第8章 精神的自由権(1)――内心の自由(p139〜)

I 思想・良心の自由(p139〜)

1 精神的自由の基本をなす自由(p139〜)

思想・良心の自由は、内面的精神活動の自由のなかでも、最も根本的なものである

明治憲法下において、特定の思想を反国家的なものとして弾圧するという、内心の自由そのものが侵害される事例が少なくなかった


2 思想・良心の自由の保障の意味(p140〜)

(一) 思想と良心

「思想及び良心」…世界観、人生観、主義、主張などの個人の人格的な内面的精神作用


(二) 保障の意味

@内心の領域にとどまる限りは絶対的に自由
(国家権力は、内心の思想に基づいて不利益を課したり、あるいは、特定の思想を抱くことを禁止することができない)
A国家権力が露顕を強制することは許されない


(三) 限界

判例[38]謝罪広告強制事件
■事案
衆議院選挙に際して、他の候補者の名誉を毀損した候補者が、裁判所から、民法723条にいう「名誉ヲ回復スルニ適当ナル処分」として、「右放送及び記事は真相に相違しており、貴下の名誉を傷け御迷惑をおかけいたしました。ここに陳謝の意を表します」という内容の謝罪広告を公表することを命ずる判決を受けたので、謝罪を強制することは思想・良心の自由の保障に反するとして争った事件。
■判決の概要
謝罪広告の中には、それを強制執行すれば、債務者(加害者)の人格を無視し著しくその名誉を毀損し意思決定の自由ないし良心の自由を不当に制限することとなるものもあるが、本件の場合のように、単に事態の真相を告白し陳謝の意を表するに止まる程度であれば、これを代替執行によって強制しても合憲である

判例[11]三菱樹脂事件
■事案
大学卒業後、被告(三菱樹脂株式会社)に採用された原告が、在学中の学生運動歴について、入社試験の際に虚偽の申告をしたという理由で、3カ月の試用期間終了後に本採用を拒否された事件。
■判決の概要
社会的に許容しうる限度を超える人権の侵害があった場合は、民法1条・90条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によって解決できる。
企業は雇用の自由を有し、特定の思想・信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできず、また、労働者の採否決定にあたり、労働者の思想・信条を調査し、そのためその者からこれに関する事項についての申告を求めることも違法ではない。

判例[41]税理士会政治献金事件
■事案
強制加入団体である税理士会(公益法人)が、会の決議に基づいて、税理士法を業界に有利な方向に改正するための工作資金として会員から特別会費を徴収し、それを特定の政治団体(税理士政治連盟)に寄付した行為が、法人の「目的ノ範囲内」(民法43条)の行為か否かが争われた事件。
■判決の概要
政党など政治資金規制法上の政治団体に対して金員の寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏をなすものとして、会員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断に基づいて自主的に決定すべき事項であるから、それを税理士会が多数決原理によって団体の意思として決定し、構成員にその協力を義務付けることはできない。
よって、本件寄付は、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する要求を実現するためであっても、税理士法49条2項所定の税理士会の目的の範囲外の行為であり、無効である。

判例[39]麹町中学内申書事件
■事案
高校進学希望の一生徒が、その内申書に、「校内において麹町中全共闘を名乗り、機関誌『砦』を発行した。学校文化祭の際、粉砕を叫んで他校の生徒とともに校内に乱入し、ビラまきを行った。大学生ML派の集会に参加している。学校当局の指導説得をきかないでビラを配ったり、落書きをした」旨の記載があったことなどが理由で、受験したすべての入試に不合格になったとして、国家賠償法に基づく損害賠償請求を提起した訴訟。
■判決の概要
いずれの記載も、上告人の思想、信条そのものを記載したものでないことは明らかであり、右の記載に係る外部的行為によっては上告人の思想、信条自体を高等学校の入学者選抜の資料に供したものとは到底解することができない
→憲法19条違反の主張を排斥した。


II 信教の自由(p142〜)

1 明治憲法の信教の自由(p143〜)

明治憲法も、信教の自由を保障していた。
他の自由権と異なり、法律の留保をともなわなかった。


2 信教の自由の内容と限界(p144〜)

(一) 内容

@信仰の自由
A宗教的行為の自由
B宗教的結社の自由

「宗教」(20条1項前段、2項)…超自然的、超人間的本質の存在を確信し、畏敬崇拝する信条と行為


(二) 限界

判例[44]牧会活動事件

判例[46]日曜日授業参観事件

判例[47]剣道実技拒否事件

判例[43]宗教法人オウム真理教解散事件


3 国家と宗教の分離の原則(政教分離の原則)(p148〜)

政教分離…国家の宗教的中立性
∵@狭義の宗教の自由の保障を補強すること
∵A政府を破壊から救うこと
∵B宗教をして堕落から免れしめること

性格;制度的保障


(一) 政教分離の主要形態


(二) 政教分離の限界(目的・効果基準)

「宗教的活動」(20条3項)とは、
@当該行為の目的が宗教的意義をもち、
Aその効果が宗教に対する援助、助長、促進または圧迫、干渉等になるような行為に限られる
(津地鎮祭事件)

判例[]津地鎮祭事件

判例[]箕面忠魂碑訴訟

判例[]自衛官合祀拒否訴訟

判例[]即位の礼・大嘗祭関連の裁判例

判例[]岩手靖国訴訟

判例[]愛媛玉串料訴訟

判例[]内閣総理大臣公式参拝違憲訴訟

III 学問の自由(p155〜)

学問の自由ないし学説の内容が、直接に国家権力によって侵害された歴史
・1933年の滝川事件
・1935年の天皇機関説事件


1 学問の自由の内容(p156〜)

@学問研究の自由(真理の発見・探求を目的とする)
A学問研究結果の発表の自由
(∵研究の結果を発表することができないならば、研究自体が無意味に帰する)
B教授の自由

判例[]旭川学テ事件
■事案の概要
文部省の実施した全国的な学力テストの適法性が争われた事件
■判旨
普通教育においても、一定の範囲における教授の自由が保障される。しかし、教育の機会均等と全国的な教育水準を確保する要請などがあるから、完全な教育の自由を認めることは、とうてい許されない


2 学問の自由の保障の意味(p157〜)

@国家権力が、学問研究、学説内容などの学問的活動とその成果について、それを弾圧し、あるいは禁止することは許されない
A教育機関において学問に従事する研究者に職務上の独立を認め、その身分を保障する(学問の自由の実質的裏づけ)

*先端科学技術と研究の自由
先端科学技術の研究がもたらす重大な脅威・危険
→必要最小限度の規律を法律によって課すことも、許される


3 大学の自治

大学の自治…大学における研究教育の自由を十分に保障するために、大学の内部行政に関しては大学の自主的な決定に任せ、大学内の問題に外部勢力が干渉することを排除しようとするもの
法的性格;制度的保障


(一) 人事の自治

研究者の人事は、大学の自主的判断に基づいてなされなければならない


(二) 施設・学生の管理の自治

判例[]東大ポポロ事件



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