ぼくの夏休み その3
8月19日(火) 晴れ
目覚めた。でも首が動かない。抜けたままだ。
がんばって自分ではめてみた。
はまった。
またいつ首がはずれるかと思うとすごく不安だけど、
とりあえず大丈夫だ。
こんど医者に見せよう。
キッチンに行くとパキスタン人がテレビを食い入るように見ている。
「経済の風」とかいう株の番組だ。テンションは低い。
番組が終わるとパキスタン人は僕に気付いた。
パキスタン人は言う。
「これからの時代は鉄だ。鉄鋼が伸びる。
それで新日鉄の株を買おうと思うのだがどうだろうか。」という内容だ。
僕は「鉄鋼は斜陽産業だからやめたほうがいい」と言った。
するとパキスタン人はとても悲しそうな顔になった。
彼の目からは みるみる涙がこぼれおちた。
悲痛な叫び声を上げながら彼は言う。
「そんなはずはない。新日鉄がダメなら石川島播磨重工でもいいんだ。
な、どうだ?ダメか?」
僕は何も言わず
「ダメだよ」というそぶりで、目を閉じて首を横に振った。
首がはずれた。
パキスタン人は また
「ああ、これオレはめれるねん、柔道やってるから」
といったそぶりで僕の首をつかみ、
「フンッ」
と首をはめた。
痛かったけど、
とりあえずハマった。
8月20日(水) 快晴
今日は首が動く。
また外れないうちに医者に行こう。
そう思って医者に行った。
近所の整形外科の医者は、なんだかホモっぽかった。
必要以上にベタベタさわられた。
「またいつでもいらっしゃいね」とか言われた。
治療代が150円とか、異常に安かったのでかえって不安になった。
お金がないので近所の図書館にCDを借りに行った。
あんまり新しいCDはない。
僕はマイケル・ジャクソンとKANのCDを借りた。
KANは阪神ファンらしい。
うれしくて僕は歌った。
♪かーもなーいふかーもなーい
図書館の帰りに野良犬に追いかけられた。
KANのCDを見せると犬は走って逃げて行った。
さすが。
家に帰ってマイケル・ジャクソンのCDを聴こうと思ったら
中身が入ってなかった。
8月21日(木) 晴れ
今日は朝から晩まで野球ばっかり見ていた。
メジャーリーグを見て、高校野球を見て、プロ野球を見た。
とても野球がしたくなったので、
夜更かしして映画の「メジャーリーグ」を
1から3まで全部見た。
8月22日(金) 雨
今日は雨が降っているので傘を差してパチンコ屋に行った。
今日は新装開店だ。
朝早くから並んで整理券をゲット。
整理券にあぶれたチンピラのお兄さんから
あやうく整理券をカツアゲされそうになったけど
2千円札を差し出したら珍しがって許してくれた。
10時から打ち始めて
3万2千円つっこんだところで初めて当たりを引いた。
単発だった。
なんだかやる気がなくなって打つのをやめた。
帰ろうと思ったら傘がなくなっていた。
雨に濡れるのはイヤだったので
隣のゲームセンターに行って1人でプリクラを取ろうとしたら
店員に止められた。
盗撮防止のため、男性1人での撮影はご遠慮願っているそうだ。
仕方がないので脱衣マージャンをやった。
ただやっててもおもしろくないので、
負けたら僕も服を脱ぐことにした。
最終ラウンド。これに勝てばクリアーだ。
僕はすでにブリーフ1枚。
・ ・ ・ ・ 。
・ ・ ・ ・ 。
ロン! 僕の勝ちだ! やった!クリアーだ!
僕はとても満足した。
それで、帰ろうと思ったら服がなくなっていた。
仕方がないので僕はトイレの窓から逃げた。
8月23日(土) 雨のち晴れ
朝、目を覚ましてキッチンに行くと、
パキスタン人が日経新聞の株の欄を食い入るように見ていた。
僕は「日本語わかるんかなあ?」と疑問に思ったが、
読めなきゃ読まないだろうし、
読んでるってことは読めるんだろ
と理解した。
パキスタン人は言う、
「やっぱ鉄だよ。うちのネパールでは鉄が不足していて ・ ・ ・ 」
「ネパール!?」 僕は驚いて声に出してしまった。
パキスタン人は「しまった!」という表情で
あわてふためきはじめた。そして
「急用を思い出したので今から喜連瓜破に行かなくちゃいけない」
という内容のことを言い、走って出ていってしまった。
寝起きの僕には訳がわからなかった。
彼が出ていったあとには
お祈り用のじゅうたんと
粉々になった落花生の殻が残されていた。
その日、パキスタン人は帰ってこなかった。
でも僕はパキスタン人がいつ帰ってくるか分からないと思い、
パキスタン人がいつも出入りする窓を少しだけ開けておいた。