『真実の瞬間−SASのサービス戦略はなぜ成功したか』


従業員が客と接する約15秒、その短い時間で顧客のニーズにいかに対処するか、それが真実の瞬間であり、この15秒間を無駄にしないためには、現場からかけ離れた部署でつくられた規則書や指示書に頼るのではなく、この真実の瞬間に航空を代表している航空券係、客室乗務員、荷物係といった最前線の従業員に、アイデア、決定、対策を実施する責任を委ねることが必要である。(P.6,l.5〜8)
この文章を読んだときTVドラマ踊る大捜査線の「事件は会議室で起きているんじゃない。現場で起きているんだ!」というセリフを思い出した。
実際、顧客と直接接しているのは、最前線で働く従業員であって、上層部ではない。その客が今何を望んでいて、それに対してどのように対処すればよいのか、この決定を下すのは直接客と接している従業員に任せるべきである。
もし、上層部にその決定を任せたならその決定を客は、融通の利かないものと感じるに違いない。これは自分にも経験がある。組織が大きければ大きいほど客の要望に対して融通の利かない対応をすることが多い。
しかし、従業員に任せるからといって、従業員の勝手な判断で決めてしまっては意味がない。そこで大事なのが、従業員に方向性を示すことである。
この本の場合であれば、顧客本位のサービス、顧客のニーズに迅速に、親切に対応するということである。
これは、客と直接接する従業員だけに言えることでなく、企業全体の目標としての意味も持つと思う。明確な目標であるが細かく注文をつけるのではなく、大まかな方向性としての目標であることが大事だと思われる。
これにより、上層部以外の社員や従業員も直接自分が仕事をしている上で何ができるのか、何が必要なのかを考えることができ、ただマニュアルや上層部の指示に従うのではなく自分の考えをもって行動できるので、上層部だけでその企業を作り、従業員はそれを支えているのではなく、企業全体で一つの目標に向かいそれを作り上げていくことができるのだと思う。
本には、2万人の従業員全員に、『果敢に挑戦しよう』というタイトルの小冊子を配布し、それには取締役会と経営幹部が共有する経営ビジョンと目標が簡潔な言葉で記されていて、全社員にその目標を理解してもらいたかった(P.39,l.8〜11)とある。
これにより従業員は、ビジョンを理解し、熱意を持って責務を引き受け、いっせいに多くの目覚しい成果を上げた(P.39,l.14〜15)ともある。これは、目標を提示されたことにより同じ目標に向かって励む従業員の結束が新しい活力となったからであると思う。

カールソン氏は、個々の意思決定を企業の上層部ではなく、現場で行なうように責任を分散すべきだと述べている。(P.46,l.3〜4)そうしてなされた決定の中には自分の意に添わないものも当然あるが、肝心なことは責任者が意思決定を行なったという事実だ(P.46,l.13〜14)とも述べられている。
このように責任者が自ら意思決定を行なうことにより、その責任者は責任を負い、新しい総合戦略を自分で考え出し、全体の戦略構想が出来上がったらいろいろな人の力を借りそれを戦略目標に置き換え、目標達成のための経営戦略を立てるといったように自分たちで経営ビジョン実現に必要な条件を整えなくてはならないという環境を作り出すことができる。
これは、企業にとってとても有益なことであると思う。より現場に近い人間が、経験から感じたことを実行に移すことができる。現実を知らない上層部では到底実行不可能であったこと、本文で言う多くの社員が、どんなにいいアイデアを提出しても、上層部は実施には踏み切らないだろうと消極的になっていた(P.48,l.10〜11)であろうことを可能にするチャンスが与えられているのである。
現場の社員は、顧客のニーズを感じているはずである。それを実行に移せるかもしれないのである。

この本全体を通していえることは、客は何を望んでいるのか。その、客の望んでいることを知っているのは誰か。それは、最前線で働き客と直接接する現場従業員である。では、現場従業員が客のニーズに応えるためにどうするのか。最前線の従業員が上層部の意向を確かめていたら貴重な15秒が無駄になってしまい、顧客を増やすせっかくの機会を失ってしまう。
これを防ぐために最前線の従業員に、アイデア、決定、対策を実施する責任を委ねることが必要である。
またすべての従業員は、1つの明確で大まかな方向性をもった目標が必要である。この目標は、顧客本位のものでなくてはならない。また、この目標を戦略と実績を評価する基準にすべきである。評価基準を持つことで、問題を確認し、サービスを向上させる解決策を見出すことができる。

つまり、本当の顧客のニーズを知っているのは直接客と接する機会のある最前線の従業員であるのだから、現場従業員こそ最も多くの責任と権限をもつ必要があるということである。
そして、上層部はそれが実行されるために様々な角度からサポートをし全体として企業の目標を実現していくことが理想であると思われる。

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