研究ノート

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俳優シェイクスピアはどんな役を演じたのか

Shakespeare News, vol.41, no.1 より)
鈴木 聡  

img Hamlet 初演当時、シェイクスピアは亡霊を演じたのだとする通説に捻りを加え、いやそれだけでなくポローニアス役も兼ねることで、ふたりの父の死と息子たちによる復讐という物語の構造を第3幕第4場の決定的瞬間に集約することを企てたのではなかろうかとかつて想像してみたことがある。この思いつきは主題論的考察の一助となすつもりのものであったが、もちろん、兼役の可能性ということを含め、シェイクスピア自身がどのような役を演じたかという問題はそれ独自に検証されるべきものといわなければならない。その視点からいって、TLS (April 20, 2001)に掲載された "Did Shakespeare play the clown?" と題するエッセイが興味深かった。

img 筆者 Helen Cooper は、俳優シェイクスピアによる自己言及(自分の生まれはストラトフォード・アポン・エイヴォンだという一登場人物の台詞)が、今日一般に作者不詳とされ、あまり重要視されることもない四折本のうちにとどめられているとする仮説を呈示している。くだんの小冊とは1661年に出版された The Tragical History, Admirable Atchievements, and various events of Guy Earl of Warwick, Written by B.J. というわずか45ページのテクストだが、これがもともと1582年以前(というのは、1593年に出版された Venus and Adonis と、その前年とされるロバート・グリーンの記述に筆者が着目している点から察して、それよりおよそ10年まえのことという意味かと思われる)、成人俳優6名と少年俳優1名からなる旅廻り一座によって演じられた脚本の短縮版で、1590年代初期に手直しされたものだとCooper は推論する。1580年代の戯曲の特徴と同時に、1590年前後に流行した『ボルドーのユオン』への言及が共存しているということが論拠のひとつとなっている。原作者ならびに改作者を特定することが困難であるとはいえ、 B.J.というイニシャルで示された想定上の改作者がベン・ジョンソンであるという可能性も一概には否定できないと筆者は付け加える。このような証拠と推論の積みかさねから演劇史に新たな光が投じられることを期待したい。

(東京外国語大学助教授)

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