アラビア語を使う−学術論文等における注・参考文献のつけ方


はじめに


 近年、日本における中東・イスラーム世界研究も50年前のような欧米圏の研究に依拠したものから、直接アラビア語やペルシア語で書かれた文献・資料に依拠して行われることも珍しくなくなっている。アラビア語などの資料に依拠し、その出所を注の形で明記する場合や専門的な学術用語としてアラビア語を使用する場合もある。こうしたときに日本では非ラテン・アルファベットの転写文字による表記という形式をとってきた。*

転写文字を使う理由としていくつかが考えられる。
1. アラビア語のアルファベットを読めない読者のため
2. 手書きの場合を除けば、執筆者がアラビア語を利用できるような環境にない
3. 印刷会社にアラビア文字を印刷できる環境、アラビア語を理解できる人材がいない

 しかし、私は転写文字を使わず、アラビア文字を使用すべきであると考えている。まず、アラビア語を理解できない読者が転写文字による音を知ったとしても、どれほどの意味があるのだろうか。他の言語(ロシア語など)でもかつては転写文字を使っていた。またすでにMacintosh、Windowsいずれにおいてもアラビア語を使用できる環境が整いつつある。印刷会社とのやり取りも面倒であるが、指定をしっかり出せば不可能でないと思われる。

 転写文字の欠点は他にもある。転写文字は日本国内では一応統一されているが、海外との互換性はない。日本の転写文字はまだましな方である。注の目的として読者にさらなる情報への経路を提供するというサービスが考えられるが、海外の参考文献や注などからは正確な書名が確認できない場合(とくに長母音が不明瞭な場合が多い)が見られる。

 また、転写文字を使って、アラビア語文献の参照情報を記す場合、英語の略記号ibid.op.cit.などが使われてきた。しかし、私の考えではアラビア語の文献を表記するのだから、英語の記号を使用するのもやや奇異な感がする。私の立場は日本語で学術的著作を発表する際に、参照した文献の言語に従って、注や参考文献の情報を記述するということである。要するに、英語を参照したら、英語式、フランス語ならフランス語式でということである。

 そこで、ここでは日本語で書かれた学術的著作物においてアラビア語およびアラビア文字を使用する注・参考文献の書き方について考えてみたいと思う。注や参考文献のスタイル自体は学会や発表する媒体等によって異なり、作成者の発表する「場」によってそのスタイルは変わってくるものと思われる。アラビア語の学術的著作を見てもその形式は一貫したものでないのが実状である。したがって、ここで紹介する例はあくまで参考程度のものであると思ってもらいたい。

1.アラビア語の注


アラビア語の注も欧文献とほぼ同様の形式で表記される。各項目ごとにカンマで区切り、最後にピリオドを振る。書名や雑誌名には欧文献の場合、イタリック体もしくは下線を用いる。アラビア語の場合、私がこれまで見たことがあるのは、斜体もしくは太字による強調の二つのパターンである。また、書籍の場合、出版地以降を()でくくるパターンもある。

雑誌論文や所収論文の場合、論文名を二重の丸括弧で括る。しかし、この記号はWINDOWSでは表現できないようで、ネット上のオンライン論文などを見ていると、""を利用したり、括弧を一切つけないケースもあるようである。私自身は""を利用している。 また、英語のop. cit. 、日本語の前掲書(前掲論文)などに相当する表現はいくつか見られ、統一されていないようである。

例:

(1).مارلين نصر, التصور القومي العربي في فكر جمال عبد الناصر, 1952-1970: دراسة في علم المفردات و الدلالة, بيروت, مركز دراسات الوحدة العربية, 1981, ص 12
(2) .المصدرنفسه, ص 14
(3) .بطرس بطرس غالي, "الناصرية و سياسة مصر الخارجية", السياسة الدولية, العدد 21, يناير 1971, ص 8-27
(4).المرجع السابق, ص 12

書籍の場合


論文の場合

同じ文書に関する注が連続する場合
同じ文書に関する注を他文献を挟んで再度記載する場合 *筆者により、定冠詞をつける場合とつけていない場合がある。

2.アラビア語の参考文献

参考文献情報本体の書き方は、注の場合と同様である。

例:

参考文献
علي هلال, الأمم المتجدة والوحدة العربية(1945-1982), مركز دراسات الوحدة العربية,1989.
جسن أبو طالب, عروبة مصر بين التأريخ و السياسة, القاهرة, مركز المحروسة للبحوث و التدريب و المعلومات, 1996.
أحمد أحمد يوسف, نزاعات العرب و العرب: 1945-1981, مركز دراسات الوحدة العربية, 1996.

3.アラビア語の略記号

雑誌の号数

頁の表記

編集者の表記


* なお、筆者の見た限りでは、アラビア語文献をアラビア文字で記述しているのは富田広士氏だけである。
富田広士「エジプト・1952年革命における社会経済改革の位置」『慶応大学法学研究』61巻5号、1988年、267-292頁。

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