エッセイ

あなたも心理学者になれる?

 最近はテレビなどで心理学の実験や調査が(それと知らせずにさえ)紹介されることが多くなりました。一般の人からすると、心理学っていったい何やってんだ・・・と思われやすいことを考えると、紹介されること自体はいいことなのかもしれません。しかし、残念ながらその紹介のされ方はあまりにお粗末なものであることがほとんどです。不正確な実験や調査の紹介は、もしかすると紹介されないよりも害が多いかもしれません。そこで、このエッセイでは心理学の研究法を紹介することによって、心理学とはどんな学問かを探って生きたいと思います。

 まず初めに、心理学の研究とは何でしょうか。心理学についてあまりよく知らない一般の人は、精神分析やカウンセリングのような臨床心理学を思い浮かべることが多いのではないでしょうか。それは確かに間違いではありません。しかし、じゃあ心理学の研究って何をどうやってるのか・・・ということになると答えられる人は少なくなります。ここでは、臨床は特には扱わないことにします。正直に言うと、私にもよく分からないからです。しかし、臨床心理学でもいわゆる心理学研究は行われていますので、参照にしてください。さて、心理学研究は主に二つに分けられます。それは実験と調査です。他にも、観察などの手段もあります。ここでは主に実験と調査がいかに行われているか見ていきましょう。

 心理学における実験とはどんなものでしょうか。実は、最近はテレビでも(擬似)心理学実験が紹介されることが多いです。それは何だと思いますか。それはたいてい、健康や食物の栄養を扱う番組で多く見られます。例えば、朝食抜きは健康に悪い?とか、こんにゃくにはダイエット効果はあるか?とかいった題目で放送されています。もううすうす気づいている人もいるかもしれません。もう少し具体的な例を挙げましょう。単純なものから紹介しましょう。前もって体重を量った肥満の人にしばらくの間こんにゃく料理ばかりを食べてもらってからまた体重を量る、というものです。それで体重が減っていればこんにゃくにはダイエット効果があるということになります。このように、前提条件(こんにゃく料理)を変えてその効果(体重)を見るのが心理学実験の基本です。もちろん、このままでは単純すぎて話になりません。より厳密にするには、比較対照となる前提条件(他の料理)を行ったり、前提条件以外の状況(運動量)を同じにしたりしなくてはなりません。実際の心理学実験でも、厳密な実験を行い、その結果を統計的検定にかければいいわけです。

 それでは次のような実験はどうでしょうか。同じ年齢の男性を幾人かつれてきて適当に2グループに分けます。一方のグループに集まってもらって朝食を食べてもらい、他方のグループは朝食を食べないでもらいます。しばらくしたら、両方のグループの人を同じ部屋に集めて、グループごとにテーブルについてもらいます。そして、反射神経テストや計算テストをしてもらいます。予想では、おそらく朝食を食べたグループのほうが成績がいいはずです。さて、この実験は十分に厳密といえるでしょうか。残念ながら怪しいといわざるを得ません。朝食を食べていないグループの人は、もう一方のグループが朝食を食べているときにどうしているのでしょうか。もし寝ていたとしたら、成績が悪いのはまだ目が覚めていないからかもしれません。それでは、同じ時間に起きたらどうでしょうか。まだ問題があります。同じ部屋でグループごとに分けたせいで、競争意識とチーム意識が生じたかもしれません。ならば、前もって一緒に朝食を食べて人たちの方がチーム意識が高いかもしれません。このように、本当に厳密な実験を行うのはかなり大変なことなのです。しかし、テレビ番組では、手間や効果のためにいい加減な実験になってしまうことが多く、それなのにまるで科学的であるかのように思わせてしまうことにはかなりの問題があります。

 それでは、心理学における調査とはどんなものでしょう。よく企業などで行うアンケートってありますよね。わが社の製品を購入した理由を以下から選んでくださいとか、このCMの好感度を5段階で答えてくださいとか。あれを思い出してもらえば結構です。ただし注意しておきますが、企業などで行っているアンケートはいい加減なものが多いです(もちろんすべてではないが)。経験があるかもしれませんが、何でこんなことを聞くの?と思うようなくだらない質問があったりします。ああいったアンケートというのは、行き当たりばったりに適当に質問を決めていることが多いです。質問紙がどうしようもなければ、いくら高等な統計的検討をしようがその結果には何の意味もありません。心理学の調査はこんないい加減なものではありません。心理学では前もって作られた何とか尺度といった質問紙を使うことが多いです。例えば、自己概念尺度とか対人不安尺度とか(尺度の作り方の問題もありますが)。また、調査の対象者を限定したりもします。そうすれば、小学生と中学生とを比較することもできます。あとは、統計的検定をするだけです。

 少しだけ統計的検定の話をしましょう。統計的検定とは基本的に、その結果がどれくらいの確率でありうるかを調べる方法です。サイコロの出た目が出る確率を思い出すと分かりやすいです。もしそのサイコロがイカサマであったならば、そのさいころの出た目はありえないほど低い確率のもののはずです。たとえば、「1」ばかり出るとか。注意すべきことは、いくらありえない出た目でも、絶対にイカサマとは確定できないことです。普通のサイコロでも、そうした目が出る確率はたとえ低くともあるからです。統計的検定とはこのサイコロをもっとたくさん増やして複雑にしたようなことです。統計的検定で結果が出たというときは、有意確率5%のような結果として出ます。つまり、ランダムに質問などに答えてたら、その結果には5%の確率でなりますよ、ということです。もう一つ、多変量解析も紹介しましょう。多変量解析とは大量のデータを分類したりする方法です。多変量解析の基本は相関関係にあります。相関関係とは、例えば身長が高いと体重も重い、といったような単純な直線的(比例)関係のことです。これを使えば、相関関係の近いもの同士を一緒にしてグループに分類できたりするわけです。

 最後に、心理学研究を批判的な目を持って見ましょう。心理学研究は大体二つに分けることができます。科学主義と常識主事です。科学主義とは、ともかく厳密な研究(主に実験)にこだわることです。常識主義では、一般の人でも分かるような内容の研究(主に調査)をします。科学主義の人はともかく厳密さにこだわるので、自分のやっていることにどんな意義があるのかよく分かっていないことも多いです。この人は外国の研究を単に追従したりすることが多いです。常識主義の人は、常識で分かるような結果をわざわざ統計的検定などで科学的に証明します。この人は外国の研究を理解しようとする気はさらさらないようです。このどちらかであれば誰でも心理学者になれます。科学主義であれば、外国の適当な研究をそのまま日本で行ったり、それで良心が痛むなら、ちょっと条件や測定内容を変えてみればオリジナルの研究の出来上がりです(その研究に意味があるかは別問題ですが)。常識主義であれば、様々な尺度の質問を載せた書物があるのでそれを使ってください。そこから適当に面白そうな尺度を取り出して質問紙を作って実施しましょう。小学生と中学生というように、前もって比較条件を作っておくのもいいです。その結果をいろいろな統計的検定にかけてみましょう。最近はコンピュータでできるので、クリックするだけで大丈夫です。もし何か有意な差がいくつか出たら、見っけものです。多変量解析で分類などをしてもいいですね。それぞれの分類には質問内容から適当に名前をつけておきましょう(その分類に意味があるかは別問題ですが)。たとえ結果がうまくでなくとも、その理由でも考えておきましょう。初めに何も考えていなくても、うまく考察を書けばそれっぽく見えますよ。

 ・・・さて、私がここで言いたかったこととは何でしょう。ようするに、研究は量をこなせばいいのではなく、質が重要だということです。岸田秀が「ものぐさ精神分析」で「心理学者には挫折した自然科学者と挫折した文学者しかいない」といって日本の心理学のレベルの低さを嘆いたのも当たり前です。ただし彼とは違って私は、心理学にもきちんとした理論(仮説)が必要だと思いますし、その限りでは形而上学から簡単に逃れることはできません。本当に必要なのは、日常生活と心理学研究を結びつけるような理論なのですから。






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