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円形の空


僕は今、暗く深い井戸の底から、遥か彼方にぽっかりとみえる一点の曇りも無い真っ青な空を見上げている。
黄金色の光に満ち満ちている美しい空。
背伸びをしても、手を伸ばしても絶対に届かない遥か遠くの円形の空。
しかし、僕には一縷の不安も絶望も無く、心の中は不思議と確信的な希望が満ち溢れている。


白熱灯に照らされた自分の姿が鏡に映っている。
無意識に時間を確認する
5時か・・・
また同じ夢を見た。
ほぼ毎夜のように僕に訪れる主観の世界は決まって真っ暗な井戸の底から、遥か上空の真っ青な円形の空を見上げるものだ。
僕がいかようにして、あの場所に至ったのか、そして空を見上げた後僕がいったい何をするのかは決して夢には出てこない。
僕はただただ空を見上げているだけである。
僕はただただ同じ夢を見つづけている。

ある日僕はただ見上げていることに嫌気が差し
井戸を登り空をつかむことを決心し眠りに入った。

僕は今、暗く深い井戸の底から、遥か彼方にぽっかりとみえる一点の曇りも無い真っ青な空を見上げている。
黄金色の光に満ち満ちている美しい空。
背伸びをしても、手を伸ばしても絶対に届かない遥か遠くの円形の空。
しかし、僕は一縷の不安も絶望も無く心の中は不思議と確信的な希望が満ち溢れている。
僕はこの無尽蔵の希望を胸に井戸を登りはじめた。
ちっぽけに過ぎなかったあの円形の空が少しずつ少しずつ巨大になっていくのを体で感じながら、僕はゆっくりと丁寧にそして着実に登って行く。
もうあの空はちっぽけでは決してなく、永遠を思わせる広がりをたたえている。
そして、僕は井戸の中から金色の光の海に飛び込んだ

そして僕の胸を満たしていた感情は、
シャボン玉のようにはじけた


未来を知ろうとすることは無益なことであるのは明白であった。

にもかかわらず、僕はこの与えられ続ける、そして失い続けるだけの結局は一歩も前にも、そして後ろにも進むことのない人生を、
底無しで、真っ暗な、そして無限の広がりを内在した海の奥にただ沈んで行くちっぽけな石のような人生を、
楽天的にあきらめながら受け入れていることに反抗をしたかっただけなのだろう。
それはきっと風車に戦いを挑むドン・キホーテのように無謀なことであったのかもしれない。
しかし人生において、無謀なことほど絶望的に望ましいことはない。

そして僕の心は無となった。


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