第5章 証拠(p269〜)

第1節 証拠法総論(p269〜)

1 証拠裁判主義(p269〜)

(1) 証拠裁判主義

証拠裁判主義…事実の認定は証拠による(317条)、という原則

q 「事実の認定は、証拠による」(317条)の意義
a @「事実」…刑罰権の存否及び範囲を定める事実
    ・構成要件該当の事実、違法・有責な事実
    ・処罰条件及び処罰阻却事由
    ・法律上の刑の加重減免事由たる事実
    ・併合罪の要件事実(刑法45条)
    ・付加刑たる没収・追徴の要件など
   ∵すべての事実に厳格な証明を要求すれば、かえって真実発見や被告人の利益に反する
  A「証拠による」…証拠能力のある証拠によって適式な証拠調べを経た証明による認定でなければならない
   ∵裁判所の事実認定の合理性を確保する


(2) 証拠の意義

証拠…訴訟上確認すべき事実を推認(認定)する根拠となる資料

・証拠方法…事実認定の素材となる人または物
・証拠資料…証拠方法から得られた内容
→証拠方法を取り調べると、証拠資料が得られるという関係

・直接証拠…主要事実を直接的に証明する証拠
・間接証拠…主要事実の間接事実を証明する証拠
 (間接事実…主要事実の存在を推認させる事実)

・実質証拠…主要事実またはその間接事実を証明する証拠
・補助証拠…補助事実を証明する証拠
 (補助事実…実質証拠の信用性を推認させる事実)


(3) 証明の必要

不要証事実
・公知の事実
・推定事実


(4) 「厳格な証明」と「自由な証明」

厳格な証明…証拠能力のある証拠によりかつ適式な証拠調べの手続を経た証明

自由な証明…厳格な証明を要しない証明
※適正な証明という範疇を認める説もある

q アリバイについて厳格な証明の対象となるか?
a 厳格な証明が必要
∵法は、「犯罪事実の存否の証明」としている(314条3項、321条1項3号)
→被告人に有利な証拠であっても明文で証拠能力を要求している(322条1項)

q 共謀共同正犯の「共謀」の事実について厳格な証明の対象となるか?
a 厳格な証明が必要
∵主観的な犯罪事実

q 量刑の事実についても自由な証明でよいか?
a 自由な証明で足りる
∵量刑事情は非類型的
 ただし、実質的に考慮して被告人の防御権を保障することが重要

q 自白の任意性に関する事実の証明方式?
a 慎重な自由な証明
∵訴訟法的事実であっても犯罪事実の存否に密接に影響する

問題1


2 自由心証主義(p274〜)

(1) 自由心証主義

(イ) 意義

自由心証主義…証拠の証明力は裁判官の自由な判断に委ねる(318条)、とする建前

自由心証主義の内容
@裁判官の自由な心証に委ねられるのは、証拠の証明力のみ(制限された自由心証主義)
A証明力判断の対象となるのは「証拠」のみ

自由心証主義の例外
@自白が唯一の証拠である場合は有罪としてはならない(自白の補強法則 憲法38条3項、法319条2項3項)
A公判調書の証明力の法定(52条)


(ロ) 証明の程度

q 裁判官の判断の内容をなす証明とはどのようなことか?
a 合理的な疑いを超える証明(通常人なら誰でも疑いを差挟まない程度に真実らしいとの確信)


(ハ) 事実認定の構造

合理的疑いを超える証明がなされたとの判断が得られたときは、事実認定がなされる


(2) 合理的心証主義

合理的心証主義…証拠の証明力の評価を裁判官の自由な判断にゆだねるといっても、ほしいままの主観的認定が許されるものではなく、経験則・論理法則に従った合理的心証形成でなければならないということ

合理的心証主義を外的に担保する諸制度
@裁判官の除斥(20条)、忌避(21条)、回避(規則13条)の制度
A合議制、公開主義の要請(憲法82条、37条1項)
B証拠能力制度
C当事者主義の諸制度(起訴状一本主義(256条6項)等)
D有罪判決に理由を記載する制度(335条)
E事実認定の事後審査制度(上告審 411条3号、再審手続 435条6号)

当事者の意見を前提とした証拠評価でなければならない

問題2(昭和59年第1問)


3 挙証責任と推定(p280〜)

(1) 挙証責任

(イ) 挙証責任の概念

客観的挙証責任(実質的挙証責任)…事実が真偽不明のとき、不利益な法的判断を受ける当事者の地位

主観的挙証責任(形式的挙証責任)…当事者の立証の負担をいい、ある事実について審理してほしいときに一定の証拠を提出する責任
※主観的挙証責任は、訴訟の進展にともなって一方当事者から他方当事者へと随時転換する

q 実質的挙証責任はだれが負担するか?
a 原則として検察官が負担する(検察官負担の原則)
∵「疑わしきは被告人の利益に」の原則(「利益原則」ともいう)
→犯罪事実の存在が合理的な疑いをいれられないまでに立証されない限り被告人は無罪とされる(「無罪の推定」)

q 違法性阻却事由や責任阻却事由の不存在についての挙証責任?
a 検察官に挙証責任がある
  ただし、被告人にはこれらの事由が存在するとの争点を形成する責任(主観的挙証責任)はある


(ロ) 挙証責任の転換

挙証責任の転換…例外として客観的挙証責任が被告人に転換する場合
e.g.@刑法207条における同時傷害ではない事実の証明
  A刑法230条の2における名誉毀損に関する摘示事実の真実性の証明

問題点;被告人に挙証責任を負担させると、証明の方法がまずかったことを理由に有罪としてしまい、疑わしきは罰することになる

挙証責任の転換の条件
@被告人の挙証事項が検察官の立証する部分から合理的に推認され、
A被告人の挙証がむしろ便宜であり、
B当該挙証部分を除いても処罰が適正なものとして肯認されうる

なお、証拠の優越の程度で足りる


(2) 推定

(イ) 推定の概念

推定…A事実(前提事実)から、B事実(推定事実)を推認すること
 e.g.公害罪法の因果関係の推定規定

事実上の推定…前提事実から推定事実を推認することが経験則上一般的に合理的な場合
法律上の推定…推認のル一ルが法規化されたもの


(ロ)推定の意義

q 推定の意義?
a 推定事実の存在に疑いを投げかけるだけの合理的な事実が示される必要がある(修正された証拠提出責任説)
∵何らかの証拠さえ提出すれば推定の効果を阻止しうることとなっては、推定規定を設けた意味が失われる


(ハ) 推定の条件

q 推定の効果?
a 前提事実の存在が立証された場合でも、裁判官は推定事実を認定することが許されるだけで、認定しないこともできる(許容的推定説)

q 推定の条件?
a @前提事実と推定事実との間に合理的な関連性があり、
  A被告人に対し反証を求める方が容易かつ社会的にも妥当な場合

問題3



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