開断面逆台形箱桁連続橋の送り出し架設時の座屈安全性照査に関する研究

第1章 背景と目的

1.1 本研究の背景

 近年,わが国では,財政安定化のため,公共事業のコスト削減が強く求められている.橋梁に関しても,平成7年10月に建設省から通達された「鋼道路橋設計ガイドライン(案)」を受けて,鋼道路橋の設計・製作・架設の合理化・省力化が進められ,経済性・耐久性の向上や省力化・工期短縮を追求し,構造を簡略化し,施工数量を低減した「合理化橋梁」の開発が行われている1).その例として,開断面箱桁や大断面Uリブ橋などが挙げられる.特に,開断面箱桁は,合理化・省力化の成果の一つとして,注目されつつある.この構造は,従来の箱桁に比べ,上フランジにおける鋼重や材料数を大幅に削減することができ,製作施工が容易である.
 鋼橋の合理化・省力化を念頭においた場合,設計・製作において基本となる構造形態として,少数主桁化あるいは最少主構の採用,対傾構・横構などの横補剛システムの省略があげられる.少数主桁化されれば,腹板厚が大きくなるため,補剛材の間隔を広くすることで,部材数を減らすなどの少補剛設計が可能となり,構造の簡略化・製作施工の省力化につながっている.これによって,シンプルな構造形態を有し,加工数の少ない橋システムの確立が必要である.このような構造の採用で,部材そのものの低減だけでなく,将来のメンテナンスに関わる問題,すなわち応力集中を招きやすい部材の交差箇所の低減による疲労問題からの解放,塗装面積の減少,検査の容易さなどが期待できるようになった.
 架設に関しても,合理化・省力化・工期短縮を考えた技術が開発されている.その中の一つに「送り出し架設工法」がある.この工法は,橋桁を片持ち式に送り出すので,河川上など,橋脚間にベント設備が設けられない場合に採用でき,工費の縮減が図れる.しかし,送り出し架設では,桁先端が橋脚に到達する直前の片持ちばり状態の支点部に,極めて大きな負の曲げモーメントとせん断力を発生するとともに,ローラー支点をかいして作用する支点反力,すなわち局所荷重が作用する.その際に,問題となるのが腹板のクリッピング現象であり,その安全性を十分に検討する必要がある.

 開断面逆台形箱桁連続橋を送り出し架設する場合,腹板が外側に開いて傾斜しているため,ねじり剛性が閉断面箱桁より劣る.さらに,送り出し架設時の下フランジや腹板は厳しい応力状態になるため,安全性に対する十分な配慮が必要となる.したがって,開断面箱桁を送り出し架設する場合,支点位置での下フランジや腹板における局部座屈,および,上フランジの横倒れ座屈などを考慮した設計を行う必要がある.

1.2 既往の研究

 川村・西村・加藤[2001]2)は,開断面逆台形箱桁の耐荷力解析を行い,腹板の局部座屈や上フランジの横倒れ座屈に対する安全性について照査した.しかし,開断面逆台形箱桁の送り出し架設時の座屈安全性に関する研究は,ほとんどなされていない.そこで,送り出し架設時の座屈安全性に関する研究,局所荷重を受ける腹板の耐荷力に関する研究,合理化橋梁形式に関する研究を以下に挙げ,その概略を示す.

1.2.1 送り出し架設時の座屈安全性に関する研究

 荒井・前田[1970]3)は,送り出し架設に用いる送り出し装置を紹介し,その直上の腹板に生ずる応力分布の状態を,有限要素法により明らかにした.
 
荒井[1972]4)は,送り出し装置上の腹板に生じる応力を有限要素解析した.その結果,送り装置上の最小座屈安全率はかなり低く,高次の座屈モードに対しても,安全率の増加がほとんどみこめないことを明らかにした.
 池田[1981]5)は,滑り装置による鋼橋の送り出し架設工法について,用いる装置の概要と,この工法を採用する場合,他工法とかなり異なる問題点の解決に関して彼らが採っている,薄肉構造の橋桁の座屈に対する安全性の検討法を明らかにした.

 清水・吉川[1999]6)は,送り出し工法で架設される鋼橋桁の送り支承上の腹板の座屈挙動について,フランジのねじれ剛性とならんで影響が大きいと思われる曲げモーメントやせん断力の影響を評価した.彼らの研究によれば,腹板の座屈荷重は,アスペクト比や荷重幅とともにほぼ双曲線的に減少する.また,それは,曲げモーメントの大きさにほぼ比例して減少し,アスペクト比が小さいほど曲げモーメントの影響を強く受ける.
 堀田・内藤・西村[1999]7)は,鋼2主桁橋梁架設系の横ねじれ座屈特性とその安全性について研究し,その結果,送り出し架設時における2主桁構造の張り出し部に対する水平方向の初期たわみの影響を明らかにした.また,形状比が20以上の連続2主桁橋に送り出し架設を用いた場合,張り出し状態における全体横ねじれ座屈に対する安全性の検討の必要性を示した.
 太田・川尻・長井・大垣・磯江・佐川[1999]8)は,連続合成桁設計されたPC床板2主桁橋の腹板に採用された少補剛設計方法を示し,その妥当性を明らかにするために耐荷力実験と,安定性照査方法を提案した.また,対象とした橋梁の送り出し架設時による床板施行時の特徴を記し,施行時において鋼桁が床板と合成されるまでの安定性に関わる留意点,および,腹板の座屈照査方法を記した.そして,送り出し架設時における安定性を有限変位理論によるFEM解析より確認した.
 平沢・小山・林川・佐藤・及川[2000]9)は,アクリル板を用いた曲線2主桁実験供試体を製作し,架設時構造系の曲線2主桁橋におけるねじり変形への対処として,送り出し架設時にのみ仮横構を想定した実験を行った.その結果,横構の配置本数が同じ場合について,桁の変形に対して有利な配置パターンがあり,架設時構造系に横構を配置することでねじり剛性を高める十分な効果があることを明らかにした.

1.2.2 局所荷重を受ける腹板の耐荷力に関する研究

 送り出し架設時のような,支点上で支点反力による局所荷重が作用すると,クリッピングが起きる危険性がある.一般にクリッピングの防止策として,局所荷重の作用直下に垂直補剛材を配置するが,送り出し架設時の支点上では,荷重直下で腹板を垂直方向に補剛できない可能性がある.このとき,桁の腹板座屈強度および耐荷力が,局所荷重に対してどの程度あるのかを評価し,設計する必要がある.そこで,わが国の局所荷重を受ける腹板の耐荷力に関する研究を,以下に示す.

 桑山[1983]10)は,部分縁荷重を受ける腹板の弾性座屈とその後座屈挙動をGalerkin法によって明らかにした.

森脇・滝本・三村[1983]11),12)は,局所荷重を受ける腹板の崩壊機構を,実験によって明らかにした.また,座屈前後での桁の機構の変化を考慮し,耐荷力算定法を提案した.

堂垣・米澤ら13)-21)は,1987年13)に,局所荷重,曲げモーメント,および,せん断力を受けるプレートガーダーの垂直補剛材間の無補剛腹板を対象に,剛性座屈強度を理論的に明らかにした.1989年14)には,局所荷重を受ける水平補剛材を有するプレートガーダーの腹板を対象に,その座屈弾性挙動と水平補剛材の曲げ剛性との関係を理論的に明らかにした.1990年15)には,局所荷重を受けるプレートガーダーの垂直補剛材間の無補剛腹板を対象に,その弾塑性有限変位挙動を,荷重幅と残留応力を考慮したパラメトリック解析により明らかにした.1991年16)には,局所荷重を受けるプレートガーダーの垂直補剛材間の無補剛腹板を対象に,その変形性能と終局強度に,荷重幅,腹板の幅厚比,フランジの剛性,および,初期不整が及ぼす影響を明らかにした.1992年17)-19)には,局所荷重を受ける水平補剛材を有するプレートガーダーの腹板を対象に,その変形性能と終局強度に,フランジと水平補剛材が及ぼす影響を明らかにした.また,局所荷重と曲げモーメントを同時に受けるプレートガーダーの垂直補剛材間の無補剛腹板を対象に,荷重幅,腹板の幅厚比,フランジの剛性,および,初期たわみが,その変形性能と終局強度に及ぼす影響を明らかにした.彼らは,実験による解析も行っており,1990年20),1991年21)にそれぞれ,腹板厚を変えたプレートガーダーを2体,水平補剛材を有するプレートガーダーを3体製作し,その変形性能と耐荷力を実験により明らかにし,その結果を既往の近似終局強度算定式による理論値との比較を行った.

 渡邊・高橋・増田・西脇ら[1998]22)は,局所荷重と,曲げ,せん断を受けるプレートガーダーの弾性座屈強度に及ぼす,フランジおよび補剛材のねじれ剛性の効果,および補剛材配置の影響を明らかにした.

1.2.3 合理化橋梁形式に関する研究

 長井・吉田・藤野[1997]23)は,合理化橋梁としてのシンプルな横補剛システムを有する鋼多I桁橋を対象に,その荷重分配性能,T荷重による床版応力,鉛直補剛材上端部の応力,L荷重および風荷重載荷時の挙動などを従来のシステムと比較をした.その結果,鉛直補剛材の補強を前提とすれば,少補剛システム内を採用しても顕著な応力集中が生ずる箇所はないことを明らかにした.

 勝俣・小笠原・町田・溝江[2000]24)は,合理化鋼床版におけるUリブと横桁との交差部の構造詳細を数種類考案し,その実験を行った.その結果,合理化鋼床版のUリブと横桁との交差部は,横桁ウェブとUリブ底板を接合することが望ましいと結論づけた.

 水口・中須・古川・永田・井口[2000]25)は,従来から用いられてきたUリブの1.5倍程度の寸法を有する大型リブとデッキプレートを組み合わせた鋼床版の形状が局部的な応力に及ぼす影響,および,局部応力低減を目的とした構造細目の改良に関して,2体の大型供試体による静的載荷実験を行った.すなわち,縦リブ支間を変えた載荷実験と横リブ支間を広くした構造,構造詳細の比較のための載荷実験である.

 伊藤・梅田・西川[2000]26)は,従来型の橋梁,少数主桁橋,および,建設省土木研究所が提唱しているミニマムメンテナンス橋を対象に,ライフサイクルを通した環境負荷と,コストについて研究した.その結果,少数主桁橋が低コストで,環境負荷削減の観点から優れた橋梁形態であることを定量的に明らかにした.また,橋梁の各部材に対して,少数主桁橋梁と従来型橋梁とも,床版および主桁の製作に伴う環境負荷が大きく,両方で全体の3/4程度になることを示した.
 
 野村・金野・志村・橘・小西[1994]27)は,主桁の本数を低減することで鋼橋の合理化の推進を念頭に,現行設計法による非合成4主I桁橋と合理化設計した非合成2主I桁橋との定量的な比較をした.その結果,定量的に2主I桁橋の優位性を示した.


1.3 合理化橋梁形式の特徴

 わが国では,合成桁の採用に関する検討が,ドイツとアメリカの動向に影響され,1950年代初頭から始まった.最初の合成桁橋として,1951年に鈴橋が建設され,その後しばらくの間,合成桁の建設が極めて活発に行われ,1970年代には鋼桁の40%以上を占めるに至った.また,主桁本数が少なく,PC床版を使用した合成2主桁橋も1960年に建設されているが,その後,床版の損傷が顕著になったことから,合成桁や少主桁橋の建設はほとんど見られなくなった.
 近年,わが国において,従来あまり見られなかったような形式の橋梁がいくつか出現した.これは,コンクリート橋および鋼橋の両分野に認められることである.と同時に,コンクリートと鋼を合成した構造形式の橋梁が再び脚光を浴びるようになった.その中の一つである少数主桁橋は,欧米などの欧州諸外国では従来より採用されているが,わが国でも増えつつある.
 非合成多主桁橋(従来型の橋梁)との比較で合成少主桁橋の特徴,利点,留意すべき点などをTable 1.1に示す.