第3節 被疑者の身柄保全(p58〜)

1 総説(p58)

逮捕…短期間の身柄拘束

勾留…被疑者または被告人の身柄を拘束する裁判とその執行


2 逮捕(p59〜)

(1) 通常逮捕

通常逮捕…逮捕状による逮捕(199条1項)

通常逮捕の要件
@逮捕の理由(「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由のある」こと 199条1項本文)
A逮捕の必要性(199条2項但書、規則143条の3)

q 被疑者を取り調べる目的で逮捕しうるか?
a 否定
∵被疑者に逃亡のおそれ・罪証隠滅のおそれがある場合に逮捕の必要性を認めている(規則143条の3)

q 被疑者が数回の呼び出しにも応じないときにこれを逮捕しうるか?
a 不出頭それ自体は逮捕理由とはならない
  しかし、不出頭が重なることにより逮捕の必要性が推認される場合もある

q 被疑者の自殺のおそれは逮捕の必要をもたらすか?
a 警察官職務執行法上の保護(警職法3条)の問題

逮捕状の請求権者→検察官または司法警察員(199条2項)
令状の発付者→裁判官(199条2項)

q 令状を発付する裁判官は、令状発付に当たり、当該強制処分の必要性に関して判断できるか?
a できる

逮捕後の手続
@司法巡査が逮捕したときは、司法警察員に引致(202条)
A引致を受けた司法警察員は、
・犯罪事実の要旨を告知し、
・弁護人を選任することができることを告知し、
・弁解の機会を付与し、
・留置の必要がないときは直ちに釈放し、
・留置の必要があると思料するときは、被疑者が身体を拘束された時から48時間以内に書類および証拠物とともに、これを検察官に送致しなければならない(203条1項)
B送致を受けた検察官は、
・弁解の機会を付与し、
・留置の必要がないときは直ちに釈放し、
・留置の必要があると思料するときは、被疑者を受け取った時から24時間以内に、裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない(この時間の制限は、被疑者が身体を拘束された時から72時間を超えることはできない)(205条、なお206条)

逮捕行為の完了時点→被疑者の身柄を官公署に引致したところ


(2) 現行犯逮捕

現行犯人…現に罪をおこない、またはおこない終わった者(212条1項)

現行犯逮捕が令状主義の例外(憲法33条)として認められる趣旨
嫌疑が明白な場合であるから、司法的抑制がなされなくても誤った逮捕のおそれは少ない

現行犯逮捕の要件
@犯罪と犯人の明白性
A犯罪の現行性・時間的接着性
B逮捕の必要性

・追跡行為が継続しておれば、現行犯逮捕をなしうる
・追跡行為が中断した後に現行犯逮捕を認めることはできない

準現行犯…犯人として追呼されているとき等の一定の場合であって、罪をおこない終わって間がないとあきらかに認められるとき(212条2項)

準現行犯逮捕の要件
@犯罪及び犯人の明白性
A犯罪の時間的接着性(ひいてはこれに対応する場所的近接性)
B時間的接着性の明白性
C212条2項各号の事実の認識

私人が現行犯人を逮捕したときは、直ちに捜査機関に引き渡さなければならない(214条)


(3) 緊急逮捕

緊急逮捕(210条)…死刑または無期もしくは長期3年以上の懲役・禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができること

緊急逮捕の要件 @嫌疑の充分性(通常逮捕における嫌疑の相当性よりも高度の嫌疑を意味する)
A逮捕の緊急性
B犯罪の重大性

緊急逮捕後の手続→直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない

q 緊急逮捕の合憲性?
a 令状主義の合理的例外として合憲
∵憲法33条は、司法的抑制を働かせなくても逮捕が合理的な場合として現行犯逮捕を掲げていると解することができるので、これに準ずる合理性がある場合には令状主義の例外が認めることができる


(4) 逮捕に関する被疑者の防御権

逮捕された被疑者が有する権利
@逮捕理由と逮捕された場合における自己の権利を知る権利(令状呈示 201条、逮捕後の手続 203条、204条)
A弁護人選任権(209条、211条、216条、78条)
B弁護人との接見交通権(39条1項)
C弁解の機会(211条、216条、203条1項)

q 逮捕に対する準抗告の可否?
a 否定
∵429条1項各号の準抗告の対象となる裁判に逮捕は含まれない
∵逮捕自体は短時間の身柄拘束であり、これに対する不服申立ては勾留質問において申し立てることが可能


3 勾留(p65〜)

(1) 勾留の意義

起訴前勾留(被疑者勾留)と起訴後勾留(被告人勾留)との異同
共通点
@勾留の実体的要件
A勾留質問
B勾留理由開示制度
C勾留の執行停止制度
D異議申立て
相違点
@勾留の主体
A勾留の期間
B逮捕前置主義の有無
C保釈の可否(起訴前勾留では保釈は認められない 207条1項但書)
D接見指定の可否(起訴後勾留では接見指定はできない 39条3項)

勾留の請求権者→被疑者を逮捕又は受け取った検察官(204条、205条)(→逮捕前置主義)


(2) 勾留の実体的要件

勾留の実体的要件
@勾留の理由があること(207条1項・60条1項)
・罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること
・住所不定、逃亡のおそれまたは罪証隠滅のおそれ、のうちのいずれか1つの理由があること
A勾留の必要性があること(207条1項・87条1項)


(3) 勾留の手続的要件

(イ) 逮捕前置主義

逮捕前置主義…勾留には逮捕の先行が必要であるとする原則(「前三条の規定による」 207条)

逮捕前置主義の趣旨
逮捕に際して司法的抑制をなし、また勾留に当たっても司法的抑制をなすという二重のチェックを保障する

q 被疑者の逮捕が先行しているかどうかは、何を基準として判断すべきか?
a 事件を基準として判断する(事件単位説)
∵現行法は、被疑事実を基礎として被疑者の防御権を保障しようとしていると解される(200条1項、64条1項、203条〜205条等)

q 被疑事実はいかなる場合に同一性が認められるか?
a 公訴事実の同一性が基準となる
∵捜査は公判の準備のためになされ、逮捕・勾留も結局審判のための制度だから、審判の及び得る範囲と逮捕・勾留の基礎となる事実の範囲は同一の基準によって決すべき

q A罪で逮捕して、B罪で勾留することができるか?
a 消極説
∵B罪についても二重の司法的抑制が必要である

q A罪で逮捕して、A罪およびB罪で勾留することはできるか?
a 積極説
∵A罪について逮捕前置主義が守られている
∵B罪については逮捕期間が短縮される

q 先行した逮捕手続が違法な場合、勾留請求は認められるか?
a 否定
∵・逮捕手続が違法であれば身柄は釈放されているはずで、もともと勾留請求はできない
 ・逮捕と勾留は一括して審査されるべき
 →逮捕前置主義は適法逮捕を前提としている
∵先行捜査手続の違法は後行手続に影響を及ぼしうる


(ロ) 勾留質問


(4) 勾留の期間・場所

勾留の場所→監獄(207条1項・64条1項)
※実務では、被疑者の勾留の場所は代用監獄(警察留置所 監獄法1条3項)とされる場合が多い


(5) 勾留に対する被疑者の防御権

勾留に対する被疑者の防御権
@接見交通権(39条、80条、81条)
A勾留理由開示制度(憲法34条後段、207条1項・82条以下)
B勾留の取消し(207条1項・87条)
C勾留の執行停止(207条1項・95条)
 ※被疑者には保釈が認められていない(207条1項但書)
 ※期間を付けることも可(98条1項参照)
D準抗告(429条1項2号)
 ※被疑者は「犯罪の嫌疑」がないことを理由とする準抗告はできない(429条2項・420条3項)

q 勾留理由開示の手続に対して、準抗告をなし得るか?
a 否定
∵勾留理由の開示は、勾留に関する裁判には当たらない


4 逮捕・勾留に関する諸問題(p71〜)

(1) 事件単位の原則

事件単位の原則…逮捕・勾留は事件ごとにおこなわれる原則
∵身柄拘束の根拠を明確にする


(2) 別件逮捕・勾留

別件逮捕・勾留…本件について取り調べる目的で、逮捕要件の具備している別件でことさら逮捕する場合

q 別件逮捕の適否?
 反対説 別件基準説(逮捕時点に立って、逮捕の適否を判断する)
a 重大な本件の取調べを目的とする軽い別件の逮捕は違法である(本件基準説 取調べ時点に立って、逮捕の適否を判断する)
∵逮捕の目的が別罪の取調べにある場合は実質的にみて令状主義に反する
∵別件逮捕・勾留の後、本件逮捕・勾留がなされると、身柄拘束に関する法定期間を潜脱する結果となる
∵逮捕・勾留の目的は取調べにはないので、取調べを目的とする身柄拘束は違法

q 別件逮捕の基準?
a @本件についての取調べ状況
  A別件についての逮捕勾留の必要性
  B本件と別件との関連から、取調官の主観的目的を判断する


(3) 再逮捕・再勾留

逮捕・勾留一回性の原則…同一の犯罪事実については、逮捕・勾留は、1回しか許されないこと ∵逮捕・勾留の蒸し返しを無条件に認めれば、逮捕の留置期間、勾留期間の制限など法が厳格に認めた身体拘束期間の制限の趣旨を没却してしまい、人権保障を危くする
※訴訟行為の一回性の原則

一罪一逮捕勾留の原則…罪数を基準とした単一の罪については1回の身柄拘束を原則とすべきとする原則

q 一罪一逮捕・一勾留の原則にいう「一罪」?
a 公判における公訴事実の同一性と同義

q 常習一罪で同時処理が不可能な場合に、新たに逮捕・勾留ができるか?
 (e.g.常習賭博罪で勾留後釈放され、更に賭博行為を行ったような場合)
a 例外的に新たな逮捕・勾留が許される

再逮捕勾留の禁止の原則…1個の被疑事実について時を異にして逮捕・勾留を繰り返すことはできないという原則
∵再逮捕・再勾留を無条件に認めれば、逮捕の留置期間、勾留期間の制限は無に帰してしまい、人権保障が危くなる

再逮捕勾留の禁止の例外
再逮捕→199条3項、刑事訴訟規則142条1項8号
 @犯罪の重大性
 A新たな重要な証拠の発見あるいは逃亡のおそれ・罪証隠滅のおそれの新たな発見
 B身柄拘束の不当な蒸し返しではない
∵法律が再度の逮捕状の請求を認めている
再勾留→明文はない
※再勾留については、再逮捕の場合のルールを前提に、厳格に運用すべき

q 先行逮捕が違法であるとして被疑者を釈放した後の再逮捕の許否?
a 原則→否定
  例外→@犯罪の重大性、A先行違法の軽微性



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