―グルメ/料理漫画に見る女性像― * 動機 『紅一点論』(斎藤美奈子著)を踏まえて、 紅一点論よりもせまい範囲での男性・女性像が漫画という 日本を代表する文化の中で、いかに描かれているのかを研究する。 多くの漫画家がどういう男性観、女性観をもって、漫画を描き、 それが人々にどういった影響を与えているのかが見えればよいと思う。 * 過程 まず、料理アニメを総ざらいするつもりだったが、資 料が少なすぎたために、漫画も取り入れることにした。 すると、今度は余りにも多くなりすぎてしまったので、 少年誌、少女漫画、青年誌の3つに分け、 各ジャンルより人気の高かったもの、及び研究者の勝手な趣味から抜粋して 報告することとする。 (ジャンル分けの対象として児童漫画もあったが、 資料が入手困難のため省略する。) * 研究対象漫画総ざらい 研究の対象となる漫画を調べ上げた限りあげると <少年誌> (ジャ=週刊少年ジャンプ マガ=週刊少年マガジン サン=週刊少年サンデー チャ=週刊少年チャンピオン) 包丁人味平(ビッグ錠 ジャ 全23巻) ・スーパー食いしん坊(ビッグ錠 マガ 全9巻) ・ミスター味っ子(寺沢大介 マガ 全19巻) ・美味パラダイス(ほんまかずひろ サン 全4巻) ・私立味狩り学園(谷上俊夫 チャ 全11巻) ・将太の寿司(寺沢大介 マガ 全27巻・新は17巻) ・鉄鍋のジャン(西条真二 チャ 全26巻) ・中華一番(小川悦司 マガ 全5巻 新は12巻) ・あらかると(武村勇治 サン 全5巻) ・食わせもん(寺沢大介 マガ 全4巻) ・虹色ラーメン(馬場民雄 チャ 〜7巻) ・焼きたてジャぱん(橋口たかし サン 〜3巻) <少女漫画> 空の食欲魔人(川原泉 花とゆめ 全1巻) ・イリュージョン・フード・マスター(那州雪絵 花とゆめ 全1巻) ・食と薔薇の日々(松苗あけみ 別冊少女コミック 全2巻)・一条ゆかりの食生活(一条ゆかり ヤングユー 全1巻)・半熟レストラン(荻丸雅子) 口福の人(寺島優原作 あおきてつお作画)・キッチンの鉄人(清水康代)デリシャス(小林深雪原作 あゆみゆい作画) <青年誌> (BS=ビッグスピリッツ 漫サン=漫画サンデー BJ=ビジネスジャンプ BM=ビッグモーニング BC=ビックコミック W=週刊 YJ=ヤングジャンプ) 美味しんぼ(花咲アキラ BS 〜81巻)・料理人-つくりびと-(小島剛夕 漫サン 全1巻)・セイシュンの食卓(タケダミリコ ザ・テレビジョン 全4巻)・クッキングパパ(うえやまとち BM 〜69巻)・一本包丁満太郎(ビッグ錠 BJ 全35巻)・ザ・シェフ(加藤唯史 Wゴラク 全39巻)・包丁無宿(たがわ靖之 別ゴラク全45巻)・味いちもんめ(倉田よしみ BCスペリオール 全33巻 新は8巻)・あけぼの三四郎(上濃ヒロ昭 コミックバーガー 全3巻)貧民の食卓(おおつぼマキ コミックバンチ 〜2巻)大使閣下の料理人(かわずみひろし コミックモーニング 〜13巻)華麗なる食卓(ふなつ一輝 YJ 〜5巻)味なお二人(藤みき生 漫画タイム 全?巻)・恋愛レシピ(池部ハナコ 本当にあった愉快な話 全1巻) 料理漫画としてすばらしい業績を収めたものから、漫画的にもどうなのかというものまで取り揃えてみた(もちろん全てをもっているわけではない)中には代表作品の亜流、他漫画のパクリなども多々見られ、料理漫画のストーリー構成の難しさ、厳しく言えば画一化が見られる傾向にある。ただ、女性像、男性像の描かれ方はそれぞれあり、少女漫画も含め、女性はどうも脇役に回されている。名脇役ならまだしも、ただ質問するだけ、コマに顔が出るだけとなっては、いないも同然であろう。現在掲載中の漫画に至っては女性の活躍が極自然に描かれていて、わりと重要な役目を果たしているものもある。それをこれから少しずつみていこうとおもう。 <少年誌料理漫画> 「ミスター味っ子」(10巻 講談社漫画文庫) 作品構成 ・ 主人公:味吉陽一 ・ 父:味吉隆男(死去) ・ 母: ・ 味皇 ・ 一馬・中江兵太 味吉家族の経営する日の出食堂を舞台にした料理漫画。陽一は料理の天才、隆男の息子で、これまた料理の天才。日の出食堂を支えるシェフだが、味皇料理会というグルメやすばらしいシェフたちの集まる会をつかさどる味皇が開催する味試し大会に出たり、たくさんの天才といわれたシェフたちを味対決を行う。最後は味皇料理会に入籍するテストとして、味皇と対決をし、米料理で勝つことになる。味皇は彼の実績を認め、「味皇料理会に彼が学ぶべきものはない。陽一君のいるべき場所はもっと違うところなのだ」という言葉で締めくくられる。 描かれる女性 メインで登場するのは母さん1人。「赤いカツ丼」編では陽一に主婦の知識で助言するものの、殆ど空回りし、挙句に陽一の料理過程を実況するという無様な醜態をさらす。母さんが主婦暦何年かは知らないが、少なくとも陽一を産んでから料理はしているわけだし、日の出食堂をいう食堂を経営している立場としては、とてもじゃないが経営者としては失格である。ただ、この母さん、自分が応援者の立場であることは自覚しているようだ。陽一の父親も立派な料理人であり、陽一が赤いトンカツを作る羽目になったのも、父隆男が20年前に作ったカツどんを食べたいと現れた老紳士がいたからである。陽一少年はこの父を尊敬しており、漫画の中ではこういうコメントをしている。「・・・父さん、俺はいつも父さんの後を追いかけてるだけなんだ。でもいつか父さんに追いつけるその日まで、俺のことを見守っていてください」 「息子は父の歩いた跡をたどるものである。」つまり母親は補助的存在というわけか。 「中華一番」(1996年) 作品構成 リュウマオシン:主人公。リー提督の命で、四川から広州へ料理修行にでる。 チョウユ:広州の"陽泉酒家"という料理店の店長。厳しいが、マオの父親的存在 メイリィ:チュウユの娘。マオの広州でのお姉さん兼恋人役。何処へ行くにも絶対に引っ付いて廻る。 リー提督:マオに広州での修行を言い渡した人。意外と登場する。 カリン:マオの血縁のお姉さん。二人の母親は"特級厨師"という資格の持ち主で、売れっ子の料理人であったが既に死亡している。 故郷の四川を離れ、広州にある"陽泉酒家"に入り3ヶ月修行をすることを命令されたマオは公衆で行われるたくさんの料理大会や、季節ごとのお祭りに参加する。3ヵ月後、四川へ帰るよう命令されたが、マオはそれを拒否。特級厨師の資格をとる試験を受けることとなる(3巻) 料理漫画界、とくに少年系では珍しく、舞台が国外の「中華一番」。作者の力及ばずで半年で連載終了となるものの、のち「真・中華一番」として復帰。これは人気を取って、アニメ化までに及んだ。 描かれる女性像 作者は正直、余り絵はうまくない。女子どもは力を入れてないシーンが多く、チュウユさんやリー提督といった大人の男はしっかりと描いているのが特徴。(メイリィやカリンもまじめに書いているんだろうけど、どれも顔が丸いんですよ)ストーリー上に現れるマオの母親は、マオの目標でもある。ミスター味っ子で言えばさしずめ、陽一少年にとっての父隆男といったところか。メイリィはというと、本当にチュウユの娘、というだけで、特に何もしていない。マオと一緒にご飯を食べ、ちょっとしたコメント(「おいしい」とか)をするだけである。マオの特級厨師の試験にもついていく。まるで母親面した恋人である。ただ、少年誌に掲載されているせいなのか、恋人といった行為も一切ない。せいぜい、マオが四川に帰るよう、リー提督に伝えられた際に、走り去りながら涙を流す程度である。カリンにいたっては、母親の代わりで、お届け物やさんと言ったところか。特級厨師の試験に挑むマオに、四川料理の材料を四川からたまたま持ってきた。それ以降、彼女の姿を見たものはいない。 中華一番ではミスター味っ子では殆ど描かれなかった女性が描かれるようにはなったのである。 「鉄鍋のジャン」(1997年) 作品構成 別紙参照 描かれる女性像 今までの漫画に比べて、登場人物にかなり女性が進出、活躍している漫画である。中華料理メインの漫画だが、女性シェフがたくさん出て来るのである。(関係ないが14巻にでてくるフレンチ料理人ジュリアーノはどういう設定でオカマ言葉を使わせているのか。)男女比は約半々である。ただ、準主人公の五番町霧は叔父の五番町弥一(そう料理長)と祖父の五番町睦十(オーナー)の七光りの下にいる。ただちょっと違うのは、設定が「店の跡取り」というところ。「女にして跡取り候補」なところが違う。 しかし、この漫画で描かれる女性の共通している特長が、胸がやたらでかいというところである。いわずもがな、これは性の強調。 敵さんである湯水スグル、ジュリアーノはともになよなよとした、女性的な(ジュリアーノはむしろオカマ)男性である。もちろん、味方さんである小此木タカオも失敗ばかりだし、馬鹿な発言は多いが、なよなよはしていない。作者の女性観が丸見えではないだろうか。女性的男性への嫌悪と性的対象としか見れない女性観である(もっとも、かなり神経質に見た場合の話だけど) 「焼きたて!!ジャぱん」 作品構成 サンデーにて只今連載中のこの作品。絵が好きで趣味で読んだものである。ギャグセンスも素敵v この漫画、キーメンは実は女性なのである。しかし元をたどれば、その祖父やら父やら愛人のせいでこういった物語になっている。というのも、梓川は3姉妹で、それぞれパンタジアの本店及び支店を1店ずつまかされている。パンタジアの後継者をその各店舗での実績で決めようとしているのである。主人公の店舗にいるのが梓川月乃。彼女は貞道(父・パンタジア社長)の愛人の子で、その他の二人、水乃と雪乃は正妻の子である。雪乃には祖父が、水乃には父親がバックについていて、後継者になるのにはとても有利な立場にある。しかし、月乃には何の後ろ盾もない、できレースなのである。それをパンタジア南東京支店の店長をはじめ、主人公や店員が支えようというのが本筋。凄いね(笑)こんなことあるのかね。 描かれている女性は、やはりこの作品も多く、各支店を任されている3人がメイン。主人公はめそめそ、ぐずぐず、でも明るくて元気な男の子。見た目は凄く女性的なのが特徴。正反対の位置にカワチという男は、ものすごく男らしい。主人公と張り合うために、「太陽の手」と手に入れるため、筋肉を増強させる道具を使ったり。店長にけんかを吹っかけたり。プライドが高く、悔し涙を流したり。 この作品、個人的にはとてもすきなのだが、女性シェフは今までで1人しか出てきていない。水乃だけである。したがって、鉄鍋のジャンに比べたら大したジェンダー意識を作者はもってたりはしないのかもしれない。ただ、月乃のギャグでよく使われるのが「だって女の子なんだもん」と言うセリフ。これは涙が出るとき(けして哀しい時とは限らない)に、彼女が言うせりふである。アタックナンバー1のパクリなのは、言わなくても解ると思うが、これは月乃が女である証拠というべきか。いつもはしっかりしていて、お嬢様言葉で男と混ざっていても本当に違和感のない子なのだが、こういうギャグの中に、「あたしは女性よ」ということを暗示させているのだろう。また水乃は「僕」と言う一人称を使う。思春期には良くある話だが、14〜16歳くらいの女性は一人称に「僕」を使う子が多く見られる。性自認がはっきりとしてきたためか、自分を女性と認められずに「僕」と一人称を使うのではないか。そうすると、水乃は作者にとっての典型的思春期真っ只中の女の子ということになるであろう。作者の女性観はおそらくこの3姉妹に振り分けられて形で登場してくると思われる。 <まとめ> 少年誌における女性の描かれ方は、同年代を見ればほぼ同じであろう。年代を追ってみると徐々に様々な女性が描かれているように見える。男性もまた然りではあるが、漫画に出て来るキャラクターは、その作者の一部である。作者の女性的部分、男性的部分が細かく分配され、作り上げられていることに間違いはない。最近では、どの少年誌を見ても必ず1本くらいは少女漫画のようなものが含まれている。読者層のこともあると思う。しかし、男性も女性も読める内容になってきていることが、女性らしさ、男性らしさの強要を妨げてくれるのだと思う。「料理は女がするもの、でもシェフは男」ではなくなってきているのが、少年誌の希望ではないだろうか。