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かわいた音
 早朝のような気がする、お昼の坂道を下る。この時期にしては珍しい、どんよりとした天気で、下町フレイバーというか昭和フレイバーの坂道を下る。足下で落ち葉がかわいた音をたてる。この町並みはちょっといいな、と思いながら初めて見る町並みから、見なれた町並みがひらけて、見なれた地下鉄の駅を見つけて、電車に乗った。
 3限の授業には出ようと思っていたから、大学の方に向かう。一緒に朝飯を食ってからじゃあねって感じなのかと期待していたけど、多分そういう普通っぽいのは俺には似合わないんだろうとか、思う。結局、朝飯は食わずにお疲れさん、って感じで一人になった。
 そんなわけで腹が減ったし、ケータイのバッテリーもヤバかった(昨日は家に帰るつもりだった)から大学に行く前にちょっと渋谷に寄り道をすることにした。眠いはずだったけど、眠くなかったので、電車の中で一人なのに全く寝ないのも珍しいなぁと思いながら、渋谷で地下鉄を降りて、ampmへ向かう。中途半端に寒い。確か、前に円山町の方でampmを見たなあと思って、朝飯に何を食おうか楽しく考えながらそこへ行くと、そこのコンビニはローソンでちょっと困った。今日は学祭の後始末をしなきゃいけないから電話が使えないのは困る。ちょっとどうしようか迷う。他にapがありそうなとこと言えばasiaの方かなぁ、あるだろ。ということにして、坂道を上る。全然期待していなかった割にはしばらく歩いてampmを発見。珍しく自分の勘がいいことにちょっと自慢げになって、ケータイを充電しながら、適当に雑誌を立ち読みしながら、いつもとなんかテンションが違うなぁとぼんやり思う。
 いろいろ、中途半端に楽しく朝飯を食う店を探して、駅の方に歩いて行くうちに、中途半端にどうでもよくなって、松屋に入って、昼だから込んでるし、店員が忙しそうだな、と思いながら、牛めし(大盛)の半券を眺める。隣の席は普通のサラリーマンだし、ちょっと離れたところに絵に描いたようなギャルのカップルがいて、なんか不思議な空間だな、とか思っている。
 他にやることも思い当たらなかったから、3限の授業に出て、眠くなって、気が付くと授業はほとんど終わりに近かった。珍しく、かなり深く眠ったらしくて、目が覚めた時に現状認識のソフトウェアが起動するまでに結構時間がかかった。何となくマックス・ウェーバーがどうとかって言う話を聞いてふーんとか思っている。
 いつもとなんか、世界が違うって言う感じがする。深刻な感じじゃなくて、なんかちょっとした新製品のCMで「世界一新」って言っている程度の深刻さ。その程度の深刻さで、というか、その程度の深刻さに伴うその程度の不安さで、いつもと周りが全く違って感じる、そんなに不安に感じないって言うこと自体がかえってなんとなく不安を呼ぶような予感がするほどの世界の違い様。けど、多分違うのは普通に自分の方だと思う。
 初めて知らねぇ人の家にいきなり泊まった昨日(正確に言えば今日)の経験なんかは関係なくて、ただ単に学祭が終わって気が抜けただけかもしれない。別に学祭を楽しみにしてたわけでもなかったし、高校のときと比べれば学祭に没頭していたわけでもないはずだったし、もう、俺はそんな奴じゃないと思いたい。というよりも、なんかとにかく昨日の事が関係している、と、思いたいのかもしれない。とか、例の如く回りくどいことを考えながら、今日は3限で終わりなので、部室に向かう。はたから見るとただのぼろっちい小屋のようでその実、雨漏りはするわ、冬はクソ寒いわで今となっちゃあ台風でさらにぼろっちさをましたただの小屋でしかない(とか言ったら多分OBの人には相当怒られるだろう)部室に誰もいないことは窓から蛍光灯の明かりが漏れていないことから一目瞭然だった。ここは、この時期になるとかなり寒いことと、ほこりっぽいことと、裏が学生会館で常に音楽になっていない管楽器の練習がすでに騒音公害以外の何ものでもないことを除けば、いろんなマンガ(『博多っ子純情』から『ゴルゴ』まで。渋い)はあるし、独り言を言っても図書館と違って怪しまれないし、屁ぇこいたりしても図書館と違って周りに疑心暗鬼にならずにすむし、生協食堂と違って良く分からない店員や周囲のプレッシャーもなかったので、一人で時間を潰す場所としては最近のマイブーム(死語か?)で、昨日までの学祭の煩雑さがまだ少し残っている。先週とかはここで、放課後はほとんどいつも学祭の準備をしてたから、俺がついここに来たのはそれが抜けきってないだけかもしれない。とりあえず荷物を置いて、生協へ向かう。
 ここで、生協からあったかい缶コーヒーでも買ってきて、寒い部室で「寒っ」って言うそぶりをしながらそれを飲んで、はぁー、とかやってると絵になるんだろうけど、別にそんな劇場型オママゴト的自己陶酔をすると、いつもより鋭敏に自己嫌悪に陥りそうだったけど、取り合えず生協に行く。道すがら、電話が鳴る。見ると自宅からで、高校の時から同じ無断で帰りが遅くなった時の声でしゃべる母親からだった。適当な話を作って、まあ、今日は帰るからみたいな事を言って電話を切って、生協前で自動車学校勧誘用で配っていたアメをもらう。生協に入って適当にぶらぶらしても欲しくなるようなものはなかった。から、結局何も買わない。
 一緒に学祭でつかった太鼓をレンタルショップに返しに行く約束になっている友達のOに電話をすると、もうちょっとで来るらしい。そのまま、部室で、もらったアメをなめながら、博多っ子純情を読んで待っていた。ちょっとした小説よりも全然名作な博多っ子純情を読んでいても、浮かれているわけではなくむしろ、自分が現実からはがれて浮き上がっているような状況は全く改善されないで、コートは着たままなのにそろそろ部室も寒くなってきた。そう、簡単に言えば、なんか、落ち着きがない。世界との間に昔から感じてたようななんかヘンな距離があって、妙な非現実感みたいなものがあって、夢の中にいるわけではないと言う事があたりまえに分かっていながら、しかもそういうオリジナリティがなくて、本当にそう思っているのか分からなくなる一般的な言い方は嫌だと思いながら、一般的に言えば夢の中にいるような感じがしていると言うのが分かりやすいのかもしれない。
 Oと一緒に太鼓を運び、タクシーを捕まえるために学校の裏の通りに出る。Oによると太鼓を返しに行くためのタクシー代をOBの人からもらっているらしい。一緒に運びながら、取りあえずいつものように下らない話をしているはずなのだが、やっぱり、ヘンな感覚は改善されない。と、いうかヘンなふうに声がかすれている。ヘンなふうに声がかすれているせいで、ヘンな感覚がますます進行して行くような感じがする。
 今日、タクシーに乗るのは2度目で、そもそもタクシーに乗る事がレアなのに、1日に2回もタクシーに乗るなんて、なんかリッチになったような気分になったりする。タクシーだと運ちゃんが気になってまともな会話ができないのは、ちまい飲み屋だと居心地がいいようで「マスター」に話を聞かれてるような気がして落ち着かないのと同じだけど、それは自分がいつも話を聞いていないようなフリをして他人の話に聞く耳を立てて、そいつのキャラ設定を想像していたりするからだろう。だから、終電のなくなった時間ににちょからタクシーに乗ったタッパあるにいちゃんとそのツレ(俺)を、運ちゃんはどういう風に想像したんだろうとかを気にしながら、昨日、正確に言うと今日の夜、タクシーに乗ってた。道路を走っているのはタクシーばっかりで、二人で乗ればそんなに狭いはずもない後部座席なのに、俺を拾ったにいちゃんの膝とそのツレ(俺)の膝が触れてて、にいちゃんがはいてる皮パンの感触が心地よかった事を思い出す。
 時間が時間だからだろう、都内の道はとても混んでいて、結構時間がかかりそうな感じがする。通った事のない、それでも東京っぽい道を、タクシーの中、友達と話しながら、薄暗い中テールランプとかビルの明かりとかがぼんやりと浮かび上がって行く窓の外をちょっと自己陶酔的に、無気力にぼんやりと眺めながら、自分が普通に話してるつもりなのかは分からないけど、俺自身、自分のノドからでているかわいた音を、ただ聞いているだけのような気がしている。