第18章 憲法の保障(p344〜)
I 憲法保障の諸類型(p344〜)
憲法保障制度…憲法の崩壊を招く政治の動きを事前に防止し、または、事後に是正するための装置
憲法保障の種類
@憲法自身に定められている保障制度
(i) 予防的制度
・憲法の最高法規性の宣言(98条)
・公務員に対する憲法尊重擁護の義務づけ(99条)
・権力分立制の採用(41条、65条、76条)
・硬性憲法の技術(96条)
(ii) 事後的救済制度
・違憲審査制(81条)
A超憲法的な根拠によって認められると考えられる制度
・抵抗権
・国家緊急権
B法律レベル
・内乱罪(刑法77条)
・破壊活動防止法
1 抵抗権(p345〜)
抵抗権…国家権力が人間の尊厳を侵す重大な不法を行った場合に、国民が自らの権利・自由を守り人間の尊厳を確保するため、他に合法的な救済手段が不可能となったとき、実定法上の義務を拒否する抵抗行為
2 国家緊急権(p346〜)
国家緊急権…平時の統治機構をもっては対処できない非常事態において、国家の存立を維持するために、国家権力が、立憲的な憲法秩序を一時停止して非常措置をとる権限
II 違憲審査制(p347〜)
1 違憲審査権の根拠(p347〜)
@憲法の最高法規性の観念
A基本的人権尊重の原理
Bアメリカ的な権力分立の思想
2 違憲審査権の性格(p348〜)
@抽象的違憲審査制…特別に設けられた憲法裁判所が、具体的な争訟と関係なく、抽象的に違憲審査を行う方式
A付随的違憲審査制…通常の裁判所が、具体的な争訟事件を裁判する際に、その前提として事件の解決に必要な限度で、適用法条の違憲審査を行う方式
81条は付随的審査制を定めたものである
∵@81条は「第6章司法」の章に定められている
→司法…伝統的に具体的な権利義務に関する争い、または一定の法律関係の存否に関する争いを前提とし、それに法令を適用して紛争を解決する作用
→違憲審査制はその作用に付随するものとして81条に明記された
∵A抽象的審査が認められるためには、それを積極的に明示する規定が憲法上定められていなければならない
判例[199] 警察予備隊違憲訴訟
■事実の概要
日本社会党の代表者であった鈴木茂三郎が、自衛隊の前身である警察予備隊が違憲無効であることの確認を求めて、最高裁判所を第一審として出訴した事件
■判旨
わが裁判所が現行の制度上与えられているのは司法権を行う権限であり、そして司法権が発動するためには具体的な争訟事件が提起されることを必要とする。我が裁判所は具体的な争訟事件が提起されないのに将来を予想して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下すごとき権限を行い得るものではない→請求を却下した
3 付随的違憲審査制の特質(p350〜)
付随的審査制→私権保障型(個人の権利保護を第一の目的とする)
+個人の人権の保障を通じて憲法秩序そのものを保障するという意味を強く帯びる
(一) 憲法判断回避の原則
憲法判断回避の原則…憲法判断は事件の解決にとって必要な場合以外は行わないという必要性の原則に基づいて準則化された一連のルール
憲法判断回避の原則の内容
・裁判所は憲法問題が記録上適切に提起されていても、もし事件を処理することができる他の理由が存在する場合には、その憲法問題には判断を下さない
・議会の法律の効力が問題になった場合は、合憲性について重大な疑いが提起されても、裁判所が憲法問題を避けることができるような法律の解釈が可能かどうかを最初に確かめることは基本的な原則である
→合憲解釈…字義どおりに解釈すれば違憲になるかもしれない広汎な法文の意味を限定し、違憲となる可能性を排除することによって、法令の効力を救済する解釈
裁判所は、事件の重大性や違憲状態の程度、その及ぼす影響の範囲、事件で問題にされている権利の性質等を総合的に考慮し、十分理由があると判断した場合は、回避のルールによらず、憲法判断に踏み切ることができる
判例[173] 恵庭事件
■事実の概要
北海道恵庭町にある自衛隊演習場付近において、自衛隊の演習騒音に悩まされた被告人が、自衛隊の基地内の演習用電話線を切断して、自衛隊法121条の防衛用器物損壊罪違反で起訴された
■判旨
121条にいう「その他の防衛の用に供する物」は、「武器、弾薬、航空機」という「例示物件」と「同列に評価しうる程度の密接かつ高度な類似性のみとめられる物件を指称する」が、被告人の切断した電信線はそれに該当しない→被告人は無罪
→自衛隊の合憲性については、無罪の結論が出た以上は憲法判断に立ち入るべきではないとして、憲法判断を回避した
(二) 憲法判断の方法
・司法事実(判決事実)…当該事件に関する事実
・立法事実…違憲が合憲かが争われる法律の立法目的および立法目的を達成する手段の合理性を裏づけ支える社会的・経済的・文化的な一般事実
4 違憲審査の主体と対象(p354〜)
(一) 主体
「最高裁判所」(81条)→下級裁判所もまた、当然に違憲審査権を行使できる
∵すべて裁判官は憲法と法律に拘束され、憲法を尊重し擁護する義務を負っている
→法令が憲法に適合するか否かを判断することは、憲法によって課せられた裁判官の職務と職権
(二) 対象
「一切の法律、命令、規則又は処分」(81条)
(1) 条約
q 条約はそのまま国内法的効力を有するか?
a 肯定(一元論)
∵98条2項は、とくに国際法の遵守を強調し、正規に成立した条約は原則として特別の立法措置を要せず、公布(7条1号)によってただちに国内法としての効力が認められる趣旨を明らかにしたもの
↓
q 憲法が効力の点で条約に優越するか?
反対説 条約優位説 ∵98条1項
批判 98条1項は、国内法秩序における憲法の最高法規性を宣言した規定であるから、条約が列挙から除かれているのは当然
a 憲法優位説
∵条約が憲法に優位すると解すると、法律よりも簡易な手続によって成立する条約(61条参照)によって憲法が改正されることとなり、国民主権ないし硬性憲法の建前に反する
∵国際協調主義からただちに条約が憲法に優位するという結論を導き出すことはできない
↓
q 条約の違憲審査は可能か?
a 肯定(砂川事件判例)
∵条約は国際法であるけれども、国内では国内法として通用する
→国内法としての側面については、「法律」(81条)に準ずるものとして違憲審査の対象となる
(2) 立法の不作為
立法の不作為が違憲となるか
@国会が立法の必要性を十分認識し、
A立法をなそうと思えばできたにもかかわらず、
B一定の合理的期間を経過してもなお放置した場合には、立法の不作為も違憲となる
立法不作為の争い方
@立法不作為の違憲確認を求める方法
・台湾人元日本兵の求めた損失補償請求事件
A通常の刑事事件や行政事件訴訟において、立法の不備ないし欠陥を問題にする方法
・第三者所有物没収事件
・河川附近地制限令事件
B国会賠償を求める訴えにおいて、立法の不作為の違憲を争う方法
・在宅投票制度廃止事件
国会議員の立法行為が、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受ける場合
立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合(在宅投票制度廃止事件上告審)
5 違憲判断の方法と判決(p357〜)
(一) 法令違憲と適用違憲
@法令違憲…法令そのものを違憲とする判決
・尊属殺重罰規定
・議員定数不均衡
・薬局適正配置規定
・森林法共有林分割制限
A適用違憲…法令自体は合憲でも、それが当該事件の当事者に適用される限度において違憲であるという判決
(i)法令の合憲限定解釈が不可能である場合
・猿払事件一審判決
(ii)法令の合憲限定解釈が可能であるにもかかわらず、法令の執行者が合憲的適用の場合に限定する解釈を行わず、違憲的に適用した
・本所郵便局事件一審判決
(iii)法令そのものは合憲でも、その執行者が人権を侵害するような形で解釈適用した場合
・教科書裁判第二次訴訟一審判決
(二) 違憲判決の効力
個別的効力説(当該事件に限って適用が排除される)
∵付随的審査制においては、当該事件の解決に必要な限りで審査が行われる
∵一般的効力を認めると、それは一種の消極的立法作用である
他の国家機関は最高裁の違憲判決を十分尊重することが要求される
→国会は、違憲とされた法律をすみやかに改廃すべき
→政府はその執行を控えるべき
∵法的安定性ないし予見性、平等原則
(三) 判例の拘束力と変更
判決理由(レイシオ・デシデンダイ)…判決の結論を導くうえで意味のある法的理由づけ
傍論(オビタ・ディクタム)…判決文中判決理由と関係のない部分
III 憲法改正の手続と限界(p362〜)
1 硬性憲法の意義(p362〜)
2 憲法改正の手続(p362〜)
(一) 国会の発議
発議…国民に提案される憲法改正案を国会が決定すること
(1) 発案
(2) 審議
(3) 議決
「総議員」…定数から欠員を差し引いた数
(二) 国民の承認
「過半数」…有効投票の過半数
(三) 天皇の公布
3 憲法改正の限界(p365〜)
憲法改正には法的な限界が存する
(一) 権力の段階構造
憲法改正権は制度化された憲法制定権力
→改正権が自己の存立の基盤とも言うべき制憲権の所在(国民主権)を変更することは、いわば自殺行為であって理論的には許されない
(二) 人権の根本規範性
人権と国民主権とが、ともに個人の尊厳の原理に支えられ不可分に結び合って共存の関係にある
→人権宣言の基本原則を改変することは、許されない(個々の人権規定に補正を施すなど改正を加えることは、当然に認められる)
(三) 前文の趣旨
(四) 平和主義・憲法改正手続
戦力不保持を定める9条2項の改正まで理論上不可能である、ということを意味するわけではない
憲法改正国民投票制(96条)の改正は許されない
∵国民の制憲権の思想を端的に具体化したもの→廃止することは国民主権の原理をゆるがす意味をもつ
4 憲法の変遷(p368〜)
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