

最終学年になると学部での授業の少なくなり、加えてステューディオで製図を書くこともほとんどなくなった。そうなると、学部のすぐ側に建つレントン・ホールに住む必要もなくなり、そこで私は寮から出て、大学所有の自炊形式のフラット、アルビオン・ハウスに住むことにした。ここは大学から一番遠い自炊のフラットであるものの、大型スーパーのセインズベリーは目と鼻の先で、また建物の半分は学部生用、半分は大学院生用となっていた。このアルビオン・ハウスでは、フラットこそ違うもののテイ、ラタナと同じ敷地内で一緒に生活することになった。アルビオン・ハウスは3階建ての建物がいくつか連なっており、最上階の3階は女子学生用のフラット、2階は男子学生用と女子学生用が半々のフラット、1階は男子学生用のフラットであった。1つのフラットでは7人が共同生活をし、男女混合のフラットはなかった。フラットの希望を大学側に提出する際、最上階の3階だと下からの騒音はあっても上からの騒音に悩まされることはないので、3階のフラットに希望を出した。その結果、3階で、しかもテイのフラットとは階段の踊り場を挟んで隣のフラットに住むことになった。『一体、どんなフラットメイトと一緒に住むことになるのだろう・・・』という不安はあったものの、フラットで共同生活をするのはこれが初めてという訳ではないので、フラット生活そのものに不安はなかった。大学所有のフラットに住む場合、「先着順に好きな部屋を選べるから早く入居したほうがとく」という情報が飛び交っていた。しかし、夏休みを日本で過ごしていた私は、自分が気に入った部屋を押さえるため、夏休みを早く切り上げてノッティンガムに戻るのも嫌だったので、ノッティンガムに残っていたラタナに、入居日の初日にフラットを管理しているオフィスに行き、私の代理として駐車場に面した日当たりの良い角部屋の7号室か、日当たりは悪いものの角部屋になる1号室の鍵をもらってくるようにお願いした。
その当日、ラタナからE-mailが届いた。
「純子、驚かないで。実はあなたのフラットなんだけど、男女混合みたい。私が鍵をもらいにいったら、あなたと同じフラットに住むっていうベルギー人の男がいて、「1号室に住みたい!」ってスタッフに言い張ってるのよ。オフィスによると、「先着順にすると不公平になるから、もう既にオフィスのほうで部屋割りしていて変更できない。変更したかったら住人同士で話し合ってくれ」っていうの。実はあなたが1号室で、彼が2号室なの。そう、彼があなたの隣に来るのよ!私、このベルギー人から「部屋替わってくれ」ってしつこく言ってこられたけど、もちろん断っといたからね。そうそう、彼の男友達2・3人もあなたのフラットに住むみたい。最上階は『女性専用』って決まってるんだから、純子、大学に文句言わないとダメよ!」
このラタナからのE-mailに、思わず目が点になった。『うそー、いったいどうなってるっていうの?!』
この衝撃的なE-mailを受け取って以来、どんなフラット生活が待ちうけているのだろうと考えると不安になり、イギリスに戻る機内でも、フラットのことを考えると気分はブルーになった。
夜になってようやくたどり着いた私のフラットでは、ラタナが夕食を用意して待っていてくれた。
「純子、私、おじさんと中国料理を食べに行ったの。純子の分は持ち帰り用に作ってもらったから、食べて。」
キッチンのテーブルには、北京ダック、蟹の炒めたもの、ご飯がすでに用意されていて、食事を楽しみながら、夏休みに起こったことなどについて楽しくおしゃべりしていた。
「何語で喋ってるの?もしかして英語?」
こんな失礼なことを言いながらキッチンに現れたのが、以後、天敵となるフラットメイトで、隣室となったベルギー人のスタインだった。彼は私と同学年で、大学では哲学とフランス語を専攻していた。
ラタナの用意してくれた料理は量が多く、私自身、長旅で疲れていたこともあり、一人ではとても食べきれなかった。スタインが「もの欲しそうに見ていたから、あげたら喜ぶかも」いうラタナの提案に従い、自室に戻っていた彼をキッチンへと誘った。実際、喜んで食べている彼。
「前に、日本人の女の子が僕に料理を作ってくれたことがあるんだ。いつか日本料理を作ってくれよ。」
この男、今日初めてあったばかりなのに、ずうずうしいというか、最初から印象が悪かった。「自分の部屋と替わってくれ」としつこく言ってくるのだが、私だって両隣に部屋があるのは嫌だ。『もしかしたらこのフラット、男ばかりかも・・・』という不安から、アルビオン・ハウス内での引越しも検討した。しかし、どこも満室で、仕方なく留まっているとフラットメイトとなる住人が次々と入居し、スタインのクラスメートでイギリス人のスティーヴ、ドイツからの交換留学生のイヴォンヌ、JYAコース生のヒロミちゃん、イギリス人で経営学部の学生のメラニーで6人となった。交換留学生のイタリア人女性も一度は入居したものの、「見ず知らずの男達と共同生活したくない」と出て行ってしまった。こうしてフラットは、男女比率が2対4となった。場合によっては追い出されかねないことを恐れたスタインとスティーヴが、バス・シャワーとシャワーだけの2つあるバスルームのうち、シャワーだけのほうを男専用として使うこと、2つあるトイレを男女別に分ける、迷惑は一切かけないことを誓い、また私にとってもテイがすぐ隣のフラットに住んでいて、ラタナも同じ敷地内に住んでいること、スタインとスティーヴが実はゲイであるというラタナの推察、これらを考慮すると、このフラットに住むのも悪くないと考えた。それが悪夢の始まりだとは露知らず・・・。

ある日の午後、隣の部屋からスタインが弾くギターの音が聞こえてきた。寮では日頃からよくあることなので、気にすることもなかった。そしてその日の夕方、私の部屋に遊びに来たラタナと一緒におしゃべりしていた。そこにノックして入ってきたのがスタインだった。
「明日までにしないといけない事があるんだ。うるさいから、喋るなら台所で喋ってくれ。」
訳もわからず、とっさに、
「あら、ごめんなさい。」
2人して即座に謝ったもののなんとなく腑に落ちない。深夜に大声で喋っていたわけでもなく、まして喋っていたのは自分の部屋で、しかも、相手はというと数時間前にはギターを弾いていた人物である。また、その日の夜遅くにはスタインの部屋に友達がやってきて、私の部屋にも喋り声が洩れ聞こえてきた。このスタインの自分勝手さに憤慨したものの、済んだことに対して後から文句を言うのも嫌だったので何も言わなかった。
またある日の昼間、私が卒論を書いていると隣室からギターの音が聞こえてきた。思わず、『同じ文句を言ってみようか』と思ったものの子供同士の喧嘩のようでバカバカしく、壁が薄いことは分かっていたので、足で何度か壁を蹴ってみた。気づいていないのか、辞めずに弾き続けているので卒論に集中できなくなり、気分転換に自分の部屋を掃除することにした。この掃除機が、『うるさい』、『重い』、『吸引力がほとんどない』というツワモノで、掃除機をかけようにも、掃除機などかけたことがないと思われるスタインから、今度は掃除機の音で難癖を付けられるのも嫌だと思うと、なかなか思い切って時間をかけて掃除機をかけられずにいた。そこで、スタインがギターを弾いているのをいいことに、いつもより丁寧に掃除機をかけ、その掃除機をキッチンへと戻しに行った。キッチンでは、スタインが座っていた。『やだ・・・。彼ってどこか小舅みたいなところがあるから、きっと、なんか私に文句言ってくるはず・・・。』と身構えると予想通りだった。突然何を言い出すのかと思ったら、私が1週間ぐらい前に彼に提案し、同意してくれたはずの電気料とトイレットベーパーの各自の負担方法(これらは大学のフラット費用には含まれていない)について、実はフラットメイトの誰もが私のやり方には賛成していないと言い出してきた。そこから、議論が本筋へと向かっていった。
「さっき、壁、蹴ってただろう。」
「ギターの音がよく聞こえてくるから、壁がいったいどのくらい厚いのかチェックしてただけよ。そんな、蹴ってただなんて誤解してもらったら困るわ。」
自分でも、かなり白白しいのはわかっていた。
「わかってるんだ。」
「気付いてたのなら、どうしてやめてくれないのよ。」
「純子、うるさかったら「うるさい」って言いに来てくれよな。やめなかったのは、僕たちには話し合いが必要だと思ったからだ。」
「話し合うことなんて何もないじゃない。それに、大学所有のフラットに住んでいる限り、『午後10時から午前7時までは、静かにしないと行けない』っていう規則はあるけど、それ以外は自分の部屋で何をしようとその人の自由じゃない。試験期間中ともなると、話はまた別だけど。この際、言わせてもらうけど、あなたかなり失礼よ。私、部屋でガンガン音楽かけてたってわけでもないでしょ。ただ、部屋で友達とお喋りしてて、それで「うるさいから台所へ行け」だなんて。「静かに喋ってくれ」とは言えたとしても、「台所で喋れ」だなんてあんたに言われる筋合いないんじゃない?!」
「あの日はエッセーの締め切りに追われてたから…。」
「追われてたの?それにしては、お昼過ぎに部屋でギター弾いてたじゃない?」
私の心の奥底でモヤモヤしていた彼への不満が、一気に溢れ出てきた。
「そのことは謝るよ。ごめん。エッセーのストレスが溜まっててさ、イライラしてたんだ。自分の友達が来たら、みんな台所に連れて行ってそこで喋るようにする。仮に、僕か純子のどちらかが、試験期間中以外にも試験があったとしよう。そしたら…。」
『イライラしてたから、隣の部屋で楽しく喋っている私に文句を言っただって・・・?!』彼の真意を知ると余計腹が立ってきた。このまま彼の言い分を聞いた日には、彼の思う壺である。
「そんな心配しなくていいわよ。私、試験期間中しか試験の予定はないし、エッセーの提出に追われるタイプでもないし。だから、あなたも午後10時までは騒いでもらって結構。それに私、寮生活で騒がれるのにも慣れてるし。それより、息を潜めて生活するなんて耐えられない。キッチンで喋るなんて、そんなの落ち着かないじゃない。第一、なんでキッチンで喋らないといけないのよ。」
彼は、依然として友達が来た際にはキッチンで喋ることを主張し、私はこれについては頑として納得せず、押問答となった。結果、たとえ午後10時前でも『うるさくて耐えられない』っていう場合だけ、「キッチンで喋ってくれ」って言いに来てもかまわないということで、なぜか私が歩み寄る形になった。
スタインとは仲直りしたものの、わだかまりだけは消えなかった。スタインの部屋に友達が遊びに来ることなどほとんどなく、大学での授業回数も私よりずっと少ない彼は、部屋にこもって勉強していることがほとんどだった。それに比べ、近くに住んでいるテイやラタナがちょくちょく部屋に遊びに来る私の方が、絶えず隣の部屋を気にするようになった。ラタナまで彼に気を遣い、
「ごめん、ちょっと大きい声出しちゃったかも。また、例の隣のベルギー人、文句言いに来るわよ。」
一方、テイは全く気にしなかった。
「テイ、ちょっと声大きいかも・・・。ほら、隣がまた文句言ってきたりするから・・・。」
「何言ってるのよ、純子。彼なんて気にしててどうするのよ!この部屋の主なんだから、ドーンと構えてなくっちゃ!大体、ここに男が住んでること自体おかしいのよ。彼、ゲイかもしれないって言ってたけど、変態なんじゃない?ここは、本来、女性用のフラットなんだから。また、あいつが文句言ってきたら、今度は私が言い返してやるから任しといて。それはそうと、純子、知ってる?スタインって、うちのフラットメイトのオランダ人、ビアンカの愚痴を聞いてるらしいんだけど、その彼女の愚痴っていうのが面白いのよ。彼女、今、ボーイフレンドが彼女の部屋に泊まりに来てるんだけど、壁が薄いのを全然気にしてないみたいで、毎晩のように隣の部屋に住んでるスウェーデン人のセーラに迷惑かけてるの。彼女は敬虔なクリスチャンだから、夜な夜な隣から洩れてくる音で「夜、眠れない」って、ビアンカと大喧嘩したの。ビアンカが純子の部屋に住んでたら面白かったのにねー。スタインどんな反応したかしらね。ベルギー対オランダで、『国境争い』ならぬ、『騒音問題』で今頃戦争してたんじゃない?」
スタインとはわだかまりこそあったものの、彼は大学の後期となる2月以降、交換留学生としてフランスの大学に留学することが決まっており、もう一緒に住むこともないとわかっていた。『あと数ヶ月もしたら、彼ともバイバイだし・・・』程度に考え、私は自分の部屋にいる間、音には多少気をつけながら日々を送っていた。スタインとはこれといった衝突もなく、月日は過ぎていった。
そんなある日の朝、キッチンで朝食を作っているとスタインがやってきた。
「純子、夜、机の引出しを何回も開けたり閉めたりしたり、椅子を絶えず引いたりしてるだろ?うるさいから、やめてくれないか?あと、部屋をうろつきまわらないでくれ。君のせいで、夜眠れないんだ。」
いくら壁が薄いとはいえ、私のプライバシーに関わることにまで触れられ、ついに私の堪忍袋の緒が切れた。
「スタイン、あなた壁に耳でもあててるの?それって、私に、『夜は生活するな』とでも言いたいの?机の引出し開けたり、部屋についている洗面台のところに行ったりしないで、どうやって部屋にいろっていうのよ?!」
「引出しの中のもので、使うことが前もってわかっているのは、出しといたらいいじゃないか。」
「前もって出しとけだとか、なんでそんなこと、いちいちあなたに言われなきゃいけないの?!人の生活にまで立ち入っているって自覚してる?!」
「引出しとか、こうやってそーっと開けたり締めたりすればいいし、椅子を引くのもこうやったらいいんだよ。君の場合、思いっきり力任せに引出し閉めてるんだよ。」
引出しの開け閉めの指南に至っては、ご丁寧にもキッチンの引出しを使い、まるで人が寝ているところに侵入した泥棒が、起こさないように引出しの中をあさるがごとくに開け閉めし、彼が私に望む正しい椅子の使い方については、キッチンにある椅子に自ら座り、座りながら自分で椅子を下から持ち上げるようにして移動させろというのだ。
「冗談じゃないわよ。私、頭に来ても机になんかあたったりしないのに、力任せに引き出し閉めてるだなんて、そんな勝手な言いがかりはやめてよ。それに、どうして私があなたの言うやり方で引き出し閉めたり、椅子引いたりしなきゃいけないのよ!」
「君が納得してくれて、僕の説明したやり方に変えてくれたら、僕達は幸せにやっていけるんだ。簡単なことじゃないか!」
「何が簡単よ。それは、あなたの一方的な言い分でしょ。今度という今度は私、もう我慢できない!あなたとは、とてもじゃないけど理解し合えそうにないわ。もう、どこか別のフラットに移ってよ。その方がお互いにとって幸せなんじゃない。」
すると、突然、彼の態度が変わった。
「純子ごめん、僕が悪かった。すべて僕が悪いんだ。どうか、どうか、許してくれ。」
そして、今度はなんと、キッチンの床に正座し、私に向かって手を合わせてくるのである。
「ちょっとー、「私、もうあなたとはやっていけない。離婚する!」とかいう話し合いしてるんじゃないんだから、そんな事やめてよ!第一、あなたが言い出したことじゃないの。自分が悪いなんていう気持ち、どうせないのはわかってるんだから。」
「だから・・・、純子も僕の言う通りにしてくれたら・・・。」
スタインにはただあきれ返って返す言葉もなかった私は、その場を後にした。
どうにも乱れた気持ちが静まらない私は、隣のフラットのテイを訪ね、彼から言われたことをすべて彼女に打ち明けた。
「彼、そんなことまで言ってくるなんて信じられない!彼にはもう出て行ってもらうべきよ、純子!その方が、彼にとっても幸せよ。スタインが出てったらスティーヴも出て行くだろうし、そうしたら純子も、「朝っぱらから、見たくもないスティーヴのパンツ姿を見てしまった。」ってこともなくなるじゃない。私、純子がチューターのところに文句言いに行くのに付き添ってあげる。」
ちなみに、スティーヴのパンツ姿の事といい、彼女は私のフラットのすべてを知り尽くしていた。
チューターは、その寮やフラットの住人である学生に困ったことがあったり、住人の間でもめ事があったりしたときには仲裁に入ってくれることになっていて、アルビオンにもスティーヴというイギリス人の博士課程在学中の男性がいた。テイの「チューターに今すぐ会って、スタインを追い出してもらおう!」という考えに対し、一抹の不安がよぎった。『「部屋をうろつきまわっている」とか、「椅子を引くのがうるさい」ってスタインから言われるっていうことは、もしかしたら文句こそ言ってこないものの、実は下に住んでる住人もそんなふうに思ってるかも・・・。チューターが、私の下の住人からも話を聞いたりして、「いやー、僕もそう思ってた」なんて言われたら私、身も蓋も無いかも・・・』と思った私は、まず、私のすぐ下となっている男子学生専用のフラットに行き、私の部屋の真下に住んでいるというイギリス人を探しあてた。
「あのー、私、スタインっていうベルギー人の男の部屋の隣の1号室に住んでるんだけど、彼から、「夜に部屋の中をうろつきまわったり、椅子を引いたりするのがうるさいから眠れない」って文句言われたの。私ってそんなにうるさい?ほら、隣が「うるさい」って言うんだから、下だともっと響いてうるさいはずじゃない?そこで、下に住んでる人の意見を聞かせてもらおうと思って来たんだけど・・・。」
「あー、あいつか・・・。上からなんて何も聞こえないし、うるさいなんて思ったことないよ。」
彼からは一笑されたけれど、チューターが私の部屋からの騒音について何か聞いてきた際には、今の証言をしてもらうように頼んでおいた。そして更に念には念を入れて、私の向かいの部屋のフラットメイトのメラニーにもスタインから言われたことを打ち明け、チューターが彼女にも聞いてくるかもしれないことを伝えておいた。
「あなたの部屋からは、なーんにも聞こえて来ないわよ。あいつ、私にもこの間、「夜うるさいから静かにしてくれ」って文句言いにきたのよ。」
ちょうど彼女の真向かいの部屋に住む私が、『うるさい』なんて感じたことがないのに、斜め向かいの部屋に住むスタインが彼女に文句を言っていたとは、やはりただ者ではない気がした。
チューターのスティーヴには、スタインとの最初の衝突となったラタナと部屋で喋っていて文句を言われたことから、すべて話した。私の考える解決策を彼に提案すると共に、かねてから不思議に思っていたことについても聞いてみた。
「私、息を潜めて生活するようなことはできない。スタインが私の部屋の隣から引っ越して、誰かすごく静かな人の隣に移るのが、彼にとっても一番いい解決策だと思う。だいたいどうして私住んでるフラットだけが男女混合になってるの?最上階っていうのは本来、女子学生専用でしょ?」
「実は、どうして君のフラットだけが男女混合になってるのか、僕にもよくわからないんだ・・・。残念だけど現時点でアルビオン・ハウスに空き部屋がないんだ。」
心配して一緒について来てくれていたテイは、何か言いたくて仕方がないといった様子で、
「スタインとスティーヴってゲイなのよね。スタインの部屋の隣ってスティーヴなんだけど、彼には文句は言ってないみたいだし。私達の友達(ラタナのこと)が言ってたんだけど、スタインが彼女を見つけて手を振った時、その「手の振り方が女っぽくって気持ち悪かった」って。そういえば、ほら、純子のフラットのスティーヴの隣の部屋、今誰も住んでないんじゃない?スタインをそこに移せばいいのよ。スティーヴとはなんの問題もないわけだし、そうすると隣はシャワールームでしょ。」
テイのアイディアである、今住んでるフラットのスティーヴの隣の空き部屋に移ってもらうというのは確かにいい考えだった。これだったら全く別のフラットに引っ越す訳でもないので、スタインにも納得してもらえそうだった。仮に私が責任の一端を担うという意味で、彼の引越しの手伝いをすることになったとしても楽である。こうして、チューターのスティーヴがスタインを呼び出し、部屋を移ったらどうかという話しを彼にしてくれることになった。
チューターのスティーヴから呼び出された時、私はてっきり『スタインとの話しがついた』とそう思っていた。
「君のフラットメイトの件なんだけど・・・、彼、眠りがとても浅いらしいんだ・・・。フラット内で空いてるっていう部屋に移るようにも言ってみたんだけど、そこの部屋は「シャワールームの隣だから、水の音がしてうるさいから移りたくない」って言ってるんだ。どうだろう・・・、彼も「多少のことでは、もう文句は言わない。君に言ったことは後悔し、反省してる」って僕に言ってきてるし、君もちょっとだけ彼のことを理解してやってくれないか。それにあと2ヶ月弱もすれば彼も居なくなることだし・・・。」
眠りが浅い病気と言われては受け入れるしか仕方がなかった。ここで初めて、どうしてスタインとその友人(?)のスティーヴが、通常は女子学生専用となっているフラットの最上階に住んでいるのかが明らかになった。最上階だと上からの騒音に悩まされることもないうえ、女の子達と住むほうが男ばかりよりは静かだからだ。フラットに入居した当初、スタインは執拗に自分の部屋と角部屋である私の部屋を「交換して欲しい」と頼んできたのにも説明がついた。
この事件の後、スタインが眠りが浅い病気だということで、夜になると小さなことでも自分のすることに気を遣うようになり、ストレスの溜まることも少なくなかった。そんなことから、彼との関係改善もできなかったけれど、再び言い争いをするようなこともなくどうにか前期も無事に終了した。そして、フランスに留学するスタインはフラットを出ていった。スティーヴも男1人となってはさすがに気恥ずかしいようで、別の男子学生専用のフラットへと引っ越していった。

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