21 overstayers who have applied for a special residence permission.

 A long stay results in a new attachment, and in social and economic tiesto the country which make s deportation from that country imply a full breakof all relations, and therefore even often a personal tragedy and disaster.

 Almost all European countries apply some form of domicile regulationaccording to which an alien who have arrived and stayed illegally is regularised or given a residence permit, of the stay has been very long. The residence period required varies, but as soon as it extends five or ten or even more years the illegal aliens must not any more be deported as if they were newly arrived people. In this appeal case the fact that these families have children studying in Japanese schools makes it even more mandatory to consider the international convention of the rights of Children.

2.Wayne Cornelius

Professor of Political Science and Director, Center for Comparative Immigration Studies, University of California-San Diego

October 5, 1999

 My opinion is that a substantial proportion of Japan's current populationof overstayers is likely to remain permanently in Japan; legalizing them is the best policy, because it will reduce their vulnerability to discrimination and employer exploitation, and accelerate their integration into Japanese society (also reduce problems for their Japan-born children).

3.Stephen Castles

Professor of Sociology at University of Wollongong

Fri, 29 Oct 1999

 I strongly support the 'Appeal to the Japanese Government' issued byyourself and a number of other distinguished Japanese academics.I admire thecourage of the 21 overstayers who have taken the courageous step of requesting regularisation of their status. It seems to that they have proved their committment to living and working in Japan, and are valuable members of the community. They should be granted regular residence status. Moreover, I believe the Japanese Government should review its rules to grant regular status to all illegal immigrants who have lived and worked for a certain period (say one year) in Japan.

 In Australia, there is no formal procedure to regularise overstayers. Such decisions are at the discretion of Minister of Immigration and Multicultural Affairs. However, positive decisions are often taken, when overstayers have shown their commitment to partiicpation in the community. In any case, it is hard to compare Australia with Japan, since we have a large legal intake of permanent settlers, who can be grnated citizenship after just two years here.

 I share your view that depoartation of children in such cases violates the International Convention on the Rights of the Child.


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