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時事英語研究

Icon タイトル
放送通訳 アメリカ人的なるもの
Icon 氏名
鶴田知佳子

ゴアの敗北スピーチ
 ゴア氏の敗北スピーチを同時通訳する機会を得た。そのスピーチの後ろのほうに出てきた
”In the words of our great hymn, America, America: Let us crown thy good with brotherhood, from sea to shining sea.”
(ちなみにもともとの歌の歌詩は、ちょっと違う,次のようなものである:
“America! America! God shed his grace on thee, and crown thy good with brotherhood from sea to shining sea.”)
 この部分がどういう意味なのか、わからなかったという声を同僚の通訳者の間から聞いたので、あらためて、放送通訳者にこういう演説の通訳のときに求められる「アメリカ的なるもの」について、ふれてみたい。

 たまたま、私の場合は帰国子女であって、小学校高学年3年近くをアメリカの公立小学校で過ごした。当時のニュージャージー州の公立小学校では、毎朝、授業が始まる前に教室の前におかれている国旗にむかって全員が、左胸の上に右手をあて、誓いの言葉を唱えるのが日課であった。

I pledge allegiance to the Flag, of the United States of America, and to theRepublic for which it stands, One Nation, under God Indivisible, with Liberty and Justice for All.

 おそらく、この文章を毎朝唱えさせられたこと、星条旗よ永遠なれ、や上記歌詩の引用されている愛国歌、美しきアメリカ、を折に触れて、なんども歌わされていることが,知らず知らずのうちに、私のなかのアメリカ的なるもの、を形づくったのだろう。まだ、小学4年生だったから、言葉の深い意味を知ることもなく,毎日唱えていた。
 しかし、これがいま、長い年月を経て,ご縁があって、大学で英語を教える教員となったとき、同僚でペアティーチングをしているアメリカ人男性教員から、
I get along very well with Chikako, because she is more American than Japanese.

といわれる、素地のひとつになっているのだと思う。
アメリカ・ザ・ビューティフル――キャサリン・ベイツの詩
 さてさて、いまさらこんなことを言う必要はさらさらないと思うが,アメリカはほかのもっと歴史のあるたとえばヨーロッパやアジアの国と違って、自由の天地を求めて「新大陸」にわたった移民が作った国だ。こういう国において、ひとつに国を団結させるということは、どういうことか、自由と公正さの元で神がひとつに結ぶ国なのである、ということを常に確認しているのがアメリカ人のアイデンティティの源になっている。

 私が3年近く毎朝小学校で唱えていた文句から引用されたのでは、と思われるところが、大統領候補の演説のなかや、年頭の一般教書演説のなかでも時折,見受けられる。ブッシュ候補の勝利スピーチで最後のほうに、nation indivisible と出てくるのも、この言葉と関係があると思う。

 さて、ゴア氏演説の中の問題部分。これは、リーダーズプラスをみると、美しきアメリカ、America the Beautiful という愛国歌で、 Katherine Batesの詩による、とある。ついでにいうと、あるときAmerica the Boastful と題した記事を Newsweekでみかけたことがあるが、これはいうまでもなく、この歌の題のもじりであろう。ニューエコノミーで景気絶好調のアメリカ、あまりおごるなかれ、という自戒を込めたものだったと思う。

 この本来の歌のほうは、出だしが、
Oh, beautiful for spacious skies, for amber waves of grain, For purple mountain majesties above the fruited plain! と続いて、問題のさびの部分だが、ここまでは、アメリカの国土の美しさをたたえている。

神を信じるアメリカ人の”愛国心”
 私の下手な訳よりも、1998年に出た「アメリカ精神の源」(中公新書1424)で著者のハロランふみ子さんが、最後にこの歌についてふれているので、長くなるがその部分を含め、歌詩をみてみよう。ちなみに、この本は副題が「神のもとにあるこの国」とあって、これも、例の毎朝の近いのことばにあるように、one nation under Godをさしているのだろう。ちなみに、ハリス世論調査によれば、アメリカ人の実に95%は神を信じているのだそうである。

“1893年夏、コロラド大学夏期講座で教えていたベイツは、同僚たちとパイクス・ピークという高山に登り、頂上から見渡したどこまでも続く平原と高い空に感動した。ベイツは詩情の沸くままにその歓喜を書き下ろした。それが「美しきアメリカ」の最初の草稿である。
(中略)
歌詩がなぜ、今でもアメリカ人の心に響き、アメリカという国への愛をかきたてるのか。愛国心という言葉は日本ではもはや死語に近いが,アメリカでは脈々と生き続ける。もっとも、それは時の政府に対する愛国心ではなく、時代を超え、政治的立場を超えた「アメリカという概念」に対する愛国心であり、世界中から故国での迫害を逃れて「自由の新天地」「神の約束の地」にたどりついて、英英と人生を築き上げた祖先を思う心である。(中略)

ああ、美しきかな、ひろびろとした空、
琥珀色に波打つ穀物の穂、
実り豊かな平原にそびえる厳かな紫の山々
アメリカ、アメリカ!
神はそなたに恩寵を降り注ぎ、
海原から輝く海原に渡り
兄弟愛をそなたの善の冠として授けたもう”

ということで、これは東海岸(大西洋)から西海岸(太平洋)まで、広大で美しいアメリカ全土に、神のお恵みあれ、というアメリカ全土と意味する表現である。

「神の国」にいる「神」と、アメリカ人の愛国心の源である「神」のちがい

 たまたま、2000年12月18日付の産経新聞の投書欄に、もと商社勤務の男性からの投書がのっていて「同時通訳でゴア氏の演説をきいた。」というのがあった。内容は、神の国発言で日本はゆれたことがあったが、ゴア氏は「人と法のもとではなくて、神のもとで」という意味のことをのべていたが、日本もこの精神にみならうべきではないか、というものだった。

 この投書は、投稿者のいいたかったこともさることながら、あらためて、放送通訳で大事な演説をきいている人たちがたしかに存在している、ということを確認したということで、印象的だった。放送ブースにはいっていると、視聴者がじかにみえないし聴衆の存在を生々しく感じられなるときがある自分を反省した。きいている人たちのために、文化的意味も含めて、放送通訳の質の向上につとめるにcultural literacy はとても大事だ。

同僚の永井さんは、次の二つを参考文献としてお勧めだという。
The Dictionary of Cultural Literacy
E.D.Hirsh Jr. Joseph F.Kett, James Trefil
Houghton Mifflin Company, ISBN0395655978

アメリカ背景語辞典
小学館、ISBN4095101911

 このような辞書や日ごろの知識を蓄えることが放送通訳者の心構えをして大事だ。だけど、私がこの仕事を気に入っている一番の理由は,思いがけなく、どこかで遠いところで勉強するという意識なく、自然と覚えたものがひょっこりと役に立つ、という意外性、時間と空間を超えての自分の意外な一面、もう忘れかけていたような一面を再認識するような、場面があるからなのだ。


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2003年 2月
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