経過報告1
初診
病院に行くと決めたものの、心の中ではまだ迷いが残っていました。
駅から病院に向かう途中、何度も引き帰そうかと思いました。
そう迷っているうちに、病院に着いてしまいました。
通り過ぎようか、中に入ろうか。
頭の中では、二つの気持ちが激しく葛藤していました。
すると、その瞬間に入口の自動ドアがすっと開きました。
私は、不思議な力に吸い込まれるように、病院のなかに入っていきました。
受付に近づいていくと、「こんにちは」とやけに明るく事務員が話し掛けてきました。
私は「あの、初めてなんですけど・・」と、戸惑いながら言いました。
「保険証はお持ちですか?」とまた明るい声で言われ、
私は背負っていたリュックの中から保険証を出し、事務員に渡しました。
事務員は、その保険証を確かめると、「それでは、お掛けになってお待ち下さい」と、
やっぱり明るい声で言いました。
入口に一番近いイスに座りました。
そして、他の患者達をじろじろと眺めました。
けれど皆、外見からはどんな病気なのか分からない、普通の人でした。
注射の順番を待つ子どものように、
やや緊張しながら、私は診察の順番を待ちました。
あっというまに、一時間が過ぎました。
ついに私の名前が呼ばれました。
立ち上がり、恐る恐る診察室に入っていきました。
ドアを開けると、50歳代だと思われる女性医師がいました。
向かい合わせに座ると、「どうしました?」と慣れた口調で聞いてきました。
「眠れないので薬が欲しいんですが」と私は答えました。
すると「そう眠れないんだ。何か理由があるんでしょ?」と次の質問を投げてきました。
しかし、私には思い当たる理由がありませんでした。
その旨を伝えると、医師は諭すように私に言いました。
「貴方のような年齢の人が、理由も無く眠れなくなるわけがないの。
何か理由があるに決まっているの。」
そう言われても、やはり理由は見つかりません。
しばらく沈黙が続きました。
黙っている私を、医師はじっと観察しているようでした。
沈黙を破ったのは、医師のほうでした。
「ここは薬局じゃないんだから、ただ薬を出して終わりってわけにはいかないの。」
私は内心「面倒なことになったな」と思っていました。
「ただ睡眠薬を出してくれるだけでいいのに。」と思いつつも、
仕方なく私は「大学に行くのがつらくて・・」と適当に答えました。
本当は、大学に行くのがつらくて眠れないわけではありません。
眠れないから、大学に行くのがつらいのです。
しかし、医師は私の適当な答えに満足したらしく、
「じゃあ、眠る前に飲む薬をあげるから。一週間分でいい?」と、
処方箋を書きながら言いました。
私は「はい。ありがとうございました。」と言い残し、診察室を出ました。
処方されたのは、デパス1mgでした。
薬に関しての知識など、全く持ち合せていなかった当時の私は、
デパスが「睡眠薬」ではなく「抗不安薬」であることも知らずに、
ほっとした気分で病院を出ました。
これでやっと眠れる。
戦利品のデパスをリュックに入れ、駅へと向かいました。
ふと見上げた空は、眩しいほどに晴れていました。