第7章 包括的基本権と法の下の平等(p114〜)
I 生命・自由・幸福追求権(p114〜)
1 幸福追求権の意義(p114〜)
(一) 憲法13条の法的性格
人権の固有性、社会の変革→幸福追求権(新しい人権の根拠となる一般的かつ包括的な権利)
判例[20]京都府学連事件
■事案
デモ行進に際して、警察官が犯罪捜査のために行った写真撮影の適法性が争われた事件。
■判決の概要
個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する。これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されない。
(二) 幸福追求権の意味
個人の人格的生存に不可欠な利益を内容とする権利
2 幸福追求権から導き出される人権(p116〜)
・個人の人格的生存に不可欠
・伝統的に個人の自律的決定に委ねられた
・多数の国民が行おうと思えば行うことができる
・他人の基本権を侵害するおそれがない
判例[21]前科照会事件
■判決の概要
前科・犯罪経歴は人の名誉・信用にかかわり、これをみだりに公開されないのは法律上の保護に値する利益である。よって、地方公共団体が弁護士の照会に安易に応じた行為は違法である。
3 プライバシーの権利(p117〜)
(一) 沿革と意味
私生活をみだりに公開されない法的保障ないし権利(「宴のあと」事件一審判決)
→自己に関する情報をコントロールする権利(情報プライバシー権)
百選No.68 「宴のあと」事件
■事案
東京都知事選挙に立候補して惜敗した原告をモデルとする小説「宴のあと」(三島由紀夫著)が、原告のプライバシーの権利を侵害するかどうか争われた事件。
■判決の概要
プライバシー侵害の要件として、公開された内容が、@私生活上の事実または事実らしく受けとられるおそれのあることがらであること、A一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められることがらであること、B一般の人々にいまだ知られていないことがらであることを必要とする。
よって、プライバシーの権利の侵害があった。
判例[70]ノンフィクション「逆転」事件
■事案
ノンフィクション作品の公表という文脈において、個人の前科を実名で公表する行為について、表現の自由とプライバシーの権利の衝突が問題とされた事件。
■判決の概要
前科等にかかわる事実については、これを公表されない利益が法的保護に値する場合があるのと同時に、その公表が許されるべき場合があるのであって、ある者の前科等にかかわる事実を実名を使用して著作物で公表したことが不法行為を構成するか否かは、その者のその後の生活状況のみならず、事件それ自体の歴史的または社会的な意義、その当事者の重要性、その者の社会的活動およびその影響力について、その著作物の目的、性格等に照らした実名使用の意義及び必要性をも併せて判断すべきもので、その結果、前科等にかかわる事実を公表されない法的利益が優越するとされる場合には、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができるものといわなければならない。
(二) 違憲審査の基準
4 自己決定権(p120〜)
個人の人格的生存にかかわる重要な私的事項を公権力の介入・干渉なしに各自が自律的に決定できる自由
II 法の下の平等(p121〜)
@平等原則(国家は国民を不合理に差別してはならないという原則)
A平等権(法的に平等に扱われる権利ないし不合理な差別をされない権利)
1 平等の観念の歴史(p121〜)
形式的平等
2 憲法における平等原則(p123)
・法の下の平等の基本原則(14条1項)
・貴族制度の廃止(14条2項)
・栄典にともなう特権の禁止(14条3項)
・普通選挙の一般原則(15条3項)
・選挙人の資格の平等(44条)
・夫婦の平等と両性の本質的平等(24条)
・教育の機会均等(26条)
3 法の下の平等の意味(p123〜)
(一) 法内容の平等
法適用の平等+法内容の平等
∵人権を立法権を含むあらゆる国家権力から不可侵なものとして保障している
∵個人尊厳の原理
(二) 相対的平等
絶対的・機械的平等ではなく、相対的平等(同一の事情と条件の下では均等に取り扱う)
→法上取扱いに差異が設けられる事項と事実的・実質的な差異との関係が、社会通念からみて合理的であるかぎり、その取扱い上の違いは平等違反ではない
*積極的差別解消措置…歴史的に差別を受けてきたグループにつき特別枠を設け、優先的な処遇を与える
4 平等違反の違憲審査基準(p125〜)
二重の基準の考え方
@精神的自由・選挙権→厳格審査基準
・立法目的が必要不可欠なものであるかどうか
・立法目的達成手段が是非とも必要な最小限度のものかどうか
A経済的自由の消極目的規制・生存権→厳格な合理性の基準
・立法目的が重要なものであること
・目的と手段との間に実質的な関連性が存すること
B経済的自由の積極目的規制→合理的根拠の基準
・立法目的が正当なものであること
・目的と手段との間に合理的関連性が存すること
判例[35]サラリーマン税金訴訟
■事案
旧所得税法(昭和40年法33号による改正前のもの)の給与所得課税は、必要経費の実額控除を認めず、給与所得控除という概算控除を認めるにすぎず、また、源泉徴収制度により所得の捕捉率が他の所得に比べて著しく高くなっているなど、事業所得者に比べて給与所得者に著しく不公平な税負担を課しているとして、憲法14条1項違反を争った訴訟。
■判決の概要
租税法の定立は立法府の政策的・技術的な判断に委ねるほかはないので、立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することはできず違憲でない。
また、事業所得と給与所得との間の所得捕捉率の較差も、正義衡平の観念に著しく反し長年恒常的に存在するものでない限り、本件課税規定を違憲ならしめるものとは言えない。
判例[139]堀木訴訟
■事案の概要
原告(堀木フミ子)は、全盲の視力障害者として、障害福祉年金を受給していたが、同時に、寡婦として子供を養育していたので、児童扶養手当の受給資格の認定を申請したところ、年金と手当との併給禁止規定に従って申請は却下された。そこで、右併給禁止規定が、憲法25条・14条に反しないかが争われた事件。
■判旨
「健康で文化的な最低限度の生活」の具体的内容は、時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものである。
憲法25条については、「健康で文化的な最低限度の生活」とは、きわめて抽象的・相対的な概念であって、立法による具体化が必要である。
立法に具体化する場合は、国の財政事情を無視することができず、また、多方面にわたる複雑多様な、しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするので、具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は立法府の広い裁量に委ねられている。
そして、併給禁止条項により障害福祉年金受給者とそうでない者との間に児童扶養手当の受給に関し差別が生じても、広汎な立法裁量を前提として判断すると、差別は不合理なものとは言えない。
5 平等の具体的内容(p127〜)
14条1項後段の規定は、前段の平等原則を例示的に説明したもの
→後段に列挙された事由による差別は、民主主義の理念に照らし、原則として不合理
@「人種」・「信条」による差別→厳格審査基準
A「性別」・「社会的身分」による差別→厳格な合理性の基準
(一) 人種
(二) 信条
宗教上の信仰+思想上・政治上の主義
(三) 性別
判例[32]女子再婚禁止期間事件
■事案
民法733条により婚姻の届出の受理が遅れ精神的損害を被ったとして、国会・内閣の立法不作為による国家賠償を請求した事件。
■判決の概要
右条項の立法趣旨は父性の推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにある。そして、立法の不作為の違憲訴訟が成立するための要件について判示した先例(最判S60.11.21)に言う例外的な場合には当たらない。
(四) 社会的身分・門地
「社会的身分」…人が社会において一時的ではなしに占める地位
「門地」…家柄
判例[31]非嫡出子相続分規定事件
■事案
家裁の遺産分割審判において、嫡出子と均等な相続を主張したが容れられなかったので、相続財産について非嫡出子に嫡出子の2分の1の法定相続分しか認めない民法900条4号但し書の規定は違憲無効だとして、高裁に即時抗告(棄却)、さらに最高裁に特別抗告して争った事件。
■判決の概要
民法が、法律婚主義を採用している以上、法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調整を図った右規定の立法理由には合理的根拠があり、非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1としたことが右立法理由との関連において著しく不合理であり、立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えたものとは言えず、憲法14条1項に反しない。
6 尊属殺重罰規定の合憲性(p131〜)
判例[30]尊属殺重罰規定違憲判決
■事案
実父に夫婦同様の関係を強いられてきた被告人が、虐待にたまりかねて実父を殺害し、自首した。
■判決の概要
尊属に対する尊重報恩という道義を保護するという立法目的は合理的であるが、刑の加重の程度が極端であって、立法目的達成手段として不合理である。
刑法200条を違憲無効とし、刑法199条の普通殺人罪の規定を適用して、執行猶予判決を下した。
7 議員定数不均衡の合憲性(p133〜)
q 投票価値の平等が憲法上保障されるか?
a 肯定(14条1項、15条1項3項、44条但書)
∵平等選挙の原則は、一人一票の原則にとどまらず、投票価値の平等をも要求
q 定数配分規定の合憲性判断基準?
a 1:2の基準(判例は衆議院の場合1:3、参議院の場合1:6)
(衆議院の場合)
∵政治的価値において徹底した平等化を志向する
∵衆議院は任期(45条、46条)や解散(69条、7条3号)の有無の点で国民に最も近い
→民意をできるだけ純粋に反映させる選挙制度
(参議院の場合)
∵参議院の地域代表的性格は憲法上根拠がない
∵投票価値の平等は参議院でも等しく妥当する憲法上の根拠
(地方議会の場合)
∵公職選挙法15条8項
q 違憲判断に立法の時間的猶予を考慮するか?
a 肯定(合理的期間論、判例)
∵人口の移動は不断に生じ、議員定数配分を頻繁に変更することは、不相当
q 議員定数配分規定が違憲となる範囲?
a 定数配分規定全体(判例)
∵各規定は相互に関連している
q 選挙の効力?
a 有効(事情判決の法理、行政事件訴訟法31条)
∵直ちに選挙を無効とすると不都合性が大きすぎる
→@事情判決の法理は一般的な法の基本原則に基づく→事情判決も合憲統制の一環
→A事情判決は異常な混乱が生じる場合に限定される
→B本来的には定数の是正は裁判所の役割ではなく立法府の役割
q 事情判決後、国会が適切に対応しない場合、次の判決はどのようにすればよいか?
a 将来効判決(判決の効力を将来から発生させること)
∵国会の立法措置を促す間接的効果が一層強くなる
判例[155]議員定数不均衡と選挙の平等
■事案
昭和47年12月に行われた衆議院議員選挙について、千葉県第1区の選挙人らは、1票の較差が最大4.99対1に及んでいることが投票価値の平等に反するとして、選挙無効の訴えを提起した。
■判決の概要
人口数と定数との比率の平等は最も重要かつ基本的な基準であるものの、投票価値の平等は、国会が正当に考慮することのできる他の政策的な目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。
行政区画をはじめ、住民構成、交通事情、地理的状況から、人口の都市集中化現象をいかに評価し、それを政治における安定の要請をも考慮して定数配分にどのように反映させるかという高度に政策的な判断に至るまで、非人口的要素のもつ役割を認めるべきである。
判例[156]議員定数不均衡と改正の合理的期間
判例[157]議員定数不均衡と参議院の特殊性
判例[158]議員定数不均衡と地方議会の特殊性
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