食品冷凍学研究室紹介
研究室にいる人々
スタッフ - 高井陸雄 教授
- 鈴木 徹 助教授
- 萩原知明 助手 以上3名
現学生 - 4年生 7人
- 院生 修士3人 博士後期5人(内留学生3人)
はじめに
本研究室は,東京水産大学の中でも歴史ある研究室の一つで,水産物の冷凍から始まり,今日見られる食品冷凍の発展を支える数々の技術,人材を世に輩出して来ました. 水産企業,食品企業で直接,間接を問わなければ,冷凍を扱っていない企業は皆無といってよいでしょう。私どもの研究室の役割は,第一にそういった社会からのニーズに応えて行くこと,すなわち,しっかりした人材を継続的に世に輩出することと,現場に残されている技術的課題に積極的に取り組み解決してゆくことにあると考えています。
しかし,食品冷凍という技術自体成熟しつつあり,それに関わる人材もかなり層が厚くなって来ている状況に在り,単純な問題は現場で解決できる好ましい状況になりつつあります。反面,残された技術的課題は複雑になり,一筋縄では到底解決できないようなものばかりが山積みとなっています。
私どもの研究室では,こういった状況を打破するために,また次世代の冷凍技術を構築するために,より基礎科学的な視点から食品を冷凍することの意味,意義を理解しなければならないと考えています。そのため,DSC(熱分析)、小角X線散乱(微細構造分析),等の新しい研究手法や,ガラス転移やフラクタルなどの新しい概念を積極的に研究にとり取り込んでいます。
研究テーマは、非常に広範囲にわたっており、一見何でもありのようですが、大まかに分けて以下のようになります。
- 食品のガラス転移挙動の研究;成分ごと及びそれらの相互作用もふくめた研究
- 上記に関連した、食品の状態変化の把握;氷結晶状態の変化、生化学的状態の変化、その他諸々も扱います。
- 食品冷凍に関連する基礎科学的研究;溶液からの氷結晶生成のメカニズム解明、ハイドロゲルなどの微細空間での氷結晶成長機構解明など
- 食品冷凍、冷蔵に関連する装置、センサーの開発研究
- その他、培われた凍結、低温操作技術を応用して魚卵など、生体組織の凍結保存研究
詳細は後述しますので参考にしてください。
進路 (過去10年程度;今年内定も含む)
院卒
味の素, 森永製菓, 味の素フレッシュフーズ, ヤマサ醤油, 音羽, 北海道公務員(研究),千葉県水産, コウケン香料, フリーウエイ、泰東製網 他
学部
ニッスイ,マルハ、日本ハム,ニチレイ,ニチロ,キューピー,石井食品, 明治乳業,森永乳業, 雪印乳業,東洋水産,月島食品,日本食品分析センター,キョクヨウ,不二製油,日本製粉,丸美屋食品工業,朝日食品工業,茨城県水産、青森県工業試験所、三洋電機,住金物産, ダイキン工業, 凸版印刷、ニチモウ、中央冷凍、ヨネキュウ、ジョンソン・エンド・ジョンソン, 前川製作所,日本ピュアフード食材(株)、三井農林、よっちゃん食品工業(株)、アベンテスベーリング、(株)ジョッキ、東京水産大学大学院、東大大学院 他
研究内容
2001年研究テーマ
1)ボールミルデンプンの水分吸着特性
(院博3年 Kimさん:韓国からの留学生、4年 松井さん、日本フィリップス、タイ国チュラローンコーン大学,早大理工とも共同研究)
デンプンは、ボールミル(粉砕機)などによって繰り返し衝撃を受けると加熱しなくとも糊化しますが、加熱して作ったデンプンと異なった吸水性を示すなど変わった特性が現れてきます。その原因を探り、新しい機能を持ったデンプンを開発することを目指す研究です。
成果
学会発表
・99年日本化学工学学会
・2000年StarchConference in UK
・日本食品工業展アカデミックプラザ
・2001年Amorphous state Conference in UK
・日本食品工学会 発表
学会誌論文
・2001 Carbohydrate Polymeres,
・2001 Japan J Food Engineering に掲載;
・2001年Proceedings Book of Amorphous State Conference 投稿中
2)ORPと魚の鮮度変化との関係についての研究
(院博1年モンコル君:タイからの留学生、4年生安藤さん、また法政大学工学部とも共同研究)
ORPとは、酸化還元電位のことで、近年、人間の疲労の程度、体調によって体液のORPが変化することが知られるようになったことをヒントに、魚の鮮度判定に使えるかを検討する研究です。魚の鮮度判定法には、よく知られているようにK値による判定法がありますが、魚種によってまちまちな値を示す点、測定法が面倒な点が難点でした。
ORPによる方法は、pHメータのような簡単なもので、2〜3分で測定が終了します。また、これまでの研究では、ORPは鮮度低下と共に魚の種類によらない普遍的な変化を示すようです。
成果
学会発表
・2000年水産学会秋季大会発表
・2001水産に関する国際会議(横浜)
論文
・2001年Fisheries Science に掲載
特許
・2001年 特許出願 済み
3)リン化合物系のガラス転移に関する研究
(院修2年 川井君)
あまり体によくない食品の添加物として嫌われているポリ燐酸、でもその保水性、結着能は、著しく優れています。嫌われもので、だれも相手にしないポリリンも、かわいがってやろうというのが、研究の発想です。もっと何か構造を変えたり、使い方を工夫してやれば、体に害なく長所だけを使えるかも知れないじゃないですか。そういった応用に持っていくには、ポリリン化合物をよく知らなければなりません。
しかし、意外とそれらの物性(結晶化温度、ガラス化温度など)が知られていなかったのです。そこで、この研究では、先ず手始めにポリリン酸化合物のガラス転移温度を含めた相変化を調べることとしました。ついでに、生体内にあるポリリン(ATP)についても、生化学ではよく研究されているものの、その物性研究がなかったので同類としてガラス転移などを調べています。まだ始まったばかりの研究ですが、リンがキーワードです。
成果
学会発表
・2000, 2001年低温生物工学学会
・2000,2001日本食品工学学会
・2001年Amorphous State Conference in UKにて発表
論文
・2000年低温生物工学学会誌に掲載。
・2001年Cryo-Letter 投稿中
・2001年Amorphous State Conference Proceedings Book 投稿中
4)X線による食品のガラス転移検出に関する研究
(院修2年 富士さん)
食品のガラス転移は、食品の状態を著しく変え、テクスチャや内部の反応速度に大きな影響を及ぼします。そこで、多くの食品のガラス転移研究がDSC(熱分析)を使った研究で行われてきました。しかし、ガラス状態をきちんと理解するにはそれでは不十分で、微細な構造を把握しておく必要があります。
そのため、この研究では、X線を使って、食品のガラス転移前後での構造の把握をしています。特に,ここ一年はゼラチン、糖ンのガラス転移前後で構造の変化を追っています。ガラス転移の本質に迫る研究となることを期待してます。
成果
学会発表
・2000,2001年 日本食品工学学会にて発表済み。
5)魚卵の凍結保存
(院博2 ラウタリ君:インドからの留学生、4年宮沢さん)
この研究は、魚の卵を一旦凍らせて生き返らそうとする研究です。哺乳類の卵細胞や、精子はすでに凍結保存が可能になり実用化されていますが、魚の卵ではまだうまくいっていません(世界中でだれもです)。私たちの研究室では、8年前にこの研究に着手し、色々な事がわかってきましたが、いまだに生き返ったことは有りません、要するに成功していません。
しかし、基礎的なこと、すなわち何故凍結すると死んでしまうのかを一つ一つ解明していけば、何時か成功への手がかりが得られるだろうと信じて続けています。と同時に突拍子もないアイデアを使ってみることも有ります。例えばいま取り組んでいるのが、圧力の利用です。これは、まだ秘密??ですので、研究室にこられた方に限りご説明いたします。
魚はモデルとしてメダカの卵を使っています。なお、一部、育成学科カルロス先生、羽曽部先生とも共同で研究しております。
成果
学会発表
・2001年低温生物工学会
・2001水産に関する国際学会(横浜)
論文
・2001年Theriology
・CryoJapan
・Fisheries Science Proceedings of International Conference 投稿中
6)食品タンパク質の加熱ガラス化
(院博3 橋本さん)
カツオ節がガラス状態にあるガラス化食品であることを数年前私たちの研究室で初めて明らかにしました。これをきっかけに、何故魚肉たんぱく質がガラス化するのかの解明を行ってきました。その結果どうやら、魚肉に限らず、蓄肉でも加熱(煮る)と肉内部の一部がガラス化するらしいことが判ってきました。カツオ節の場合煮た後じっくりと乾燥させることでガラス化した部分が緻密に集まってガラス状の塊になると考えられます。
しかし、加熱すると何がどのようにガラス化するのかいまだに不明です。レトルトなかで、肉はガラス化しているのか?ステーキ肉を加熱しすぎると堅くなるのは、ガラス化が関係しているのかも知れない。とにかく、不思議一杯です。もしかしたら、ミイラ・・・あれもガラス?
成果
学会発表
・2000年日本食品工学学会大会にて発表。
7)氷の付着と剥離機構に関する研究
(4年 小林さん A電機(株)との共同研究)
業務用製氷機の中で、氷がトレイに付着して製氷機が故障する問題があります。この問題を解決するために、氷の容器に対する付着、剥離機構を界面科学的な側面から研究しております。意外と科学的に理解されていない問題です。今後の展開が楽しみ。
8)凍結小型魚の脂質酸化の抑制方法について
(4年 中村君 水産庁からの委託研究)
魚を貯蔵する方法として、冷凍貯蔵は優れた方法ではありますが、貯蔵期間が長期になると、様々な品質劣化が生じるのは避けられません。特にイワシやサバなどの小型魚は、一般に油分(脂質)が多く含まれており、この脂質が酸化され、しばしば不快な臭いの元になったり、体に良くない成分を生じたりするのが問題となっています。この貯蔵中の脂質の酸化を抑制するための安全かつ簡便な方法を開発しようというのがこの研究の目的です。
還元水という還元作用を有する一種の機能水の氷で魚体の表面をコーティングする方法、天然抗酸化性物質を利用する方法等々を現在考えています。
その他
・水溶液の過冷却の研究 (鈴木)過去−継続希望
タイ王国チュラロンコン大学との共同研究で以下の研究を行ってます。
・デンプンの糊化を電気伝導度によって検出する研究 (鈴木、高井)
東京大学食品工学研究室とも共同研究(特許出願済み)
・フライ衣の油吸収を抑制する研究 (鈴木)
・エビの高品質凍結貯蔵技術の開発 (高井)
・タイ産ウニの輸送および利用加工法 (鈴木)
食品化学白井助教授とも共同研究
2000年の研究テーマ(場合によっては復活もあります)
1)野菜炒め調理時における適正加熱温度の設定
(食品機械工業会からの委託研究)
中華などの美味い野菜炒めを作るには「強火でさっと」がいいといわれますが、ナゼかその理由がわかってません。最近野菜炒めを大量に処理する機会が産業界で多くなってきているようですが、野菜炒めのメカニズムが判っていないため、大型の炒め装置が設計できないといった問題が生じています。
そこで、反応速度論をベースに新しい仮説で「強火ですばやく」の謎を解明しようとしています。中華料理4000年の謎が解き明かされる日も近いかも?
2)小型魚の凍結解凍技術の開発
(水産庁からの委託研究)
アジや、いわしなど小型の魚が大量に取れたとき、一匹一匹冷凍保存しておけば、後で原料にするにしてもよい品質のものが得られると考えられます。しかし、実際はそのような小型魚はまとめてブロック状に凍結されるのがほとんどで、著しい品質低下を招きます。
近海で取れる小型魚をもっと有効に利用するためには、高品質の冷凍品をつくる必要性があるとの観点から研究が始まりました。当面は、とった魚を死後硬直前、中、後のどの時期に凍結するとよい品質(形、テクスチャー、ドリップ量)の冷凍品が得られるかを研究しています。
3)フラクタル理論による凍結食品内の氷結晶形状の定量化と貯蔵中の変化
凍結食品中にできる沢山の氷結晶粒は、不規則な形で大きさも様々です。時間がたつとそれら氷結晶は大きくなると同時に、結晶の形が丸くなってきます。それに伴って、組織破壊、ドリップが流失しやすくなります。したがって、食品にダメージを与えない適正な貯蔵温度、期間を科学的に予測し制御するためには、これらの現象を定量的、物理化学的に理解しなければなりません。
しかし、氷結晶のような不規則な形を定量的にとらえることは、つい15年前まで非常に難しい問題で誰もがあきらめていました。ところがフラクタル理論という画期的な理論が出てきて、自然にある複雑な形態を非整数の次元(例えば1.24次元とか)で表せるようになりました。これを氷結晶形状の定量化に利用してみたらどうかというのが、研究のきっかけでした。
現在、氷結晶の形態把握にフラクタル理論が非常によく使えることがわかってきました。この研究は、また、コーヒーなどのフリーズドライ製法にも応用していこうとも考えています。
成果
学会発表
・2000年Isopow(食品と水の国際会議イスラエル開催)
2000水産学会秋季大会
・2000,2001年日本食品工学学会で発表済み。
論文
・J.Agri.Food Sci.に投稿中
4)ゲル食品素材のガラス転移挙動に関する研究
ゲル状食品の中には、ガラス転移を示すもの(ゼラチンゲル)と、示さないもの(アガロースゲル)があります。それらは、一口にゲルといっても著しい性質の違いが有ります。しかし、それが何故なのかよく理解されていません。
この研究は、その謎を解明し、ゲルに対する新しい側面からの見方を提案しようというものです。要するに、全体では同じようなゲルでも、ガラス化という側面からゲルを分類できるかもしれないと考えています。
応用的には、ゾルからゲルを調整する時の条件をコントロールして、ガラス化の程度を変えることで、異なった性質のゲルをつくりだせるかもしれません。食べ物にたとえれば、変わった歯ごたえのゼリーができるかも。
成果
学会発表
・2000日本食品工学学会
2000年日本MRS(新素材開発研究会)学会発表
論文
・2001年MRS学会誌掲載