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何時か還る場所 1200 Get リクエスト 『傭兵は、金で雇われる代わりに雇い手の駒となって戦う。そのことを忘れるな』 薄暗い石造りの廃れた教会。 ひび割れたステンドグラスの光に照らされた女神像の前に、一人の男が跪いていた。 彼の腰には獅子の紋章が刻まれた双振りの剣。 彼の名はレヴォール。 反乱によって滅ぼされた国に新しい国王として即位した男である。 彼は女神像の前で瞳を閉じ、その精悍な顔には張り詰めたような表情が浮かんでいた。 無言のまま、彼は微動しない。 まるで彼自身が石像であるかのように、その場は静寂という荘厳な雰囲気に包まれている。 「国王陛下、此方にいらしたのですか」 その静寂を破ったのは、まだ声変わりをして間もない青年の声。 聞き覚えのある声にレヴォールは初めて瞳を開けると、 ゆっくりとした動作で声の聞こえてきた方を向いた。 「何か用か?フィン。俺は見ての通り、祈りを捧げるのに忙しいんだ」 「・・・フィリア様に祈りを捧げていたのですか?」 フィンと呼ばれた青年は、ゆっくりとレヴォールに近づき、そして尋ねる。 彼がその名前を口にした瞬間、レヴォールの顔が苦しそうに少しだけ歪む。 フィリア。 それはかつて自分と同じ傭兵として戦った女性の名前。 この世で唯一、レヴォールが愛した女性の名前。 そして・・・反乱という闘いの中でレヴォールを庇って命を落とした女性の名前。 「その名前を俺の前で出すな。わざわざ機嫌を悪くさせる必要は無いだろう」 「申し訳ありません。ですが、私もフィリア様にはご恩のある身。ご無礼をお許しください」 ゆるりと、滑らかに。 しかし優雅にフィンは最高の敬礼をレヴォールに見せる。 それを苦笑しつつ見ながら、レヴォールはフィンから再び女神像へと視線を戻した。 目の前に立つのは安らぎと慈しみの象徴である女神の像。 その女神像にそっくりな女性の面影をそこに見るから、レヴォールは女神像に祈りを捧げる。 (どうか・・・お前が安らかに眠ることの出来るように。・・・フィリア) * * * 今から五年前。 未だレヴォールが傭兵として雇われの身であった頃、彼は一人の女性と出会った。 女性でありながら傭兵。 太陽のように輝くブロンドに、サファイアのように冷たく凍るような、 それでいて優しさを秘めた深い蒼の瞳をした女性・・・名をフィリアと言う。 二人の出会いはとある貴族に雇われることになった仕事で、 フィリアはレヴォールのパートナーとして彼よりも先に貴族に雇われていた。 始めレヴォールはまともに笑うこともしない無表情な彼女の表情と、 沈黙に辟易としていたものだが、仕事を進めていくうちに彼女が優れた剣の持ち主であることと、 感服するぐらいの芯の強さを持っていることに気付き、 それから彼女を最高のパートナーとして認めた。 結局貴族からの仕事は一月で方が尽き、フィリアとの付き合いもそこまでと思ったレヴォールだったが、 再開は思わぬところでなされることになる。 つまり・・・反乱軍に雇われたその場所で。 『・・・また会ったな』 レヴォールの言葉に、フィリアは微笑んで見せた。 その時から・・・レヴォールは囚われた。 ただ、その時点ではレヴォールの中で彼女に対する想いを認めることはなく、 一人の傭兵として反乱に身を投じていたのだが。 『お前は何で傭兵になったんだ?』 恒例の酒場での打ち上げ。 一つの闘いを終えた後に、必ず行われていたその行事で一度フィリアにそう尋ねたら、 彼女は相変わらず無表情のまま・・・けれど瞳に少しだけ哀しい色を見せて、 レヴォールにこう答えた。 『闘いの中に身を置くことで、自分の存在を確かめられるからだ』と。 その言葉はフィリアを失った今もレヴォールの頭から離れない。 いや。 彼女を闘いの中で失ったからこそ、余計に忘れられないのかもしれない。 何時も想いは・・・彼女に還る。 『私は闘いの中にしか自分の生を見出せない。だから傭兵になった』 『けど、お前だって女だ。何時かは家族を持ちたいと思うんじゃないか?』 『・・・何だ、レヴォール。お前にしては珍しく真剣だな』 『あのな、人が真面目に聞いてるんだから、真面目にかえせよ』 『ははは。辛気臭い話になるだけだ。折角の酒を不味くすることもないだろう。 この話は忘れろ、レヴォール』 『次に生きてまたここで酒が飲めるとは限らないだろうが』 『私よりも後に傭兵になったくせに、唯一私の剣に対抗出来るだけの力を持つお前が何を言う』 『うるさいな。俺だってお前程の剣の使い手は知らねーよ』 『何だ、これでも珍しく誉めてるんだぞ?』 『自覚は有りか』 『お前はからかうと面白いからな。たまにはいいだろう』 『・・・複雑な心境だ』 『レヴォール、傭兵というのはな。その時を楽しまなければ続けられないものだ。 傭兵は、金で雇われる代わりに雇い手の駒となって戦う。そのことを忘れるな。 そしてその駒になることで、他の者の道を断つということも。 私たちは血塗られた道の上に立っている。他者の生を奪うことで生きているんだ。 まぁ・・・その闘いの中でしか生きていることを実感出来ない私が言うことでもないがな』 『・・・』 『辛気臭くなったな、すまない。とりあえず今は、杯を交わそう』 『・・・そうだな。今は、杯を』 その時からレヴォールとフィリアの間に何らかの絆が芽生えた。 戦場ではお互いを信じ、背中を任せるほどに。 互いの思惑は何時までたっても近づくことは無かったが、 ただそこには『傭兵』という肩書きで繋がった絆が確かにあった。 だがその絆こそがフィリアの死を招いたのかもしれないという恐怖は、 未だレヴォールの心を締め付ける。 あの時。 振り上げられた銀の刃は、確かに疲弊して一瞬でも隙を見せた自分に振り下ろされようとしていた。 それなのに・・・ 倒れたのはその刃の持ち主と。 何時からか少し穏やかな瞳をレヴォールに見せるようになっていた彼の仲間。 彼女から溢れ出した赤い液体は、レヴォールの視界を真っ赤に染めた。 その赤い世界の中で、フィリアの唇はレヴォールに向かって確かに、 『生きろ』と。 そう言っていた。 * * * それから、レヴォールは驚異的な強さで反乱軍を鎮圧する為に構成された軍をなし崩しにし、 反乱軍から国王に祭り上げられ、それでも戦争で荒れた国を平定する為に尽力を注いできた。 その間に直属の部下であるフィンに出会い、 彼からフィリアの過去を聞くことになる。 『フィリア様は・・・幼い頃、この国に捕虜として連れてこられたことがあるのです。 ・・・隣国の姫君として』 『な・・・じゃぁ、あいつは先の戦争で滅ぼされた国の・・・王家の生き残りだと言うのか!?』 『はい。私も先の戦乱で殺されかけた所をフィリア様に助けて頂いた者の一人です。 今、こうしてレヴォール様の元にいられるのも、 反乱の最中にフィリア様が口を利いてくれたお陰なのです。 だから私は、フィリア様が誰よりも信頼している貴方に仕える事を何よりも光栄に思います。陛下』 そう言ったフィンの瞳には、ゆらりと。 微かに微笑んだフィリアの面影が重なったことを、レヴォールは覚えている。 フィンは、レヴォールが僅かな自由時間に教会に来ることについては何も言わない。 むしろ、そんな風に振舞うレヴォールを黙って見守っていた。 「フィン、俺はな。国王になってからと言うもの、 平和というものを築き上げる為に出来る限りのことをやってきた。 だがな・・・俺は他のお偉いさんが言うように后を娶るつもりは無い。 俺にはじゃじゃ馬一人で十分だ」 レヴォールの言葉に、フィンは微かに苦笑を浮かべる。 けれどそれは何処か優しさを秘めた笑顔で・・・ レヴォールもまた微かに笑顔を見せた。 「これから先、俺が何処までやっていけるかは解らない。 だが、フィリアの救ってくれたこの命を・・・あいつの為にこの国の未来に捧げよう。 お前の力を借りることになるが・・・いいか?」 「勿論です、レヴォール様」 あえて名前で呼ぶのは、フィンの心が『国王』という肩書きに対して敬意を払っているのではなく、 レヴォールという一人の男に敬意を払っているのを示す為。 その答えに少し照れくさそうに顔を歪めて、レヴォールは女神像を見上げた。 そこには、かつて戦場で共に剣を振るった戦友であり誰よりも愛しい女の面影。 「何時か・・・またお前に会える日が来るまで。俺はこの国を支えよう」 ステンドグラスを通した穏やかな太陽の光の中。 少しだけ。 女神像が微笑んだような気がした。 BBSにも来て下さっているReiraさんからの、頂き物。 テーマは、「いつか還る場所」でお願いしました。 うちのSRCの副題と似通ってますが、似たようなテーマで、他の人の作品というものを見てみたかったんですね^^; Reiraさん、どうもありがとうございました。 相変わらず、綺麗な作品です。 ベタでも二人仲良く、なハッピーエンドだと、もっと良かったなぁ(爆) ↑ハッピーエンド好きな奴 |