ラタナの友人で台湾人のデビー、その彼女の友人であるインド人女性の誕生日での事。ラタナによるとこの彼女、25歳を迎えるというのに、未だかつて男性の裸体を見た事がないという。そこで、デビーを含むこのインド人女性の友人達が、
彼女の誕生日プレゼントとして男性の裸体を贈り、驚かせる事にした。

男性の裸体といっても、作り物でもなければ男性ヌード雑誌を贈るわけでもない。れっきとした本物をである。なんとイギリスでは、
プロによる『出張ストリップサービス』なる商売が存在するのだ。 数年前にイギリスで大ヒットした映画、『フル・モンティー』(失業中の男5人が艱難辛苦を乗り越え、自作自演のストリップ・ショーで結束をはかり、成功するというストーリー)のように、音楽に合わせた挑発的なダンスで1枚、また1枚と脱いでいき、そして最後には全裸に。男性1人、約10分間のショーで日本円にして約4000円。これをデビー達友人達からの誕生日プレゼントにしたのである。マッチョでハンサム、しかもものすごくセクシーだったというイギリス人男性のストリップ・ショーで一番喜び、興奮していたのがデビー達のようで、このプレゼントを受け取ったインド人女性は、かなり動揺していたらしいのだ。一説によると、平凡で退屈な大学生活に刺激を求めていたデビー達が、このインド人女性へのプレゼントのおかげで溜まっていたストレスが解消されたとの噂も。デビー曰く、 「こんな事、女のほうが強いイギリスじゃなきゃできない事よ。インドだったら、男尊女卑の慣習、根強く残ってるらしいからまず無理ね。ほんと、彼女には貴重な経験させてあげられてよかったと思う。女もどういった男の体が『いい体』なのかってこと、結婚前には知っておくべきよ。」 インド人女性にとって、一生忘れられない誕生日となったに違いない。プレゼントは本当に欲しいものがもらえるとは限らないし、またそれが人を幸せにするとも限らないのだ。

ラタナとフランス人のフロは、フラットメイトから『男女関係を超えた仲』と噂される間柄だった。しかし、そのフロが冬休みをパリの実家で過ごし、お土産としてラタナにあげた
ルイ・ヴィトンがきっかけで事件は起った。ラタナとフロはCELEでの夏季英語集中コース参加以来の付き合いで、その当時、クラスこそ違ったものの同じ寮に住んでいたふたりは、何事にも物怖じせず、人当たりが良く面倒見のいい性格のラタナが、シャイなフロのことをかまってあげずにはいられなかった、というのが友達になったきっかけのようだった。2人がCELEで学んでいた時、ラタナは何人かの日本人女性達と仲が良く、その中にフロの好きな女の子がいたという事で、ラタナは彼のためになんとか恋を実らせてあげようと奔走していた。これについては、残念ながら実らぬ恋に終わったものの、ラタナはフロのためにラヴレターの代筆はもちろん、私にも「日本人の女の子をデートに誘うにはどうしたらいいか」、「どんなデートだと喜んでもらえるか」などとアドヴァイスを求めてきた。『フランス人の男性は『愛情表現豊かで恋愛上手』っていうから、彼が告白した経験がなくっても、フランスにいる経験豊富な友達に聞くほうが、経験不足のタイ人のラタナと日本人の私がない知恵絞るよりはいろいろアドヴァイスしてもらえそうな気がするが…』とあっけにとられたこともあった。

大学が始まるとフロは個人所有の家を間借りし、ラタナは大学所有の自炊のフラットを選んだため、それぞれ離れ離れの生活になった。フロは毎晩、車でラタナのもとに通っては手料理を食べ、深夜に自分の家に帰るという、はたから見るとまるで
『通い夫』のようであった。フラット生活で、ラタナはすぐ隣のフラットに住むタイ人で、1歳年下のディナパーとかなり親しくなっていた。
「彼女、もうほんとうにわがままで礼儀知らずで信じられない!ひとりっこだからかもしれないけど…。」
私によくこういった愚痴をこぼすものの、生来の面倒見のよさからか姉妹のように接していた。当然、ラタナはフロとだけでなく、ディナパーも含めた3人で喋る事も多くなった。ラタナにとってフロという男は、
「何でも話せる弟。それ以上の関係じゃないからね。「どうしてフロと付き合わないんだ」ってみんなからよく聞かれるけど、フロは以前、日本人の女の子が好きだったじゃない(私とラタナが、フロの為に『ない知恵』絞ってデートをアレンジした日本人女性は、残念ながらフロには興味がなかった)。それに、今はディナパーの事が好きみたい。ほら、ディナパーって色黒だけど背も高いし、すごくかわいいから。なんでも、ヨーロッパ人って
『肌の浅黒い女の子』が好きみたい。タイだと、肌が浅黒いと『もてない』んだけど・・・。やっぱり恋人っていうと、私を一目で好きになってくれた男じゃなきゃだめ。『まぁ、これでいいか・・・』なんていう付き合い方されるのは絶対にイヤ!それに、フロには「タイではカップルでも結婚するまでセックスできない」って言ってあるし、「たとえボーイフレンドでも、私にキスしたり、体に触れたりできない」って言ってあるから。彼、「冗談だろう!」って驚いてたけど。」

一方、フロはというと、ラタナに『くまのプーさん』のポスターにあげたことでやきもちを焼いたディナパーに、『花の絵』のポスターをあげると、「フロってすごく悪趣味。わたしも『プーさん』のほうがよかったー」と好意でしたことが、無残にも裏目に出てしまった気の毒な彼。日本人女性との恋が実らず自分に自信を無くしたのか、ディナパーに興味がある事をラタナに告白しながらも自分では行動を起こさず、あくまで彼女に助け船を求めるフロ。そんな彼を見かねたラタナは再び、
「フロ、私からあなたの事どう思ってるか、ディナパーに聞いてみる」
と彼の恋に協力することになった。ディナパーはというと、
「えっ、フロ・・・?!彼って小柄だし、趣味も悪いし、全然私のタイプなんかじゃない。彼氏だなんてとんでもない!」
かわいそうな、フロ。しかし、自分で告白して自滅したわけじゃないからメンツも保たれ、ラタナ様々というところ。また、ディナパーにしても『フロは車を持っているから、なにかと便利』という思惑があるからか、『私達ずっといいお友達よ』といったニュアンスを持たせてつつ、以前となんら変わりなくフロと接していた。

1日も欠かさず毎晩やって来るフロにご飯を作り、その後2人だけの時間を楽しんでいたラタナ。フロがラタナの書いたエッセーの文法チェックをしたり、2人でふざけあったり、『フロと純子だけにしか話せない内容のおしゃべり』を楽しんでいた。しかし彼女にとって貴重なこういったひとときが、新たに割り込んできたディナパーによってだんだん侵されていることにラタナは困惑していた。そしてよく私に不満を洩らすようになった。
「ディナパー、
私が毎晩ご飯を作ってる時を見計らうように私のフラットにやって来るの。タイの習慣で私、いつも彼女に「ご飯食べる?」って聞くんだけど、一度も断った事ないんだから。だから私、結局毎晩フロ以外の分まで作ることになって。私がご飯作ってる間、彼女はフロとふたりでずっと喋ってて、出来たら食べるだけ。私が洗い物してても、彼女はフロと喋ってるだけ。彼女が食材を持って来てくるなんてこともないし。結局、私が夕食の買い出しに行って、作って・・・。私なんだか、彼女の『コック』に成り下がってるような気がする。フロはいいのよ。」

彼女のストレスはこれだけにとどまらず、周囲からの詮索にも悩んでいた。
「みんなからいつも
「どうしてフロとカップルにならないんだ?」とかって聞かれるの。その度に、「フロとはベスト・フレンドで、それ以上の関係にはなれない」って説明してるのに信じてもらえなくって・・・。深夜まで私と彼が同じ部屋の中にいるからってフラットメイト達が、『なんだかんだ言いながら、その間に関係持ってるんじゃないか』みたいに思われて・・・。ただ、一緒にインターネットで遊んだりしてるだけなのに・・・。この間なんか、ジル(彼女のフラットメイトでアメリカ人)と彼女の友達で隣のフラットに住んでるデンマーク人が、ふたりとも少し酔ってたみたいなんだけど、私の部屋のドアに聞き耳立ててたみたい。信じられる?!彼女達の声が、小声なんだけど部屋の中まで聞こえて来たの。「ちょっと、よしなよ。友達だって言ってるんだから何もやってないよ。」「ちょっと待って。よく、聞こえないじゃないの。シィー。」だって。欧米人には、私とフロのような肉体関係が全くない友達関係が理解できないみたい。『部屋の中でキスぐらいはしてるんだろう』って思われてるの。私も正直言って、ヨーロッパ人男性の彼とここまで何でも話せるような親友関係が築けるとは思わなかった。それなのに、こんなふうな事があると私とフロ、ちょっと気まずくなって…。」

また、ラタナは必要としないのに入ってくる情報にも惑い気味だった。
「この間デビーが来て、フロとディナパーも含めて4人でしゃべってたの。そしたらデビー、セックスの話なんかしだすのよ。しかもフロのいる前で!しばらくしてデビーとディナパーは帰ったんだけど、フロと私、なんだかその後居心地悪くなっちゃって・・・。それだけじゃないの。デビーがまた私の所に来て、台湾にいるデンマーク人の彼氏とのセックスの話とかし始めるのよ。私、「もういいからやめて」って言ってるのに、いろいろ詳しく話しだすの。本当に私の知らなかった事ばっかりで・・・。実は私、おばあちゃんが言ってた、
「男の人の体を触ると妊娠する」っていう事、つい最近まで信じてたの。」

ラタナのことは良くわかっていたけれど、フロについては何度会っても彼という男が全く理解できなかった。フランスの大学を卒業した後、社会経験半年でノッティンガム大学のMBAコースに入学。CELEの夏季英語コースもトップ・レベルで終了。IELTSという英国大学入学への判定基準となる英語の試験でも、ほぼ最高点に近い成績をとったことを自負していた。すれ違っても自分から声をかけてくることがないから、私が気づかないだけのことなのに、ラタナによると「純子が無視した」と彼の気分を害したこともあったようだった。そんな彼だから、毎晩のようにラタナに会いにいくのは、『彼女に興味があるから』とか、『一緒に過ごす時間が楽しいから』とは思えない部分があった。むしろ私は、『ラタナが彼に利用されているのでは・・・』と思えてならなかった。世話焼きで太っ腹なラタナだから、彼にとって彼女は
ただの『都合のいい女』なのではないかと感じていた。
ラタナと一緒にカフェでお茶でもするなら、 「純子、ここは私に払わせて!」 なんて言われたり、電話をかけたくて小銭を借りに行った時には、 「これ全部持っていって」 そういって、両手いっぱいの小銭を私に差し出す彼女。
「ちょっとラタナ、私いったい何分電話すると思ってるの?」
こういったことにとどまらず、ちょっとした気遣いに対してもすぐに「お礼を」ということで、
友人達だけでなく大学関係者にまで物を配るようなところがあった。私もタイの食料品のみならず、ハンドメイドのシルバーのブレスレット、ネックレス、蘭の花を特殊加工した後で金加工を施したブローチ、「純子のサイズがわからないからシャツが作れなかったんだけど、シャツ1枚は充分仕立てられるぐらいの生地があるから日本で仕立てて」と、シャツとして着るにはいささか勇気のいる色鮮やかなタイの手織りのかすり生地旅行に行った先でのお土産等、彼女から贈られたものは数知れず。かなり面食らってしまったのだが、『バレンタイン・デー』にもらったものまである。

「純子は私の親友だから」といっては、私にこういうことをしてくれるラタナ。フロに対しても、
「フロに、「指輪をあげる」って言ったら、「ブレスレットのほうがいい」って言われたの。ヨーロッパの男の人ってブレスレットを身につけるのね。」
また彼女が花を買いたくなったからと、フラットメイト達に花を買ったついでにフロにもあげたということまで判明。プレゼントだけにとどまらず、例えば一緒に中国料理店で飲茶を食べると、フロへのお土産として
中国菓子の持ち帰りを注文し、カフェでお茶をした後は、カフェ・オ・レの持ち帰りまでしていた。
「フロ、ここのカフェのカフェ・オ・レが好きだって言ってたから。」



タイではお嬢様として育ち、
イギリスに来るまで台所に立ったことのなかったラタナ。見様見真似で覚えた数少ないレパートリーの中から毎日の献立を考え、買い物に行き、調理し、味付けにおいてはフロからの評価を仰ぎ、最後の洗い物までひとりでこなしす彼女は、はたから見るとまるで彼の新妻である。家事のない彼女に毎晩の食事作りでストレスが溜まらないはずもなく、そんな時は出来合いのものを買う事もよくあった。しかし、そんな時ですらフロの分もきちんと用意してい。ラタナを夕食に誘い出そうものなら、
「純子、もしよかったらフロも呼んであげてもいい?」
詮索するのは嫌だったけれど、どうしても気になって聞いた事があった。
「ラタナ、食費とかはフロと折半してるの?彼、材料買ってきてくれたりする事ある?」
「食費なんて安いからいいの。フロはMBAで忙しいから。」
私は彼に対して嫌悪感を抱きはじめていた。ラタナに夕食を作ってあげる事もなければ、車で来ているのに材料を買ってくることもない。
『人のいいラタナを利用し、毎日『タダ飯』を食べに来ているだけ』そう感じずにはいられなかった。

ラタナが私に洩らしたことを思い出した。
「フロね、なんでも
日本人の女の子が特に好きみたい。フランス人の女の子は自己主張が強いから嫌なんだって。卒業したら日本で働きたいみたい。」
今まで彼の本心が読めなかったけれど、要はフランスで
『もてない』から、『外国人』だと明らかに区別がつくっていうだけで、本人もびっくりしたりするぐらいもてたりする日本で、お安い日本人の女の子でも『ものにしてやろう』っていうことだとすると、冗談ではない。そんなことを考えると芋蔓式に彼の過去の言動が脳裏をよぎるもので、彼が以前、好意を寄せていた日本人女性の引越しの際、彼女の荷物を自分の車で運んであげたという出来事を思い出した。かなり後になってフロがラタナに漏らしたという、「車で荷物を運んであげたのに、彼女からはお礼がなにもなかった。ちょっと失礼じゃないか?」といった不満に、「彼女も手伝ってもらったんだから、何かお礼をすべきだったわね」と完全にフロよりの立場だったけれど、今考えると、好きな女の子のお手伝いができたことを無償の喜びと捉えるならまだしも、自分に興味がないからとフラれたことで逆恨みし、彼女の悪口を言うとは言語道断である。 だいたい、こんな損得勘定を計算し行動する男に、明日のビジネス界を担ってもらいたくないものである。

仮に、フロが
『ラタナを利用している』という私の主張に反論し、『持ちつ持たれつの間柄』だと主張したとしても、私が見るところの彼の『持ちつ』は、気がむいたときだけしてくれるというラタナが書いたエッセーの文法チェックと、1週間に1回程度見に行く映画のために使う自分の車のガソリン代と運転料を請求していないことぐらいである。MBAの彼のことだから、ラタナのエッセー添削にかかる時間も、経済でいうところの 『オポチュニティー・コスト』(ラタナのエッセーの文法チェックをしている時間があれば、その間に自分の勉強ができたと考え、その失ってしまった機会に対するコスト)として頭の中で計上しているかもしれない。しかし、単純に考えても彼にかかる実費はゼロである。映画についていうと、ラタナと2人だけでということはまずなく、よく一緒に行くディナパーやアイビーからは感謝されていた。またラタナ曰く、「ディナパーがフロが彼女に好意を持っていることについては拒否してるのに、無げに彼との友達関係まで否定しないのは、彼が車を持っていて、彼と友達でいる限り不便な所にある映画館にも車で行けるという思惑があるから」ということからも、好意を持っているディナパーとの交友も保てるうえ、ディナパーやアイビーからは喜ばれ、ラタナには映画に連れて行くことで『借りを返す』ようなかたちになり、一石二鳥ならぬ『一石三鳥』である。『車で連れてきてくれたから』とフロの映画代を払ったり、ポップコーンや飲み物を買っているラタナの事を考えると、落とした鳥は『四鳥』となる。これらを考慮すると、「イギリスはフランスよりガソリン代が高い」とラタナにぼやくフロにとって、たまに行く映画館へのガソリン代は交際費としては高い経費かもしれないが、それ以上にかなりの利益を得ていることになる。こんな事を考え、ラタナに変わってフロのずるさに頭にきても、所詮『男に尽くす女』がいるのは世の常。また、フロにはラタナを引き付ける他人にはわからない魅力があるのだろうと思い、2人の関係を見守っていた。『本性というのは、何らかの形で遅かれ早かれ現れるもの』というのが私の持論だった。

クリスマスとニューイヤーを実家のあるパリで過ごしたフロ。ラタナの部屋のカレンダーには、フロがノッティンガムに戻ってくる日に丸印がついていた。彼も戻ったと思われたある日、ラタナから電話がかかって来た。
「純子、フロが「お土産とクリスマス・プレゼントを兼ねて」っていうことで
ルイ・ヴィトンをくれたの。」
これは私が想像だにしなかった出来事で、『わぁー。私、
『いつも損得勘定ばかり考えてるとんでもない男』とばかり思ってたけど、ラタナにはちゃんと感謝してたのね。なかなかいいとこあるじゃない、フロ!将来大物になってやろうっていう男は、やる事のスケールが大きいねぇー』と感心していた。
「本当!?よかったじゃない、ラタナ!」
「聞いてよ、純子!私、すごく頭にきてるの!実は、フロがパリに戻る前に、「お土産は何を買って来て欲しい?」って聞いてきたから、冗談のつもりで笑いながら、「ルイ・ヴィトン!」って言ったの。そしたら彼、本当にルイ・ヴィトンを買って来てくれたんだけど、何だと思う?
すごくちっちゃなモノグラム柄の小銭入れ。私の妹がルイ・ヴィトンが好きだから、大体いくらぐらいの値段のものかわかるの。でも、私が問題にしてるのは、それが『ルイ・ヴィトンの製品の中で一番安い商品』だってことじゃないのよ。パパが妹にルイ・ヴィトンを買ってあげるのと、学生のフロが私に買ってくれることは違うから・・・。それで、フロにルイ・ヴィトンを買った理由を聞いてみたの。そしたら彼、「ルイ・ヴィトンなんて一度も入ったことなかったから、ちょっと見るだけのつもりで入ったんだ。店の入り口にはドアをいちいち開けてくれる男まで立ってて、いやー、ほんと。驚いたよ。まあ、それにしても日本人の多いこと。聞いてはいたけど。入ったのはいいものの、何か買わずには出られないような状況になってさ。どれもびっくりするほど高いし。唯一、買えたのがそれたんだ」ってなんて言うの。実は彼、ディナパーにもルイ・ヴィトンでお洒落なスケッチブックを買ってるのよ。しかも、私のと同じように『君は僕にとって大親友なんだ』なんてメッセージも付けて。私、これでフロがまだ彼女に未練があるってわかったの。それなのに、「ディナパーにもプレゼントを買ったのは、彼女は君の大親友だから、君だけに買うわけにはいかないと思ったんだ」なんて訳のわからないこと言うのよ。ディナパーが毎晩のように、私の所に夕食を食べに来るようになってからというもの、私が彼女のことを嫌ってるっていうこと、彼知ってるのよ。純子に「ディナパーにはどう対処したらいい?本当に困ってるの」って相談したことをフロにも相談してるのよ。それなのに、「大親友だから」なんていう言葉がどうして軽々しく彼の口から出てくるの・・・。私の『大親友』だったら、彼は誰にでもルイ・ヴィトンを買うっていうの?私、本当に頭に来て!こんなことをする彼なんて、もう許せない!私に高価なルイ・ヴィトンを買ってあげたっていうことは彼にとってすごい事かも知れないけれど、私には何の意味も持たないのよ。パパに頼めばいつでも買ってもらえるんだから。純子、私の気持ちは完全に踏みにじられたのよ…。私がもらったモノグラム柄の小銭入れと、ディナパーがもらったルイ・ヴィトンのスケッチブックを比べてみて。それで、あなたの正直な意見を聞かせて。私、彼女からスケッチブックを借りてくるから。そのとき、「純子がロンドンに出た時に買いたいと思っていたもので、買う前に是非見せて欲しいって言っている」って嘘をついてもいい?」

小銭入れを受け取った当初、ラタナはフロに対して『彼の許容範囲を超える高価な商品を買わせてしまった』という罪悪感に苛まれていたという。しかし、ディナパーが同じブランドのしかもラタナがもらった小銭入れより寸法的にはるかに大きく、どちらが高価なものかわからない品物を受け取ったという事実を知ると、見るのも嫌になったという。ラタナはその小銭入れと、彼女が嘘をついてディナパーから借りてきたスケッチブックを私の前に差し出した。スケッチブックといっても、あのルイ・ヴィトンが作っただけあって、
そんじょそこらの画材屋で売られているものとは訳が違う。上質の紙には、パリの数々の名所がお洒落なイラストとしてちりばめられていた。常識で考えると、絵を描くのが好きでもない限り、小銭入れのほうが実用的だ。しかし、この2点についていうと、装丁のお洒落なスケッチブックに比べ、小銭入れは小さく簡素な作りで、どちらかというと小銭入れのほうが見劣りする。正直、どちらが高価なものなのか想像できないくらいである。

「ラタナが「正直に言って」っていうから言うけど、私だったらスケッチブックをもらうほうが嬉しいな。仮に、ルイ・ヴィトンが好きでバックとか集めてたとすると、この小銭入れくらいは自分で買うかもしれないけど、スケッチブックは買わないと思う。スケッチブックって小銭入れと違って実用的なものじゃないから、『そういうのにお金を使うのはもったいない』って思うからかな・・・。自分では買わないものをもらうほうが嬉しいよ。それにほら、パリのイラストが入ったスケッチブックっていっても、世界中にあるルイ・ヴィトンのお店ならどこでも買えると思うけど、『パリの実家に帰っていたフロからのお土産としてもらったもの』って考えたら、かなりセンスのいいものになるじゃない?いい思い出にもなると思うし。」
商品の値段については、スケッチブックも小銭入れもどちらも同じような値段のものという印象を受け、フロの「ラタナに買って、ディナパーに何もなしではいられなかった」という言い訳は納得しがたく、むしろ女の直感で、フロ自身、
ディナパーを印象づける『何か特別なもの』を買いたかったんじゃないかという気がした。仮に、彼がディナパーに小銭入れをあげていたとすると、「これって(モノグラム柄の商品の中でも)一番安いやつじゃない」と身も蓋もないことを言わて、傷ついていたに違いない。 「まったく、純子の言う通りよ。だからかしら、ディナパーすごく喜んでるの。彼に接する態度が以前と全く違うのよ。今まで冷めた態度だったのが、猫なで声出すようになって、フロも満更でもないみたい。顔がかわいい子は本当に得ね。彼自身、ディナパーから好かれてないことを知ってるのよ。それに、彼女からしてもらったことなんて何もないのよ。彼女が、彼のいない所で悪口言ってたこととかも全然知らないのよ。彼女も今じゃ、「フロはリッチ」なんて言ってるのよ。そんなことないのに・・・。もう、フロなんてどうでもいいわ!顔も見たくない!」
プライドを傷付けられたラタナは、フロが来た際、
「私には、ルイ・ヴィトンなんて、何の意味も持たないのよ。これ、要らないから持って帰って!」
と言って、小銭入れを差し出し、彼をひどく驚かせたという。
「いや・・・、一度渡したものだから・・・。「要らない」って言われても・・・。」
プレゼントがもたらす騒動、いろいろあるものです。



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