私の果てしないたわごと
新宿区役所通り喫茶店「面影」〜VOL.1〜
昔の面影を残したような繁華街
でも 昔と違って少しさみしい空気がする
それは新宿区役所通りにある 小さな小さな喫茶店
重いドアを開けると 顔の横を風が通る
地下へと続く階段、黄色灯のランプが灯る。
久々にここに来た気がする。
私は店内に入り 詰襟のシャツを着たマスターにコーヒーを頼む
ずっと前からここのマスターは変わってないけど
きっと私のことは覚えてないんだろう。
運ばれてきたコーヒーは白地に蒼の装飾が入ったカップだった
私はそっと口に運んで そしてタバコに火をつけた
「今日はブルマンのいいのが入ったのでブレンドしてみました」
黒のベストに黒い長サロン 長身の店員が声をかける。
「今日の滞在時間はいかほどですか?」そう聞かれたので
「今日はちょっとかかるかもしれませんね」
そう答えた。
店員は何も言わず、銀の小さな皿を置き「ごゆっくりどうぞ」
そう言って カウンターの奥へと下がっていった。
古ぼけた重量感のあるテーブル、黒くなった木の椅子
うっすらと暗い店内。けれど心地よい空気が漂う。
私は手を組み頭をのせ、そしてゆっくりと目をつぶる。
手に持ったままのタバコはいつのまにか 消えていた。
目をゆっくりと開け、目の前のテーブルに目をやる。
銀色の皿には 小さな桜色をした石が乗っていた。
私は新しくタバコに火をつけて、ゆっくりと煙を吐く
そして、もう1度コーヒーを頼んだ。ブルマンブレンド。
銀の皿を手に取り 私はレジへと向かう。
「今日はいかがなさいますか?」と店員が尋ねる。
私は少し考えて、「今日は持って帰ります」と言った。
店員は銀の皿に乗った桜色の石を 小さなビンに詰めコルクの栓をした。
「それではブレンドお二つで1200円頂戴します」
私はビンを受け取り 代金を支払って店を出た。
ここは魔法の街 新宿。誰もが知っていて誰も知らない。
想い出を結晶化する喫茶店。
そこを訪れる人は思い出を「結晶化」させる為に来る。
それぞれの想いを胸に。
そして、その石を置いて行くか持って帰るかは客の自由。
置いて行く場合は 代金は支払わないというシステムになっている。
カウンターの後ろの棚の上の方に目をやると
前に訪れた私の置いていった赤い石が入ったビンがある。
あなたの想い出は何色になりますか?
そして、この喫茶店を見つけたあなたは石を持って帰るでしょうか。