第5節 公訴の提起(p170〜)
1 総説(p170〜)
一罪の一部起訴…犯罪の全部についての起訴が客観的には可能であるにもかかわらず、実体法上の一罪を各構成要件に分割し、その一部についてのみ起訴すること
q 一罪の一部起訴の可否?
a 肯定
∵検察官には訴訟物の処分権が認められる(248条)
∵裁判所の審判対象は訴因に限定される(256条3項)
→犯罪事実の全部を起訴するかその一部を起訴するかについては、検察官に裁量権がある
(実体的真実主義も起訴された事実の限度で認められれば足りる)
q 一罪の一部起訴の限界?
a @実体的真実発見に著しく反する場合、
A人権保障を図るための特定の法制度の趣旨を没却する場合には許容されない
∵検察官は「公益の代表者」(検察官法4条)として適正な訴追をすべき
公訴の提起の効果
@積極的効果(事件は裁判所に訴訟係属する)
A消極的効果(公訴事実の範囲で二重起訴が禁止される 338条3号、10条、11条)
B付随的効果(公訴事実の範囲で公訴時効の進行が停止する 254条1項)
2 公判請求(p171〜)
(1) 起訴状の提出
公訴の提起は、起訴状を提出して行う(256条1項)
※起訴状のみが提出されるのであって、証拠は提出されない(起訴状一本主義 256条6項)
起訴状の記載事項(256条2項)
@被告人を特定する事項
A公訴事実
B罪名
訴訟の開始段階においては、公訴事実は訴因という形で記載されるのみであるから、公訴事実は訴因と同じものと理解しておけば足りる
訴因の拘束力…裁判所は、訴因変更の手続が取られないかぎり、訴因として記載されていない犯罪事実につき審判することはできない
訴因の予備的記載(256条5項)…A訴因について有罪判決を求めるとともに、これが否定された場合にそなえて第二次的にB訴因について有罪を求める意思で、順序をつけて、両訴因を記載する場合
訴因の択一的記載(256条5項)…A訴因とB訴因のいずれかについて有罪判決を求める意思で、順序をつけないで、両訴因を記載する場合
(2) 起訴状記載の問題点
(イ) 被告人の特定
q 被告人が氏名を黙秘した場合の措置?
a 起訴状→人相、体格、指紋その他被告人を特定するに足りる事項(64条2項参照)を記載
弁護人選任届→無効(判例)
q 被告人がその知人の氏名・住所を冒用したため、他人の氏名・住所で手続が進行してしまった場合の措置?
a 表示説(起訴状記載の被告人を被告人とする)を基本としながら、その資料として検察官の釈明および被告人の行動も参考にする(実質的表示説)
(ロ) 訴因の特定
(a) 訴因制度の意義
訴因制度の意義
@訴因の区別機能
A訴因の防御機能
(b) 訴因特定の対象と程度
q いかなる事実が訴因として記載されるべきか?
a 六何の原則
q 訴因事実はどの程度まで特定されるべきか(「できる限り」 256条3項)?
a 原則→できる限り正確に
例外→@犯罪の性質上厳格に訴因を特定し得ない事情があり、かつ
A訴因の機能を別の方法で補完しうる場合
∵詳細な犯罪事実の記載要求は、自白の要求、捜査の長期化あるいは裁判官の予断などの弊害を生むおそれがある
訴因不特定の効果
原則→訴因が不特定の場合は、起訴は不適法であるから、公訴は棄却される(338条4号)
修正→裁判所が検察官に釈明を求め、補正がなされて特定性の要件を満たした場合
(3) 起訴状一本主義
(イ) 予断排除の原則
予断排除の原則…裁判官は事件について何らの予断を抱くことなく白紙の心境で審理に臨まなければならないとする原則
趣旨;「公平な裁判所」(憲法37条1項)の実現、人権保障・真実発見(1条)の実現
予断排除の原則を担保する制度
@裁判官の除斥(20条)、忌避(21条)、回避(規則13条1項)の制度
A第1回公判期日前における予断排除
・裁判所は準備手続をおこなうことはできない(規則194条1項但書)
・証拠調べの請求をおこなうことはできない(規則188条但書)
・勾留に関する処分は呪詛裁判所を構成する裁判官とは別の裁判官がおこなう(280条、規則187条1項)
・証拠保全の請求は裁判官に対しておこなう(179条1項)
・捜査段階における証人尋問の請求は裁判官に対しておこなう(226条、227条1項)
B公判における予断排除
・裁判所に事件について偏見または予断を生ぜしめるおそれのある事項を述べることはできない(296条但書、規則198条2項)
・自白調書については、犯罪事実に関する他の証拠が取り調べられた後でなければ、その取調べを請求することはできない(301条)
・伝聞証拠は原則として証拠能力が否定されている(時期の遅れた嫌疑の引き継ぎとなるおそれがある 320条1項)
(ロ) 起訴状一本主義
起訴状一本主義(256条6項)…起訴状には裁判官に予断を生ぜしめるおそれのある書類等を添付し、またはその内容を引用してはならないとする原則
起訴状一本主義の機能
@裁判官の予断が排除され、「公平な裁判所」(憲法37条1項)が実現される
A裁判官としては事前に証拠に接する機会がないため、証拠調べの主導権を当事者に委ねざるをえないことになる→当事者追行主義の公判が実現する
起訴状一本主義違反の効果→公訴棄却判決(338条4号)
∵一度裁判官に与えた予断は治癒不能
q 起訴状一本主義と訴因の特定(256条3項)との関係?(e.g.書類内容の引用)
a 原則→起訴状一本主義が訴因の特定に優先する
∵訴因の特定は審判対象を限定し、被告人に防御の範囲を示す限度でなされれば足り、また後に求釈明(規則208条)によっても補完しうる
∵一度裁判官が予断を抱けば事後に排除することは困難
例外→表現が相当えん曲的で全文を見て初めて名誉毀損の疑いを生ぜしめるような場合
q 被告の前科の記載は、起訴状一本主義に反しないか?
a 原則→反する
∵予断を生ぜさせるおそれのある事項の記載も起訴状一本主義の禁止対象となる
例外→前科が構成要件となっているような場合等
256条6項違反の余事記載→起訴状を無効とする
単なる2項違反の余事記載→削除すれば足りる
3 略式命令請求(p181〜)
(1) 総説
略式手続…簡易裁判所が、原則として、検察官の提出した資料のみにもとづいて、公判を開かずに、略式命令により罰金または科料を科する手続(461条)
略式手続では、起訴状一本主義は適用されない(規則289条)
∵事件が比較的軽微
∵被告人の利益(迅速裁判が期待できる)→当事者の意思をも反映した手続
(2) 略式手続
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