教育に関しては、M2で生理学の講義を4から9月まで行った。新カリキュラムによって38
コマと5コマ増え、血液,筋収縮(講義のみ),心臓,循環,呼吸,消化, 腎臓,内分泌生殖を担当した。1コマは学生による講義 であった。実習は24コマで,第一生理の神経科学 実習と同時に行われた。例年通り,両方の生理学講座がそれぞれ4課題を担当し,全部で8課題を行い、まとめは実習の発表会であった。またM3の基 礎ゼミを10-11月に5週間行った。教師が1または3名の学生の実験を指導した。課題はパッチクランプ法と蛍光測光によるもの一つ、心臓のランゲンドルフ灌流によるもの二つであり、いずれも成果があがり、生理学会等で発表することになった。
当教室では、正常および疾患時の種々の生体の機能に関して、分子、細胞および臓器レベルの研究を行っている。研究対象は一般生理学、心臓・血管系、神経科学に分類される。研究課題は心筋や心臓など循環系に関したものが多い。技術的には、パッチクランプ法、蛍光顕微鏡による画像解析法および心臓の臓器還流法が主であり、研究は研究室内でほぼ完結できる。ちなみにパッチクランプ装置は3セット保有している。細胞培養装置は十分に稼動しており、液クロやRT-PCRも随時行っている。しかし一般的な生化学的な分析や、顕微鏡撮影などでは中央・共同施設も利用して研究し、特殊な定量では他教室との共同研究を行っている。動物の急性実験を行うことも多い。
形質膜にあるチャネルタンパクは種々病態と関わりがあり、薬物治療の対象ともなる。チャネル機能の解析では、まず組織から細胞をコラゲナーゼを用いて単離し、パッチクランプ法を行う。我々は心筋細胞のCaチャネルやKチャネルに多くの経験を持ち、特にCaチャネルについては開閉の様式とそのカテコルアミンやCa拮抗薬による修飾について成果をあげてきた。その延長上にある次の段階として、心臓から単離した細胞を培養して、チャネル発現の研究を行った。培養心筋に外来性のCaチャネルαサブユニットを発現させたところ、内在性のCaチャネルの発現や機能が変化することが判明した。さらにアンチセンス法によるCaチャネルのβサブユニットの機能、βアゴニスト長期適用によるL型Caチャネルαサブユニット発現変化などを分子生物学的に検討している。また、心筋の株化培養細胞H9c2を用いた実験ではSKチャネルの発現を報告したが、さらにKvチャネルの同定をRT-PCR法によるmPNAの発現やウエスタンブロット法で進めており、Kv2.1が主役を担うことが明らかになってきた。
数年来、新たな課題として細胞膜の電気的、化学的破壊に取り組んでいる。本年度から蛍光顕微鏡にCCDカメラを装着した顕微蛍画像解析が始まり、DNA結合性で膜非透過性の蛍光マーカー、エチジウムブロミドが、膜破壊によって細胞内に流入し核蛍光を増大させることを明らかとした。すなわち、従来の電流変化から類推していた膜破壊の大きさや持続は、蛍光マーカーの流入量とよく相関し、膜破壊を核蛍光の変化または電流によって追求しうることが裏付けられた。膜傷害性のlysophosphatidylcholineが膜を破壊し、親水性ポリマーであるpolyethylene glycolがその破壊部からの蛍光マーカーの流入を抑制することが明らかとなった。形質膜の大きな破壊はネクローシスを直結し、アポトーシスの引き金ともなる。さらにミトコンドリア膜の穿孔はアポトーシスをもたらす。細胞膜破壊(一過性を含む)の機序、破壊の影響、防止法の研究を、ミトコンドリア膜にも展開し、細胞死と膜との関わりをさらに解明することを展望している。
臓器レベルの研究では、心臓のLangendorff灌流実験で、虚血再還流やラジカルなど細胞障害性ストレスによる臓器障害の機序とその防御を、心拍動および冠動脈圧を記録し、細胞逸脱酵素のGOT、NOやプロスタノイドを生化学的に測定して追求している。ATP感受性Kチャネルの関わりが一つの中心的課題となっており、防御機能を発揮するのがミトコンドリアのIKATPなのか、細胞膜のIKATPなのかが問題になっている。実験動物はラットを主とするが、マウス心臓を用いた実験も可能になり、分子生物学的な共同実験の準備が整っている。
神経科学領域では、シナプス小胞と伝達物質に関する神経科学的研究を行っている。シナプス小胞を単離し、小胞の含有する興奮性および抑制性伝達物質アミノ酸を蛍光測定器を装着したHPLC装置を用いて測定したり、ラット脳各部の伝達物質を広範に定量している。GABA、グリシン、グルタメートなどの伝達物質の、老化と関連した変化が明らかになりつつあり。