旅のルートが決まるまで、近所のラーメン屋やファミリーレストランが打ち合わせの場所だった。当時学生だった私は、大学とアルバイトの合間を縫って、この打ち合わせに出ていた。夕方講義が終わると学食に行き、学食が閉まった後は、お決まりのパターンであった。
どこの国から入って、どのようなルートを、どのような交通機関を使って回るかを、旅の予算と相談しながら、あーでもない、こーでもないと、話は行ったり来たり、気づくと話は振り出しに戻っていたりもする。だが、案外航空券の金額で入る国が決まったりもする。その時期の目玉商品なるチケットが手に入る時である。羽田発、タイペイ乗り換え、ローマ行き。この旅でヨーロッパに入る国が決まったのもまさにそうであった。
 利用した航空会社はチャイナエアーということで、羽田空港発になった。私自身、羽田空港のチャイナエアーのターミナルは初めてのことだったので、成田空港のイメージで行くとこじんまりとしており、少しばかり拍子抜けした。また、成田空港が持つ独特のインターナショナルな雰囲気を感じさせることは少なかった。が、チェックインの際や、パスポートコントロールなどで長蛇の列に並ばなくても良かったり、都内からのアクセスが便利だったり小回りの利く空港に思えた。
 羽田からタイペイまでのフライトは、自分の前に座席のない非常口の近くの席だったため足を放り出せるほどのゆとりがあり、快適そのものであった。夕方のフライトではあったが、外は明るく富士山の頂を望みながらという場面もあった。そういっている間にも快適な時間は早く過ぎ去り、まもなく着陸である。着陸態勢に入り飛行機の高度が下がるにつれ、街の夜景が見え始めてきた。以前着陸する前の上空からの夜景の見え方によりその国の発展状況や経済状況が見て取れるという話を聞いたことがある。光の量や色の数からして、タイペイ上空から見えた様子は、色の数も少なく、間隔もまばらでどことなく寂しげな印象を持った。無事着陸も成功し、トランジットのタイペイに到着した。
約2時間半の乗り継ぎ時間があった。人の流れについていき、免税店を横目に搭乗ゲートの待合いロビーにたどり着いた。そこには、大きなテレビがあったが、白黒での表現方法をオレンジ色と黒で表現しているといったらよいのか、日本では見たことのないテレビが設置されていた。また、ロビーの片隅にはトイレと公衆電話が設置されており、入れる硬貨や使用方法の説明書きが漢字で書かれており、それを見て、わずか数時間のフライトではあるが、もう日本ではないという緊張感にも似た感覚が一気にわいてきた。
 搭乗開始までの時間は、旅の仲間のおかげで楽しく過ごせた。今回の旅は大学のゼミナールの先生、後輩4人とアフリカの難民キャンプの視察という目的を持っていた。何故ヨーロッパ経由でアフリカに行くルートになったのかという説明を加えるならば、当時みんながアルバイトをしながら旅費を捻出しており、日本でアフリカまでの航空券を買うとなると旅の予算が大幅にかさんでしまう。しかしヨーロッパまで行くことができれば、そこからはアフリカ線が多く出ており、現地で格安航空券を購入した場合、旅費に占める航空券の割合を抑える事ができるという考えであった。
 いよいよ一路ローマに向けての出発である。いつもの事ながら、待合いロビーにはいるものの、搭乗ゲートに向かうのはファイナルコールのアナウンスがなされてからである。座席に座り、枕やブランケットを邪魔にならないところにまとめ、シートベルトを締める。時間帯あるのだろうが少し眠くなり始め、ウトウトしている間に離陸していたようだ。以前から、搭乗口のドアが閉められ、タラップが離れ、飛行機が滑走路に向かって動き始め、シートベルトの使い方や非常口の説明等がなされ、管制塔からのゴーサインが出るまでの時間というものは、なぜだか分からないが眠くなってしまう。
 離陸してしばらくして、モニターされている航路でいつもと違うことに気づいた。今まで日本からヨーロッパに向かう場合、成田空港から離陸し、長野県上空あたりをぬけ、日本海、ついにはシベリア上空をいう北回りのパターンであったが、今回は違っていた。タイペイからということもあるからかと思っていたら、どうやら北回りのルートではないらしい。ローマに向かう途中、アラブ首長国連邦のアブダビ空港で、給油のため一度着陸するものであった。
 初めての南回りの航路であったが、特に気にもとめず寝ていた。正確な場所は覚えてはいないが、インドの東側だったと思うがアラビア海にぬける少し前の上空を通過中に飛行機がやけに揺れていたのを覚えている。
アラビア半島に入り、アブダビに近づいた頃、目を覚ました。まもなくアブダビ空港に到着し、乗客全員飛行機から降ろされた。搭乗口で再び飛行機に戻ってくるときの引換券を受け取り、飛行機を後にした。タラップに足を踏み入れた瞬間、今まで体験したことのない熱気を感じ、一気に汗が吹き出てきた。アブダビの地に降り立つ前までは、イスラム教の国やアラビア文字、油田の国ということが頭をよぎっていたが、ルブアリハリ砂漠があるところということは、すっかり忘れていた。出発までこの暑さを我慢しなければならないのかという問題が頭をよぎったが、通路を奥へ進むにつれ空調が効いていることが分かり始めた。さらに奥に進み、アラビア文字で書かれたゲートをくぐると見たこともない空間が広がっていた。キノコの傘のような天井が広がり、茎の部分は、吹き抜け部分を通り免税店の広がる下のフロアへとつながっている。
 降りる際伝えられた搭乗時間まで、免税店を散策しながら時間を過ごした。香水やアルコール類を扱っている店、ヘッドホンステレオやラジオなど電化製品の店、衣類やサングラス等の店と、ちょっとした時間を過ごすのには、十分なところであった。搭乗時間になり、引換券を回収され飛行機に乗り込むと、おしぼりのサービスがなされた。飛行機に乗り込むまでの通路を通っただけで、またも汗が出てきて、向こうも分かっているなと一人で納得していた。