事例の整理の仕方

 

 ここでは、審決・判例や公取委が公表した正式には事件にならなかった相談事例、さらには新聞記事について、その整理のための一つの方法を紹介します。この他にもたくさんの有益な方法やよりわかりやすい方法があると思います。

また、以下の<枠組み>すべてを書かなければならないというわけではありませんし、順番が違っても構いません。それに、日本の事例を整理する上で面倒である場合があると思います。そのときは、単純に下の1.2.と、3.から5.をまとめることでまずは充分だと思います。

まずはとっかかりとしてこの方法を利用し、そして、自分にあった方法を見つけてください。

 


<この作業の目的>

 自分の理解のため、自分の言葉で他人の文章を整理し、同時に、読み手や聞き手にも理解してもらうこと

 


<枠組み>

1.事実関係

2.適用された条文とその内容

3.この事例で何が問われているのか

4.3.に対する答え

5.4.の答えになる理由や根拠

 


<それぞれの具体的内容>

以下では、米国で問題となった有名な事件を使って「例えば」としての整理の仕方を紹介します(United States v. Colgate, 250 U.S. 300 (1919), See, Norman S. Goldenberg et al (ed.), Casenote Legal Briefs Antitrust, 55 (Casenote Publishing, 1995).)。


1.事実関係

 まずは、事例となった理由ともいうべき事実関係の整理が必要です。「何時、どこで、誰が、どんな行為をして問題となり、誰が文句を言ったのか」ということです。でも、このすべてが与えられた事例からわかるとは限りませんし、複雑な経緯をもつ事例が多いため整理することが非常に困難となる可能性があると思います。

ですから、@まずはわかる範囲で事例から抜き出してください。Aその次に、抜き出した部分を、自分が一番わかるように、簡単で短い日本語でいいので言い換えてみてください。これで、事実関係の整理は「一応」終了です。

 

→ 被告であるColgateは、自分の価格リストに従わないこれから取引を始めようとする相手方である小売業者に対して、自社製品の販売を拒否した。原告である司法省は、そのような行為は米国反トラスト法上、競争を制限する違法行為であるとして訴えた。

 


2.適用された条文とその内容

 次に、事例でどんな法律のどの条文が適用、あるいは、指摘されているのか探してください。その時には必ず六法を隣に置いていつでも見ることができる状態にしてください。適用される、あるいは、指摘されている条文がわかったら、@その法律の名前、A条文、B条文の内容(条文番号の下、あるいは、隣に書いてある短い見出し)、を書き出してください。

 そして、自分でこの条文のどの部分が問題となったのか、あるいは、自分が理解できない条文の言葉に線を引くか、色で印をつけてください。これで、条文の整理は「一応」終了です。

 

 → ここでは米国の事例ですので、省きます。

 


3.この事例でなにが問われているのか

 例えば、訴えている人である原告はなにを求めているのか(損害賠償、差止め、違法であるとの裁判所等の宣言など)、そして、裁判所等はどのような問題を解決しようとしているのか(誰の救済、どんな解決が必要か)、ということを書き出してください。これは一番難しい作業ですので、一番最後に残しておいても問題はありません。

 そこで、どのようにこの作業を行っていくかですが、まず、@1.の事実関係で書き出した事実をさらに簡単、短くします。ここでは、あとでこの事例ととても似た事例が出てきた時に比較するため「〜の場合」とします。

 

 → まだ取引をしていない段階で示したメーカーの価格に関する要求に従わない取引相手方と取引をしない場合

 

 そして、A裁判所等が何を解決したいのか、どんな結論を出したのかということに対応する質問形式の文章にします。

 

 → メーカーが、取引前に自分の価格要求に従わない者に、商品の販売を拒否する場合、米国反トラスト法上許されるか

 

 これで「一応」事例で問われている問題がわかりました。

 もっとも、事例によっては、一つではなく、異なる二つや三つ、それ以上のことが問われている可能性もあります(ほとんどがそうでしょうが)。その場合は、上の作業を問われていること毎に同じように行うことになります。それぞれに番号をつけてみるのもわかりやすいかもしれません。

 


4.3.に対する答え

 これは簡単な答えで構いません。つまり、3.の質問に対する「はい/いいえ」です。3.で複数問われている場合は、それぞれに答えてください。

 

 → はい

 


5.4.の答えになる理由や根拠

 ここでは、何故、4.の答えになるのか、その理由や根拠を書き出します。問われていることと、答えが複数あるような場合であれば、それぞれに分けて理由や根拠を書き出しても構いませんし、もちろん、まとめて書き出しても構いません。

 

 → 被告であるColgateは、市場を支配するような独占を持っていない。つまり、消費者は同じような類似のたくさんの商品の中から購入しているのである。と同時に、Colgateは、自分の意思で誰とでも取引をすることができる。このことは、その取引相手方となる小売業者についても同じで、小売業者は自分の意思で取引相手方を決定するのである。従って、Colgateは、自由に誰に販売するのかを決定できることになる。仮に、小売業者の自由を制限するような正式な契約や取引がない段階では、価格を要求することも自己の商品を販売するための自由なColgateの意思であり、その要求に従わない者に商品の販売を拒絶することはColgateの自由である。以上から、この事例で問題となった行為は米国反トラスト法上違法ではない。

 

 


以上が作業の大きな流れです。

 初めは、「面倒」「ややこしい」と思うかもしれません。ただ、この作業の目的は、自分が理解するため、自分の言葉で他人の文章を整理することです。頑張りましょう。