ドンドンドン
その日はせっかくの休日で、僕は甘美な睡眠を貪っていた中、
落雷のようなノックの音に客観の世界からの逃避行は強制的な中断を余儀なくされた。
ドンドンドンドン
コーヒーメーカーのスイッチを入れ、
こんな激しいノックは人間業じゃあないなあと思いつつ、
ガチャ
ドアを開けた
やはり人間ではなかった。
一匹のパンダが、いや正確には、そこにはパンダに類似した動物が。
立っていた。
パンダを生で見るのはこれが初めてなので本物かどうかの判断はつかないが。
きっと、パンダなのだろう。
身長、いや体長か、は3m20cmくらい。
人間であればギネスものの長身、いや長体か、
だが、パンダ的にこいつはノッポに分類されるのかはたまたチビなのかは見当もつかない。
パンダの平均身長、いや体長か、は何cmだったっけ。
そもそもパンダって2足歩行するのか?
ドアを開けると突然パンダが現れるなんて想定していなかったし、今ドアを開けるまでの僕の、今までの人生の中でのパンダとの接点なんて、
皆無だ。
小学校のときにそのチャンスはあったのだが…。
上野動物園への遠足は風邪をひいたことにして、つまり仮病で、
休んだ
こんなことならちゃんと行っとけば良かった。
やれやれ。
そうすれば少なくともこいつが本物のパンダかそうではないかの判断はきっとついたのだ。
百聞は一見にしかず。
「ふー」
そのパンダはまるで遠い異国の地から売り飛ばされてきた奴隷の子どもを値定めするように僕を上から下まで一瞥した後、
真っ黒で少し湿っている鼻の穴を数回ひくつかせ
「コーヒーをいただけますかな?」
と尋ねた。
振り向けば、いつのまにか、コーヒーメーカーはできたてのコーヒーで満たされていた。
僕はコーヒーをカップに注ぎ、ソファの前の小さなテーブルに置いた。
パンダは爪を器用に使ってカップを持ち上げると、そのままゆっくりと口に近づけ、
そしてとても、用心深く息を吹きかけてコーヒーを冷ましてから、一口だけ飲んで、またゆっくりと、丁寧に、テーブルに戻した。
「おいしいですね、わたくしコーヒーには目がなくて」
パンダはそういうと目を細めた。
そして
消えた。
そして、僕は夢の続きを見ようとベッドに入った。
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