株式会社A社は、株式会社B社の総株主の議決権の60パーセントを有する株主であるが、A社及びB社は、A社を存続会社、B社を消滅会社として合併することとなった。A社及びB社は、ここ10年間ほど1株当たりの純資産額も1株当たりの配当もほぼ同じであったが、合併契約書におけるB社株主に対するA社新株の割当てに関する事項(合併比率)は、B社株式3株に対してA社株式1株の割合となっている。なお、合併交付金はない。B社の株主総会においては、総株主の議決権の70パーセントを有する株主が合併に賛成、総株主の議決権の30パーセントを有する株主が合併に反対であり、合併契約書は承認された。B社の株主であるXは、合併比率が不当だと考えているが、株主総会における合併契約書の承認の前後を通じて、どのような手段を採ることができるか。 |
一 承認前の手段
B社の株主Xとしては272条によって合併を中止させた
いところである。
この点、A社とB社は10年間ほど1株当たりの純資産額
も1株当たりの配当もほぼ同じであったというのだから、
1:3の合併比率による合併を行うのは、善管注意義務(254
V,民644)・忠実義務(254ノ3)違反として「法令…に違反す
る」行為である。また、合併が強行されると「会社に回復
すべからざる損害」が生じる。
従って、XはB社の取締役に対して合併を中止するよ
う請求できる。なお、合併によってB社は消滅する以上、
B社自体には損害がないと思えるが、272条は究極的に
は株主を保護するための制度だから、問題はない。
二 承認後の手段
1 Xは合併無効の訴え(415)を提起することが考えられ
る。しかし、商法上合併比率を規制した規定はなく、
総会決議も取り消されるまでは有効に存在し得る以上、
Xはまず総会決議を取り消す必要がある。
そこで、以下では、かかる総会決議でA社が議決権を
行使した場合と行使しなかった場合に分けて、Xの採
り得る手段を検討する。
2 総会決議でA社が議決権を行使した場合
A社はB社の総株主の議決権の60%を保有する親会
社であるが、議決権を行使することはできる(241V)。
そして、「特別の利害関係」(247TB)とは、広く一般
株主とは異なった個人的な利害関係をいうから、合併
の相手であるA社は明らかに「特別の利害関係」を有す
る株主にあたる。
加えて、不公正な合併の承認は「著しく不当なる決議」
にあたる。
従って、決議取消の訴え(248)を提起して決議を取り
消すことで、合併無効を主張できる。
3 総会決議でA社が議決権を行使しなかった場合
(1)この場合、合併承認決議は有効であり、合併も有効
となる。
(2)そこで、Xとしては、総会に先立ち会社に書面で合
併に反対する旨を通知し、かつ、総会決議で反対し
ていれば、会社に対し株式買取請求権(408ノ3)を行
使できる。
(3)かかる要件を満たさない場合でも、B社の取締役に
対し266条ノ3に基づき損害賠償請求できると考える。
なぜなら、同条は、取締役の責任を加重して第三者
保護を図った特別の責任(法定責任説)で、@悪意・
重過失の対象は任務懈怠で足り、A「損害」には間接
損害も含まれ、B「第三者」には株主も含まれると解
するからである。
以上