テロによる被害と回復までの見通し

・9 月11 日、米国で凄惨なテロ事件が発生した。この事件によって、8 月までの

 段階ではなんとかリセッションを回避し緩やかながら回復に向かうかに見えた

 米国の経済動向に暗雲が漂ってきた。今後の米国の景気動向には細心の注意が

 必要で、テロ事件の影響の評価なしには今後の景気動向を語れなくなったとい

 えるだろう。米国景気への影響については、今回のテロ事件による直接的な被

 害よりも、心理的な影響を通じて個人消費が大きく減速する可能性があること

 が特に懸念される。こうした戦争ショックは米国の民間消費をまず0.8 %程度

 押し下げる効果が出てくる可能性があるといえる。このマイナス効果がさらに

 設備投資に悪影響を及ぼしたり、その効果で所得に悪影響が出て民間消費にさ

 らに悪影響を及ぼしたりする可能性がでてくる。

・今回は湾岸戦争時と違い原油価格が落ち着いており、直ちに金融緩和策が発動

 されている。経済がパニック状態に陥るリスクは回避された。湾岸戦争の場合

 問題の発生から収拾まで6 ヶ月であったが、今回の事件への制裁行動などで事

 態がいつ収拾できるのかは今ところ不確実である。10 月7 日に米英軍によるア

 フガニスタン国内への爆撃が開始された。仮に1 年程度かかると仮定すると、

 何らの経済対策も打たれない場合には米国の実質GDPにおおよそ1 %の影響が

 でてくるだろう。

・米国経済への悪影響が実質GDP で1 %程度であるとすると、米国の輸入の減少

 =各国の米国向け輸出の減少が起きる。この悪影響はまず初期の段階では米国

 の民間消費が減速することからくる輸入の減少として表れるだろう。米国の産

 業連関表(1997 年)によると、民間消費による直接的な輸入は消費額全体の

 4.9 %となっている。ただし、中間需要も含めて波及効果を計算するとその輸

 入誘発効果は12.1 %となる。米国の民間消費の規模は年率6 兆9776 億ドル 

 (2001 年4-6 月期)なので、その0.8 %が減少し、さらにその12.1 %が輸入

 を減少させるとすると輸入減少の規模は68 億ドルということになる。これは 

 4-6 月期の輸入額の0.5 %にあたる。更に設備投資や住宅投資に影響が出てく

 る場合であるが、同様に産業連関表によると、民間固定投資の場合はその額の

 25.6 %とかなり大きい輸入誘発効果をもっている。進捗してきたストック調整

 が、今回の事件による消費減速をうけてどの程度加速されるのかによるが、解

 決が数ヶ月では終わらず、長引けば長引くほど、投資減少の悪影響が広がると

 いうことになるだろう。

・日本経済への影響としては米国への直接的な輸出減少、世界経済全体への影響

 による輸出減少の効果が考えられる。米国の実質GDP が、今後1 %程度事件以

 前の標準シナリオより低下に向かう場合、日本には実質GDP にして2001 年度

 0.2 %、2002 年度0.7 %程度のマイナスの影響がでると推計できる。ただ 

 し、その影響の出方は一様ではないだろう。日本の産業への波及はまず自動車

 産業にでてくると思われる。これは、日本からの米国の民間消費向け輸出の53

 %(1995年)を輸送機械(ほとんどが自動車)が占めているからである。テロ

 の影響により、悪影響が懸念される2002 年度の業種別増収率、全産業ベース

 で2002 年度売上が2000 年度比で▲1.2 %、営業利益同▲5.4 %下方の影響

 を受ける。当然、輸出の減少を通じた効果なので輸出産業へのマイナスが大き

 く営業利益の2000 年度対比の減少効果をみると、鉄鋼、輸送機械が2 ケタ、

 一般機械、電気機械が8 %台の落ち込みとなった。逆に食料品、不動産は1 %

 未満でほとんど影響がないといえる。絶対額で見ると、売上の減少額、営業利

 益の減少額ともに電気機械がもっとも大きい。意外に影響がでてくるのが建設

 業、通信といった内需型産業だが、これは設備投資の減少、各産業の中間投入

 減少の波及結果である。

・日本の景気は輸出数量の減少が止まれば、2001 年10-12 月期には底入れする

 条件にあった。国内民間需要はスローダウンしているものの底堅さをみせてい

 る。8 月の機械受注(船舶・電力除く民需)は前月比8.7 %増と堅調さを保っ

 た。設備投資は2002 年1-3 月期までは減少すると予想されるが、その深さは

 比較的浅いものとなりそうである。鉱工業生産は傾向としての減少は変わらな

 いものの、その減少速度は緩やかになりつつある。これは株価にはポジティヴ

 だといえるだろう。テロ事件の影響が上記にみた程度(米国の実質GDP1 %)

 のものに留まるのであれば、国内景気10-12月期底入れシナリオを放棄するま

 でには至らないが、不確実性は大きくなったといわざるをえない。日本も景気

 の更なる後退リスクを避けるための経済対策を早急に行うべきであろう。構造

 改革の方向に沿った需要面の対策としては設備投資減税が最適なのではないだ

 ろうか。      (岡野 進  2002年度 緩やかな回復へ)より

円・ドル相場

・8 月以降、予想外のドル安・円高が続いた。すなわち、8 月始めの125 円から

 8 月末には120円を割り込み、9 月21 日には116 円台を付けた。原因は米景

 気に対する不安が高まっていたところに、大規模テロが発生したことである。

 このため、ドルはユーロに対してもドルはかなり値下がりした。

・しかし、日銀は連日積極的な円売り介入を行い、またその後発表された日本の

 景気指標が不調であったことから、116 円台で円はピークを打ち下落に向かっ

 た。10 月5 日現在120 円台を回復した。

・とりあえず、円高は一段落したとみて良いだろう。米国の景気が当初予想に比

 べて悪化しており、マイナス成長に陥る可能性が強まったが、日本の景気見通

 しも同様に下方修正されている。しかも、わが国の貿易黒字が急速に縮小して

 いる。これまでも、黒字が縮小するタイムラグを置いて円が値下がりしている

 当面、円安基調で推移する可能性が大きい。