Hesiod
ヘシオドス(前8世紀)
「神統記」:ギリシャ神話の神々がどのように誕生していったかを記述しています。
「仕事と日々」:人間の5つの時代についての記述が含まれています。
ヘシオドスの著作は世界の創造、最初の黄金時代、不幸の始まり、大洪水から
終わりの日に至る歴史の流れを神話の形で描写しています。
創造について:最初にカオス(虚空)があり、カオスからガイア(地)やウラノス(天)が
生じていきます。(Th123-127)そしてガイアとウラノスの「夫婦」からクロノスを含む巨人族の神々
(ティタン神族といわれる)が誕生していくとされています。
創世記の創造の記述と比べるとき次のような特徴が認められるといえるでしょう。
(1)創世記1章から感じとれるような神の愛、力、知恵、公正が感じとれない:そこには
人間の益を図って創造したと感じさせるものがほとんどありません。カオスからすぐに
タルタロスという冥界は創造されていることにも意義が感じとれないでしょう。
またウラノスは産まれてきた神々を食べてしまい、末子クロノスは金剛の斧で父を襲って
復讐しますが、最初から神々の残酷な性質で満ちています。
これら巨人族の神々には力がありますが、それは愛のうちに行使されているわけではありません。
また創世記にみられる光→植物の創造→光合成→大気が生じる→動物の創造
のような
知恵を感じさせる記述も見当たりません。殺されたウラノスの地から復讐の女神エリニスが
誕生しますが、ギリシャ神話は公正とはほど遠い復讐の教えでみたされていくことになります。
(2)創世記1章と違い非科学的である:「神統記」では地から「同じ大きさの」天が生じたことになっています。
また地は円盤として描写されていますし(Th144)、
話全体が実話と感じさせる要素に欠けており聖書と著しい対照をなしているといえるでしょう。
(3)創造の業によってたくさんの悪が創り出されている:カオスから産まれたニュクス(夜)は
死(タナトス)、苦悩(オイジュス)、運命(モイライ)、欺き(アバテ)、老い(ゲラス)、争い(エリス)などを
産み出していきます。(Th211-225)そしてエリスは労苦(ポノス)、飢え(リモス)、戦闘(ヒュスミネ)、
戦争(マケ)、殺害(ポノス)、紛争(ネイコス)、不法(デュスノミア)、破滅(アテ)などが産まれました。
(226-233)これは悪の原因を神の創造に帰すもので、聖書の見方とは正反対といえるでしょう。
最初の黄金時代について:人間は最初楽園のようなところで苦しみもなく生活していたという
聖書の記録は世界中の人々に神話の形で伝えられていきました。ギリシャ神話にもその
要素がはっきりみられます。ヘシオドスの「仕事と日々」によれば、クロノスの支配している時代に
人間が創造されますが、その時代の人間は「惨めな老年にもおそわれず、手足は常に若さを保ち
あらゆる災難とは縁がなく、常に興じていた」ことや「田畑はおのずから豊かな実りをもたらし
多くの産物に恵まれていた」といいます。(Op106-120)
不幸の始まり:創世記は人間が食べてはならないと言われていた木の実から取って食べたことから
人類の不幸が始まったことを伝えていますが、そのような要素の幾つかの神話に残されています。
その中でも有名な「パンドラの壷」についての神話は、「仕事と日々」「神統記」双方に含まれているものです。
クロノスたちからなるティタン神族を打ち破ったゼウスは人間(男性)に災いをもたらすために女性をつくり
「犬の心と盗人の本性を与えた」といいます。(Op68)(Ge2:18と比較。神が女性を誉れある助け手として
つくられたことと何と対照的なのだろう。またGe3:13のアダムの言葉とも比較)
そしてその本性からか開けるべきでないパンドラの壷を開けた結果あらゆる災い、疾病、労苦が
生じたといいます。(Op54-68,Th570-617)ちなみにパンドラとはその女性の名前です。
大洪水の物語:聖書の大洪水の記述も世界中に洪水伝説の形で伝えられましたが、
ヘシオドスもゼウスが人々を大洪水で滅ぼした話を伝えています。(Op)
人間の間に災厄が増え、人間が神々を忘れお互いに戦いあうようになったのを
みたゼウスは人類を滅ぼすことにしました。しかし2人の男女だけが箱船に乗って救われます。
箱船はパルナッソスという山に着き、地面に降りた2人はゼウスに犠牲を捧げます。
このようにノアの洪水と共通するモチーフがそこにはみられます。
終わりの日について:ヘシオドスは金属によって表わされる時代の移り変わりを描写しています。
第二の種族は銀の種族、第三、第四は銅の種族です。(Da2と比較)
第五の種族は鉄の種族で悪に対する歯止めのない時代になります。親子は敵対し(Mic7:6)
親は敬われなくなります。(2Ti3:2)人々は神への恐れを知らなくなります。(2Ti3:4)
人々は善いことに好意を示さなくなり(2Ti3:3)悪いことを賞賛します。(2Ti3:13)
(Op174-201)聖書の述べる「終わりの日」の特徴とかなり一致するのは興味深いことです。
原典の抜粋
「仕事と日々」115-120:最初の黄金時代
And they lived like gods [115]without sorrow of heart, remote and free
from toil and grief:
miserable age rested not on them; but with legs and arms never
failing they made merry with
feasting beyond the reach of all evils. ・・・ for
the fruitful earth unforced
bare them fruit abundantly
and without stint. They dwelt in ease and peace upon their lands
with many good things,
[120] rich in flocks and loved by the blessed gods.
「仕事と日々」182-200:第五の時代(終わりの日)
[182] The father
will not agree with his children, nor the children with their
father, ・・・
[185]Men
will dishonor their parents as they grow
quickly old, and will carp at them,
chiding them with bitter words, hard-hearted they, not knowing the fear of the gods.
They will not repay their aged parents the cost of their nurture,
for might shall be their right:
and one man will sack another's city.[190]There will be no favor for the man who keeps his oath
or for the just or for the good; but rather
men will praise the evil-doer and his violent dealing. ・・・
[195]Envy, foul-mouthed, delighting in evil, with scowling face,
will go along with wretched men
one and all.
「神統記」211-232:悪の創造
And Night bare hateful Doom and black Fate and Death, and ・・・bare
Blame and painful Woe, ・・・
Also she bare the Destinies and ruthless
avenging Fates, ・・・Also
deadly Night bare Nemesis (Indignation)
to afflict mortal men, and after her, Deceit and Friendship and
hateful Age and hard-hearted Strife.
But abhorred Strife bare painful Toil and Forgetfulness and Famine and tearful Sorrows,
Fightings also,
Battles, Murders,
Manslaughters, Quarrels, Lying Words, Disputes, Lawlessness and
Ruin, all of one nature,
and Oath who most troubles men upon earth when anyone wilfully
swears a false oath.