● ハイテク犯罪等の現状と今後の脅威
ハイテク犯罪とは、1997年(平成9年)6月に開催されたデンヴァー・サミットの「コミュニケ」において、「コンピュータ技術及び電気通信技術を悪用した犯罪」を意味する言葉として用いられており、国際的に定着した用語となっている。これを我が国に当てはめれば、刑法に規定されている電子計算機損壊等業務妨害罪をはじめとしたコンピュータ若しくは電磁的記録を対象とした犯罪(注1)又はそれ以外のコンピュータ・ネットワークをその手段として利用した犯罪(注2)ということができる。
ハイテク犯罪は、情報化の進展に伴い、近年急激に増加しており、その態様も不正アクセス(他人のID・パスワードを盗用したり、セキュリティ・ホールを突いたりするなどして他人名や架空名等でコンピュータ・システムを使用する行為)を手口とするなど悪質化、巧妙化する傾向にある。
(注1)「コンピュータ若しくは電磁的記録を対象とした犯罪」とは、次のものをいう。
- 刑法に規定されている、私電磁的記録不正作出罪(第161条の2第1項)、公電磁的記録不正作出罪(第161条の2第2項)、電子計算機損壊等業務妨害罪(第234条の2)、電子計算機使用詐欺罪(第246条の2)、公電磁的記録毀(き)棄罪(第258条)、私電磁的記録毀棄罪(第259条)
- コンピュータにコンピュータ・ウイルスに感染したファイルを送付し、当該コンピュータを正常に使用できない状態にした場合(器物損壊罪)のように、上記以外の犯罪であって、コンピュータ・システムの機能を阻害し、若しくはこれを不正に使用するもの
(注2)例えば、パソコン通信の電子掲示板を利用し、覚せい剤等の違法な物品を販売した場合、コンピュータ・ネットワーク上で他人のパスワードを使用し、その者になりすまして虚偽広告を掲示し、販売代金をだまし取った場合、インターネットに接続されたサーバ・コンピュータにわいせつな映像を蔵置し、これを不特定多数の者に対して閲覧させた場合等が挙げられる。
(1)ハイテク犯罪の認知・検挙状況
平成9年中のハイテク犯罪の認知件数は263件であり、検挙件数は262件であった。その認知・検挙件数はこの5年間で8倍以上に急増している。ただし、その認知件数は氷山の一角であると考えられる。このほか、G7各国中(注)、我が国においてのみ犯罪化されていない不正アクセス事案も多発している。
今後、電子商取引等の普及等に伴い、ハイテク犯罪が一層深刻な状況となるおそれがある。
(注)G7(Group of 7)とは、我が国のほか、米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア及びカナダを指す。
9年中に認知されたハイテク犯罪の主な事例には、次のようなものがある。
- [事例1]
- 農業協同組合職員(23)は、8年1月から9年2月までの間、合計15回にわたり、オンラインシステムの端末を操作して、同組合の金融業務の事務処理に使用されている電子計算機に対し、組合員の定期貯金の解約申入れがあった旨及び自己又は架空人名義の口座に定期貯金解約額相当額を増額する旨の情報を与えて、財産権の得喪、変更に係る不実の電磁的記録を作り、不法に約3,400万円の財産上の利益を得た。9年4月、電子計算機使用詐欺罪で検挙(岩手)
- [事例2]
- 元会社員の男(31)は、インターネットを利用し、オランダ等に大麻種子や栽培器具を注文して取り寄せ、自宅の洋服タンス内で大麻を栽培し、乾燥させた大麻草を所持していた。9年5月、大麻取締法違反により検挙(秋田)
- [事例3]
- コンピュータ・ソフトの開発販売業者(37)は、9年1月から4月までの間、インターネット上に開設したホームページに、一定の情報提供等のサービスを電話回線で行い、その代金を通話料と一緒に徴収する事業の出資者を募る広告を掲載し、元本を保証とした上で、その事業による利益から配当金を支払う旨の契約を応募者と交わし、215人から約1,500万円の預り金を受け入れた。同年5月、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律違反で検挙(北海道)
(2)コンピュータ・ネットワーク上における少年に有害な情報の状況
コンピュータ・ネットワーク上においては、情報の受発信を匿名で行いやすいことや、特にインターネットについては全体の管理主体が存在しないことなどから、性や暴力等に関する少年に有害な情報が氾濫(はんらん)しており、大きな社会問題となっている。
平成9年中には、容易に外することのできるマスクにより処理したわいせつ映像を記憶・蔵置させ、アクセスしてきた不特定多数の者にわいせつ映像を再生閲覧させていた事案や、パソコン通信の電子掲示板に広告を掲載して顧客を募り、電子メールで注文を受け、わいせつ映像を記録したCD-Rを販売していた事案等が発生している。
- [事例]
- 会社員(26)は、パソコン通信の掲示板に「アイドル画像売ります」等の広告を掲載して顧客を募り、電子メールで注文を受け、女性アイドルの顔写真を合成したわいせつ映像を記録したCD-Rを販売していた。9年9月、わいせつ図画販売罪で検挙(兵庫)
また、特に最近では、少年に有害な情報の発信者として、インターネット上のホームページ等を利用して性的な行為を表す場面や衣服を脱いだ人の姿態の映像を有料で見せる営業のほか、コンピュータ・ネットワークを利用してアダルトビデオ等についての卑わいな広告を行い、これらの通信販売をする営業等が目立ってきている。
このような状況の中で、少年が自宅のパソコン等を利用して容易にこれらの情報にアクセスすることができるようになっていることは、少年の健全な育成の観点から看過できない問題となっている。
この点に関して、総務庁青少年対策本部が9年9月に実施した「青少年の情報通信を利用したコミュニケーションに関する調査」では、子供のインターネット等の利用に当たって改善・配慮が必要な事項として「ポルノや暴力などの有害な情報を子供に見せないようにする」を挙げる保護者が調査対象者の65.9%にも上っているほか、10年2月、(社)日本PTA全国協議会から国家公安委員会委員長等に対して、インターネット上のポルノ映像等を少年の目に触れさせないようにするための善処を求める旨の要望書が提出されている。
今後の情報化社会の一層の進展に伴い、コンピュータ・ネットワーク上における少年に有害な情報が更に増加するとともに、全国の小・中・高等学校と特殊教育諸学校をインターネットに接続するための施策が進められているなど少年がコンピュータ・ネットワークを利用する頻度はますます高まることが予想され、少年がこれらの情報に接する機会がますます増えることが懸念されることから、所要の対策を講じることが急務となっている。
(3)ハイテク犯罪の特徴
ハイテク犯罪の主な特徴としては、匿名性が高いこと、犯罪のこん跡が残りにくいこと、不特定多数の者に被害が及びこと、暗号による証拠の隠蔽(いんぺい)が容易であること、国境を越えることが容易であることが挙げられる。
コンピュータ・ネットワーク上では、相手方の顔や声を認識することはできず、筆跡、指紋等の物理的なこん跡も残らない。相手方が本人であるかどうかの確認は、専らID・パスワード等の電子データに依存して行われる。このようなコンピュータ・ネットワーク上の匿名性に目を着け、正規の利用者のID・パスワードを盗用するなどの不正アクセスにより、その利用者になりすましてハイテク犯罪を実行する事例が多発している。最近数年間における不正アクセスを手口とする主なハイテク犯罪の事例は、次のとおりである。
- [事例1]
- 会社役員(54)、銀行員(32)ら3人は、共謀の上、パスワードを探知し、平成6年12月、電話回線に接続したパソコンを操作して、銀行のオンラインシステムを介して、同行の預金業務等のオンライン処理に使用する電子計算機に対し、実際には振込事実がないのにもかかわらず他行の指定口座に十数億円の振込をした旨の虚偽の情報を与え、不法に資金移動させて財産上不法の利益を得た。7年2月、電子計算機使用詐欺罪で検挙(愛知)
- [事例2]
- 会社員の男(25)は、都市銀行に他人名義の口座を開設した上、パソコン通信上で他人のID・パスワードを不正に探知し、盗用してその者になりすまし、同パソコン通信を利用して、パソコン部品販売名下に当該銀行口座に現金を振り込ませてだまし取った。この会社員は、銀行員との対面を経ずに口座を開設できる都市銀行のメール・オーダー・サービスを悪用し、契約した私設私書箱の住所を用いて他人名義の口座を開設していた。8年11月、詐欺罪で検挙(京都)
コンピュータ・ネットワーク上の行為は、すべて電子データのやり取りであるため、その記録を保存するための措置を特に講じない限り、そのこん跡は残らない。また、その記録が保存されている場合にも、改ざんや消去が容易である。実際にも、我が国で設置、運営されているコンピュータ・システムは、犯罪が発生した場合にもその記録が全く保存されない仕組みになっている場合や、その記録が犯罪者に容易に改ざん、消去され得るような場合が少なくない。また、被害者が原状回復を急ぐ余り、誤って犯罪に関する記録を消去してしまう場合もある。
こうした事例としては、次のようなものがある。
- [事例]
- 8年4月、大分市内のプロバイダのホスト・コンピュータが外部から不正に操作され、会員のパスワード約2,000人分や個人のホームページ等のデータが消去されて、同プロバイダの業務が一時中断した、電子計算機損壊等業務妨害容疑事件が発生した。なお、同コンピュータはログを保存する措置をとっていたものの、セキュリティ・ホールを突かれ、その記録も消去されていた。10年5月現在捜査中である(大分)。
ホームページ、電子掲示板等は個人が不特定多数の者に情報を発信するための簡単なメディアとして注目されているが、これが犯罪に悪用された場合には、広域にわたり不特定多数の者に被害を及ぼすこととなるほか、被害が瞬時かつ広域に及ぶこともある。実際にも、ホームページや電子掲示板に虚偽の販売広告を提示し、多数の者から販売代金をだまし取った事件、特定の者をひぼう中傷する内容のメッセージをホームページに掲示し、その者の名誉を毀損した事件等が発生している。
こうした事例としては、次のようなものがある。
- [事例]
- 無職の男(24)は、パソコン通信を利用して音響機器販売名下に金員をだまし取ることを企て、8年3月から9月までの間、自ら不正に入手した他人のID・パスワードを使用し、同通信の電子掲示板に振込銀行口座と販売広告を掲載して購入希望者を募り、それに応じた被害者に対し、指定した銀行口座に現金を振込入金させるなどして、約120人から総額約1,100万円をだまし取った。同年11月、詐欺罪で検挙(埼玉)
暗号は、適正に利用される限り、電子データを安全に保存し、伝達するための有効な手段となるが、犯罪の証拠となる電子データが暗号により隠蔽された場合等、暗号が犯罪に悪用された場合には、その捜査が著しく困難になるという問題が生ずる。
暗号により犯罪の証拠を隠蔽していた事例には、次のようなものがある。
- [事例1]
- 7年中に検挙された一連のオウム真理教関連事件においては、押収された光磁気ディスク、フロッピー・ディスク等に保存されていた犯罪にかかわる電磁的記録に高度の暗号化等の処理が施されていたため、その解析作業は困難を極めた(滋賀)。
- [事例2]
- 8年7月に検挙された山口組傘下組織組員らによる逮捕監禁等事件において、押収されたコンピュータに保存されていた同傘下組織に係る情報の電磁的記録に暗号が施させていた(長崎)。
インターネット等のグローバルなコンピュータ・ネットワークを利用すれば、国境を越えた情報の伝達・交換を瞬時にして簡便に行うことができるため、ハイテク犯罪は、従来の人、物、金の移動を伴う犯罪に比べ、その国際的性格が顕著である。その一方で、罰則の適用や犯罪の捜査は、従来の犯罪と同様に各国の主権に基づいて行われるため、各国間における法制の違いや国際捜査協力の隘路(あいろ)に目を着け、検挙、訴追を免れようとする事件が発生している。
最近における国境を越えて実行されたハイテク犯罪の主な事例には、次のようなものがある。
- [事例]
- 会社役員(30)は、自宅において、インターネットを利用し、わいせつ映像を米国所在のプロバイダのサーバ・コンピュータに送信して同コンピュータの記憶装置に記憶・蔵置させ、そのわいせつ映像データにアクセスした不特定多数の者に閲覧させた。9年2月、わいせつ図画公然陳列罪で検挙(大阪)
● ハイテク犯罪捜査官の採用
都道府県警察では、高度な情報通信技術の専門家自らが捜査に従事し得る体制を整えるため、企業等におけるシステム・エンジニアとしての勤務経験を有する者等をハイテク犯罪捜査官として中途採用することを推進している。10年4月現在、全国で合計13人をハイテク犯罪捜査官として採用し、ハイテク犯罪に対する捜査力の向上に努めている。
警察庁では、こうしたハイテク犯罪捜査官等の専門捜査力の向上に資するため、「ハイテク犯罪捜査官合同研修会」を開催し、最近の主な検挙事例についての分析、検討や民間における最新の技術動向の紹介等を行っている。
- [事例]
- 9年4月、会社員の男(32)は、ホームページの電子掲示板に、被害者の氏名、住所及び第三者をして同人の身体に危害を加えさせるべき旨等を掲示し、同人を脅迫した。ハイテク犯罪捜査官によるログの解析等により、被害者の特定に成功し、5月、脅迫罪で検挙(神奈川)
なお、都道府県警察では、このほかにも、コンピュータ関係の技術を有する者を採用するとともに、一般の職員のコンピュータの知識の向上を図るため、警察学校や職場における教育訓練の機会を通じて研修を行っている。
● 犯罪被害相談体制の強化
ハイテク犯罪は、一般の犯罪に比べ、被害者や関係者が多数に及びやすいことから、取締りの徹底はもとより、被害相談等の各種相談事案に対して迅速かつ的確な対応を行うことにより、被害の発生及び拡大の防止を図ることが特に重要である。
そこで、都道府県警察では、情報通信技術に関する専門的な知識経験を有する者を相談窓口に配置したり、相談担当部門及び捜査担当部門が緊密な連携を図ったりすることにより、ハイテク犯罪等に関する苦情、相談、情報提供等に対する適切な対応を図るとともに、これらを通じて認知した端緒情報について積極的な検挙措置を講ずることとしている。また、電子メール等を利用した相談業務を推進するなどにより、相談体制の充実・強化を図っている。
さらに、警察庁では、都道府県警察の相談業務の適正な運営に資するため、ハイテク犯罪等に関する主要な相談事案等に対する対応方法等を記載した相談マニュアルを作成し、都道府県警察に配布している。
なお、警察では、10年6月現在、警察庁をはじめ、34の警察本部、11の警察署でホームページを開設しており、そのうち、警察庁、17の警察本部、7の警察暑ではハイテク犯罪を含めた各種相談に応じている。
● 国際的な捜査協力の強化
国境のないコンピュータ・ネットワーク上で行われるハイテク犯罪に対処するためには、各国の捜査機関相互間における迅速な協力を確保することが必要不可欠である。このような認識の下、1997年(平成9年)12月に開催されたG8司法・内務閣僚級会合では、「ハイテク犯罪と闘うための原則と行動計画」の一つとして、「国際ハイテク犯罪に対する適時・効果的な対応を確保するため、この分野に精通した人員からなる設立済みのコンピュータ・ネットワークを活用し、24時間体制のコンタクト・ポイントとなる者を指定する」ことが合意されたことから、警察庁では、同月、長官官房国際部に、情報通信技術及び外国語に堪能(たんのう)な捜査官及び技官による「コンピュータ犯罪国際協力ユニット」(Computer
Crime International Cooperation Unit)を設け、外国の捜査機関から発信される緊急の協力要請に24時間体制で対応することができるようにしました。
● 情報システム安全対策指針の策定
企業や個人に対し情報システムの安全対策を促するため、警察庁をはじめ通商産業省、郵政省等の幾つかの省庁等において安全対策に関する指針等が公表されている。企業に対する各種アンケート調査の結果からも、これらの指針等が一般に利用されている状況がうかがわれる。
警察庁においては、昨今の情報化の進展にかんがみ、昭和60年から、学識経験者等の参加を得て「コンピュータ・システム安全対策研究会(現在の情報システム安全対策研究会)」を開催し、情報化社会における新たな秩序作りに必要な調査・研究を進め、「情報システム安全対策指針」(昭和61年1月)、「コンピュータ・ウイルス等不正プログラム対策指針」(平成元年11月)を策定、公表してきたが、昨今の情報システムの構成や利用形態、ハイテク犯罪の手口等に関する状況の変化にかんがみ、平成9年9月、「情報システム安全対策指針」(平成9年国家公安委員会告示第9号)を公表した。
この指針では、特に、不正アクセス、コンピュータ・ウイルス、サイバーテロ等の危険に着目した対策を掲げるとともに、ログの保存が犯罪被害の回復や犯罪の捜査を行うために必要であることについて指摘している。
● 産業界との連携
ハイテク犯罪については、産業界との連携の強化が不可欠である。警察庁では、平成9年には一般企業(東証一部上場企業)900社及び大学100校を対象として、また、10年にはプロバイダ1,000社を対象として自己の管理するコンピュータ・システムの安全対策に関する調査を実施した。
● 感想
「電子政府」実現を目指し、ネットによる国税の申告や銀行決済、電子商取引などのサービスが広がりつつある。不正侵入によって個人情報や、政府の外交や防衛などの国の安全にかかわる情報が侵されるおそれがある。警察庁が同年2月発表した「情報セキュリティー政策大系」で指摘したように、まず侵入をすぐ検知するシステムづくりが必要であろう。
参考HP
○電子Police Station
○警察庁HP