「残念ではないと言えばウソになる」

吉川 武時
2005.12.9〜11
「〜と言えばウソになる」という言い方がある。 文法の授業で複合述語の一例として この言い方を紹介し、これを知っているか聞いたら、 たいていの人は知っていた。 しかし、テレビや新聞を注意して見ているが、 年に2、3回しかこの表現にお目にかかれない。 そんな希にしか現れない言い方でもかなりの人が「知っている」と言う。 この表現が世の中でどれぐらい頻繁に使われていれば 「知っている」と言えるようになるのだろうか。

将棋の棋士 米長が中原名人に挑戦して敗れたとき、 「残念ではないと言えばウソになる」 と言ったのが印象的でよく覚えている。 それは「敗れて残念だ」という意味であるが、 そう言いたくないので、まず「残念ではない」と言って、 そのあとにそれを打ち消す「と言えばウソになる」 を続けたわけだ。

一般にスポーツ選手とか競技をする人が負けた場合に使われる。 みなさんも注意して スポーツ選手が何かの競技に敗れたときのインタビューを見て いてごらん。この表現を耳にすることがあるだろう。


この言い方がどのぐらい使われているのか、Google で検索してみた。

「と言えばうそになる」 約 363 件
「と言えばウソになる」 約 612 件
「と言えば嘘になる」  約 24,600 件
「うそ」の表記をひらがな、カタカナ、漢字について検索した。 ひらがなの「うそ」よりカタカナの「ウソ」が多いとは予想していたが、 漢字の「嘘」が最も多かったのは予想外だった。
次に、「言えば」がひらがなの場合を調べてみた。
「といえばうそになる」 約 304 件
「といえばウソになる」 約 1,530 件
「といえば嘘になる」  約 15,900 件
「いえば」をひらがなにしながら「嘘」を漢字にするのがかなりあった のは驚きだ。
Google の検索でヒットする件数は時事刻々と変化するようだ。 「言えば」で検索したのは 2005年12月9日、 「いえば」で検索したのは 2005年12月10日である。
まあ、このぐらいヒット件数があると、 みんなが「知っている」表現と言えるのかな、と思ったしだいである。

どんな例があったかと言えば、こんなものである。

  1. ジョギング程度でしか走れなかった松岡は「やめたいという気持ちがなかったと言えばうそになる」と話す。
  2. さらに「国会担当者は心配していたか」との問いには、「ないと言えばうそになる」とも話した。
  3. この一連の報道は参議院選挙に全く影響はないと言えばうそになるでしょう。当然、一定の影響はあると思います。
  4. サポーターも選手も、J1復帰に不安がないと言えばうそになる
  5. こんな生活をしていても……焦らないと言えばうそになる
  6. ショックではないと言えばうそになる
  7. 緊張感の中の2連戦で、疲れがないと言えばうそになるが、……。
  8. 安川理事長はこの日の報告後、「わだかまりはないと言えばうそになるが、大会が成功したのであまり気にしないようにしたい」とも話した。
  9. 羨ましくないと言えばうそになるが、羨ましいと言うよりは夢を与えてもらったという気がする。
  10. 音楽に専念したいと考えなかったと言えばうそになるが、仲間の前で歌を続けることで 励まされてもいる」
「と言えば」の前にはすべて「ない」「なかった」と否定形が来ている。 この否定の部分を含めての複合述語と認められるわけである。
この表現は、単純に「〜」と言えば済むところを、 面目を保つためか、負け惜しみか、そうは言いたくないので、 まず「〜(では)ない」と言っておいてから、 それを打ち消す「それはウソになる」ということばを続けたもので、 ある種の屈曲した心情を表していると言える。

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