日本の国際法学者らがまとめた「イラク問題に関する国際法研究者の声明」の要旨は次の通り。
国連憲章が認める武力行使禁止原則の例外は(1)武力攻撃が発生した場合、安保理が必要な措置をとるまでの間、国家に認められる個別的または集団的な自衛権の行使(2)平和に対する脅威、平和の破壊または侵略行為に対する集団的措置として安保理が決定する行動−−の二つだけである。
(1)について現在、自衛権発動の要件である武力攻撃は発生していない。将来発生するかもしれない武力攻撃に備えて今先制的に自衛しておくという論理を認める法原則は存在しない。もし、まだ発生していない武力攻撃に対する先制的自衛を肯定する先例をつくってしまえば、例外としての自衛権行使を抑制する規則は際限なく歯止めを失っていくであろう。
(2)について、集団的措置を発動するための要件である平和に対する脅威等の事実の存在を認定し、武力行使を容認するか否かを決定するのは、安保理である。安保理によって容認されない、すなわち明確な各別の同意を得ない武力行使は違法であろう。安保理決議1441はそのような同意を与えたものではない。
国連における協力一致のためには、拒否権の行使は慎まなければならないという声がある。本来、拒否権は、国際の平和と安全の維持には常任理事国の協力一致が不可欠で、常任理事国が分裂している状況で行動することはかえって平和を害することになるという考えを反映している。現在、2常任理事国が実行しようとする武力行使に対し、他の3常任理事国が強い異議を呈している。拒否権は乱用されてはならないが、行使されなければならない状況下では適正に行使されるべきである。5常任理事国にはそれだけの権利とともに責任が付託されている。
国連は脆弱(ぜいじゃく)だと言われながら五十余年、多くの困難をしのいで生き続け、とりわけ冷戦後は国際紛争の平和的処理の主な舞台となっている。イラク問題についても安保理が適時に招集され、15理事国の意見が戦わされ、世界中にその模様がテレビで中継された。国連と国際原子力機関による査察も十分とはいえないまでも着実に成果を上げつつある。国連という平和のためのツールが21世紀の国際社会で、その役割を果たすためようやく成長しようとしている。力による支配ではなく、法による支配を強化して国際の平和と安全を確保するためには、国連を育んでいくほかに道はない。 (03/18 07:07)