刑法編 (行為無価値ベース)
実行行為について
1 刑法上の行為観念
皇位とは犯罪概念の基本要素としての働きをするとともに、人の単なる反射運動や、内
心の意思・思想などを犯罪対象から除く役割を果たす。そこで、行為とは何かを明らかに
する必要がある。
人の行為が自然現象と区別できるのは、人の意思によって何らかの選択がなされている点に
求められている。また、単なる静止は自然的に見れば内心の意思・思想と区別がつかないから、
この点を区別できるように、行為観念を組み立てる必要がある。
したがって、行為とは意思による支配可能な、何らかの社会的意味を持つ運動または静止の
ことを指すと解する.
2 実行行為の意味
行為が実行行為にあたるといえるためには、単に構成要件要素を形式的に満たしていると
いうだけでは足りず、各構成用件に該当するといえるだけの実質を備えなければならない。
ここで、刑罰法規は一定の法益保護を目的に規定されたものであるので、実質とは保護法益を
侵害する現実的な危険を有することに他ならない。
したがって、「実行行為とは法益侵害の現実的危険を有する行為を指す」。
3 実行行為の着手
実行行為の着手とは、実行行為の一部を開始することである。この有無によって、未遂罪の成否が
左右されるから、どのような行為が行われた時点で着手ありとすべきかが問題となる。
思うに、未遂犯の処罰根拠は、結果発生の現実的危険を惹起した点にある。したがって、実行行為の
着手も右危険が高まる行為の開始に求めるべきである。
以上から、実行行為の着手は、犯罪実現の現実的危険性を含んだ行為がなされた時点に求めるべきである。
〇不作為について
例 甲は、厳寒期の夜間にほとんど車の通らない山道で自動車を運転中,誤ってXをはね、重症を
おわせてしまった。そこで,甲は、まずはXを病院に運ぼうと考えて自分の車に乗せたが、しばらく
走ったところでXが死んでも構わないと思って、Xを車から降ろし、山道の道端に置き去りにした。
その結果Xは死亡した。後で調べたところ、甲が置き去りにせずに病院に運んでいれば、Xは十中八九
助かっていたという。
甲がXを車から降ろし、山道の道端に置き去りにした行為の罪責を考える。
一 甲は,自動車で誤ってXをはね、重症を負わせている。
自動車の運転は、運転免許という資格に基づき、反復継続される行為であり、人の生命・身体に危険を
及ぼすものである。とすると、甲がXをはねた行為は「業務上必要な注意を怠」る行為にあたる。
したがってXをはねた行為は、業務上過失致傷罪(211条前段)の罪責を負うことになる。
二 次に、Xを放置した行為について、甲には殺意があるから殺人罪(199条)の罪責を負う可能性がある。
まず、置き去りにするだけでは人の死に至る危険性は認めがたい。この場合、置き去りにし、これを
保護せずに放置したという状態全てについて、その実行行為性を考えるべきである。しかし、「人を殺した」と、
作為で規定された犯罪について、不作為による実行行為性が認められるか。
思うに、実行行為は犯罪の結果発生の現実的危険を有する行為である。このような、結果発生の危険性を
不作為によって実現することはできる。しがって、不作為による行為にも実行行為性を認めることはできる。
しかし、不作為とは期待された作為をしないことが犯罪に当たる場合である。しかし、殺人罪の構成要件には
義務の内容が明示されていない。そこで、不真正不作為犯の成立範囲を限定する必要がある。
具体的には不作為に、作為によって当該構成要件を発生することと同価値性が認められることが必要であると解する。
このような構成要件的同価値性は、@結果発生の現実的危険が生じていることA結果防止の可能性・容易性
B行為者に作為義務があることから判断する。作為義務の有無は、法令・契約・事務管理・先行行為等の存在など
を総合して判断して決せられる。
本問についてみると、@Xは甲にはねられており死の結果の発生する現実的危険が生じており、A死亡の結果は、
Xを病院に連れて行けば免れることができ、可能かつ容易であったといえ、B甲はXをはねており条理上救護義務がある、といえる。
三 以上から甲には業務上過失致死罪と殺人罪の罪責を負い、両者は併合罪(45条)となる。