Aristotle
アリストテレス(前384〜322)
「政治学」:様々な支配形態とその限界、理想の国家とそれを達成するための教育について述べる。
「ニコマコス倫理学」「エウデミア倫理学」:幸福になるためには徳を身につける必要があることなど。
「弁論術」:他の人を説得する効果的な話し方についてなど。
その他「形而上学」、「動物誌」、「天体論」、「詩論」などがある。
1.幸福になるためには:アリストテレスは、幸福こそ人間の究極的な目的であると考えた。
「エウデモス倫理学」の冒頭でアリストテレスは「幸福はあらゆるものの中で最も美しく、善く、快いもの」
であるとし(Eu1.1)、幸福は何に基づくのかを考察していく。幸福に資するものは3つあり徳と知恵と快楽
であるものの(1.4)その中で徳こそ人を幸福にするというのがアリストテレスの考えであった。(2.1)
徳とされる性質を身に付けるためには怒り、恐れ、欲情などを制御することを習慣づけることが必要である。
(2.2)聖書も「思いを活動させる力において新たにされる」新しい思いの型を形成することが必要である
ことを述べている。(Ep 4:22〜24)アリストテレスはまた極端に走らないことの重要性(中庸)を強調するが
(2.5)聖書も義や邪悪に過ぎないよう諭している。(Ec7:16,17)
2.人間による支配の限界について:アリストテレスは政治形態を、1人の支配による王制、
少数支配による貴族制、多数支配による共和制、というふうに分け、「政治学」の中で
それぞれの難点について考察している。(Pol3.7)
王制についていえば(3.14-18)(1)1人の支配では判断がそこなわれやすいこと(3.15)
(2)王位を継承する子孫が凡庸な人間でしかなかったら有害であること(3.15)(3)1人の人が多くのことに
目をくばるのは容易ではないこと(3.16)などが難点として挙げられている。王制からそれたものを
「独裁制」(テゥラニス:僭主とも訳され「Tyrant暴君」の語源である)と呼ぶ。(3.7)
しかし仮に誰かが「徳の点で著しく傑出していてその1人の徳は残りすべての人たちの徳をはるかに凌駕
しているということがひょっとしてありうるとしたら、その1人が王となるのは正当なことといえる」(3.17)ことが
認められており、神による支配とはまさしくそのようなものであるといえるだろう。(De32:4)
貴族制についていえば少数の富を持ったものによる利己的な支配、つまり「寡頭制」になる危険がある。
(3.8)また共和制についていえば大多数の貧しい人々による支配となるため(「衆愚制」)医師や船長が
下すような専門的知識による決定にならないかもしれないので最善ではないかもしれないとされる。(3.11)
預言者ダニエルは、人間による様々な支配形態が不足であることが測られ、支配権が取り去られる
ときが来ることについてあらかじめ予告している。(Da7:9-14,2:39-44,5:27も参照)
いずれにしろアリストテレスが危惧しているのは支配者が「1人であれ少数であれ大衆であれ私利私欲のため
に支配を行なう国制」であった。(3.7)人間」が利己的な性向を克服し真に利他的にならない限り
正しい支配を期待することができないことを知ることができるだろう。
3.理想の国家について:最善の国家とは人々に幸福をもたらす国家であり、人々の
外面的必要(富など)、身体的必要(健康など)、精神的必要(義など)(アリストテレスの言う徳)
が満たされなければならない。その中でもっとも大切なのが徳である。(7.1)
国土についていえばあらゆる種類の産物を産出できる土地が理想とされる。(7.5)
市民の性質についてはアリストテレスはギリシャ人を高く評価し、「ギリシャ民族全体が政治上の
統一を達成したなら全世界を支配する力があるだろう」と述べている。(7.7)
理想の教育について:理想の国家をつくるためには教育が不可欠である。それでアリストテレスは
続いて理想の教育について考察している。(7.17)アリストテレスは教育を重要視したため
妊婦の運動、食事、新生児の食事などにはじまり幼児に聞かせる話や、青年は下品な言葉を
用いないこと、若者の育成にふさわしくない劇などを見せないようにすべきであることなどを述べている。
4.神について:アリストテレスは世界を物質、植物、動物、人間、天体に分類し
天体は理性を備えた神的存在であるとみなしていた。「形而上学」の中でアリストテレスは
「太古の人々から神話の形で後世に残された伝承がある。それは、天空にみられるもろもろの星は
神々である、というものである」と述べている。(12.8)
しかしそれは人格的な特質を持った神ではない。
アリストテレスは自然界の膨大な観察を残し「自然には何かがある」とそのすばらしさを
認めていたものの創造者という考えには到達していない。
5.奴隷制度について:アリストテレスは奴隷制度は自然なものであるとみなしている。
人間が男と女に産まれてくるように、体を使って働くしか能のない人間は支配されるのが
ふさわしい「生まれながらに奴隷」とみなされるという。(Pol1.5)
アリストテレスにとって奴隷とは動物のようなものであり、生きる目的を持っていない。
それで主人と奴隷との間には友情など存在しないという。(3.5)
「支配する人と支配される人の間に何一つ共同のものがない場合には愛もまた無いからである。
例えば職人の道具に対する関係、・・・主人の奴隷に対する関係がそれである。」と
アリストテレスは述べている。(Philemon16と比較)なおローマの奴隷制はギリシャの奴隷制とは
性質とやや異にしていた。(この点は小プリニウスの項を参照)
6.女性についての見方:アリストテレスは男性が妻、子供、奴隷を支配すべきと考えた。(Pol1.12)
女性は弱い器と考えられ「奴隷は判断力を全く持っていないのに対して、
女は実行力のない程度の判断力を、子供は未熟な判断力を持っている」とアリストテレスは
述べている。(1.13)「夫の妻に対する愛は貴族制における愛と同じである」と夫婦間の愛が
描写されている。(Nic8.11)(Ep5:28と比較)
7.「弁論術」について:「弁論術」とはどんな問題でもそのそれぞれに可能な説得の方法を見つけ出す
能力のことであると定義されている。(Rhet2.1)弁論を効果的にする幾つかの要素をみていこう。
人柄は説得する力を持つ:「人柄は最も強力といってよいほどの説得力を持っている」(2.1)
聞き手の心への働きかけ:同じ問題を扱うにしても聞き手が良い感情を持つか悪い感情を持つかで
結果は大いに異なってくるといえるので心への働きかけは重要である。(2.1)
例証による説得:過去にあった類似の事実を挙げて行動を促すこと。例えば「ダリウスはエジプトを手中
にいれるまでは海を渡ってギリシャを侵略しなかったが、手にいれたら海を渡ってきたので
今の王もエジプトを手に入れたらそのようにするだろう」というように。また歴史的事実でな寓話をつくって
例証することもできる。(2.20)聖書も歴史上の過去の実例をしばしば引き合いに出しており、また
イエスはよく例え話を作って教えられた。
格言を用いること:格言は多くの人が一般に受け入れているものであり効果的に用いられる。
格言によっては理由を補足説明する必要がある。例えば「世間には本当に自由な人は一人もいない。」
は「なぜなら世の人間は金銭か運の奴隷であるから」(エウリピデスの引用)と補足説明すれば
より効果的になるという。(2.21)聖書筆者たちも「悪い交わりは有益な習慣を損なう」(メナンダーの格言)
など当時知られていた格言を用いていることろがある。(1Co15:33)格言は年配の人が自分に経験のある
ことについて用いると効果的であるという。
明瞭な表現を用いる:「表現の優秀性が明瞭さにある」ことは明らかである。(3.2)
聞きなれない語を用いたり
長いまたは不適当な装飾語をつけることは表現に生彩の欠く原因となる。(3.3)
譬えの使用:アキレスについて「ライオンのように突き進んだ」というのが直喩であり、「ライオンが突き進んだ」
といえば隠喩である。良い直喩は隠喩として用いられるし、逆もまたそうである。(3.4)
(Da12:3とMt5:14を比較)
表現の重厚さ:「円」のかわりに「中心から等距離に広がった・・・」というように、名のかわりに説明句を用いる
ならば重厚な表現になる。また単数でよいものに複数形を用いることも効果的である。
2つの語を1つの冠詞でつなぐのではなく、それぞれの語に冠詞をつける方法もある。(3.6)
(例えば「りっぱな羊飼い」は英語でいえばthe
shepherd the fine
のように二重に冠詞がついている。Jn10:11)
感情を込めて話す:恥ずべきことであるなら不快感、誉めるべき事柄であれば敬意を込めた表現を
用いるのがふさわしい。また数多くの修飾語がついている言葉は感情を込めて話すのに適している。
しかし荒々しい言葉が用いられているときそれに対応する声の調子や顔の表情を表わすのは必ずしも
賢明ではない。(3.7)
効果的な序論:序論の目的は主題が何であるかを明らかにすることにある。そして聞き手を話に引き付けて
おくためあらゆる努力を払わなければならない。例えば「これは私一人も問題ではなく諸君の問題でも
あるのだから」などと、序論だけでなく機会あるたびに言うことができる。(3.14)
質問を用いる:質問を用いるのは(1)聞き手が全く別のことを考えていたりするとき
(2)答えが明らかで応答を必要としない場合(3)相手の自己矛盾を明らかにするとき(Lu11:19)
(4)質問によって切り抜ける場合(Jn20:3,4) (3.18)などがある。
効果的な結論:結論は要点を明確にし、記憶を整理させたり、聞き手が特定の感情を抱くよう促すものと
すべきである。対立する考え方と対照させながら話をまとめたり、話してきた順序にしたがってまとめる
ことができる。結びの文章は接続語のないものを用いるのがふさわしい。(3.19)