山越え


「山越え」は、ナーヒーズ初の映像作品である「山越え」を小説化したものである



1章〜我が家



ここは、長崎県内某所にあるアパートの一室、3人の男性がちゃぶ台を囲んでいる。

「やったね、これで3連勝」一人の男が歓声を上げた。彼は仲間からツカパーと呼ばれている。「はい、また100円ね、松尾くん」ツカパーが言った。

松尾くんと呼ばれた男性は、唸りつつ悔しそうな表情を浮かべている。2人は100円をかけてババ抜きをやっていたのである。もう一人、なにやら冊子を読み続けていた男性がふと顔をあげ、「ねえ、ナーヒー遅いね、まだかな?」と声を発した。彼のニックネームはアンロー。由来は不明だが、なんでも中日にそんな名前の野球選手がいたらしい。すると、「う〜、あ〜」・・・唸り声をあげ4人目の男性が現れた。手にコップを持っている。その男にはナーヒーのうニックネームが古くからついている。

「おいおい、ずいぶん遅いじゃないか。トイレに行ってたんだろ?なんでコップを持ってるんだ?」ツカパーがたずねた。「いや、まぁ・・・」言葉を濁しつつ、「お前も飲め」とナーヒーはちゃぶ台の上にあった熊のぬいぐるみにコップの中身の麦茶を飲ませるしぐさをした。「うわぁ〜やめてくれよ、汚れるだろ」ツカパーがそれを制した。

2人のそんなやりとりがなされる中、「ねぇ、ここシーボルト大学っていうんだけど、いいと思わない?」とアンローが先ほどから熱心に読んでいた冊子を卓上に広げた。一同の目はそれに釘付けになった。冊子は県立長崎シーボルト大学のパンフレットだった。パンフレットの中には、パソコンで作業をする学生の姿などが載せられている。

誰よりもそれに興味を示したのはナーヒーだった。「へぇ〜、このコンピューターとか最新の設備やな」長崎訛りでそう言った。そこに畳み掛けるように「ここに行ってみたいと思わない?」とアンローが言った。ナーヒーの心は大いにくすぐられた。冊子をくまなく眺め、最後のページの地図を見つけた。(ここならば、歩いていけないことはないな・・・)。

「これだと山を越えていくのが一番早いな」ナーヒーが言った。「山越えか・・・」ツカパーがつぶやく。そして「それはちょっとした探検だな」と付け加えた。「だから探検隊を組む必要がある」ナーヒーがもっともらしく言った。さらに「探検隊には隊長が必要だ」と強調した。「隊長?」おかしさをこらえきれないといった様子でツカパー。
「じゃあ、多数決で隊長を決めようか」と笑いながらツカパーが言った。
「俺が隊長でいいと思う人」とナーヒーがおもしろおかしく言う。すると手を挙げない者はなかった。ツカパーは「これは笹の分ね」と卓上の熊の手も挙げさせた。

(笹だって?)松尾は思った。(あの笹も行くのか・・・)

松尾くんが危惧する笹という人物は、むろんこの場にはいない。だが、ナーヒーは「笹にも連絡をしておこう」と言い始めた。もはや彼は隊長なのだ。笹が探検隊に加わることは決定した。そしてナーヒーは続ける。「みんな、長旅になるから着替えを持ってきたほうがいいぞ」一同、素直に返事をした。だが、松尾くんの胸中には言いようのないモヤモヤが渦巻いて、それが全てを飲み込んでしまいそうだった・・・・。


第2章、「旅立ちへ」