【問題】  Aは,Bから登記簿上330平方メートルと記載されている本件土地 を借り受け,本件土地上に自ら本件建物を建てて保存登記を行い,居住 していた。Aは,本件建物を改築しようと考え,市の建築課と相談し, 敷地面積が330平方メートルならば希望する建物が建築可能と言われ たため,本件土地を売ってくれるようBに申し込み,Bは,これを承諾 した。売買契約では,3.3平方メートル当たり25万円として代金額 を2500万円と決め,Aは,代金全額を支払った。  以上の事案について,次の問いに答えよ(なお,各問いは,独立した 問いである。 ) 。  1 本件土地の売買契約締結直後に,本件土地建物を時価より1000   万円高い価格で買い受けたいというCの申込みがあったため,Aは,   Cとの間で本件土地建物の売買契約を締結した。しかし,専門業者   の実測の結果,本件土地の面積が実際には297平方メートルであ   ることが判明し,面積不足のためにCの希望していた大きさの建物   への建て替えが不可能であることが分かり,AC間の売買契約は解   除された。    Aは、Bに対してどのような請求ができるか。  2 数年後,Bは,Aへの移転登記が未了であることを奇貨として,   本件土地をDに売却しようと,「Aはかつて賃借人だったが,賃料   を支払わないため契約を解除した。」と虚偽の事実を告げた。Dは,   事情を確かめにA方に出向いたが,全く話をしてもらえなかったた   め,Bの言い分が真実らしいと判断し,本件土地を買い受け,移転   登記をした。    AD間の法律関係について論ぜよ。 【解答】 一 小問1 1 まず、本件土地の面積不足を理由に、無過失責任である数量指示売  買の担保責任(565条)を追及できるか。   この点、「数量ヲ指示シテ売買シタ」とは、@面積、重量等一定の数  量を契約において表示し、かつ、Aこの数量を基礎として代金額が定  められた売買のことをいう。   本問のAB間の売買契約では、@土地の面積が330平方メートル  であることが契約で表示され、Aかつ、3.3平方メートル当たり25  万円だから、25万円×100=2500万円として代金額を定めている。   従って、ABは「数量ヲ指示シテ売買シタ」と言える。 2 そして、Aは、市の建築課と相談し、面積が330平方メートルな  らば希望する建物が建築可能と言われたために、本件土地を購入して  いるから、面積不足について善意である。   従って、専門業者による面積不足が判明して1年以内であれば、A  は、Bに対して、代金減額(250万円分)、解除、損害賠償をなしうる  (565条,563条,564条)。   もっとも、同条は有償契約である売買契約の対価的均衡を維持する  ための法定責任であり、また、無過失責任という責任の重さにも鑑み  れば、損害賠償の範囲は信頼利益に限られると解する。   従って、これにより請求できるのは契約費用や土地測量代のみであ  り、Cへの転売利益1000万円は「損害」に含まれない。 3 もっとも、売主Bは面積不足のない土地をAに移転する義務を負っ  ているから、面積不足を知りながらこれを告げずに売却する等帰責性  が認められれば、債務不履行責任(415条)を負う。この場合は、「損害」  の範囲は履行利益にまで及ぶから、Cへの転売利益1000万円を請求す  ることができる。 二 小問2 1 まず、DはAB間の土地売買契約については善意である以上、土地  については、先に登記を具備したDがAに優先する(177条)。 2 そこで、Dは、Aに対して、土地所有権に基づく、建物収去土地明  渡請求をすることが考えられる。  (1)まず、Aとしては土地賃借権による対抗を主張したいところだが、   かかる賃借権は、AB間の土地売買契約の締結時に混同によって消   滅している(179条類推適用)。    もっとも、混同による権利の消滅は、同一人に帰属した二つの法   律上の地位を併存させる必要がないとの「政策的理由」に基づくもの   であり、権利の「本質」から導かれるわけではない。    とすれば、混同を生じた法律原因が効果を失った等、権利を存続   させる法律上の意義がある場合には、一旦消滅した権利が復活する   と解すべきである。    本問では、先にDが土地の移転登記を具備したことにより、混同   を生じる原因となったAB間の売買契約はその効果を失っており、   Dからの土地明渡請求を拒むために、賃借権を存続させる法律上の   意義がある。    従って、Aの賃借権が復活する。そして、Aは同土地上に登記を   具備した建物を所有しているため、かかる賃借権には対抗力が認め   られる(借地借家法10条1項)。  (2)ただ、DはAの賃借権の存否を確かめにA方に出向いたが、Aは   全く話をしなかった。このようなAが、Dからの明渡請求に対し、   賃借権の存在を主張してこれを拒むのは信義則(1条2項)に反する   のではないか。    思うに、Aは不完全ながらも土地の所有権者であり、AB間の契   約から「数年後」に賃借権の話がでることを想定するのが困難である。   一方で、賃貸借契約を解除したと言いつつ、Aの居住を許したまま   であるBの供述は虚偽である可能性が高く、Dが、Aから話を聞け   なかったことをもってBの話を真実と信じるのはやや安易である。    従って、Aの賃借権の主張は信義則に反しない。  (3)従って、Aは土地賃借権を対抗して、Dからの建物収去土地明渡   請求を拒むことができる。この場合、Dは、Aに対して、賃貸人と   して賃料を請求していくことになると思われる。                               以上