第3節 審判の対象
1 総説
2 訴因変更手続
(1) 訴因変更手続
訴因変更手続と類似の手続
@起訴状の訂正(刑事訴訟規則44条1項27号、同213条の2第1号)
※訴因変更を要するとまではいえない非本質的部分の記載を変える場合に利用できる
A補正
※不適法な訴因の記載を正す場合(無効な訴因を有効な訴因に変える場合であるから、変更に準じた厳格な手続が必要)
(2) 審判の対象
審判の対象は訴因か公訴事実か
起訴状に主張された具体的事実である訴因だけが訴訟の対象を構成する
※公訴事実は「公訴事実の同一性」(312条1項)として訴因変更の限界を画するという脈絡でのみ意味のある機能的概念にすぎず、256条の公訴事実は訴因と同じである(訴因説)
∵現行法の当事者主義訴訟構造に適合的であり、それが公正な裁判に資する
∵256条、312条の解釈として無理がない
3 訴因変更の要否
(1) 総説
訴因変更が必要となる場合
事実が変われば訴因変更の必要がある(事実記載説)
∵法的評価は罰条の記載に期待される(256条4項)
→審判対象としては事実を問題にしなければ訴因制度の意義が没却される
(2) 事実の変更
被告人の防御の利益という観点からは、どのような場合に防御上の不利益となるか
訴因事実と認定事実を対比し、抽象的・一般的に被告人の防御に不利益を及ぼすような性質の食い違いがあるか否かで判定する(抽象的防御説)
→訴因変更の不要な場合を一般的に防御活動が及び得る範囲に限定する
縮小認定の理論とは
訴因の中に包含されていた犯罪事実を認定する場合には訴因変更を要しないという理論
∵訴因事実と認定事実が全体と部分のような関係にあるときは、認定事実も検察官によって黙示的・予備的に主張されていたと解される
∵被告人に不意打ちとならない
縮小認定の理論の要件
@認定事実と現訴因との間に「大小関係」が認められ、かつ
A認定事実も検察官によって黙示的・予備的に主張されていたと合理的に解釈でき、しかも
B被告人の防御に支障を生ぜしめないと認められる場合
構成要件の変化がなく、事実に変化ある場合、訴因変更は必要か
@罪責を減少させる事実の変化(例;被害額の減少)→変更不要
A罪責を増大させる事実の変化(例;被害額の増加)→変更必要
B罪責に影響なくとも防御方法に基本的修正を要する場合(例;犯罪の態様・方法の変化)→変更必要
(3) 法律評価の変更
構成要件に変化あり、事実に変化ない場合に訴因の変更は必要か(例;見張り行為について共同正犯の訴因に対し幇助の事実を認定)
変更不要
∵法的評価は裁判所の専権
一罪が数罪となる場合で、事実に変化がない場合(包括一罪が併合罪と評価されるような場合)の処理
数罪の訴因と解釈し直せない場合には、訴因の補正が必要
一罪が数罪となる場合で、事実に変化がある場合の処理
事実に変化があるので、訴因の変更も問題となるが、理論的にはまず不適法な訴因を補正してから変更すべきことになる
→いかなる訴因に補正すべきか不明であるから、変更を含んだ補正をなすべき
数罪が一罪となる場合で、事実に変化がない場合の処理
一罪と解釈し直せない場合には、訴因の補正が必要
数罪が一罪となる場合で、事実に変化がある場合の処理
原則は、変更を伴う補正
補正が不可能な場合は、公訴棄却(二重起訴扱い)
(4) 罰条の変更
罰条の記載に誤りがあった場合、起訴状の効力はどうなるか
罰条の記載の誤りは、被告人の防御に実質的な不利益を生じるおそれがない限り、起訴状を無効とするものではない(256 条4 項但書)
(5) 争点の変更
訴因逸脱認定の効果
「審判の請求を受けない事件について判決をした」ものとして絶対的控訴理由(378条3号後段)に当たる
(6) 訴因と訴訟条件
不適法訴因への変更の可否
不適法な訴因への変更も認め得る
∵訴因の設定・変更は当事者たる検察官の専権
4 訴因変更の可否
(1) 訴因変更の客観的限界
「公訴事実の同一性」(312条1項)
@公訴事実の単一性(犯人が単一でありかつ犯罪が単一)
A公訴事実の同一性(犯罪を構成する事実関係の基本たる部分が社会通念上同一事実と認められること) (i)共通性基準
(ii)非両立性基準
公訴事実の同一性が問題となる場合
@訴因変更の客観的限界(312条1項)
A二重起訴禁止の範囲(338条3号)
B一事不再理効の範囲(337条1号)
C公訴時効停止効の範囲(254条)
公訴事実の同一性という概念の本質
訴因事実こそが訴訟的現実であり、公訴事実は観念形象にすぎない
「同一」とは、異なる事実(訴因事実)が大綱において符合するかの問題である(観念説)
(2) 訴因変更の許否
訴因変更の時期的限界
訴因変更が検察官の権利の濫用に当たると認められる場合(規則1条2項)には許されない
@審理期間の長さ
A訴因変更が請求された時期
B被告人の防御活動の内容
C検察官の訴因変更の機会の有無
5 訴因変更命令
(1) 訴因変更命令の義務
訴因変更命令の制度趣旨
審判の対象設定はあくまで検察官の任務だが、不注意で訴因変更の請求をしないこともあり得る
→そのような場合でも漫然と現訴因のまま放置し、裁判所は無罪を言い渡さなければならないとしたのでは真実発見の要請に反するので、裁判所が訴因変更命令を発する制度が設けられた(312条2項)
訴因変更命令の義務
原則→訴因変更命令の義務は認められない
例外→@犯罪の重大性、A証拠の明白性を要件に訴因変更命令の義務を認める
訴因維持命令義務は認められるか
旧訴因で有罪判決が得られ、変更請求のあった訴因では無罪となってしまう場合も同様に、原訴因維持命令義務も例外的に肯定される
(2) 訴因変更命令の形成力
訴因変更命令に形成力が認められるか
認められない
∵形成力を認めるとすれば、裁判所が自ら審判の対象を設定することができることになり当事者主義の訴訟構造に反する
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