第5節 伝聞法則(p321〜)

1 伝聞法則(p321〜)

(1) 伝聞法則

伝聞証拠…裁判所の面前での反対尋問を経ない供述証拠

伝聞法則…伝聞証拠の証拠能力を否定する原則(伝聞禁止の原則 320条1項)

伝聞禁止の根拠
伝聞証拠は、ある事実を知覚し、それを記憶し、それを叙述するという過程を経て証拠化されたもの
→知覚の過程、記憶の過程、叙述の過程のそれぞれには誤りが混入しうる
→反対尋問により供述証拠の各過程の誤りをチェックする必要(反対尋問権を根拠とした伝聞法則)

q 伝聞法則と、憲法37条2項の証人審問権との関係?
a 伝聞禁止の原則(320条)は証人審問権(憲法37条2項)に由来する
∵証人審問権の保障は、単に法廷に出てきた証人に対する反対尋問権を保障したのみでなく、およそ供述証拠を提供する者一般が証人というべきであって、その証人に対する反対尋問権を保障したもの

直接主義…公判廷で裁判官が直接取り調べた証拠にかぎり裁判の基礎とすることができるとする主義


(2) 「伝聞証拠」の意義

q 伝聞と非伝聞の区別の基準?
a 原内容の真実性を要証事実とするか否か
∵伝聞証拠は、ある事実を知覚し、それを記憶し、それを叙述するという過程を経て証拠化されたもの
→知覚の過程、記憶の過程、叙述の過程のそれぞれには誤りが混入しうる
→反対尋問により供述証拠の各過程の誤りをチェックする必要

q 精神状態に関する供述は伝聞証拠に当たるか?
a 否定説
∵精神状態の供述については知覚の正確性、記憶の正確性は問題とならない
∵叙述の適切性は吟味の必要はあるが、証言の関連性の問題として供述の誠実性や適切性を吟味すれば足りる
∵かかる証言は証拠としては最良証拠である


2 伝聞例外(p326〜)

(1) 総説

伝聞証拠であっても、例外として証拠能力を認めることができる要件
@反対尋問に代わる信用性の情況的保障があり、かつ、 Aこれを証拠とする必要性が高い場合

伝聞例外の原則型(321条1項3号)
@供述不能要件
A不可欠性の要件
B特信情況の要件


(2) 伝聞書面

伝聞書面…供述書及び供述録取書


(イ) 被告人以外の者の供述代用書面(321条)

(a) 裁判官面前調書・検察官面前調書・司法警察員面前調書など(321条1項)

(i) 裁判官面前調書(321条1項1号)

裁判官面前調書…裁判官の面前における供述を録取した書面
・裁判官の証人尋問調書(226条、227条、228条、179条等)
・他事件の証人尋問調書・公判調書

裁判官面前調書は必要性だけで許容される
∵裁判官は性質上公平な立場にあり、証人尋問では原則として宣誓もなされ、当事者の立会いがないときでも裁判官が代わって反対尋問を行うことが期待できるので、高度の信用性が認められる


(ii) 検察官面前調書(321条1項2号)

@ 前段書面

前段の例外要件
その供述者が死亡、精神もしくは身体の故障、所在不明もしくは国外にいるため、公判準備もしくは公判期日において供述することができないとき(証人の供述不能)

q 捜査書類である検面調書の合憲性?
a 一定の厳格な要件の下では合憲(判例)
∵検察官は、被告人と対立する当事者の一方であり、裁判官と同じ第三者的立場にあるわけではない

q 前段にも特信情況が要求されるべきか?
a 肯定
∵検察官は、被告人の反対当事者であって、裁判官と同じような公平な立場にはないし、また捜査段階で必要な場合には証人尋問を請求することもできる

q 前段は列挙事由か?
a 列挙事由(判例)
∵供述不能事由は、その供述者を証人として尋問することを妨げる障碍事由を示したものにほかならない
 →これと同様またはそれ以上の事由の存する場合においては証拠能力を認めることができる
∴証言拒絶の場合は被告人に反対尋問の機会を与ええないことは供述者死亡の場合と何ら選ぶところはない
 証人が記憶喪失の場合も含む

q 退去強制によって出国した者の検察官に対する供述調書の証拠能力?
a その供述調書を刑訴法321条1項2号前段書面として証拠請求することが手続的正義の観点から公正さを欠くと認められるときは、これを事実認定の証拠とすることが許容されないこともある(判例)
@検察官において供述者がいずれ国外に退去させられ公判準備又は公判期日に供述することができなくなることを認識しながら殊更そのような事態を利用した場合
A裁判官又は裁判所がその供述者について証人尋問の決定をしているにもかかわらず強制送還が行われた場合


A 後段書面

後段の例外要件
@公判準備もしくは公判期日において前の供述(検面調書)と相反するかもしくは実質的に異なった供述をしたとき(証人の相反供述または実質的不一致供述)
A公判準備もしくは公判期日における供述よりも前の供述(検面調書)を信用すべき特別の情況の存するとき(相対的特信情況)

相対的特信情況…前の供述と公判供述との比較の問題として相対的に前の供述が信用できるか

q いかなる場合が相反供述または実質的不一致供述であるか?
a 他の証拠や間接事実と相まって異なる認定を導くこと
 →前の供述の方が詳細であるときも含まれる(かなりゆるやかな認定)

q 相対的特信情況の意義?
a 供述の際の外部的付随的事情
∵検面調書は捜査機関の取調べの結果作成されるものであり、また特信情況は証拠能力の要件

q @証人尋問をしたら検察官の予想した供述をしなかった場合、検察官は公判後にその証人の取調べをおこなうことができるか?
  Aもう一度再喚問して、証人尋問したところ、検面調書と異なる供述をした場合(公判A供述→検面調書B供述→公判A供述)、後段書面として採用しうるであろうか?
a @肯定
  A肯定(判例)
∵すでに公判期日において証人として尋問された者を、同一事項につき検察官が取り調べて作成した供述調書であっても、その後の公判準備もしくは公判期日において、その者が右供述調書の内容と相反するか、もしくは実質的に異なった供述をした以上、321条1項2号にいう「前の供述」の要件を欠くものではない

q 証言後に取調べがあり、次回公判期日における再度の証人尋問の前に、証人が死亡した場合、検面調書は採用できるであろうか?
a 肯定(前段書面として)
∵次回の証人尋問との関係では、前に一度公判期日に供述しているとはいえ、次回の公判期日にはこれと異なる内容の供述すなわち新たな内容の供述をおこなうことが予定されていたのであるから、「供述者が死亡したため公判期日において供述することができないとき」にあたる


(iii) 司法警察員面前調書等(321条1項3号)

前2号に掲げる書面以外の書面は、すべてここに含まれる

3号書面が証拠として許容される要件
@供述者が死亡、精神もしくは身体の故障、所在不明または国外にいるため公判準備または公判期日において供述することができず、かつ、
Aその供述は犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるときで、しかも
Bその供述がとくに信用すべき情況の下にされたものであるとき(絶対的特信情況)


(b) 証人尋問調書・検証調書など(321条2項)


(c) 捜査機関の検証調書など(321条3項)

q 捜査機関が任意処分としておこなう検証の結果を記載したいわゆる実況見分調書も321条3項の書面に含まれるか?
a 肯定(判例)
∵検証活動の性質に違いはない

q 検証や実況見分に際して第三者又は被告人など立会人に指示説明を求めることが通常行われているが、この調書の中の立会人の供述に伝聞法則の適用があるか?
a @現場指示(実況見分すべき地点ないし物自体を確定するための説明)には伝聞法則の適用はない
   ∵当該指示説明に基づく見分の結果を記載した実況見分調書を321条3項の書面として採証するにほかならず、立会人の供述自体を採証するわけではない
   →現場指示の部分も、検証の記載部分と一体のものとして、321条3項により証拠能力を認めることができる
  A現場供述(現場を利用した過去の事実の供述)には伝聞法則の適用がある
   ∵指示説明を供述証拠として使用する場合にほかならない


(d) 鑑定書(321条4項)

q 鑑定書には捜査機関の嘱託にもとづく鑑定書(223条)すなわち鑑定受託者の鑑定書も含まれるか?
a 肯定
  もっとも、私人の嘱託による鑑定は含まれない(必要があれば、179条によればよい)
∵鑑定受託者の鑑定書も客観性、正確性をもつ
∵被疑者・被告人側は、179条1項で証拠保全として鑑定請求ができるが、訴追側にはこのような規定はなく、嘱託鑑定によらざるをえない

q 医師の診断書も含まれるか?
a 肯定
∵作成者が専門家であり、一般には信用できるし(刑法160条参照)、事柄自体が書面による報告に親しみやすい


(e) 写真・録音テープ・ビデオテープの証拠能力

(i) 写真

q 写真は供述証拠か非供述証拠か?
a 非供述証拠
∵光学的、科学的原理を応用して機械的、科学的に作成され、供述の要素を含まない


(ii) 録音テープ


(iii) ビデオテープ

q ビデオテープは供述証拠か非供述証拠か?
a 非供述証拠
  →必ずしも撮影者らに現場写真の作成過程ないし事件との関連性を証言させることを要するものではない
∵写真は、機械的方法で現像されるものである

関連性の立証は写真の場合よりもさらに慎重におこなう必要がある

テレビの画面をビデオ録画した場合
録画は原テープの写しとなるが、その内容が原本と同一であれば原本と同一の証拠能力を有する


(ロ) 被告人の供述代用書面(322条)

被告人が作成した供述書または被告人の供述を録取した書面で被告人の署名もしくは押印のあるものの証拠能力が認められる場合
@その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき(322条1項前段)
A不利益な事実ではないときは、とくに信用すべき情況のもとになされたものであるとき(絶対的特信情況 322条1項後段)


(ハ) 特信文書(323条)

無条件で証拠能力が認められる
∵類型的に高度の信用性と必要性がある

メモの理論…メモの利用を許容してメモを見ながら証言するという理論


(3) 伝聞供述

「再伝聞」…Aがある事実をBに伝え(第1伝聞過程)、BがそれをCに伝え(第2伝聞過程)、Cが法廷供述をする場合

q 再伝聞証拠の証拠能力?
a 肯定(判例)
∵証拠としての必要性


(4) 任意性の調査(325条)


(5) 同意書面・合意書面(326条、327条)

証拠能力が認められる場合
・検察官および被告人が証拠とすることに同意した書面(同意書面 326条1項)
・被告人不出頭でも証拠調べができる場合で、被告人不出頭の場合(326条2項)
・合意書面(327条)

q 同意の性質?
a 反対尋問権放棄説
∵伝聞法則は、供述証拠の信用性の吟味のために反対尋問権を保障したもの(憲法37条2項)

q 同意の効果?
a 同意をした場合には、その証明力を争うために、その証人の喚問を請求することはできない
∵反対尋問権放棄説

q 弁護人の同意?
a 原則→有効(代理権)
  例外→被告人が反対した場合
     (被告人が反対意思を明示しなくても)公訴事実を全面否認している場合

q 退廷命令(341条)を受けた場合に326条2項を適用できるか?
 反対説 肯定説(判例) ∵326条2項は、訴訟の遅延の防止という趣旨
a 否定説
∵退廷命令は秩序を乱すときに出されるから、被告人には争う意思があり、反対尋問権の放棄の意思は存しない


(6) 証明力を争う証拠(328条)

321条から324条までの規定により証拠とすることができない書面または供述であっても、公判準備または公判期日における被告人、証人その他の者の供述の証明力を争うためには、これを証拠とすることができる(328条)

q 弾劾証拠は供述者の自己矛盾供述に限るか?
 反対説 否定(非限定説)
 批判 証人の証言を弾劾するために、別人の法廷外供述の利用を許すとすれば、別人の供述を実質証拠とする危険性は極めて高い
a 肯定(限定説)
∵328条は、伝聞証拠であっても弾劾目的で非伝聞的に利用するのであれば差し支えない旨を注意的に規定したもの

q 「証明力を争う」(328条)の意義?
a 減殺された証明力を回復するものをも含む
∵回復証拠は、一致証拠により証明力を回復しようとするものであり、この場合は当該供述の存在が問題になるのであって320条に反するとはいえない
∵減殺された証明力を回復することは「争う」ともいえ、文言にもなじむ

q 任意性のない自白調書を証明力を争うための証拠とできるか?
a 否定
∵伝聞という理由以外で証拠能力がない証拠は、328条とは関係がない

q 証明力を争う証拠の作成時期?(「前の」(321条1項)という文言がない)
a 前の供述に限る
∵公判中心主義(43条1項、282条、303条)



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